031 たまには普通の料理を②
「屋台で和食ばかり提供する理由、か……」
アリスの指摘を受け、俺は自分のメニューを振り返った。
角煮丼、唐揚げ、天ぷら、葛切り、ラーメン、親子丼……。
言われてみれば、たしかに和食ばかりだ。
もちろん例外もある。
ダークネスミノタウロスのTボーンステーキがそうだ。
しかし、割合で見れば圧倒的に和食が多い。
浅層の集大成として作ったラーメンも、横浜発の家系を土台にした日本式のラーメンだ。
海外では「ジャパニーズラーメン」と呼ばれ、中国の拉麺とは別物として扱われている。
少なくとも俺の屋台では、和食枠に入れて差し支えないだろう。
「やはり、屋台では和食以外の料理は作りにくいのでしょうか?」
「そんなことはない。ただ、無意識に和食を選んでいた。俺自身が日本人だし、屋台といえば和食というイメージがあったんだろうな」
「じゃあ、和食以外も提供できますの!?」
アリスがぱぁっと顔を輝かせる。
「おう! 試しに明日はフランス料理でも作ってみるか!」
「いいですわね! シュウジさんのフランス料理、食べてみたいですわ!」
「ははは。期待されると、料理人としての血が騒ぐというものだ。そうと決まれば、今日中にエスカルゴバターを仕込んでおかないとな!」
俺は野菜コーナーでパセリとエシャロットを手に取った。
それを玉ねぎであふれそうなカゴに放り込む。
「エスカルゴバター? まさかカタツムリが入っていますの?」
「いや、カタツムリは入っていない」
俺は笑いながら首を横に振った。
「常温に戻したバターに、パセリ、ニンニク、塩、エシャロット、胡椒などを混ぜ合わせたものをそう呼ぶんだ。魚から肉まで、フランス料理では幅広く使われる万能調味料だよ」
エスカルゴバターは事前にまとめて仕込める調味料だ。
冷蔵・冷凍で保存しておけば、調理の時短につながる。
事前に仕込めるものは仕込んでおく……これは鉄則だ。
すべての工程を当日に回すと、調理に膨大な時間を要してしまう。
屋台のようにスピードが求められる業態では、特に重要だ。
「エスカルゴバターを使った料理……早く食べてみたいですわね」
アリスがごくりと喉を鳴らす。
その食いしん坊な反応を見て、俺は名案を思いついた。
「なら、これから作ってやろうか?」
「え!?」
「今日、家に誰もいないんだろ? 今からアリスの家に行って、作ってやるよ」
「な、なな、なんですって!?」
アリスの顔が赤く染まる。
「理由はわからないが、俺の家に誘ったとき、機嫌を損ねちまったからな。その詫びも兼ねて、腕を振るうよ」
「あ、あれは、わたくしが勝手に勘違いして拗ねただけですから……。そういう理由では気が引けますわ……」
アリスがもじもじと指先を合わせる。
カートが彼女の手を離れ、勝手に進んでいく。
俺は慌ててカートを止めつつ、アリスを見て笑った。
「妙なところで遠慮する奴だな」
「わたくしだって、そこまでお子様ではございませんわ」
「ふむ……」
俺は少し考え、別の角度から提案してみた。
「じゃあ、一緒に作るってのはどうだ?」
「一緒にですか!?」
「アリスの家は大豪邸だし、厨房も広いだろ? 二人で料理できるんじゃないか?」
「たしかに可能ですが……わたくし、料理の経験なんて……」
「安心しろ、メインは俺が担当する。それに、こういうのは一緒に作る過程を楽しむものだ。そうだろ?」
「シュウジさん……!」
アリスが感極まったように頬を赤らめる。
見るからに嬉しそうだ。
女心はわからないが、俺の提案は正解だったらしい。
「あと、アリスがニンジンの皮剥きすらできないポンコツでも問題ないぞ。俺が完璧にフォローして仕上げるからな!」
「失礼な! わたくしだってニンジンの皮剥きくらいはできますわ!」
「本当かー?」
俺がニヤニヤしながら尋ねると、アリスは「うっ」と言葉に詰まった。
「ピーラーではなく剣を使えば可能ですわ!」
「いやいや、そっちのほうが難しいだろ」
俺は思わず吹き出した。
ニンジンの皮剥きを剣でやる姿が想像できない。
放り投げて素早く斬るのだろうか。
いつか見せてもらおう。
「ともあれ、これで今夜の予定は決まったな」
「はい!」
アリスが声を弾ませる。
「それで、メインの食材はどうする? エスカルゴバターを使ったフランス料理を作るのはいいが、肝心の食材が決まっていないぜ」
「食材ですか」
「そうだ。肉か魚、好きなほうを選んでくれ」
アリスは「うーん」と考え込んでから言った。
「コース料理ではダメですの? フランス料理と言えばコースのイメージですが……」
「すでに日が暮れているから、一緒に作るとなると一品が限界だ。コースが食いたいなら、アリスはただ座って待っているだけになるぞ」
「それはダメですわ! そういうことでしたら、お魚を希望しますわ!」
「魚か。意外だな。てっきり肉を選ぶかと思ったが……」
「お肉はいつもダンジョンで魔肉を食べていますから!」
「それもそうだな」
俺たちは鮮魚コーナーに移動した。
新鮮な魚が大量に並ぶ中から、良さそうなものを選んだ。
ほかにも、必要な食材を買い込む。
「もう一度シズルの工房に行って、今日使わないものは預けよう。それからアリスの家で料理教室だ!」
「了解ですわ!」
大量のレジ袋を抱えながら、俺たちはエルフのスーパーを後にした。
(ダンジョン以外で他人のために料理を作るのって久しぶりだな)
夜の特区を歩きながら、俺はそんなことを思っていた。
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