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33 その後


「面をあげよ」


 アントニヌス新国王陛下の深みのある良い声が玉座の間に響き渡る。 


 陛下の傍に控えるのは、宰相閣下、軍務大臣、財務大臣、外務大臣、内務大臣、アークハイド第三王子だ。懐かしき近衛騎士団がさらに後ろに控えている。



「「は」」


 俺とロロはゆっくりと顔をあげ、絶世の美丈夫のご尊顔を拝見する。


「レニエス男爵よ。そなたの隣におるのが、件の少年リュカだな?」

「左様でございます。アントニヌス国王陛下」


 ロロは今回の”奴隷島”での功績が決定打となり、()()叙爵を受けることとなった。

 普段と違う上質なローブを纏ったロロがとても凛々しく見える。

 

「錬金術士協会現会長であるそなたの一番弟子ならば、此度の活躍も頷けよう」

「恐悦至極に存じます」


 ロロがまさか錬金術士協会の会長だったとは。

 ディノの時代の会長は百歳越えの上品な爺さんだった気がする。

 


「して、リュカよ。そちの此度の活躍、イスト国を代表して感謝する」

 アントニヌス国王陛下の美しいご尊顔が俺に向けられる。


「私めなどには身に余る光栄でございます」

「そちの活躍には今後も大いに期待している。我が国の為にもその才能をいかんなく発揮してくれ」


「この身が果てるまでイスト国とアントニヌス国王陛下の為にお仕え申し上げます」

「なんと頼もしき子よ。このような事態ゆえ今は祝いの席を設けることは出来ぬが、我が自慢の客間(サロン)に細やかな席を設けた。アークハイド」


「はい」

「二人を客間まで案内してくれ」


「承知いたしました」

 アークハイド第三王子は流れるような美しい所作で陛下に礼をした。

 



「…ランス辺境伯よ」

「は」


「此度のことでアドラステア公爵家子息セイレニウスが……」


 話題が次に移ったようだ。

 

 此度の”奴隷島”の件は国内でおさまる話ではない。隷属されていた人々は人族だけではないのだから。

 即位されたばかりの新国王様はとかくお忙しいことと思う。


 ロロと俺はアークハイド殿下、及び数名の近衛騎士の後ろに続き、一足先に玉座の間を後にしたのだった。



 


「どうぞお入りください」

 絶世の美少年もといアークハイド殿下が、俺とロロを客間に招き入れる。

 

 

「(うわぁ…なんだこりゃ)」

 

 これが陛下御自慢の客間か。


 まず目に入ったのは光輝くシャンデリア。

 幾百のガラス飾りがランプの光を受け夜空の星のように輝いている。

 

 壁に掛けられた大きな絵画に描かれているのは慈愛の微笑みを浮かべた絶世の美女。

 白い大理石に金が散りばめられた柱には愛らしい天使の銅像が組み込まれていた。

 


「遠慮せずにどうぞ召し上がってください。王宮自慢の菓子です」

 金色に輝く丸いテーブルの上には色とりどりのお菓子が並べられている。

 

