35 依頼と
「私の名前はユリアです!今日一日よろしくお願いします!」
可愛らしい少女は恥ずかしそうにペコリと頭を下げた。
「…いやぁ、まさかレイさんがついて来て下さるとは思いませんでしたよ!」
「こいつらだけでは心配ですからね。なに、俺のことはお構いなく。ボッサムさん」
「…あんな依頼してくる位だから、余程頭おかしい一家に違いねーと肝冷やしたけど…」
「うん。いい子そうじゃないか」
「おやおやおや?実はああいうヤツが好みなの?リュカクンってば」
「いやいや、別にそういうんじゃないけど」
「…つんつん」
興味がないらしいメルは、少し背伸びをして俺の耳飾りをつっついている。
肩まで伸びたユリアの亜麻色の髪がさらさらと風になびいている。ユリアは、くりっとした丸い目と、はにかむような笑顔が印象的な少女だった。
*
さて、遡る事数時間前。
俺たちはいつも通りレイさんの執務室に集合していた。
―ガチャ。
「おー、わりーな、待たせた」
言葉とは裏腹に、部屋の主に悪びれた様子はない。
「おっせーよ育成官!」
ヴォルフは勝手に読んでいた上級魔導書を机に置いた。
「…すまん。リュカ」
「…はい?」
レイさんがいつになく真剣な顔で俺の肩に手を置く。
「お前にとって、辛い一日になると思う」
「…え、な、何でですか?」
それは一体どういう…
「…いいか良く聞けお前ら。今日の依頼は、『護衛依頼』だ」
「え、まじ?!さっそく中級依頼じゃん!!」
「…だれの?」
「護衛対象者はユリア嬢。コルマーレから来た貿易商の娘で、お前らと同じ歳だ」
ちなみにコルマーレは、ツィアーノの北に位置する大きな町だ。
「じゃあ僕たちはその子を護衛すればいいんですね?」
「……今日はお前の出番はないだろうな」
「えぇ…?」
レイさんは憐れみを込めた目で俺を見る。
「…おい。さっきから何なんだよそのやり取りは。さっぱり意味わかんねーんだけど」
「…いみわかんない」
うん、全くだ。
俺も意味が解らないのだが。
「…ええい、見るが早ぇー!!」
そういうと、レイさんは依頼書を机に叩きつけた。
『見目の良い男子冒険者大歓迎!!!』『依頼内容:娘のツィアーノの観光に一日付き添うこと』
「…はぁ?!何だよこれ!全然護衛じゃねぇじゃねーか?!」
「…おもり?」
「しかもなんだぁ?『見目の良い男子大歓迎!!!』って!!ふざけてんのか!!!」
「まぁまぁ落ち着けリュカ」
「いや、僕は落ち着いてますけど…」
「親父さんが大層娘を可愛がっててな。まぁあれだ。このうたい文句に深い意味はねぇだろうよ……多分な!」
「リュカの面が冴えないからお役御免ってか?俺だって大したもんじゃねー、こっちからお断りだこんなもん…!!」
「まぁまぁ。大人になれやヴォルフ」
「俺はまだ子どもだ!」
ヴォルフが戸惑う気持ちも解らなくはない。というか、先ほどからのレイさんの意味不明な絡みの理由はそういう意味だったのか。
「おい、いいか?腐っても中級依頼だぞ?評点加算はこの前の魔鼬の比じゃない」
「……」
「お前らは実質ただの話し相手だ。ボッサムさんは専属で護衛を雇っているからな」
「…」
「……報酬金は、100,000ギルだ」
「ぐっ…?!」
「…10まんギルっ…」
閉じかかっていたメルの瞳がカッと見開く。
「ま、ああは言ったが勿論リュカだって依頼にあたって貰う。ヴォルフとメルだけじゃ色々と不安過ぎる」
「…ちィッ!!もう全てが腹立つーーー!!!」
ヴォルフが自分の頭を搔きむしりだす。
「まぁ、良いじゃないヴォルフ。冒険者には色んな依頼がくるものだよ」
「…おっさん冒険者みてーなこと言いやがって…お前は嫌じゃねーのかよリュカ、こんなふざけた依頼」
「嫌ではないよ。『見目の良い男子冒険者大歓迎!!!』って書いてあるだけだし、実際依頼が受理されたんだから僕がいても問題ないみたいだし」
「…リュカいないのさみしい」
