06
トリス君とナナちゃんに引っ張られて連れてこられた先には、師匠とエーデルさんがいた。
アリーセさんも、エーデルさんの隣に立っているけれども、その足は地面についていない。
その周りを取り囲むように、子どもたちが十数名いる。
どうやら、遊んでもらおうと集まっているようだが、師匠の顔は面倒そうな様子に歪んでいる。
子供をあやす師匠の姿を見たことがないな、と思ったけれども、小さい頃は私は師匠にあやされていたはずだ。
その時の様子を全く覚えていないのが、心の底から悔やまれる。
絵に描いたような師匠の仏頂面も意に介さず、子供たちはきゃいきゃい言いながら珍しい客人に群がっている。
トリス君は、その中でも背の低いコバルトグリーンの髪の少年に話しかけた。
「アシール!」
ぴくり、と肩を揺らして振り返った彼は、口を開きかけてから、私を見て言葉を飲み込む。
あらん限りに目を見開き、まじまじと見つめてくるアシール君に私は苦笑いを返した。
その視線から、頭の上にいるスノウが気になっているのは明らかだ。
「えっと・・・この人は?」
「ほら、前に話したろ?俺たちのこと匿ってくれてた人」
「この人が、リザさん?」
「うん。リザさん、こいつはアシール。俺の友達」
「あ、あの、初めまして、ぼく、アシール」
「リザです。よろしくね」
手を差し出せば、おどおどとした様子で握り返してくる。
髪と同じコバルトグリーンの瞳は、驚くほど透き通っていて、肌もとても白くて綺麗だ。
ピィ、と鳴いたスノウを手に乗せて、その流れでアシール君に紹介する。
「こっちは、スノウ。私の友達」
「青い鳥・・・月光鳥?」
「そうだよ」
「リザさん、すごい。月光鳥、普通は人間に懐かない」
そっとアシール君が手を出して、スノウを撫でようとする。
彼には悪いが、スノウは嫌がって私の頭に戻るかな、と思ったが、大人しく撫でられていることにこちらが驚いた。
「スノウ、他の人に触られるの嫌がるのに珍しい」
「僕、シルフだから。月光鳥は友達」
「シルフ?」
私が首を傾げれば、アシール君よりも先にトリス君が得意気に説明してくれる。
「こいつ、風の精霊なんだ!ね、すごいよね?」
もじもじと恥ずかしそうに俯いたアシール君を見て、私は目を見張る。
風の精霊の子供だなんて、初めて出会った。
彼らは、森の奥深くに住んでおり、人間の前に姿をあらわすことは滅多にない。
私が驚いている横で、トリス君が得意げに続ける。
「風の魔法が得意なんだ。あと、召喚魔法も得意だよな?」
「う、うん・・・。あ、そうだ」
ちょっと待ってて、と言われて、私たちはそこでアシール君を待つ。
スノウは私の頭に舞い戻り、ナナちゃんはトリス君の肩へとよじ登った。
その様子を見ながら、私はあることに気づく。
「トリス君、背が伸びた?」
以前、ナナちゃんが肩に登っていたときは、肩幅はもう少し狭く、高さもなかった気がする。
私の言葉がよっぽど嬉しかったのか、トリス君は耳と尻尾をパタパタと忙しなく動かした。
「ほんと?そう見える?」
「うん。前より大きくなってるよ」
「やったあ!」
ガッツポーズをするトリス君に、ナナちゃんも良かったね、とばかりにキィキィ言っていた。
子供の成長は早いものなのだと、感心していると、そこに、シクシクと違う声が混ざる。
誰が泣いているのかと訝りながら音源を探せば、アシール君ともう1人、女の子が彼に手を引かれながら、こちらに向かっていた。
黒くて長い髪が顔を隠しており、手をつないでいない左手で懸命に目を拭っている。
「あらら、泣いちゃってるけど大丈夫かな?」
「あー、あいつね。いっつも泣いてるから」
「いっつも?」
トリス君が私の問いに答える前に、アシール君が戻ってきた。
しくしく、と泣き続ける彼女に、私はどう接したら良いのか迷う。
「えっと、あの、大丈夫かな?」
「心配ない・・・ダーナはバンシーだから」
「バンシー?」
人間じゃなかったのか、と納得するも、まさかシルフだけでなくバンシーにも会えるとは思わず私は驚きの声を上げる。
アリーセさんのところには、本当にいろんな子がいるようだ。
ダーナと呼ばれた女の子は、しゃくり上げながら、アシール君の後ろに隠れた。
「うっ・・・・うっ・・・だ・・・だれ・・・」
すすり泣きの声から、辛うじて言葉を拾う。
驚くほど警戒されているようで、私は苦笑いを零した。
「リザって言うんだ。しばらく、アリーセさんのところにお世話になるの。よろしくね、ダーナちゃん」
アシール君の時のように手を差し出せば、ダーナちゃんの挙動が目に見えて固まる。
背中に彼女を隠しているアシール君は、困ったように首を傾げた。
「ダーナ、人見知り。ごめんね、リザさん」
「ううん、構わないよ。初めての人は、怖いよね」
私は差し出していた手を引っ込めて、その代わりに笑顔を向けておく。
「よ・・・ろし・・・く」
アシール君の背中の後ろから声が聞こえてきたので、嫌われているわけではいないようだ。
しくしくと泣き続けるダーナちゃんをよそに、トリス君が話を続ける。
「ダーナは、アシールが召喚して契約したんだ」
「うん。でも、たまにホームシックになって、ダーナ泣いてる」
「こいつ、いっつも泣いてんじゃん」
トリス君がそう言ってケラケラ笑うと、ダーナちゃんがむっとしたように言い返す。
「だ・・・だって・・・そういう・・・・種族・・・」
「わーかってるって。バンシーは泣くのが仕事、だろ?」
なんだかんだ言って、仲の良い人にはダーナちゃんも遠慮はしないようだ。
分かってるならいいのよ、とばかりに鼻を啜って、つん、と横を向く。
「リザさんは、月光鳥と契約してる?」
「ううん。スノウとはしてないよ」
「契約、しないの?」
そう言われて、私はうーん、と唸る。
「召喚魔法で呼び出した訳じゃないからなぁ」
「違くても、契約、結べるよ」
「そうなの?」
「契約、とっても便利。お互いの特技、共有できるから」
アシール君に言われて、そういえば、契約にはそんな特典があったな、と思い出す。
「アシールとダーナは何を共有してるんだ?」
まさに疑問に思ったことを、トリス君が尋ねてくれたので、私は聞きに徹する。
「ぼくと、ダーナ。なんだろ」
「わ、私・・・風魔法・・・得意に・・・なった」
「うん、ぼくの特技だ」
「た・・・ぶん・・・アシールは・・・人の・・・死」
「人の死?」
思わず聞き返せば、ダーナちゃんがびくりと肩を跳ねあげて、身を竦ませる。
驚かせてごめんね、と言えば、ふるふると首を横に振ってくれた。
「バンシー・・・人の死に・・・敏感・・・。誰かの・・・死が近いと・・・泣いちゃう・・・」
「そっか、じゃぁ、ぼくはまだダーナの特技を使ったことがないんだ」
「うん・・・。いい・・・こと」
なるほど、と私は頷く。
もし、私とスノウが契約したら、お互いにどんな特技を共有するのだろうか?
頭の上にいるスノウの喉元を指先でくすぐれば、知らないわ、とばかりに彼女は暢気に欠伸をした。