「わ~~!どれもおいしそう~~!!(小声)」

「レニエス男爵。僕のお勧めはアローカナの卵を使った『プディング』です」

 アークハイド殿下は金色の椅子を引きロロをエスコートした。

「それは是非とも頂きたく存じます」


 そうこうしているとすかさず部屋の隅で待機していた従者が俺の前の椅子を引いてくれたので、俺も恐る恐る金色の椅子に腰を下ろした。



「…リュカ。君も六つというのは、本当なのか?」

 俺の隣に腰かけた殿下が優雅に紅茶を口に含む。


「はい。来月で七つになります」

 俺はプディングを食べていた手を止める。


「では僕と一緒だ。それなのに君は凄いな。君の行動が2000もの尊い命を救ったのだから」

「…恐れ多きことで御座います。ランス辺境伯やレニエス男爵、ギルドの皆さんのお力添えがなければなし得ませんでした」


「そう…君はとても謙虚だ」

 殿下は穏やかに微笑んだ。


「ところで、君も王立学園へ進むのか?此度の下賜の中に入っていたようだが」

「…誠に恐れ多いのですが、未だ愚慮しております」


「君が王立学園に来るというのなら僕は嬉しいが、心ゆくまで熟考すればいい」

「身に余るご厚情痛み入ります。殿下」




「…ではレニエス男爵。またお目に係れる日を楽しみにしています」

「光栄至極にございます。再び殿下の御前に参じられますよう邁進致します」


「リュカ。また会おう」

 アークハイド殿下がにこやかに右手を差し出す。俺は一瞬戸惑ったが、その手を慌てて握り返した。



 何と気さくな方なのだろう。ディノの時代の王子様とはえらい違いだ。

 カーテシーをとるロロの隣で、去り行く王子の背中に向かって俺は深々と頭を下げたのだった。









「どれもこれもおいしい~~!!」


「そうだね。僕こんな美味しいお菓子初めてだよ」


 どうやらランス辺境伯ご一行が入室したら食事が運ばれてくるらしい。

 お菓子だけでこんなにも美味しいのだ。いったいどんな御馳走が出てくるのか楽しみで仕方ない。



「ん~~、殿下はリュカとお友達になりたかったのかな~?」

「そんなわけないでしょ。平民の僕に気さくに声を掛けて下さるなんて、優しい王子様だよね」

「むむ~…なんか聞いてた感じと違ったな~~」

「え、なに?ロロ」

「なんでもな~~い」




「…にしても、国王陛下にはさすがに緊張したよ…」

「あ~~リュカにしては珍しく緊張してたね~」


「それはそうだよ。国王陛下の謁見を賜るとか…ロロはなんだか慣れてるみたいだったけど…」

「ボクはイチオウ錬金術士協会会長サンだからね~前国王陛下には何回かお会いしたことあったし~~」


「それも驚いたよね。何で内緒にしてたの?」

「聞かれたら言うけど~自分からは言わないよね~~」

「まあ、それもそっか」


「ロロもついに貴族様かぁ。レニエス男爵様って呼ばなくちゃね」

「ゼッタイやめて~~~!ボク返事しないからね~~?!」










   「リュカ!ロロ!」





「ジェドさ、()()()()()()

「ジェラルドさまだ~~」


「ハハッ、今まで通りジェドで良い」

 

 ジェドが困ったように笑っている。漆黒の礼装がとても良く似合っている。まるでどこぞの王子だ。


「うまそうなもの食ってるじゃないか」

 ジェドが俺の皿からお菓子をひとつ摘まんで口に入れた。


「…そうはいきません。ジェラルド様はランス辺境伯のご子息さまなんですから」

「そうそう~不敬罪だ~とか言われちゃう~ボクたちが~~」


 ジェドはひょっとすると普通の兵士ではないのだろうとは思っていたが、まさかランス辺境伯のご子息だったとは。

 通りでランス辺境伯の兵団船をあんな短時間で用意できたわけだ。

 


「…ジェラルド様。言わされる方の身にもなって下さい」



「ロイさん」

「さすがジェラルドさまの乳兄弟~出来る部下~~!!」


 この爽やかな青年もといロイはジェドの護衛兼従者、つまり、ジェドの直属の部下だ。


 ロイの家は代々ランス辺境伯に仕えており、ロイの父は現執事長、ロイの祖父はランス辺境伯領私設兵団長だったそうだ。

 


「おいちびっこども。ロイに懐くな」

「男の嫉妬ほど醜いものはありませんよ。ジェラルド様」

「ぐっ…」




「…あ、旦那様がお見えになりましたよ」



「やった~~!ごはん~~!!」

「ロロって良く食べるよね…」 

 俺たちはランス辺境伯を迎えるべく腰をあげた。




「ジェラルド」

 ランス辺境伯は数名の兵士を引き連れて客間にやってきた。どの兵士も隙がなく、良く訓練されていることが伺える。


「父上。遅かったではないですか」

「お前の歩く速度がおかしい」 


 ランス辺境伯とジェドが並ぶとまるで最上級品の美男画のようだ。勿論俺はそういった絵画を見たことはないのだが。


 ジェドは陽の光が良く似合う美丈夫、ランス辺境伯は月明かりが似合う美丈夫、といった感じだろうか。


 辺境伯が領主を継ぐ前は王都の第一騎士団長に就いており、相当な剣術の腕前だったようだ。加えて、これで齢四十というのだから驚きだ。

 

 ジェドの兄弟も大層な美形に違いない。いつか会ってみたいものだと思う。










 あれから、一月が経った。

 



 奴隷たちの身柄はいったん王都に移され、急遽増設された治療院にて手厚い保護を受けている。

 その数、2000人。被害者は人族だけに留まらず、獣人族、魔人族、エルフ族にまで渡った。

 

 彼らにはもう【銀のピアス(隷属の耳飾り)】は付いていない。ロロを長として組織された特務隊によってそれらは完全に取り除かれた。特務隊の主な構成員は、ロロ、筆頭王宮錬金術士、騎士団魔法部隊副隊長、錬金術士協会副会長とその部下たちと、俺だ。俺はロロの弟子として、実にひっそりと、しかし迅速に、【隷属の耳飾り】を破壊してまわった。