「ありがとうメル」
「はぁ……10万ギルの為に頑張るしかねーか……」
「ユリアちゃんかなり可愛い子らしいけど手は出すなよ?依頼主との色恋沙汰は後々面倒くせぇ」
「誰が出すか!」
「…ごはん食べれる?」
「食べさせて貰えると思うよ」
さて、どうなることやら。
*
…ということがあった訳だ。
「ユリア。私は一緒には行けないが、楽しんでおいで」
「ありがとうお父様!」
「レイさん。ジョシュとユリアの専属護衛は同行させますが、我が愛娘をどうかどうか頼みます…」
「はい。お任せ下さい」
「君たちも何卒頼むよ。特に…ヴォルフ君!ユリアを頼んだよ!」
「…全力を尽くします」
ヴォルフの笑顔が引きつっている。
ボッサムさんは早速ヴォルフに目を付けたようだ。さすが商人、抜かりがない。
「…お嬢様。まずはツィアーノで有名なブティックに参られますか?コルマーレとは違う仕立てになっているようです」
「そうなのね、ジョシュ。じゃあ行ってみようかな?」
「ご息女がこうも可憐ですと、お父上もさぞご心配なさることが多いんじゃないんですか?」
「レイ様……恥ずかしながら仰る通りでございまして…」
大人たちが俺たちの後ろで何やらコソコソ話をし始めた。
「…あのっ…!」
「ユリア様。どうかされました?」
いつの間にか俺の隣にきていたユリアが、俺にこそっと話しかけてくる。
「ヴォルフ君は私のこと苦手なのかな…?何か怒っているような…」
ユリアは少し前を歩くヴォルフをちらちら見ている。
「そんなことはありませんよ。僕たちは普段戦闘が多いですからね。戸惑っているだけだと思います」
俺は無難な言い訳をしておいた。
「そうなのかな…?リュカ君たちは冒険者なんだよね?私と同じ歳なのにすごいよね…」
「育成官のレイさんに日々指導してもらって、精進しているところです」
「それでもすごいよ。きっとすごく優秀なんだね」
ユリアはすごいすごいと、手放しに誉めてくれたのだった。
「…こちらのワンピースなどいかがでございましょうか?可憐なお嬢様の美しさを、より引き立たせるお色味かと存じます」
場所は変わり、俺たちは高級ブティックに来ている。
色とりどりのドレスやワンピースがずらりと並べられ、中央のガラスケースには煌々しいジュエリーが置かれていた。
「あの、どうかな…?ヴォルフ君、メル君…」
ユリアは先ほど店の人に勧められた若葉色の冬仕立てのワンピースを着ている。
「とてもお似合いだと思います」
表情はまだ固いが、ヴォルフはきちんと褒めてみせた。
「…おにあいだと思います」
メルも頑張ってヴォルフの真似をしている。
「…全く、いつまでもツンケンしやがってヴォルフのやつ」
ユリアから少し離れたところでレイさんがため息をつく。
「多少はマシになったんじゃないですか?ヴォルフだって依頼主の大切さは解ってますよ」
ヴォルフは賢い子だ、下手な真似はしないだろう。
「お前は相変わらず七歳児らしくねーなー。『僕だけ蚊帳の外なんて許せない!きぃぃ!』って怒んないの?」
「ははは…まぁ、適材適所ですよね」
「そういうとこーーー」
レイさんは俺の頭をガジガシと強く撫でた。
「このルビーのネックレス…とっても綺麗…!」
「おや?赤なんて珍しいですね、お嬢様」
「…そう?たまにはいいかなーって」
ユリアはチラッとヴォルフを見る。
「今日のお召し物と良く似あうと思います」
ヴォルフがほんの僅かに微笑む。
「あの、じゃあ、ヴォルフ君、つけてくれる…?」
ユリアは頬を染めながら、上目遣いでヴォルフに願い出た。
「はい」
ヴォルフは事も無げにネックレスをつけてみせた。
「…微笑ましいな~」
『俺にもあんな頃があったなぁ…』などとレイさんが楽し気にしている。
「ヴォルフの見目は王子様ですからね。女の子なら嬉しくないはずがないですよ」
俺にはあっただろうか。あったような気がするが、全く覚えていない。何せ村の女の子たちは皆アルトに夢中だった。
