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32 終わりと始まり


「【暴風雨(テンペスタス)】!!!」


ヴォルフが声高にそう唱えた途端、辺りに雷鳴が響き渡る。


そして次の瞬間、突如姿を現した嵐がこの島に猛威を振るい始めた。



「…一体なにが起きてんだ…?」

「確かに今まで晴れていたよな…?」

 激しい嵐の中で戦闘奴隷たちがどよめく。



「何がしたいのかな?リュカのお友だちはー♪」

ミリオによる治療を終えたルゼが、球状の【防御壁(ディフェンシオ)】を展開する。


「お、お助けを!」

「さすがはルゼ様だ!」 

偶然ルゼの傍にいた戦闘奴隷たちが、【防御壁】の中へ次々に飛び込んでいく。





「だーれが話すかっての!」


「顔は好みだけどクソ生意気すぎーー♪」

 


ルゼは俺達の攻撃に対し様子を見ることにしたようだ。


【防御壁】の中から雨風に襲われ続ける戦闘奴隷の様子を楽し気に眺めていた。


 

そして、次第に”嵐“が終息していく。

 


「…さ、寒い…」

 

「……意識…が…」



バタッ…

 

バタッ……   

 

ずぶ濡れの戦闘奴隷たちがひとりまたひとりと倒れた。




「…ルゼ様。俺が先に診て参ります」

「よろしくー♪」

 

ルゼが【防御壁】を解除すると、ミリオはぬかるみに横たわる戦闘奴隷のひとりに駆け寄った。



「…眠っています」

 

ミリオの言葉にルゼは片眉を器用に上げる。そして、横たわる戦闘奴隷を見下ろした。


「…はいはい、クソ爺(フィヨルド)クスリ(麻薬)を使ったわけねー。多少手を加えたみたいだけど」


「…変えた?…まさかあの医者見習いにそんなことが…?」

 

「…いや、リュカの仕業だよねー?♪」



「はい。フィヨルド先生に()()()()頂いたので、使わせてもらいました」

 

ルゼの指摘の通りヴォルフの魔法に“組み込んだ”のは、フィヨルドに飲まされそうになった『あの薬』の改良品だ。鎮静効果を薄めないと使えたもんじゃなかった。



「随分とうちの『駒』を削ってくれちゃって♪」

 『いつ起きるのこれ?』と、ルゼは面倒くさそうに転がってきた兜を思いっきり蹴飛ばした。



「傷付けたらうちのお人よしがうるせーんだよ。俺はどうでもいいけど」


「君とは気が合いそうだねぇ、リュカのお友だち♪」

「一緒にすんなクソ外道!」



「…殺す」

ミリオがヴォルフに向かって剣を構える。しかし、ルゼがミリオを手で制す。


「そろそろその口塞いじゃおっかなー?♪」 

突如、ルゼの周囲に無数の黒炎が顕現する。軽い口調とは裏腹に、禍々しい魔力が辺りを侵食し始める。



「やれるもんならやってみろや白髪頭!!」

 

ヴォルフの吐く息が、彼を包み込む空気が、一瞬で凍り始める。 

それと同時に、ヴォルフの体が宙に舞う。

 

対するルゼもヴォルフを追った。ルゼも地上での魔法戦は回避したいようだった。



「焼けシネよ【地獄の業火 : ジェンナ・インフェルノス】!!!」

 

「この島で一生凍ってろよ【氷の息吹 : グラーチェス・スピリトス】!!!」



―――ガガガガガガガガ‼‼‼‼‼


 ヴォルフとルゼの魔法が宙で激しくぶつかり合う。

 



「ルゼ様の魔法に対抗できる奴がいるなんて……」

「しかも子どもだぞ……?」

 運よく嵐を逃れた戦闘奴隷たちが宙の戦いを仰ぎ見る。 



「…貴様らは何を偉そうに眺めている?」

 ミリオが青筋を立てながら、彼らにゆっくりと近づく。


「ミ、ミリオ様…」

「あ、あのこれは…」


「とっとと援軍を呼んで来ないか馬鹿者どもがッッ!!!」



「は、はッ!ミリオさま!」

「も、申し訳ございませんッ!」

 戦闘奴隷は馬に飛び乗ると、慌てて馬を走らせた。



「…ルゼ様に仇なす者は、たとえ子どもでも容赦をするな」

 ミリオが俺を睨みつける。

 

 そして、戦闘奴隷たちが剣を構える。




「リュカを捕らえろ!!!」



「「「ハッッッ!!!」」」

 十名ほどの戦闘奴隷が俺とクロに向かって走り出す。

 


「…傷付けたくはないけど、仕方ない」

 俺は戦闘奴隷に向けて矢をつがえた。


「ワンワン!!!」

「クロは何か案があるのか?」

 


「ワン!!!」

   ぐいっ、

 

 クロが俺の腰に携えたサーベルの鞘を引っ張る。

「え、クロ、」

 

 『ついてこい!』と言うようにクロは俺に向かって顎をしゃくると、止める間もなく走り出した。

 俺はとりあえずクロを追いかける。



「グギャウ!!!」

 クロは軽やかに跳躍すると戦闘奴隷の(死角)に向かって体当たりをする。


「うおッ?!」

 死角からの突然の衝撃にたまらず戦闘奴隷が体勢を崩す。


「はッ!!」

 すかさず俺はサーベルの背を思いっきり戦闘奴隷の首に振り当てた。 

 

「か、は…」

 戦闘奴隷が派手な音をたてて崩れ落ちる。



「相手はガキ一人と犬一匹だぞ!!怯むな!!」

 戦闘奴隷の一人が仲間を鼓舞する。

 戦闘奴隷たちは横たわる仲間たちを飛び越え俺たちに向かって果敢に向かってきた。

 