 

 ロロに依ると、殆どの錬金術士は【英雄王の指輪(複製品)】一つを身につけた程度では【銀のピアス】の干渉を打ち消すことが出来ず、王宮筆頭魔導士や聖女の力を借りて『聖域』を創り出すことで、なんとか打ち消すことに成功したのだという。嘆かわしいことにポクルの能力の高さを裏付けすることになってしまった。




 今回の『アリッサ』という少女を探す依頼から始まったこの事件は、『コーネリウス侯爵家の没落及び当主らの極刑』、そして、『前イスト国王の退位』という衝撃的な形でその幕を閉じることとなった。


 ランス辺境伯から当該の知らせを受けた前イスト王は驚くべき速さで退位し、代わりにアントニヌス王太子が玉座につくこととなる。前イスト王の()()()退位は、”諸外国からの非難を恐れた故の逃亡”と、まことしやかに囁かれている。

 


 コーネリウス侯爵家はイスト国(人族の国)の中部を治める貴族であり、”ノブレス・オブリージュ”を体現する最高位貴族としてかつては政治や軍事の中枢を担ってきた名家だったのだが、『ある事件』を境に陰りを見せ始めていた。


 『ある事件』

 それは、コーネリウス侯爵家の末の息女が茶会の席で放ってしまった、ほんの()()()失言だった。



  『うちの『奴隷』がね…』 


 コーネリウス侯爵家が現代においても名家であったのなら、少女の失言を取り立てることはしなかったのかもしれない。

 しかし残念なことに、コーネリウス侯爵家当主スヴェンサーは ()()()賢くはない男であり、そしてその当主の娘もまた、評判の()()()()()だった。こうして、少女のたった一度の『失言』が瞬く間に王宮へと届けられることとなる。

 


 それもその筈だ。


 『奴隷解放宣言』。特に人族の国でこの言葉を知らない者はいない。


 それはディノが生まれるもう少し前。今から300年以上前に遡る。


 戦争で負けた国や地域は賠償を背負わされる。

 金、土地、作物などの中に、『奴隷』が入っていることは、人々の間で長い間当然とみなされてきた。

 


 だが近代になり人々の生活がやっと安定してきたころ、『奴隷の扱いを見直すべきだ』と多くの賢人や学者が、声を上げはじめた。しかし各国の王も、貴族たちも、そして平和の象徴である教会でさえも、彼らの声に耳を傾けることはなかった。


 『戦犯者は見せしめを受けなければならない。その姿が悪意の抑止力となり、世界平和は保たれる』

 生まれてこのかた人の上に立つことしか知らぬ者たちは、口を揃えて民衆にそう説き続けた。



 そんなある時、遂に一人の青年が立ち上がった。

 

 青年の名は『ウィル』。

 ウィルはイスト国の小さな村に住む平民だったが、それはそれは優秀で、恵まれた見目を持つ心優しき男だった。


 戦を仕掛けるのは王だ。民は戦など望んでいない。なのにいつも犠牲になるのは民ばかり。

 『こんな世界は間違っている』…ウィルは生まれてから十五年の間、ずっと心を痛め続けていた。


 成長したウィルは村を飛び出すと、エルフの国、魔人族の国、獣人族の国で多くの仲間を集めた。

 そして遂に、大陸中央に浮かぶ『セントラル(教会本部)』に攻め入ることに成功する。

 

 ウィルたちは奴隷がいなくならないこの世界における諸悪の根源は各国の王や貴族にあると考えていた。しかしどうやら『教皇』の存在こそが世界の平和と秩序を歪めているのだと、ウィルたちはやっと突き止める。


 そうしてウィルたちは、反教皇派も仲間に引き入れ、当時の教皇を大陸の外へと追放することに成功したのだった。

 


 その後、当時絶大な権力を誇っていた教会内部は解体されることとなり、ウィルの仲間の一人であるエルフ族の聖女が新たな教皇の座につくこととなった。そして、その100年後。奴隷制度は全ての国で禁止され、廃止されるに至ったのだった。 



 つまり、俺が以前話した『勇者ウィルの冒険』という児童書の元となったのが、この”青年ウィル”の物語だったというわけだ。

 




 さて、話を現代に戻す。


 今の王宮もとい前王は勇者ウィルの血筋ではあるが、『毒にも薬にもならぬ王』などと民の間ではひっそりと揶揄されていた。

 民というのは実に権力者のことをよくみている。

 

  『コーネリウス侯爵家に奴隷は()()()()()