「…くぁ~…」
「あ、こらメル。欠伸なんかしちゃダメだろ?」
いつの間にか俺の横に立っていたメルが、大胆にあくびをする。
「…おれたちいらなくない?」
…否定は出来ない。
「…この後多分昼食だから、頑張ろう」
「…がんばる」
俺はメルの頭を優しく撫でた。
*
高級ブティックを出た俺たちは、ツィアーノで一番人気のある庶民的なレストランに来ていた。
今はちょうど昼時ということもあり、店はかなりの賑わいをみせている。
「お嬢様。高級レストランでなくて宜しかったのですか?」
ユリアの隣に座るジョシュが控えめに訊ねる。
「いいのいいの。堅苦しいお店だと疲れちゃうじゃない?皆さんも一緒にご飯食べましょう!」
「お気遣い有難うございます。ユリア様」
レイさんは外用の顔でニッコリ微笑んだ。
「ヴォルフ君、このお店は何がお勧めなの?」
ユリアは正面に座るヴォルフに訊ねる。
「そうですね…ユリア様は嫌いな食べ物はありますか?」
「いや、特にないかな?」
「でしたら…」
「…やっとやる気出してきたじゃねーかアイツ」
「だから言ったじゃないですか。ヴォルフは心配ありませんよ」
一緒にと言われはしたが、空いていなかったこともあり、レイさん、メル、俺は少し離れた席に座る。
「…リュカなに食べる?」
俺の隣でメルがマイペースにメニュー表をめくっていた。
「…おれ、ハンバーグにする」
「お前はもう少し仕事しろ。メル」
レイさんはメルのもちもちの頬をつねって遊んでいた。
「…美味しいー…!」
ヴォルフが勧めた料理が大層お気に召したようだ。
「お口にあって良かったです」
「あ、ヴォルフ君のお料理も美味しそうだな…」
「召し上がられますか?」
「ありがとう!私のも食べる?」
「俺は食べたことがあるので大丈夫です」
「そうだよね、こんなに美味しいんだもん。この後カフェも行きたいな~」
「有名な店は何件かありますが、チョコレートはお好きですか?」
「大好き!チョコレート食べたい!」
「…そう言えばお嬢様。ツィアーノの特産品である『空色貝のオルゴール』は宜しかったのですか?」
「あ、忘れてた…!それは絶対に買わなくちゃね」
「でしたらその後にカフェに参りましょう。空色貝のオルゴールは市場で売られているそうです」
「ずっと欲しかったの、楽しみ。ヴォルフ君は持ってる?」
「俺は持ってないですね」
「…お揃いの買っちゃう?なんてね…!」
「素敵なオルゴールを探しましょう」
「っ、うん…!」
『空色貝のオルゴール』。
それは、昔一人の職人がその中に結婚指輪を入れて、愛する人に渡したことが始まりとされている。
ツィアーノでしか採れない空色貝を使ったオルゴールは、愛の象徴として人々に親しまれている。
*
観光客でごった返す大通りを横切り、市場の入り口に到着する。
道の両端には隙間なく屋台が出され、店主たちの活気ある声が飛び交っていた。
「うわーー…可愛いお店がいっぱい…!」
「ユリア様。あまりお一人で行かれませんように」
「お嬢様、ヴォルフ君の言う通りです。お気をつけ下さいませ」
「優秀な冒険者のヴォルフ君がいるから大丈夫よー。まったく、お父様もジョシュも心配性なんだから!」
「俺はまだまだ未熟者ですので」
「お嬢様…」
「あっちに空色貝のオルゴールがあるー!ヴォルフ君行こ!」
「ユリア様、」
「お嬢様!」
いよいよいつものユリアの調子が出てきたらしい。ヴォルフをぐいぐい引っ張っている。
「本当にここはいつも混みあってますね」
「ほんとにな。はぐれたらめんどくせーからメルは俺の服を掴んでろ」
「…うん」
ユリアの専属護衛がピッタリ後ろをついているとはいえ、俺たちもあまり離れるわけにはいかないのだが…
「…あれ?ヴォルフたちと少し離れてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。俺からは見えてる」
