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魔法使いと私  作者: りきやん
会いに行くのです

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119/156

12

「ひっく・・・う・・・ひっく・・・」


師匠と無事に仲直りをして、一足先に戻ったところに、泣き続けるダーナちゃんがいた。

その隣でも、同じようにアシール君が目を擦っている。


「あ、リザさん・・・」


気まずそうにトリス君が、こちらを見つめてくる。

ナナちゃんも、一声鳴いた後、トリス君の後ろに身を隠した。

2人には、随分と余計な心配をさせてしまったことを、私は恥ずかしく思う。


「あの、トリス君もナナちゃんも、ごめんね」

「でも・・・その・・・リザさん、もう怒ってない?」


二又の尻尾と猫耳をだらんと下げて、トリス君が上目遣いで聞いてくる。

こんな小さな子に、ここまで気を使わせてしまったことを、申し訳なく思った。


「最初から、怒ってなんかいないよ。お花畑に連れて行ってくれて、ありがとうね」


そう笑って言えば、トリス君は嬉しそうに目を細めた。


「リザさん、なんか元気が無かったみたいだから。良かった。でも・・・」


そこでトリス君は言葉を切って、ダーナちゃんとアシール君を見つめる。

2人は言葉を発することもなく、ただただ泣き続けていた。


「2人共どうしたの?」

「うぅ・・・誰・・・誰かが・・・」


ダーナちゃんは、そこで言葉を切る。

まるで、言うことを躊躇っているようだった。

アシール君も泣き続けるばかりで、何も言葉を発さない。


「さっきから、ずっとこんな調子でさ。いつもより、泣き方が酷いし、どうしたら良いかと思って困ってたんだ」


泣いている子供たちを放って行く気にもなれず、とりあえず宥めようと身をかがめたところで、アシール君が低い声で呟いた。


「死んじゃう」

「え?」

「誰かが・・・近い内に死ぬんだ・・・」


言われて、私はハッとする。

バンシーの特性を思い出して、身震いをした。


「どういうことなの?」

「誰かが・・・死んで・・・業を背負うの・・・」


言葉の意味が分からなかった私は、思わずトリス君を見つめるが、彼も肩を竦めるだけだった。

師匠と一緒に戻ってくれば良かったかな、と思ったものの、呼びに帰るわけにもいかない。


「2人共、落ち着こう?」


そうは言ったものの、アシール君とダーナちゃんは泣き声を上げながら首を横に振っただけだった。

このままにしておく訳にも行かず、どうしようかと迷っていたら、ピピィ、と声がしてスノウがやってきた。

ちょうど良い、とアリーセさんとエーデルさんを呼ぶようにスノウにお願いをする。


「ピ!」


了解した、と言いながら、スノウはすぐに飛び立って行った。

頼れる相棒が居て良かった、と思いながら、顔をあげる。

そして、目線の先、森の木陰から現れた姿に、心臓が凍りついた。


予兆は、無かった。

手足の先が痺れるように、体温が抜け落ちていく。

私が固まったのを見て、トリス君とナナちゃんは不審に思ったのか視線の先を追う。

そう、そこにいたのだ。

銀髪をたなびかせた、赤い瞳の、妖艶な身体つきをした魔女が。


「アリーセ・・・さん?」


ぽつり、とトリス君が呟く。

銀髪の魔女、アイリスは、にっこりと口元に弧を描いた。


「どうして?!身体が元に戻ったの?!」

「キーッ!」

「ダメ!!近づかないで!!」


喜び勇んで駆け出す2人に静止の声を飛ばす。

私の切羽詰まった声に驚いたのか、2人は歩みを止めた。

アシール君とダーナちゃんも驚いたように泣き声を止めたが、その後、再び啜り泣きを始めた。

アイリスはその声に眉を顰めた後、目を細めると、上から下まで舐め回すように私に視線を注ぐ。


「あなた・・・どこかで会ったかしらぁ?」


その間延びした話し方に、トリス君とナナちゃんもアリーセさんとは別人だと気づいたのか、怯えたように私の後ろに隠れる。

一瞬たりとも目を離さないようにしながら、問いかけには答えない。

それに苛ついたのか、銀髪の魔女、アイリスは眉をひそめた。


「その口は飾り物なのかしらねぇ?」

「アイリス=グレイ」


名前を呼べば、ぴくり、と肩が跳ねる。


「何の用なの?」

「何で名前を知っているかっていうのは、愚問かしらねぇ。ここには、アリーセもエルフもいるしぃ・・・」

「何の用なの、って聞いてるの!」


アイリスは肩を竦めると、首を傾げる。


「あなたには関係ないでしょぉ」

「関係ある!私の両親を殺したくせに!」


黙っていたトリス君たちが、驚いてこちらを振り返るのが視界の端に見えた。

アイリスは興味なさそうに、ふーん、と呟いた後、口の端を歪めて笑みを作る。


「やっぱり関係ないわねぇ。だってぇ、私はあなたの両親なんて覚えてないものぉ」

「・・・っ!」

「用があるのは、あなたじゃないのよぉ。そこの、おチビちゃんたち?」


アイリスの視線が、はっきりとトリス君とナナちゃんの方を向く。

2人が驚いている様子を見て、彼女は可笑しそうにクスクスと笑いを漏らした。


「魔法陣が、たぁくさん載ってる本、知らなぁい?」

「し・・・知らない」


トリス君の耳は垂れ、尻尾は縮こまるようにして身体に巻き付いている。

