37 中級依頼②
「…そういや、ツィアーノのギルドマスターって誰なんだ?」
漆黒の愛馬アンヴァルに跨るのはヴォルフだ。
「そう言えば知らないね」
俺の愛馬である白銀のソティラスは、以前よりも少し成長している。
「ぐぅ…」
かばんの中のクロは今日も夢の中だ。馬上で良く寝れるものだと感心する。
「…知らないの?」
メルの愛馬はシルバーグレイのオルフェーヴルだ。
「…え?メルは知ってるの?」
「…知ってる」
「…あの人」
メルは前方で馬を走らせる我らが育成官に向かって指をさした。
「…あ?言ってなかったっけ?」
「えぇぇぇぇぇぇ?!レイさんがギルマスーーー?!」
「そうだったんですか…?ちょっと、驚きました…」
「おい。お前らはどういう反応なんだそれ」
レイさんの眉間に皺が寄る。
「…ま、俺には優秀な部下がいるからな。俺なんかお飾りよー」
「なんかそれ聞いて安心したわ~」
「…ヴォルフ君?お前の目に俺ってどう映ってんの?」
「…まぁいい。もうすぐサンチェット高原に入るぞ」
サンチェット高原はツィアーノの街の北西に位置する。
途中休憩を挟みながらここまで来るのに馬で五時間を要した。
今回の依頼は『シェイプシフターの駆除』だ。
この先のウォルズ村に続く街道でシェイプシフターが悪さをしているらしい。
「シェイプシフターの注意すべきはその能力にある。リュカ、解るか?」
「はい。シェイプシフターの能力は、『変化』です。生物にも物にも変身することができます。そして元の姿はスライムに似ています」
「その通りだ。奴らは夜に姿を現すらしい。とりあえず俺たちはウォルズ村に向かうぞ」
シェイプシフターなんていつぶりだろうか。
確か、俺が学生の時に冒険者の依頼で見たっきりだと思う。
あの時はパーティの魔導士が間違えて俺を燃やしてしまって大変だった。
「うわ、なに笑ってんだよ」
「あ、いや、なんでもないよ」
アルトも珍しく怒っていたな。
今となっては良い思い出だ。
*
「レイさん!遠路遥々ありがとうございます!」
俺たちが村に到着するや否や、小柄のお爺さんが嬉々としてレイさんの元へ駆け寄る。
「村長。ご無沙汰してます」
レイさんは馬から降りると、笑顔で村長に挨拶した。
「立ち話もなんですから。さぁどうぞ私の家へおいで下さい」
「ありがとうございます」
そうして俺たちは、村長に連れられ村の高台にある村長の家に招かれることとなった。
「…それで、その後被害状況はどうなんですか?」
「頻度こそ減っていますが、まだ完全には…。お恥ずかしい話ですが、我らの力ですと奴らを捕まえるのは難しいのです」
この村に勿論男手はいるが、追い払うことは出来ても捕まえること自体は難しい、という話だった。
「どうぞ召し上がって?この村自慢のクッキーよ」
村長の奥さんがミルククッキーとホットカフェオレを用意してくれた。
すると途端にメルの耳がピンッと立った。
村長に依れば、シェイプシフターたちはあらゆるもの…時には”人間の子ども”に、時には”魔獅子”となり、御者たちを油断させたり、怖がらせているうちに、積み荷を奪っていくのだという。
そしてどうやら、シェイプシフターは3匹で荷馬車を襲っているようだった。
「馬車にいつも用心棒が乗っているわけではありませんし、本当に困ったものです」
村長さんは深いため息をついた。
「被害を受け始めたのは、先月くらいからでしたっけ?」
「はい。それまではこんなことは一度もありませんでした」
積み荷の被害額は今のところ商会持ちとは言え、こんなことが続けば商会から取り引きを断られてしまうかもしれない。困った村長はギルドに依頼をしたと言う訳だ。
「…ところでレイさん。そちらの子たちはお弟子さんですか?」
『他の冒険者の方は?』と言わんばかりだ。
当然だと思う。
「”弟子”と言えばそうなんですが、こいつらは一応冒険者です。今育成中でして」
「なんと…!!…これは失礼しました。レイさんに直々に育成して貰っているのなら、とても優秀な冒険者なんでしょう。うんうん」
当のレイさんは苦笑いをしている。
だがどうやら、レイさんはこの村長さんから中々に信頼されているらしかった。