「…ぎゅうぎゅうヤダ…」
「メル、大丈夫?」
「お前も気ぃ抜くなよリュカ。ちょっと気を抜いた…」
「…ら?」
「…あれ…?」
「おい、リュカ…?」
「…え、ほんの今までここにいたよな?メル」
「…うん、いた…」
「…おいおいおい……マジかよ…?」
「…リュカどこ…?」
*
「…あれ?」
いつの間にかレイさんとメルを見失ってしまった。
直ぐ傍にいたはずなのに、俺が人ごみに流されてしまったのだろうか。
「…いらっしゃいボク。お一ついかがかな?」
俺はふと、声の方を向く。
すると、不思議な雰囲気の爺さんが笑いながら俺を手招きしていた。
…こんな店はあっただろうか。
俺はなんとも狐につままれたような心地になる。
「こんにちは。色々ありますね…」
店先に並べられているのは、年季の入った分厚い本、小さな宝箱、怪しい壺、割れた手鏡…。どうやらこの爺さんは古物商らしいが、ロロの店より怪しいものばかりだ。
「…ん?」
怪しい壺の陰に、白い何かが見えた。
「…あぁ、これかい?こいつは、妖精の卵じゃよ」
爺さんは事も無げにそう話す。
「…妖精の卵…?妖精は伝説上の生物ですよね…?」
「ほっほっほ…妖精はおるぞ?この大陸のある森にな」
爺さんの瞳がまるで蛇のように細められる。
「……とすれば、貴方はどうやって妖精の卵を手に入れたのですか?」
何となく雲行きが怪しい。
「おーコワイコワイ!ワシは盗んではおらんぞ?」
爺さんは大げさにかぶりを振る。
「…そうですか。僕は急いでますので…」
…怪しすぎるだろう。これ以上この爺さんの話には付き合ってはいられ、
―ヒュッ..!!
「!!!」
俺はすんでのところで、それを受け取る。
「ちょっ、割れたらどうするんですか…?!」」
さすがに爺さんが卵を投げてくるとは思わなかった。
「ほっほっほ…良い目をしておる。ここで出会ったのも何かの縁じゃ、特別にお主に譲ってやろう」
「いや、だからいりませんって…!」
こんな掌よりも大きな卵見たことがない。恐ろし過ぎるだろう。
俺は卵を台に戻そうとした、そのつもりだったのだが__
「……は?」
次の瞬間、爺さんも妙な屋台も、もうそこにはなかった。
そして、市場の賑やかな音も、鮮やかな風景も、その全てが消え失せた。
―ゾクッ
「ッ、」
「『穢れし魂』には渡すでないぞ?『善き魂』の少年よ」
爺さんが俺の耳元でそう、囁いた。
「ちぃッ、待……」
俺は夢中で腕を伸ばした。
すると、その内真っ暗な世界が段々と色味を帯びて____
「………お……」
「………お…い…」
「…おい…リュカッ!!!」
「?!」
「何してんだよお前は…!」
「え、あ……ヴォルフ…?」
「こんな道端でぼーっとしてんじゃねー。気ぃ抜いてんなよ?!」
「あ、うん…ごめん…」
「…あ、ヴォルフ君!いきなり飛び出してどうしたのー?!」
「…すみません。ユリア様」
「…戻った…?」
周りを見渡してみると、見慣れた賑やかな景色が広がっている。
白昼堂々寝ぼけてたというのか。…いや、さすがにそんな筈はない。
「……っ」
そして、ふと”不自然な”肩の重みと共に、前かばんが異様に膨らんでいることに気づく。
…やはり夢じゃなかったらしい。
掌よりも大きな卵は、確かに存在しているらしかった。
「…どうしよう…」
今すぐにでもロロのところに行きたくなってしまった。
「…お、いたいた…!迷子のリュカくーーん!!」
レイさんとメルが人混みをかき分けてこちらに向かってきた。
「…僕、あの、ごめんなさい…」
「いやー珍しいな?お前がこんな凡ミスするなんて……って、顔色悪っ!」
「…リュカだいじょぶ?」
メルの耳がペタッと垂れている。
「大丈夫だよ、メル。…僕、どれくらい迷子になってました?」
「んー、5分くらいか?」
「…そうですか。本当にすみせんでした」
あれは所謂…【幻覚】というものだったのだろうか…?