私は彼女が何を探しているのか、ピンと来た。

融合魔法の魔法陣が沢山載っており、無言詠唱ができるようになる本。

そう、アルノーさんの本だ。


「帰って!そんな本、ここには無い!」

「黙って頂戴」

「んっ・・・!」


口が縫い合わさったように動かなくなる。

以前、師匠に掛けられたことがある魔法だ。

アイリスは私に冷たい視線を投げた後、取り繕うように笑みを浮かべてトリス君にもう1度問いかける。


「そんなはずないわぁ。あなた達、融合魔法を掛けられてそんな身体になっちゃったんでしょぉ?教えてくれたら、人間に戻してあげるわよぉ?」


ピクリ、とトリス君の耳が反応する。

ナナちゃんが、その肩で不安そうにキィ、と鳴いた。


「そっちの女の子、そのままだとすぐに寿命が来るんじゃないのぉ?いいのかなぁ?」

「ナナ・・・ナナは、人間に戻れるの?また、話せるようになる?」

「もちろんよぉ」


ダメだ、と私は声を上げる。

しかし、口が開かないせいで、うめいたような音が漏れただけだった。

そもそも、彼らがこのような身体になったのも、両親を失ってしまったのも、この女のせいなのだ。

それを棚に上げて、元の姿に戻してあげるなどと甘言を吐くなんて、信じられない。


アイリスが、トリス君とナナちゃんに手を伸ばす。

2人は、動く様子もなく、呆然とした表情で彼女を見つめているだけだ。

アシール君とダーナちゃんも、恐れを為したように、ただただ固まっていた。

いけない、子供たちを守らないと。

そう思うと同時に、身体が動く。

アイリスから隠すように、トリス君とナナちゃんを抱きしめた途端、私の背後から詠唱が飛んできた。


「大地に宿りし巡る命よ、芽吹きの祝福を与え賜え!」


ありえない量の草花が、アイリスの身体に絡みつき動きを封じる。

驚いて振り返れば、そこには息を切らせたエーデルさんと、師匠。

そして、ふわりと浮いているアリーセさんがいた。


「ピィ!」


呼んできたよ!と誇らしげにさえずりながら、スノウが私の胸ポケットに滑りこむ。

アリーセさんたちだけでなく、師匠も連れてきてくれたことに感謝すると同時に、一抹の不安が過った。

アイリスは、師匠の身体を狙っているのだ。

腕の中に2人を抱きしめたまま、私は師匠を見つめる。

金色の瞳が、すっと細まった。


「リザ、怪我は?」

「ん・・・」


私は黙って横に首を振る。

それだけで、師匠は私に掛けられた魔法に気づいたらしい。

歩いてこちらに寄ってくると、親指でするりと私の唇をなぞった。

呪いはいとも簡単に解け、私は普通にしゃべれるようになる。


「あ、ありがとうございます」

「さぁ、こっちへ」


私のお礼を聞くこともなく、師匠は私と子供たちをアイリスから引き離す。

どうするのかと、ハラハラしている私をよそに、師匠は悠々とアイリスを振り返る。

その途端、彼女の居た場所に大きな火柱が上がった。


「ちょ、ちょっと!何してるの!やめて!」


悲鳴を上げたのはエーデルさん。

師匠はふん、と鼻を鳴らしただけで、やめる様子はない。


「アリーセの身体なんだよ?!分かってるの!?」

「いいの、エーデル。あたしが頼んだのよ。もし、アイリスを見つけたら私の体ごと葬り去ってって」

「でも!」


ふわりと微笑んで、アリーセさんは首を横に振る。


「取り返すなんて、不可能なのよ。私達は肉体と魂を切り離す魔法を知らないもの」

「くっ・・・!」


肉体と魂を切り離す。

いつか、図書館で読んだ乖離魔法をふと思い出した。

その呪文を知っていれば、アリーセさんの身体は取り戻せたのだろうか。

炎は留まることを知らず、轟々と燃え続ける。

これなら、アイリスもひとたまりもないだろう。


「あははっ!やっと会えたわねぇ!アルノーの本を探しに来たら、本人に会えるなんてぇ!」


そう、誰もが油断していたに違いない。

師匠でさえ、気付かなかった。

ぐい、と喉元を後ろから締められて、息が詰まる。

目の前が真っ暗になったと思えば、次の瞬間にはなぜか師匠たちと対面する位置にいた。


「リザ!」

「やぁっと思い出したわぁ。この小娘・・・何でここにいるのかしらぁ?」


耳元で聞こえた間延びしたぞわりと肌が粟立つ。

ふるり、とポケットの中のスノウが震えたのが伝わってきた。


「貴様・・・!」

「見たところ、普通の人間みたいなのにねぇ。あんたの時送りが成功してたってことかしらぁ?」

「彼女は関係ないだろう!離してくれ!」

「カナヘビちゃんが、随分な入れ込みようねぇ!そんなにこの子が大事なら、あなた1人で私に会いに来て頂戴」


するり、と長い爪が喉元を這う。

気持ち悪さと恐怖に顔を歪めれば、師匠がやめろ!と叫ぶ。


「アリーセにもエルフにも用はないから、戦力になるだけ邪魔なのよねぇ」


喉元を撫でていた指が離れる。

そして、甘い猫撫で声を消し、はっきりとした口調でアイリスが師匠に告げた。


「日が沈むまでに、あんたがアルノーを奪った場所に来て。来ない場合は、この子の身体をもらう」


再び、目の前が真っ暗になる。

師匠、と喉まで出かかった言葉は、アイリスに口を塞がれたせいで、声となって届くことは無かった。

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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