「奴らは決まって、暗くなってから現れます。どうか宜しくお願いいたします」
「任せて下さい」
積み荷を奪っていくなんてまるで盗賊だ、賢い魔獣もいたものだ。
そんな危険な魔獣絶対に野放しには出来ないだろう。
*
「明日中には迎えに来ます」
「畏まりました!」
村長の家を後にした俺たちは、馬宿にソティラスたちを預けサンチェット村の大通りを歩いていた。
「ナハロ村以外の村に来るの初めてだわー。やっぱ雰囲気違うなーー」
ヴォルフがうーんと背伸びをする。
「そうだね。ここは酪農が盛んみたいだ」
村の周りの草地には沢山の牛や羊が放牧されていた。
「…お腹へった」
メルのお腹の虫が盛大に鳴っている。
かばんの中の保存食が無くなってしまったようだ。
「わふぅ…」
クロもお腹が減ったらしい。
メルの隣で同じように項垂れている。
「とっくに昼は過ぎちまったけど、とりあえず飯にすっか」
レイさんの鶴の一声により、俺たちはひとまず村の食堂に向かうことにした。
「いらっしゃ…あら、レイさんじゃないか!!」
「よぉ、おかみさん。元気そうだな」
「元気がなきゃやってらんないよ!あら、今日はやけに可愛い子たちを連れてるじゃないか?」
「今育成中なんだ。これでも冒険者だぜ?」
「まぁまぁまぁ!アンタたちいくつなんだい?」
「7歳です」
「やだよ…小さいのに頑張ってるんだねぇ…」
「…アンタたち!今日はおばさんの奢りだよ、腹いっぱい食べな!」
「え、いいの?なんか悪いねー?」
「なーに言ってんの、レイさんは稼いでるんだからたっくさーーん払っておくれ!!」
おかみさんとレイさんの息の合った掛け合いにポカーンとしていた俺たちだったが、どうやらこのおかみさんは俺たちにご馳走してくれるつもりらしい。
俺たちがお礼を言うと、おかみさんは豪快に笑ってから『師匠とは毛色が違うねぇ』と楽しそうに言った。
「…レイさんはこの村に来たことがあるんですね」
俺はミルクパンをちぎり、足元のクロにお裾分けする。
「ここはうちのギルドの管轄地だからな」
レイさんはチキンのトマト煮を口に運んだ。
「つーかさ、この村って衛兵いねーの?」
ヴォルフはスプーンで掬った豆リゾットを冷まそうと息を吹きかけている。
「数名在中しているはずだ。ランス辺境伯領では村や町に必ず衛兵を置くようにしているからな」
「…うまいうまい」
レイさんの隣のに座るメルは、嬉しそうに山盛りの骨付き鳥を食べていた。
「…ま、少ない衛兵だけじゃ埒があかねーってことで今回依頼された訳だ」
衛兵のせいではないが、力不足だったことは否めないだろうとレイさんは零した。
「お前らにとって中級魔獣を倒すことは容易い。恐らく上級魔獣だっていけるだろう。けどな、もしシェイプシフターが突然お前らの知ってる誰かに化けたら、どうする?」
「…においも同じ?」
「匂いまでは真似できない。感覚が優れてるメルなら直ぐに対応できんだろうな」
「うわ、最悪じゃん」
「そんなことも可能なんですか?」
「シェイプシフターが上級以上だった場合は可能だ」
「そもそもこんなとこに知り合いがいるわけねーし、速攻でぶっ飛ばして終わりだな」
「今回はそうだな。じゃあ言い方を変えよう。もし戦闘中にリュカが2人に増えたらどうする?」
「…うわぁ…それまじでめんどくせーやつじゃん…」
ヴォルフが心底嫌そうな顔で俺を見る。
「…ちょっとヴォルフ」
それはどういう意味の面倒臭いなんだ。
「ま、夜までに考えとけよ~。…お前は少し口の周りを拭け、メル」
ここのシェイプシフターが現れるのは決まって日没後。
なので村長は荷馬車の御者たちになるべく日の明るいうちに来て貰うよう働きかけている。
つまり、今日の夜来ることになっている荷馬車は偽物だ。
シェイプシフターがのこのこと現れてくれるといいのだが。
*
『ちょっと遊んでくるわ』と言い残したレイさんと別れた俺たちは、ウォルズ村の中をぶらぶらと歩いていた。
「…なぁ。さっきの話だけど、メルかクロに匂い嗅いで貰えば良いんじゃね?」
「わふ?」
クロが『おしごと?』と言わんばかりにウキウキとし始める。
「…まかせて」
メルの尻尾もぶんぶん揺れている。
頼られたことが嬉しいようだ。