しかし俺には魔法のことは解らない。
俺はひとまずさっきのことは伏せておくことにした。
*
「うわー…夕日が綺麗だね…!」
「そうですね」
最後に少しだけ海を見たいというユリアの一声で、俺たちは海岸まで足をのばしていた。
そして俺たちが遠巻きに見守る中、ユリアとヴォルフはガゼボの真白な長椅子に腰かけていた。
「……ヴォルフ君…何でお揃いのオルゴール買わせてくれなかったの…?」
ユリアが少し責めるようにヴォルフに問う。
「それは、恋人同士がすることですから。俺には不相応です」
「そ…っか…」
「っ、じゃあ…また会いに来ても良い…?」
「それが依頼でしたら、俺は全力を尽くします」
「……もう…冷たいんだから…」
「…すみません」
「…でもありがとう。今日は本当に楽しかった」
「それは何よりです」
「…じゃ、帰ろっか」
「はい」
「…あ、ヴォルフ君…」
「は、」
グイッ...
――チュッ。
「!」
背伸びをしたユリアの唇が、ヴォルフの頬にそっと触れた。
「…思い出貰っちゃった。ヘヘ」
ユリアは花が綻ぶように笑った。
「お、お嬢様?!そんな破廉恥な…!」
「あらやだジョシュ、見てたの…?…お父様には内緒にしてね?」
迎えの馬車に乗り込む寸前まで、ユリアはヴォルフの傍に居続けた。
そして、馬車に乗り込んだ後も姿が見えなくなるまで手を振っていた。
こうして長いような短いような、俺たちの初めての中級依頼は、幕を閉じたのだった。
*
「ヴォルフく~ん。君も隅に置けないねぇ~?」
「うぜぇ、シネ」
「うおっ?!魔法はやめろ魔法は!」
「…ヴォルフがんばった」
「おう」
ヴォルフがメルの頭をポンと優しくたたく。
「ヴォルフ、一日お疲れさま」
「おー」
「さすがに疲れちゃったよね。一人でお相手してもらっちゃったし」
結局レイさんが言ってた通りになった訳だ。
俺は元より、愛らしいメルでさえ殆ど出番はなかった。
「なんつーか…」
「…?」
「…俺は自分の顔なんか興味なかったけど」
「あぁ、そうだよね」
確かにヴォルフは美醜に無頓着な気がする。
「今日初めて、この顔に感謝したかも」
「えっ…まさかヴォルフ…あの子に本気になっちゃったの…?」
それは少し、いや、大分意外だ。
「ばーーーか。んな訳ねーだろ?」
「ふーん…?」
ヴォルフが何を言わんとしているのか俺には良く解らなかったが、深く聞くことはやめておいた。
「お前もこの顔褒めるしな」
「まぁ、ヴォルフはすごく綺麗な顔をしているよね」
「惚れんなよ?」
「…?僕もヴォルフも男だよ?」
「違いねーわ」
ヴォルフは声をあげて楽しそうに笑った。




