05
アリーセさんも、エーデルさんも、とっても良い人だ。
けれども、なぜか私だけでなく、スノウのことも知っているように振る舞う。
師匠から私のことを聞いただけにしては、妙に親しげな気もするし、謎だらけだ。
「変な感じだね、スノウ」
「ピィ」
スノウにようやく許しを得た私は、首を傾げながらの雑談に興じていた。
彼女も同様に疑問だったらしく、可愛らしく目を瞬いている。
最近、暴君と化して来た我が相棒だったけれども、その可愛らしさに思わず顔がにやけるのは、仕方ないことだと思う。
師匠はと言えば、アリーセさんの手伝いに駆り出されていた。
いつもは、こき使う側の師匠が、誰かの手伝いをしているなんて、非常に貴重な姿だ。
様子を見ていると、師匠は、エーデルさんには噛み付くようだけれども、アリーセさんには強く言い返せないらしい。
ものすごく機嫌の悪い顔をしながらも、黙って指示通りに動いていた。
「命の恩人、なんだよね」
私の知らない繋がりが2人にあることに、もやもやとしてしまう。
それに、アリーセさんはあの女に身体を取られている。
何かの偶然なのだろうか?
私の両親を奪った人間が、師匠の恩人の身体まで奪っている。
「どう思う?スノウ?」
問いかけてみたものの、返事は期待していない。
スノウは知らない、とばかりに羽根に頭を突っ込んで毛繕いをし始めた。
ただ単に、縁があっただけなのか、それとも、何か繋がりがあったのか。
どれだけ考えても答えは出ない。
私は思考を放棄して、ぐっと伸びをする。
分からないことを悩んでも、答えが出るはずがないのだ。
その時、ドタドタと廊下を走る音が近づいて来た。
何事かと思って振り返ると同時に、ばたん、と大きな音を立てて部屋のドアが開く。
「リザさん!」
「キーッ!」
誰かを認識するよりも前に、がばっと飛びつかれる。
受け止めきれずに、よろけて尻餅をついてしまったが、それよりも腕の中にいる懐かしい姿に喜びを隠せない。
ぴこぴこ、と動く猫耳に二又の尻尾。
そして、もう1人、普通の人間よりも小さな身体にふわりと香る芳香。
「トリス君、ナナちゃん!元気だった?」
「うん!リザさん、本当に来てくれたんだね?!ありがとう!俺、すごく嬉しい!」
キー!キー!と騒ぐナナちゃんも、嬉しそうに頭をぐりぐりと私のお腹に押し付けてくる。
「スノウも久しぶり」
トリス君がそう挨拶をすると、スノウがそうね、と言いながら私の頭の上に納まる。
2人が立ち上がったのを見計らって、私もお尻を擦りながら立ち上がった。
2人は興奮した様子で、私の負傷には気付いていないようだ。
「2人とも、ここでの暮らしはどう?」
「キーィ!」
「毎日楽しいよ。アリーセさんは魔法を教えてくれるし、シオン兄ちゃんも来たときは体術とか魔法具のこと教えてくれるんだ。あ、でも、エーデルさんはちょっと怖い」
「エーデルさんが?優しそうじゃない。」
先程、握手をしたときのへらっとした笑みを思い浮かべて、私は疑問符を浮かべる。
トリス君は手を組んでうーん、と唸る。
それに倣うように、ナナちゃんも小さな手を使って胸の前で腕組みをする。
「なんだろ。いっつもニコニコしてるんだけど、片付けしなかったり、悪戯すると、いつもよりも笑いながら怒るんだ」
「そうなんだ?」
笑顔のまま怒り狂うエーデルさんを想像してみたけれども、上手くいかなかったので、私は苦笑いをするに留めておく。
滞在中に、彼のその笑顔を拝むことにならないよう祈るばかりだ。
「それとね、リザさん。俺たち、友達も出来たんだ。ここにいるのって、人間だけじゃないんだよ」
「キー!キー!」
「ね、一緒に来て!」
ぐいぐいと手を引っ張るトリス君とナナちゃんを眺めながら、変わったな、と思う。
初めて出会ったときの警戒はもちろん、しばらく一緒に暮らしているときも、特にトリス君が私に気を使っているのは感じていた。
ここで、同じくらいの年の子どもたちと触れ合うことで、きっと本来の明るい性格が取り戻されたのだろう。
にこにこと楽しそうに笑っている兄妹を見て、2人が安心して暮らせるような環境にいることに、心の底から安堵した。




