034 期待の新人
次の日。
早朝、特区中央のゲート前で、アリスやミャオと合流した。
三人揃ったところで、いつものようにダンジョンへ。
――と思いきや。
「待ってにゃ! 大将に紹介したい人がいるにゃ!」
ミャオが何やら言い出した。
「紹介したい人?」
「どんな方ですの?」
俺とアリスが首を傾げる。
「それは……あ、きたにゃ! あの人にゃ!」
ミャオが近づいてくる一人の冒険者を指した。
女の冒険者で、年齢は俺と同年代だ。
尖った耳と端麗な顔立ちから、一瞬でエルフ族だとわかった。
そのエルフは、俺たちが待っているとわかっても歩調を変えない。
白銀のセミロングヘアをなびかせて、悠然と近づいてくる。
(すごい格好だな……)
それが俺の感想だった。
白のオフショルダーブラウスに深緑の段フリル袖を合わせ、上から濃茶革のコルセットを重ねている。
前面が編み上げになったコルセットは真鍮の金具で補強され、実用性と装飾性を兼ね備えていた。
腰から下は深緑のスリット入りロングスカートで、歩くたびに左脚が大きく露出する。
白と緑を基調にした装いで、なんとも優雅だ。
しかし、それ以上に注目したのが装備である。
腰に濃茶の革ベルトが複数巻かれており、そこに矢筒やポーション瓶が吊るされている。
太ももにもホルスター状の細い革ストラップが巻き付けられており、小型ナイフが固定されていた。
そして背中にはクロスボウを斜めに背負っている。
総じて、エルフにふさわしいプロフェッショナルさが感じられた。
「…………」
エルフ冒険者は俺たちの前まで来ると足を止めた。
ただ静かに、俺の目をじっと見据えている。
「紹介するにゃ! 彼女はCランク冒険者のクレア! 昨日、訓練所で知り合ったにゃ!」
ミャオが得意げに胸を張る。
「ほう。Cランクか」
アリスがBランクで、ミャオがDランク。
そのため、クレアは二人の間に位置するわけだ。
ただ、雰囲気的にはアリスよりも強そうに見える。
Aランクと言われても疑わなかっただろう。
「ミャオに聞いたが、ダンジョンで屋台を出しているそうだな」
クレアが口を開いた。
声色は鈴を転がすように美しいが、抑揚は乏しい。
その口ぶりからして、俺のことは全く知らないようだ。
この時点で、彼女が異質だとわかる。
他の冒険者と交流していれば、少なからず俺の情報は耳に入るものだ。
仮に聞いたことがなかったとしても、見かけることはあったはず。
それがないということは、普段、中層直通ゲートを使用しているのだろう。
Aランク冒険者のレックスと同じタイプだ。
「ああ。昨日、中層にデビューしたところだ。それでミャオ、見るからにプロっぽいエルフを紹介した理由は?」
俺が尋ねると、ミャオが「よくぞ聞いてくれたにゃ!」と胸を張った。
「クレアも大将のお店で働きたいそうにゃ! 強いから用心棒になるにゃ!」
「うちで働きたい? Cランク冒険者が? そんな変わり者がアリス以外にいるとは思えんが……」
「変わり者だなんて失敬な!」
アリスがぷんすかしているが、誰も気にしていなかった。
実際、屋台『てづか』の労働条件はよろしくない。
今のペースで1年間営業した場合、アリスとミャオの年収は以下のようになる。
アリス:1700万円
ミャオ:1200万円
これは税金や控除を差し引く前の額だ。
金額だけを見れば高額だが、冒険者の稼ぎとしては非常に少ない。
特にアリスは、ソロで中層を無双できる実力者だ。
それだけの腕があれば、ゆるく活動しても年に数千万円は稼げるだろう。
冒険者ランクが上がるほど、うちの待遇は割に合わなくなる。
だから、クレアが働きたがっているのが不思議でならない。
そんな俺の疑問を察したのか、クレアが淡々とした口調で言った。
「私が就労を希望している理由は、ダンジョンで冒険者に料理を振る舞っていると知り感動したからだ。金銭には興味がない」
「なるほど」
「とはいえ、実力が評価されないのは納得できない。そこで、基本給は不要とし、完全歩合制で評価してもらいたい。妥当性が認められる理由であれば、無給であろうと文句は言わない」
もう一度、俺は「なるほど」と口にした。
(この職人気質の考え方といい、典型的なエルフ族だな)
「まかないはどうするのですの?」
アリスが尋ねると、クレアは即答した。
「それは福利厚生の一環として求める」
「そういう条件なら断る理由もないし承諾しよう。ただ、うちは飲食業だから、評価基準には戦闘力以外も含まれるよ。客とのコミュニケーションや配膳といった接客技術も評価対象になる」
実際、ミャオの評価が高いのは接客面によるところが大きい。
配膳は素早く丁寧で、愛想が良くて客受けがいい。
そのうえ皿洗いなどの雑務にも献身的だ。
「笑うのと敬語を使うことは苦手だが、会話自体は問題なくできる。ミャオから、客に対して敬語を使う必要がないと聞いている。それが正しいのであれば、問題にはならないと思う」
クレアは真顔で答えた。
たしかに笑うのと敬語を使うのは苦手そうだ。
「だったら問題ないな。屋台に高級店のような接客を求める馬鹿はいない。ちなみに、Cランクとのことだが戦闘技術のほどはどうなんだ?」
「中層全域をソロで活動できる程度の腕はある」
これには俺とアリスが揃って「おお!」と感嘆した。
「中層全域をソロで、ってことは、実力的にはアリスと同じくらいか」
「いや、アリスには劣る」
クレアが断言した。
「どうしてわたくしの実力をご存じですの?」
アリスが不思議そうに首を傾げる。
「前に中層でアリスの戦いを見たことがある。私よりも明確に強かった。ただ、私がアリスに勝っている点もある」
「といいますと?」
「ミャオに聞いたが、アリスは方向音痴らしいな」
アリスが「ぎくっ!」と目を泳がせる。
「私にはそうした弱点がない。また、エルフ族なので魔法の能力が高い。人間には使えない高度な魔法も使え、そうした魔法による貢献も期待できると考えている」
「アリスより少し腕は劣るが、目立った欠点もないということか」
「そう捉えてもらってかまわない」
要するに万能型だ。
それも、未知数なのは接客態度だけで、ほかは高水準にまとまっている。
「念のために確認しておくが、屋台の仕事は接客も含めてすべてこなし、希望する待遇は完全歩合制の金銭とまかないだけでいいんだよな?」
「かまわない。クランに所属していないから、私も時間の都合をつけられるだろう」
「素晴らしい。では、契約成立だ!」
俺はクレアと握手を交わした。
「これで中層での安全度が高まったにゃー!」
ミャオがニッと笑う。
「そうだな!」
ダンジョンのセーフティゾーンは、しばしば魔物に襲われる。
アリスがそばにいれば余裕だが、食材調達に出払っていたら絶望的だ。
クレアの加入は、この問題を解消するものだった。
「よろしく、シュウジ。それにアリスも」
「よろしくお願いしますわ!」
俺に続いて、アリスもクレアと握手を交わす。
「それじゃあ、行くか! 中層、地下21階へ!」
「了解ですわ!」
「おーにゃ!」
アリスとミャオが元気よく答え、クレアが静かにうなずく。
期待の新人を連れて、俺たちは中層直通ゲートをくぐった。
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