「それも一つの案だよね。あとはサインとか?合言葉でもいいし、動作でもいい」
当然、クロやメルがいない時もあり得る。
「それも良いな。じゃ、今日の合言葉は『豆』にしようぜ。さっきの豆旨かったし」
「…どうさは?」
「うーん…何かのアイテムを見せ合う、というのはどう?」
「良いんじゃね?じゃ、どうせなら珍しいモンにしようぜ」
「…じゃあこれどう?」
メルが自分の服の襟ぐりを引っ張る。
メルの胸元に見えたのは木彫りのペンダントだった。
「…母上が作ってくれたお守り」
「へぇ~いい感じじゃん…って、良いのか?これと同じものをリュカに造って貰うんだぞ?」
「…いい」
「ちょっと見せてくれる?」
「…うん」
「…もしかしてこれ、『アレウス』?」
「…そう」
アレウスとは獣人族の国で祀られている神のことだ。
メルの母上の嗜好なのか、若干顔の感じが若々しくなってはいるが。
「メルは本当に良いの?」
「…いい」
メルがコクリと頷く。
「よし、じゃあ造っちゃうね」
俺は早速口元に人差し指を寄せ、頭の中で成文を構成する。
すると、二つの【木彫りのペンダント】が俺の掌の上に現れる。
「はいヴォルフ」
「サンキュ。お、良いじゃん!」
ヴォルフは早速ペンダントを首に掛けた。
「…おそろいうれしい」
メルの尻尾が嬉しそうに揺れている。
「言葉が発せない状況ならこれを見せ合うってことにしよう」
「了解」
「…わかった」
「…思ったんだけど、ヴォルフなら魔法でどうにか出来るんじゃない?」
魔法のことは良く解らないが、きっとそういった魔法もあるはずだ。
アルトが依頼の時に魔導士に何か話していたような気がする。
「多分いける。『変身』って操作系だろー?ってなると【闇魔法】だから、普通に考えたら【光魔法】が有効だから…」
ヴォルフがぶつぶつと”脳内の”魔法図鑑と話し合いを始めた。
「…リュカは?」
メルの瞳が期待に満ち溢れている。
「そうだなぁ……”判別器”でも造ろうかな」
ようは【レーダー】みたいなものだ。
眼鏡式の方が使い勝手が良さそうだろう。
「…そんなことできる?」
「出来るよ。問題ない」
魔法は『イメージ』だと言われるが、錬金術だってイメージに拠るところは多い。【魔法のかばん】だって、その構造の全てを説明し尽くすことなど不可能だ。
俺たち錬金術士は持って生まれた氣力と、錬成式に組み込む成分の基本的知識、そして発想力があれば、様々な物を具現化することが出来る。
つまり今回のケースだと、人とそうでないものを分けることに焦点を当てればいい。
「…甘いのたべたい」
「はは、メルは本当に食いしん坊だね」
頭を使ったから小腹が減ったということらしい。
「俺はいらねー。噴水んとこいるわ」
ヴォルフはそう言うとさっさと広場へ歩いていった。
まだまだ脳内会議が白熱しているようだ。
「ミル・クレープが有名らしいよ。馬宿の人が言ってた」
「…それにする」
「わふわふ!」
依頼中だからと言って常に気を張っておく必要もないだろう。
大事な時に力を発揮できれば良い。
俺は二人の腹ペコ怪獣を連れ、来た道を戻るのだった。
*
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい!」
俺たち食堂があった通りまで一旦戻り、食堂の近くにあった菓子屋に来ていた。
「ミル・クレープを三つください」
「三つね!」
ミル・クレープはケーキの一種で、何枚ものクレープの間に、クリームや果物を挟んだものだ。
今日は食べ歩きし易いようにスティック状のミル・クレープを注文した。
「はいどうぞ」
「有難うございます」
「…ありがと」
俺の隣でメルも嬉しそうにミル・クレープを受け取った。
「ふふふ、どういたしまして。…あら、あなたたちもしかして冒険者なの?」
おばさんが俺の背の弓を見る。
「はい。”師匠”のお供で来ました」
この説明の仕方が一番手っ取り早い。
「師匠って…もしかしてレイさん?」
「はいそうです。ご存じなんですね」
「あの人は有名な人だもの、色んな意味でね。フフフ」
「そうですか…」
意味ありげなおばさんの微笑みが少しだけ怖かった。
何にせよレイさんの顔はこの村で知れているらしい。
―カラン..