 

 件の騒ぎの後、そう高らかに宣言したのは他でもない前王であり、その調査をかって出たのは、前王の寵愛を一身に受ける側妃メアリべスだった。無論、メアリベスの生家が()()()()()()()()()であることを知らぬ貴族は一人もいない。

 

 前王の()()のおかげで、コーネリウス侯爵家が不法に奴隷を扱っていたのかどうかはその時は解らず仕舞いとなってしまった。事実は闇の中に埋もれてしまったとしても、コーネリウス侯爵家の権威が元に戻ることはなかった。


 


 それから十年。

 この”奴隷島”の事件が、白日の下に晒されることとなった。

 これが偶然なのか必然なのかは創造神にしか解らない。



 コーネリウス侯爵家が保有するツィアーノの件の屋敷は『会員専用の酒場』などではなく、ビリーは娘を探している『漁師』でもなかった。結局あの屋敷は、所謂『奴隷小屋』で、ビリーは奴隷商人に雇われただけの『コソ泥』に過ぎなかった。


 あの屋敷で不法に取引されていた奴隷たちは、目の前を流れる運河を介しこの大陸のどこか、果ては"奴隷島"へと連れ去られ続けた。そして、件の奴隷商人の斡旋も、あの奴隷島の構想も、『フラウド商会』からの申し入れだったのだと、コーネリウス侯爵家の執事長らはどこか()()()()()()()とした顔で自供したという。


 にも拘わらず、フラウド商会が()()()()()()()()…ツィアーノの屋敷にいたフラウド商会の者、書類の一部ですらも、何一つ見つからなかったのだという。そして、オレクスたち幹部はあの状況でどうやって逃れることが出来たのか。それも解らぬままだった。


 こちらも実に不可解なことに、()()()島から姿を消した。島の周りはランス辺境伯の船団に完全に囲まれていた。夜とはいえその包囲網を誰にも気づかれずに突破できるとは到底考えらない。一体誰が、どんな魔法を使ったというのだろう。『あの方』は初めから全てを見通していたとでもいうのだろうか。

 


 「…あの島の存在理由?そんなもの、一介の医者に知らされる道理がなかろう。それに儂は、人体と薬草以外興味は無いからのう」


 ランス辺境伯領の最下層の特別牢の中で目を覚ましたフィヨルドは、全てを悟ったのかはっきりとそう証言した。フィヨルドは恐らく嘘をついていない。少なくとも俺はそう思っている。


 そして、フィヨルドに次いで目を覚ましたポクルへの尋問を開始しようと、ランス辺境伯たちは牢に向かったのだが……

 …ポクルへの尋問が開始されることは、なかった。



 確かにポクルは一度目を覚ましている。

 何人もの兵士が確認していた。



 それでもポクルが再び目を覚ますことはなかった。


 この特別牢の中では力を使うことは出来ない。ましてや、物を持ち込むなど不可能。

 ではどうやって?何らかの”薬”をポクルがこの短時間で接種したというのか。

 



   『まさか……内通者がいるとでもいうのか…?』



 この最悪の可能性がその場にいた者の頭に過ったのは間違いなく、酷く厭な空気がその場を包み込んでいたことは想像に難くない。

 


 今は王宮地下牢に移されたポクルだが、奴が目を覚ます日は来るのだろうか。

 王宮錬金術士、筆頭魔導士、筆頭癒術士、聖女、医師。

 あらゆる優秀な人材がポクルの目を覚まそうと日々治療を続けている。


 兎にも角にもこの先『フラウド商会』の名が再び世に出てくることは、無かった。


 

 





「リュカ」



「はい。ランス辺境伯様」

 俺は食事の手を止め、ランス辺境伯の方へ顔を向けた。


「新国王陛下から御下賜されたのは『王立学園の飛び入学及び特待生待遇』、『筆頭王宮錬金術士への弟子入り』、『国賓待遇の留学』だったか……どれを選ぶ」



「父上。リュカは先ほど陛下から聞いたばかりなのです、すぐに決められるわけがありません」

「ジェラルド。何度も言うが、リュカはお前の弟ではない。立ち入り過ぎるな」


「弟のように大切に思い何が悪いのですか?リュカは人並外れた才能と優れた人間性を併せ持っているのです。いわば我が領の宝です。父上も一日…いや半日リュカの傍にいれば、きっとご理解なさることでしょう」



