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料理の巨匠、ダンジョンで魔物メシを提供する ~危険地帯で屋台を開いた結果、冒険者の胃袋を掴んでしまいました~  作者: 絢乃


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023 浅層の集大成①

 翌日、昇級試験の結果が発表され、ミャオは見事に合格を果たした。

 これで晴れてDランク冒険者の仲間入りだ。


「やったにゃー! これでミャオも一人前の冒険者にゃ!」


 特区のダンジョンゲート前で、ミャオが歓声を上げる。

 腰には、昇格祝いに新調したばかりの短剣を下げていた。

 彼女が嬉しそうにくるりと回ると、尻尾も機嫌よく左右に揺れる。


「おめでとうございます、ミャオさん。装備もよくお似合いですわ」


 アリスが微笑ましそうに拍手を送った。

 それから彼女は剣を抜き、ゲートに切っ先を向ける。


「装備も一新しましたし、いよいよ今日から中層攻略ですわね!」


 アリスの問いかけに、ミャオも短剣を掲げて応じる。

 しかし、俺は「いや……」と首を振った。


「そうしたいのは山々なんだが……その前に一つ、やっておきたいことがある」


「やっておきたいこと、ですか?」


 アリスが小首を傾げる。


「浅層の集大成になる料理を作っておこうと思ってな」


「「浅層の集大成?」」


 二人の声が重なる。


「浅層の食材と、ここで培った知識を最大限に活かして、特別な一品を作りたい」


 俺はこれまでさまざまな魔物料理を浅層で作ってきた。

 今日の料理で、一つの区切りを付けたい。

 前世で修行していた頃も、旅立つ前にはそういう料理を作っていた。

 それに――。


「理由は他にもあるんだ」


「といいますと?」


「そろそろシズルに魔物料理を振る舞いたいと思ってな」


 シズルは以前から魔物料理を食べたいと言っていた。

 しかし汗をかくのが嫌だという理由で、ダンジョンには来なかった。

 だから今まで魔物料理に縁がなかったが、それも今日までだ。


 初めてシズルに会った頃とは違い、今の俺には食材庫がある。

 魔導具工房で作ってもらったもので、食材の鮮度を保つことが容易だ。

 だからダンジョンで食材を集め、特区の内周で料理を作る。

 そうすれば、シズルに美味い魔物料理を食わせてやれる。


「シズルって、誰にゃ?」


 ミャオが聞き慣れない名前に耳をピクリとさせる。

 すると、アリスが眉をつり上げ、不機嫌そうに頬を膨らませた。


「シュウジさんをたぶらかしている魔性の女ですわ!」


 アリスとシズルの間には、ほとんど面識がない。

 初めて魔導具工房に行ったときに顔を合わせた程度の関係だ。


 それでも敵視しているのは、俺とシズルの関係を知ったからだ。

 宿屋で一夜を明かしたと話した途端、不機嫌になってしまった。

 何が気に食わないのかは不明だ。


「魔性の女って……」


 苦笑しつつ、俺は今日の方針を伝えた。


「そんなわけで、今日は浅層を歩き回って最高の食材を調達する。そうして、その集大成となる一品をこの内周で作る!」


「そういうことなら異論はありませんわ!」


「ごちそうなら大歓迎にゃ! お腹いっぱい食べるにゃー!」


 今日は一般客に料理を提供しないため、事実上の休業日だ。

 昨日も休業日だったので、営業開始以来初めての連続休業である。

 ただ、リアカーを引いているせいで休んでいる感じはしなかった。


 ◇


 ゲートをくぐった俺たちは、手慣れた様子で浅層を進んだ。

 一つ、また一つとブラックゲートを通過し、下の階層へ向かう。

 その道中、俺はこれまでの料理を振り返った。


 レッドボアの角煮丼。

 デザートスコーピオンの唐揚げ。

 マンドラゴラの天ぷら。

 スライムの葛切り。

 そして、ダークネスミノタウロスのTボーンステーキ。


 他にも細々としたものは作ったが、代表的なメニューはこのあたりだろう。

 浅層の集大成として何かを作るなら、これらの食材をベースにしたい。

 できれば一つの皿にすべてをまとめ上げたいところだが……。


(さすがにすべての食材をまとめ上げるのは無茶だな)


 魔物相手にへっぴり腰で戦うミャオを眺めながら、そう思う。


 スライムは性質的に他の食材と合わせにくい。

 デザートスコーピオンは揚げ物以外の料理になると不味い。

 ダークネスミノタウロスの魔肉に至っては、そもそも自力で調達できない。


(そうなると、レッドボアとマンドラゴラか)


 俺が考えている間にも戦闘が進む。

 アリスが助太刀に入り、ミャオに代わって敵を倒した。


「よし、この階でマンドラゴラを調達したら特区に戻ろう。ほかの食材は道中で調達した分だけでいい」


 戦闘を終えた二人に指示を出す。

 ここは地下10階の森林エリア――マンドラゴラが生息している。


「野草はいくつか採取しましたが、メインになりそうな食材はレッドボアとマンドラゴラだけですわよ? それで料理ができますの?」


 アリスの問いに、「おう」と即答した。


「さすがの大将でも無理があるんじゃないかにゃー?」


 ミャオがマンドラゴラを引っこ抜いた。

 事前にアリスが土魔法で仕留めているため、抵抗されることはない。


「問題ない。俺には勝算がある。料理ってのは奥が深いからな」


「本当かにゃー? スライムの葛切りを作ったときは行き当たりばったりだったにゃー!」


 ミャオが「にゃはは」と笑いながら言う。


「安心しろ。今回はすでに何を作るか決めてある」


「にゃんだってー!」


「教えてくださいまし、シュウジさん! 気になりますわ!」


「ミャオも気になるにゃー!」


 二人が興味津々といった様子で詰め寄ってくる。

 俺はニヤリと笑い、人差し指を立てた。


「それはできてからのお楽しみだ。マンドラゴラの調達も済んだし、帰るぞ」


 俺は足早にホワイトゲートへ歩き出した。

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