店の扉の鈴が控え目に鳴った。
お客さんが来たようだ。
「こんにちはおばさん」
「あら、メアリ。こんにちは」
ルーシュと同じくらいの歳だろうか。
亜麻色の髪を頭の上で結った可愛らしい女性だった。
「ミル・クレープを二つ下さいな」
「あら、もかして旦那様と食べるのかしら?」
「やだ、おばさま。まだ旦那様じゃないわよ」
「フフフ、でも式はもう来週じゃない?楽しみにしているわ」
「ありがとう」
「今の方は結婚されるんですね」
「そうなの。あの子は村長の娘だからね、村をあげて盛大にお祝するのよ」
「あぁ、村長の娘さんなんですね」
通りで少し上質な服を着ていると思った。
「…だから村長はレイさんを呼んだんじゃないかしら。シェイプシフターの騒ぎが収まらないと、安心して結婚式をあげられないものね」
「確かにその通りですね」
「宜しくお願いね。小さな冒険者さんたち」
「はい。頑張ります」
結局、おまけの果実入りのミル・クレープまで貰ってしまった。
村の人と関わり事情を知れば知るほど、より一層依頼への気合が入る。
こうしてヴォルフのところへ戻った俺は、ヴォルフが呆れるほど高性能な【判別鏡】を錬成したのだった。
*
―そして、遡る事一時間前。
空が橙色に染まり始めた頃、再び俺たちはウォルズ村付近の街道に戻っていた。
「俺が御者に扮して荷馬車を走らせる。その隙にお前らがシェイプシフターを捕獲するんだ」
当初は村の人が御者をするという話だったが、レイさんは危険だからという理由でそれを断った。
これで心置きなく俺たちは依頼に集中することができる訳だ。
そして話し合いの結果、俺たちは3か所に分かれ待機することになった。
ウォルズ村を背に、右手の前衛がメル。
左手の中衛はヴォルフ。
右手の後衛が俺だ。
ヴォルフとメルには小型の【魔法の檻】を渡してある。
シェイプシフターは希少性の高い魔獣なので、今回は生け捕りにすることで話がついた。
俺たちはそれぞれの持ち場につき、シェイプシフターが姿を現すその瞬間を待った。
―――ガタガタガタ...
荷馬車の音が、次第に大きくなる。
…さぁ、どこから来る。
荷馬車のランプの灯がいよいよ視界に入った時、クロの耳がピクリと動いた。
――ドッドッドッドッ....!!!!!
きた…!!
荷馬車の後方から追いかけるように飛び出してきたのは『魔豹』三体。
この高原一帯に魔豹は、生息していない。
レイさんは速度を緩めることなく、ウォルズ村に向かって荷馬車を走らせる。
―ダッ!!!!
