027 グリフォンの親子丼②
「突っ込んでくるぞ!」
俺は叫んだ。
グリフォンが、その巨躯からは想像もできない速度で降下してくる。
「ミャ、ミャオの手に負える相手じゃないにゃー!」
ミャオが尻尾を丸め、ガタガタと震えながら後ずさる。
冒険者の強さ基準について詳しくないが、どうやらDランクに昇格したての彼女には厳しいようだ。
「わたくしにお任せください!」
対照的に、アリスが悠然と一歩前へ踏み出した。
右手で剣を構え、左手を天にかざす。
「いきますわよ! 〈ファイヤーボール〉!」
アリスの掌から火球が放たれた。
かつて俺の鍋を黒焦げにした魔法だ。
凄まじいスピードで飛んでいく。
「よっしゃ! これなら直撃は間違いない!」
などと素人の俺は興奮したのだが――。
「キュイイイイイイイン!」
グリフォンは耳障りな鳴き声を上げると、素早く回転して火球を避けた。
「あの図体でそんな芸当ができるのかよ!」
そう叫ぶ俺を、グリフォンが睨む。
何を思ったのか、最初の獲物は俺に決まったようだ。
「やばい、やばい、やばい!」
リアカーを引く俺に、攻撃を避ける術はない。
死の予感に背筋が凍る。
「ご安心ください! 織り込み済みですわ!」
凛とした声が響いた。
アリスが地面を蹴る。
グリフォンの懐へ、自ら飛び込んだのだ。
「やあっ!」
アリスは体を捻り、正確無比な斬撃でグリフォンの首を刎ねた。
あまりの早業に、斬られたグリフォンの頭部は、目を見開いたまま息絶えた。
ズドンッ!
巨大な怪鳥の胴体が、俺たちの前に落下する。
即死だった。
「アリスぅぅぅぅぅ!」
俺は歓声を上げた。
リアカーを引いていなければ、抱きついていただろう。
ミャオも「さすがにゃー!」と興奮していた。
「ふふん! これがBランクの実力ですわ!」
華麗に着地したアリスが、剣を払いながら胸を張る。
自信に満ちたその動きに合わせて、軽鎧の内側で豊満な胸が大きく揺れた。
ぶるんぶるんと二回。実に素晴らしい。
「さすがは屋台『てづか』の最古参だ! 頼りになるぜ!」
「アリス、かっこよかったにゃー!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ俺とミャオに対し、アリスは照れ笑いを浮かべた。
「最古参といっても、わたくし以外の従業員はミャオさんしかいませんけどね」
「いやあ、今回はマジで死ぬかと思ったな。過去最大のピンチだったぜ……」
俺は安堵の息を吐きながら、グリフォンの死体に近づく。
死んで間もないためか、グリフォンは痙攣していた。
「よし、今日はグリフォンで料理を作ろう。ご褒美として、アリスが望むものを作ってやる!」
「本当ですの!?」
「おうよ! グリフォンを使った料理なら何でもいいぜ!」
「わかりました! それでは、少し考えますわ!」
アリスは顎に手を添え、「うーん」と考え始めた。
本人は「少し」と言っていたが、熟慮に熟慮を重ねている。
(待っている間に解体しておくか)
俺は解体用のナイフを取り出した。
まずは血抜きだ。
死後硬直が始まる前に、首の断面から血を出し切る必要がある。
魔物の肉とはいえ、基本的な処理はジビエと同じだ。
血が残れば臭みの原因になる。
(首を刎ねたせいで、何カ所か刺す必要がありそうだな)
グリフォンの体に手を当てながら、適当にナイフを刺す。
血抜きが済んだら次の作業だ。
腹を裂き、内臓を摘出していく。
胃袋や腸を傷つけないように気をつける。
ここで中身をぶちまければ、肉に臭いが移ってしまう。
「さて……」
取り出した臓器を検分する。
レバーは鮮やかな赤色で、角が立っている。これは上物だ。
ハツも弾力がある。砂肝のような部位も確認できた。
これらは食材として確保していいだろう。
(腸などの消化器官はパスだな。処理に手間がかかる上にリスクが高い)
内臓の選別が済んだら肉だ。
胸肉に当たる部分は、鷲と獅子の特徴が混ざっているのか、赤身が強く繊維が太い。
もも肉は見るからに筋肉質で、いい意味で噛みごたえが期待できる。
この辺は特に悩むことなく作業を進められた。
問題は皮だ。
羽毛が多く、どう見ても処理が面倒だ。
しかし、皮下脂肪が乗っていて旨味がありそうだ。
(念のため剥ぎ取って持ち帰るか)
他にも使えそうな部位を切り出し、食材庫へと放り込んだ。
今回の料理でどれだけ使うかは不明だが、備えあれば憂いなしである。
食材庫に保管しておけば、遠からず消費することになるだろう。
「決めましたわ! わたくし、親子丼が食べたいですわ!」
唐突にアリスが口を開いた。
まるで解体作業が一段落したのを見計らったかのようなタイミングだ。
「親子丼?」
意外なリクエストだ。
てっきり焼き鳥あたりが選ばれると思っていた。
「はい! 親子丼ですわ!」
「卵は鶏卵でいいのか? でも、それだと厳密には親子丼と言えないか……他人の空似丼というか、そんな感じになるぞ?」
俺が尋ねると、アリスは「いえ!」と首を振った。
「グリフォンの卵がいいですわ!」
「グリフォンの卵なんてあるのか?」
「今登っている山の山頂が巣になっておりまして、そこに卵がありますわ! 卵はわたくしが獲ってきますので、ぜひとも親子丼を作ってください!」
「……なるほど。そういうことなら挑戦してみるか」
こうして、中層で作る最初の目玉料理は〈グリフォン〉の親子丼に決まった。
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