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睨み合う師匠とアイリス。
今にも攻撃呪文を唱えそうな2人だったが、怒りを抑えながらも声を発したのは師匠の方だった。
「僕の身体なら、お前が欲しいようにすれば良い。その代わり、リザを解放しろ」
「師匠、ダメ!」
あっさりとアイリスの条件を飲んだ師匠に、私は慌てて否定する。
しかし、黙ってろと言わんばかりに睨まれた。
「さぁ、早く」
「あっさりしてるのねぇ。こんな魔力もない小娘のどこが良いやら」
アイリスが口角を上げて笑みを作る。
師匠は黙って見ているだけで、動く気配すらない。
本当に、抵抗もせずに身体を受け渡すつもりなのだろうか?
私を助けるためだけに、自身を犠牲にするなんて。
そんなの、嫌だ。
「私からパパとママを奪って・・・師匠まで奪うの?」
思わず口を突いて出てきた言葉に、アイリスがこちらを振り向く。
私は一言一言を噛みしめるようにアイリスに告げる。
「アルノーさんは、死んだんじゃないの?死んだ人間が、戻ってくると思ってるの?」
「黙りなさい。アルノーは死んでないわ。あの身体の中で眠ってるだけなの」
「アルノーさんが、中で眠ってる?馬鹿なこと言わないで!師匠は、アルノーさんじゃない!」
そう叫んだ途端、アイリスにツタが巻き付く。
師匠が無言詠唱を唱えたのだ、とハッとして顔を上げた。
条件を飲むとは言ったものの、捕まえる機会を伺っていたらしい。
けれども、その瞬間、勝ち誇ったようにアイリスが笑い声をあげる。
「あははっ!魔法を使ったわねぇ!」
「な・・・?」
がくり、と師匠が膝をついて倒れる。
目の前で起きた信じられない出来事に、私は目を見開いた。
周囲に咲いていた、不思議な花たちが、活力を得たかのように急速に成長を繰り返し、鮮やかな色の花弁を付け始める。
そして、その範囲がみるみる広がり、驚いたことに、周囲の茂みや木にまで影響を及ぼし始めた。
「魔力で出来てるカナヘビちゃんには、きついでしょうねぇ?」
「師匠っ!?」
「正面から戦っても勝てないのは分かってるんだから、罠を張るに決まってるじゃなぁい!ほんっと馬鹿正直!」
「ぐっ・・・!」
立ち上がろうとする師匠の顔が見る間に真っ青になっていく。
その様子を見て、先ほどアイリスが言っていた「魔力吸収」という言葉が頭の中をぐるぐると回る。
いつか、森の中での祭壇での出来事でを思い出して、心臓が跳ね上がった。
そして、ルーニーラビットの墓で聞いた声が、先ほど見た記憶の中での茶髪のアイリスの声とそっくりだったことに気付く。
「もしかして、あのお墓・・・ルーニーラビットの・・・」
「あらぁ、懐かしい。いつの話だったかしらねぇ。この魔法、人間相手だと効果がイマイチな上に、場所も選ぶし、条件付けをしないと発動しないんだけど、相手によってはとぉっても便利な魔法なのよぉ」
1つ賢くなったわねぇ、とアイリスが馬鹿にしたように笑う。
あんなに優しい声をして、命を狩られたルーニーラビットたちの死を悼んでいた女性が。
私は信じられない思いでアイリスを見つめる。
「さぁて、カナヘビちゃんも魔力を吸い取られて動けないようだし、あなたはもういらないわぁ」
アイリスの手が、私の方へと伸ばされる。
殺すつもりなんだ、と瞬時に理解した。
「Aptl...」
師匠が唸り声を上げる。
アイリスは眉を潜めたが、ただ呻いただけだと思ったようだ。
私は、聞き取れないその言葉が、はっきりと時よ、と言っているのを感じ取った。
ざわりと肌が粟立つ。
「P hzr fvb av zluk oly av tl pu vsk lyh.」
「ばいばぁい」
にこり、とアイリスが笑う。
そして、師匠の唸り声が途切れるのは同時だった。
お腹が、ぎゅっと内側に引っ張られる。
まるで、くしゃくしゃに自分の身体が丸められたかのような感覚。
必死に手足を広げようともがくが、手足がついているのかすら分からない。
視界に白い光が広がり、景色が見えなくなる。
アイリスも、師匠も、不思議な花畑も、全てが消えてなくなった。