まず飛び出したのはメルだ。
メルは草むらから飛び出すと、荷馬車に向かって一直線に駆け出す。
荷馬車に追いついた一体の魔豹がレイさんに向かって飛び掛かった_
_しかし、メルの速度が魔豹を上回る。
メルの飛び蹴りが魔豹の腹に深くめり込んだ。
「グァ、ッ?!」
その衝撃で魔豹が草むらの中へ飛んでいく。
メルも後を追うように草むらへ飛び込む。
「「グァァァァァァァ!!!!!!!」」
それに入れ替わるように二体の魔豹がレイさんに飛び掛かる。
それでもレイさんは前方を見つめたまま手綱を離さない。
その鋭い爪がレイさんに襲い掛かろうとしたその瞬間、ヴォルフの詠唱が時を止める。
「【拘束魔法】!!」
「「!!!」」
二体の魔豹は空中で氷のように固まると、そのまま地面に叩きつけられた。
「…捕まえた」
メルが草むらからひょいと出てくる。
その手にはしっかりと、元の姿に戻ったシェイプシフターが入った【魔法の檻】が握られている。
「あっけねーな」
対するヴォルフは【風魔法】で二体の凍れる魔豹を動かし【魔法の檻】に入れた。
「さすがだね、二人とも」
「ワン!!」
俺の出る幕も無いほどの素晴らしい連携だった。
ヴォルフが言うように些かあっけないようにも思う。
「メル、ちょっと見せて」
「…はい」
メルの方の【魔法の檻】の中を覗き込む。
「本当にスライムもどきなんだね」
「は~。変な生き物だな」
普通のスライムよりもサイズが大きい気がする。
それに加えて水玉の模様が入っていた。
「……あれ?」
「…どうしたのリュカ」
シェイプシフターの透明な体の中に何か……
―ピリッ..!!!!
突然、何者かの殺気を背後に受ける。
俺は即座に帯びていたファルシオンを構えた。
「グルルルルルル!!!!!」
隣のクロが低く唸る。
「おいクロ、」
「…くる」
そしてそれは、俺の前に突然現れた。
…ニコッ
「…!!」
「…誰だ?ってか、こいつもしかして…」
「…これちがう」
メルとヴォルフも戦闘態勢に入る。
金色よりの亜麻色の髪に少し緑がかった優し気な瞳。
形の良い鼻の下には薄めの唇が緩く弧を描いている。
ブラウスとパンツにブーツという質素な服装が一端の服に見えるのは、
目の前の男の見目が相変わらず整い過ぎているからだろう。
つまりこの男の姿は、この時代に来る前に会った『アルトの姿』そのままだった。
あいつの声は穏やかな心地の良い声だった。
アルトの唇が、ゆっくりと開く。
「ディ…」
…そんなもの、俺は聞きたくないんだよ。
次の瞬間、俺は地を蹴り跳躍する。
そしてそいつの頭上に、ファルシオンを振り下ろした。
――ザシュッ!!!!!!!
切り裂かれたそいつの身体がパックリと地面に崩れ落ちる。
その姿はもう、俺の親友の形ではなかった。
「…なんかお前らしくねーじゃん」
ヴォルフが少し驚いた顔をしている。
「…そう?」
「つーか今の誰?」
「昔ちょっと…お世話になった人だよ」
「…リュカおこってる?」
「あー、ちょっとね」
想像していたよりも見極めることは難しい事ではなかった。
纏う空気が違う、とでも言うのだろうか。
ただその形においては似ていると言わざるを得まい。
あれが別物だと解ってはいるが、どうにもこうにも胸糞が悪かった。
「お前らーーなんか怪しい奴捕まえたわーー」
レイさんが何かを引き摺ってこちらに近付いてくる。
「い、痛い痛い…!!」
「いや、誰だよ…」
少しだけ疲れを滲ませたヴォルフの呟きは、
冷たく乾燥した高原の風に乗って、消えていった。
*
取り調べの結果、レイさんが見つけたその男こそが今回の事件の『真犯人』であった。
しかもその男は魔獣士だというのである。
その男は他の町に住む冒険者であり、偶然この村に来た時に村長の娘に一目ぼれをしてしまった。
しかしどうやら、村長の娘は間もなく結婚するらしい。あんなに親し気に俺の話を聞いていたというのに、何と気の多い女だ。
つまりは、完全なる逆恨みだった。
男は手前の使役しているシェイプシフターを使い、村に嫌がらせをしていたという訳だった。
「お前さ、どうやって上級のシェイプシフターを捕まえたの?」
鑑定の結果、四体中三体は中級のシェイプシフターだったが、
最後の一体だけ上級のシェイプシフターだった。
「…はぁ?俺が上級のシェイプシフターなんか捕まえられるわけないでしょう」
レイさんの取り調べに対し、魔獣士の男は最後の最後まで『訳が解らない』という様子だった。
ならばあの上級のシェイプシフターは、
偶然あの場に居合わせたというのか。
村は平和を取り戻し、村長の娘の結婚式は和やかな雰囲気の中で盛大にとり行われた。
そして、その村の周りでシェイプシフターが再び現れることは、なかった。