「ロイ…」


「…旦那様申し訳ありません。リュカが優れた子どもであることは確かなのですが……」

 ロイが深いため息をつく。


「リュカモテモテ~~」

「……」


 まったく、いくらなんでも買いかぶり過ぎだ。そんなにリュカはジェドの弟に似ているのだろうか…

 …いや、聞けるわけがないだろう。顔面のレベルが違い過ぎる。



「…で、どうするのリュカ~~?」

「うん…」


 実はもう既に俺の中で答えは出ている。

 しかし、俺が正直に自分の気持ちを表明しても良いものなのだろうか。



「…思いのままに話せ。そのせいでお前に不都合になるようなことは無い」

 ランス辺境伯の形の良い唇の端が、ほんの少しだけ上がった。


 辺境伯なりに俺に気を使って下さっているのかもしれない。俺は自分の気持ちを素直に打ちあけることにした。

 

「…僕は、すべて辞退させて頂きたいと思っています」



「そうか。お前が()()()成したことを考えれば、この御下賜では納得出来ないというのは至極当然だ。お前ほどの能力があれば筆頭王宮錬金術士など可愛いものだろうからな」

「い、いえ。決してそういう理由ではないんです」


 此度の俺の功績は、『種々の干渉が()()()()()()奴隷島の隅で【伝書バト】を錬成し、ロロたちに助けを求めたこと』、となっている。国王陛下にも正式にそのような報告が上げられている。

 

 ランス辺境伯、ジェド、レイ、ロロが俺にとってその方が良いだろうと考えてくれたのだ。

 もちろん俺は喜んでその案に賛成した。

 

 目立ち過ぎてしまうことをリュカも恐らく望んではいない。でなければ、リュカはとうにナハロ村を飛び出していたと思う。




「では何だ」


「僕の人生は責任をもって僕が決めます。王立学園に行きたくなったのなら自らの力でその切符を勝ち取りに参ります。それは王級錬金術師も、留学も、同じです。僕には世界一の錬金術の先生がいますし、育成官のレイさんもいます。王立学園にも、他の国にもいません。それに、僕は10歳で領立学園に通えることを楽しみにしているんです」


「ほう……そうか」



「え、リュカ?俺は…?!」

「…今はジェラルド様の出る幕はありません。お控えください」





「そして、僕は今の暮らしが大好きなんです」

「それはなんとも子どもらしい理由だな」



「わかる~~あの村なんだか居心地いいんだよね~~」




「…お前の気持ちは解った。後日国王陛下にお伝えしておく」

「有難うございますランス辺境伯様。…ですが……断ってしまって大丈夫なのでしょうか?」


「王命ではないからな。気にすることはない」

「それならば安心いたしました」


「でもアークハイド殿下はがっかりするかも~~?」

「アークハイド殿下が?」


「リュカに興味津々なカンジでした~~!」

「え、ちょっと、ロロ。お部屋まで案内して下さったときに少しお話をさせて頂いただけです」


「そう言えば、殿下はリュカと同じ御歳か…」

「……まぁ良いではないですか父上。これではせっかくの美味しい食事が進みません」

 ジェドが少し大げさに眉を顰める。


「それもそうだな」

 ランス辺境伯は切り分けていた最高級の牛フィレステーキをゆっくりと口に運んだ。それが合図となり、俺たちもそれぞれ食事を再開した。



「…レニエス男爵。土地改良計画の進捗はどうなっている」

「それがですね~、やはり長い目でみると『水耕栽培』の方が管理がしやすいんじゃないかな~~と…」


「詳しく」

「そもそもあの土地は~……」





 俺は大人たちの話を聞きながら見たこともない料理の数々を堪能させてもらった。

 ルーシュにもクロにもニヴラにも食べさせてあげたかったが、お菓子は包んでもらったから良しとする。



 さて、明日は何をしようか。

 ゴル爺とヨハンはうまくやっているに違いないが、フルゥと神父様はどうだろう。

 二人とも今は自分の村には戻らず、自分からナハロ村に住むことを選んでくれたのだ。

 

 

「…ありゃりゃ~?なんだか楽しそうだねリュカ~」

「ヨハンとフルゥのことを考えてたんだ」

「二人とも村に慣れてきたかな~?」


「あ、ねぇ、ロロ。明日みんなでバルバコア(バーベキュー)しない?」

「お、いいね~~!!あ、この前肉屋のおじさんから魔牛(上級)もらったんだ~」

 ロロは少しずつ村の人と交流するようになってきたようだ。もしかするとニヴラのお陰なのかもしれない。俺は何となくそう思っている。


「良いね。じゃあ僕は魚釣ってこようかな」 

「ボク”ニジイロエビ”食べたい~~!」


 ジェドとロイも誘ってみよう。

 明日もきっと楽しい一日になりそうだ。 

 

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