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アリーセさんの言ったとおり、師匠はすぐに見つかった。
庭の裏側にある食料庫の前に座って、ぼんやりと宙を見つめていたのだ。
家では滅多に見れない様子に、私は言葉を掛けるのを躊躇う。
けれども、気配で気がついたのか、師匠がこちらを振り返った。
「どうした」
「あの・・・」
おずおず、と切り出す。
一方的な八つ当たりをしただけに、バツが悪い。
ごくりと、唾を飲み込んでから、私は勢い良く頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「顔を上げろ」
「でも、私、師匠に酷いこと・・・」
「いいから。こっちへおいで」
師匠がぽんぽん、と自分の隣を叩く。
今度こそ、愛想を尽かされたかと思ったけれども、どうやら許してくれるらしい。
私はほっと胸を撫で下ろして、師匠の言うとおりに、そこに腰を下ろした。
「僕こそ、黙っていて悪かったな」
「そんなことないです。私のためを思って、黙っていてくれたんですよね?」
「まぁ・・・な」
師匠が曖昧に頷く。
他に何か理由があったのだろうか?
歯切れの悪い言葉に、首を傾げると、師匠は長い溜息を吐いた。
「いや、正直に言おう。半分以上は自分のために黙っていた」
金色の双眸が、伏せられる。
師匠の長い睫毛の影が、目の下に落ちた。
「アイリスが両親の敵だと知れば、君はあいつのことを辿り始めるだろうと思った。そして、そこから僕のことが知れるのが怖かったんだ」
「どういうことですか?師匠は、アイリスと何か関係があるんですか?」
「多少の文献を漁ったくらいじゃ、分からない。けれども、アリーセやエーデルは知っている」
師匠が黙る。
言おうか、言うまいか、悩んでいるようだった。
私はそれをじっと見守る。
「以前、言ったことがあるな。君に隠していることが、沢山あると」
「その時、私も言いましたよね?今更だって」
「あぁ、今更かもしれない。けれども、君が僕のことを知った時、離れていくんじゃないかと思うと不安で仕方がないんだ」
師匠の手が地面に置いた私の手の上に重ねられる。
気のせいだろうか、その手が震えている気がした。
「でも、君が全てを知っても尚、それを受け入れた上で、共にいてくれることを僕は望んでいる」
欲張りすぎだな、と自嘲するように師匠が笑う。
「異質な物として、見られるのが怖いんだ。リザに蔑まれて、存在を許されないことが、一番恐ろしい」
そこには、いつもの自信たっぷりな様子も、意地悪の欠片さえも、見えない。
今まで、どんな時だって、微塵も不安な様子を見せなかった師匠が、後悔するように顔を歪めて笑う姿に、初めて、素顔に触れたような気がした。
どうして、この人は、こんなにも泣きそうな顔で私を求めるのだろう。
同じくらい、私も師匠を求めているというのに。
「・・・師匠が、何を悩んでいるのか分かりませんけど」
私はそっと師匠の肩に凭れ掛かる。
ぴくり、とその身体が跳ねた。
「私は師匠と一緒にいたい、師匠は私と一緒にいたい。それだけじゃ、ダメなんですか?」
「リザ・・・」
「師匠はきっと、いろんなこと、難しく考えすぎなんですよ」
きゅ、と師匠に手を握られる。
「以前も、君に同じことを言われたよ」
「・・・言いましたっけ?」
「あぁ。言っていた」
師匠が小さく笑う。
触れている手が、温かい。
「もう少し、簡単に考えるにはどうしたら良いんだろうな?」
「素直になればいいんですよ。師匠は捻くれてますから」
「言ってくれるな」
師匠の手が離れて、腰にまわる。
そのまま引き寄せられて、力強く抱きしめられた。
「僕は、君の気持ちを尊重したい。受け入れてくれるなら、それに越したことはないが、もし、君が・・・」
「心配しないでください」
師匠の言葉を遮って、はっきりと告げる。
迷いなど、あるはずがなかった。
「私はどんな事実が待っていようと、師匠を受け入れますよ」
無言のまま、背中にまわった師匠の手に入る力が強まった。




