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払えないなら、帰れ

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「一本、十億」


空気が凍る。


次の瞬間――


「ふざけるなァ!!」


男は机を叩きつけるように立ち上がった。


顔を真っ赤にし、唾を飛ばす。


「調子に乗るなよ……十億だと?」


呼吸が荒い。


「いいか、俺を誰だと思ってる」


男は懐に手を入れ、何かを取り出す素振りを見せる。


「おい」


短く、低い声。


それだけで。


店の奥、扉の向こうから足音がした。


ぞろぞろと現れる数人の男たち。

どれも武装している。

それだけでこの男がそれなりに偉い地位にいるとわかる。


ナイフ、拳銃、魔導具。


「どこから水を手に入れたかは知らねえ」


男は口角を吊り上げる。


「だがな……命が惜しかったら、全部寄越せ」


一歩、踏み出す。


手下たちも、じりじりと距離を詰める。


静寂。


――その直前。


マスターが、初めて口を開いた。


「払えないなら、帰れ」


低く、淡々とした声。


場違いなほど静かな言葉だった。


「……は?」


男が眉をひそめる。


「水は売らない」


それだけ。


脅しでも、怒りでもない。


ただの事実の提示。


「十億だ」


視線すら向けずに続ける。


「用意できないなら、ここで終わりだ」


一瞬、空気が揺らぐ。


だが――


「……ふざけるな」


男の口元が歪む。


「この状況で、まだそんなことが言えると思ってるのか?」


一歩、踏み込む。


手下たちも、武器を構える。


「力づくで奪えばいいだけだ」


その言葉が、合図だった。


――だが。


マスターは、動かなかった。


ただ、机の上の水を――


指で、軽く弾いた。


ちゃぷ、と。


わずかに揺れた水面が。


次の瞬間、形を変えた。


水が、立ち上がる。


細く、鋭く、刃のように。


「……は?」


男の声が、間の抜けたものに変わる。


「お、おい……まさか……」


「水魔法……だと……?」


ざわめきが走る。


水の刃は、音もなく伸び――


男の喉元、寸前で止まっていた。


「動くな」


低く、冷たい声。


それだけで、空気が変わる。


――戦いは、始まる前に終わっていた。


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