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料理の巨匠、ダンジョンで魔物メシを提供する ~危険地帯で屋台を開いた結果、冒険者の胃袋を掴んでしまいました~  作者: 絢乃


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024 浅層の集大成②

 必要な食材をすべて調達し終え、特区の内周エリアへと戻ってきた。

 殺風景な荒野が広がるその場所で、俺たちは屋台の展開を始めた。

 イスの設置など、料理に関係ない部分はアリスとミャオに任せる。

 俺はシズルに連絡を入れつつ、今回作る料理の準備を始めた。


「テーブル席は設置しなくていいぞ。今日は俺たち三人とシズルの分しか作らないから」


「了解しましたわー!」


 いつもと違い、腹を空かせて並ぶ冒険者たちはいない。

 そのため、のほほんと準備を整えることができた。


「お? 何か来るぞ」


 作業が一段落したところで、俺は近づいてくる存在に気づいた。


「えっ? 馬車ですの!?」


 アリスが振り返る。

 そう、やってきたのは豪奢な装飾が施された一台の馬車だ。

 漆塗りの車体に、金細工の縁取り……まるで貴族の乗り物である。


「すごっ! お姫様でも乗ってるのかにゃ?」


 ミャオが目を丸くする。


「あれはシズルの馬車だな」


「なんと!? 特区内って、乗り物は禁止されていませんでしたか?」


 アリスが尋ねてくる。


「禁止されているのは自動車やバイクだ。自転車や馬車は問題ないよ。乗ってる奴なんて他にはいないけどな」


 厳密には、資材などの輸送用トラックも例外的に認められている。


「北中島シズル様のぉ! おなーりぃ!」


 馬車が目の前で停まり、御者が大声で叫んだ。

 そして御者が馬から降り、扉を開けた。


「お誘いありがとう、シュウジくん。お待たせしたかしら?」


 シズルがエレガントに長い髪をかき上げながら登場する。

 紫のドレスは胸元が大きく開いており、深いスリットが入っている。

 胸の谷間と、スリットから垣間見える美脚が、男の視線を釘付けにする。

 アリスとミャオには逆立ちしても出せない色香だ。


「わお! すっごい美人さんにゃ!」


 ミャオが純粋な感嘆の声を上げた。

 一方、アリスはジトッとした視線を彼女に向ける。


「ミャオさん、あれがシュウジさんをたぶらかしている魔性の女ですわ……!」


 アリスの声には対抗心のようなものが混じっている。

 シズルはそんなアリスの視線を、「ふふ」と余裕の笑みで受け流した。


「待たせるどころか、むしろ早すぎたくらいだ。まだ屋台が準備できたところだよ。これから仕込みだから、もう少し時間がかかる」


「なら、最高のタイミングじゃない。シュウジくんの仕事を最初から見られるのだから」


 シズルは妖艶な笑みを浮かべた。

 それから御者に対して、手で払うようなジェスチャーをした。

 御者は指示を察して、静かに馬車を走らせて去っていった。


「さて、特等席で見させてもらおうかしら」


 シズルは中央のカウンター席に腰を下ろした。

 何を張り合っているのか、アリスが慌ててシズルの隣に座る。


「それでシュウジさん、結局何を作りますの?」


「そろそろ教えてにゃー! お腹と背中がくっつきそうにゃ!」


 ミャオはアリスの隣――シズルとは反対側――の席に飛び乗った。

 三人の視線が、俺の手元に集中した。


「そういえば、まだ言っていなかったな」


 俺は調理台にレッドボアの肉塊とガラ骨を積み上げた。


「今回作る浅層の集大成、それは――ラーメンだ!」


「「「ラーメン!?」」」


 三人の声が見事に重なった。

 ミャオは目を丸くし、アリスは扇子で口元を隠しながらも驚きを露わにする。

 シズルも興味深そうに眉を上げた。


「それも、ただのラーメンじゃない。背脂チャッチャの家系ライクだぜ!」


 俺は自信たっぷりに言い放つ。

 今回は客の数を考えなくていいから、材料を惜しみなく使える。

 強力粉と薄力粉、そして特製のかんすい。

 家系ラーメンのアイデンティティとも言える海苔も準備済みだ。


「レッドボアが豚骨の代わりになるのはわかりますけれど……マンドラゴラもラーメンに使いますの!?」


「え、マンドラゴラをラーメンに使うの?」


 シズルも驚いている。

 マンドラゴラは有名だから、彼女も知っているようだ。


「もちろん。こいつがいい仕事をするんだよ。まあ、見てなって」


 俺は燻製したマンドラゴラを取り出した。

 薄切りにしてミキサーで粉末化し、瓶に移した。

 あとで麺に練り込む予定だ。


「いくぜ、調理開始だ!」


 まずはスープの命となる骨の下処理からだ。

 レッドボアのガラ骨をナタで豪快に叩き割っていった。

 ゲンコツと背骨を一緒くたに粉砕していく。


「ひぃっ! すごい音ですわ!」


「骨の中にある骨髄――旨味の素を早く出し切るためだ」


 割った骨を大鍋に放り込み、強火にかける。

 沸騰してから五分ほど煮立て、一度その湯をすべて捨てる。

 いわゆる「下茹で」だ。


 その後、流水で骨を丁寧に洗い、血の塊や余分な膜、ぬめりを落とす。


「大将、どうして骨を洗うにゃ?」


「スープが獣臭くなるのを防ぐためさ。このひと手間で味が大きく変わるんだ」


 アリスとミャオが「ほへぇ!」と感心している。

 シズルは「さすがね」と大人の笑みを浮かべていた。


「今度はこいつの出番だ」


 俺は圧力鍋を取り出した。

 シズルの工房でパワーアップされた魔導具の一つである。

 通常の圧力鍋より短時間で仕上がる優れ物だ。


「ちゃんと使っているのね、うちでチューニングした魔導具」


「もちろん。この圧力鍋は特に活躍しているぜ」


 圧力鍋に洗った骨と水を入れた。

 さらにダンジョン野草の〈ネギ生姜〉と大量のニンニクも放り込んだ。

 それから蓋をして、強火で加圧を開始した。


「普通なら最低でも半日は煮込む必要があるけど、この圧力鍋なら三十分で済む」


「そんなに短時間でいいの?」


 シズルが驚く。


「すごいだろ? シズルの工房がいい仕事をしてくれたおかげだ」


「さすがね、私の工房。まあ、社長は私じゃないんだけど」


 シズルが「ふふ」と笑った。


「加圧している間にチャーシューの準備だ」


 使うのは2キロを超えるレッドボアの肩ロースだ。

 それをタコ糸で縛り、中華鍋で表面を強火で焼き上げた。


 ジューッ!


 激しい音と共に、香ばしい肉の焼ける香りが立ち上った。


「んんーっ! いい匂いにゃー!」


 ミャオが鼻をひくつかせ、涎を垂らしそうな顔で身を乗り出す。


「すでに美味しそうね……魔肉なのに……!」


「そう思うだろ? でも、今の段階で食べても不味いんだ」


「え、そうなの?」


 シズルは驚いたように目をぱちくりさせた。


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