 だが……



「ごめん!」

「ぐぁ?!」


「グギャウ!!!」

「ひぃ?!」



 やはり戦闘奴隷たちの動きは精細さを欠いていた。

 戦闘奴隷たちだって人間だ。一人の奴隷の少年が反旗を翻す姿に、謎の魔導士の子ども(侵入者)が暴れまわる状況に、心が乱されないわけがなかった。


 俺とクロは最小限の攻撃にとどめつつ、あっという間に殆どの戦闘奴隷の意識を沈めたのだった。

 


「…やはり奴隷は肝心な時に役に立たない」

 

 俺たちから少し離れたところでミリオが静かにロングソードを構える。



 さすがはルゼの側近というところだろうか。【鑑定鏡】を使わずとも戦闘力の高さが見て取れる。

 そして戦闘奴隷たちからは感じられなかった本気の殺気が、重々しく辺りに漂った。



「俺はお前が大嫌いだ。手加減などしない」


「良いんですか?ルゼ様に怒られますよ」

 俺はミリオを挑発しつつ【弓】を構えた。



「……しかし一体どうやって【銀のピアス】の統制を解除した…?……まぁ良い。天才ポクル様も失敗することがあるということが証明されたわけか」

「……」


 失敗といえば、失敗だろうな。

 しかしポクルだけの失敗ではない。お前らの連携の取れなさが、俺を(リュカ)この島に()()()()()()()ことこそが、最大の失敗だ。 



「ルゼ様に盾突いたことを後悔しながら死ね」

 

 ミリオが俺に向かって一気に駆け出す。

 



「…ふふ」

 

 場違いにも思わず笑みが零れる。

 

 何故なら俺はこの瞬間を待っていたのだ。

 そして俺は、何重にも条件を()()()()矢を空高く打ち上げた。




「どこを狙って、」



 俺が付与したのは【拡散】、【重射】、【貫通】。

 

 打ち放たれた一本の矢が、次の瞬間には十と成り、瞬く間に百と成った。




「な…」

 ミリオの動きが止まる。




 そして、遂に千と成った矢が、ミリオに向かって鉄槍の雨のように降り注ぐ。



―――ドドドドドドドドドッ‼‼‼‼‼

 


「っ、【癒を司りし神の名は〈パナケイア〉。我が名はミリオ。我が血に流るるは貴方の〈摂理〉。今こそ其の力我に与え給え】ッ、【聖壁】!!!!」



   ーーーーーガガガガガガガガッッッ!!!!



 間一髪のところで、ミリオは鉄槍の雨を防ぐ。

 しかし俺の攻撃はまだ終わらない。

 


「うおぉぉッ!!!」


「っ、?!」




    ――ザシュッ!!!!



「っ、ぐ…?!」


 ミリオの懐に飛び込んだ俺の斬撃がミリオの腕を切り裂く。



「ちぃっ…貴様ぁぁぁ…!!」

 果敢にもミリオは片手でロングソードを振り抜く。



――ギィインッッッ‼‼‼‼



「っつ、!!」


 俺の両腕に電流が走る。片腕だけだというのにミリオの攻撃は俺にとって重すぎた。

 次の攻撃をいなす為にすかさず俺は後方へ跳んだ。 


 しかしその隙をミリオは逃さない。ミリオが口元に人差し指を寄せる_



「…【神の裁き】!!!」

 途端、空気がピシリと固まった。



 俺も即座に手を動かす。

 胸元の()()()()()が、ミリオの姿を捉える___






―――ゴロゴロゴロ…!!!!



 空を引き裂くような雷鳴。

 

 そして一筋の雷が、()()()()貫いた。



ドオオオオオオオン‼‼‼‼‼____




「か、は…」


 ミリオがゆっくりと崩れ落ちる。

 

 美しい男の面影は最早ない。ミリオの顔も体も真っ黒に焼け焦げていた。

 


 ミリオはルゼを敬愛し過ぎるが故に俺を憎み過ぎた。

 だから俺を簡単に、そして()()()痛めつけられる方法を選ぶだろうことが俺には解っていた。

   


「息はしているな…」

 さすがはエルフ族いったところだろうか。【神の裁き(落雷)】を直撃してもなお命を失うことはなかった。

 

 今俺が使ったのは【反射板】というペンダントだ。

 ロロに教えて貰った護身具のひとつで、()()()()()()()魔法系攻撃を跳ね返すという優れものだった。

 




「…おーーーい!!やっぱやるなーお前はーーー!!!」




 ヴォルフが俺に駆け寄ってくる。

「ヴォルフ!大丈夫なの?」

 

「おう、平気平気!」

 表情こそ明るいが、ところどころ焼け焦げているし疲れの色も見え始めていた。



「あーあ…やってくれるよね、リュカってば」

 ルゼが黒焦げのミリオにゆっくりと近付く。

 そして懐から何かを取り出すと、そっとミリオの口に押し込んだ。 



「…認めたくねーけど、あいつ中々つえーわ」

「…だろうね。でもヴォルフも凄いよ。一人でルゼを抑えてくれたんだから」

「まぁ、手加減されてたからな。それに様子見って感じだろうよ」


 ヴォルフは戦いながらも冷静に分析していたらしい。

 一体いつの間にそんなことが出来るようになったのか…

 

 …いや、俺が知らなかっただけなのだろう。

 ヴォルフは誰に言うでもなく、教会の中で一人自分の力を磨き続けていたのだ。



「でも、ルゼだって無傷じゃない。確実に魔力量は減ってる」

 【鑑定鏡】で視た限りだと、驚くべきことに魔力量はヴォルフの方が勝っていた。

 いったいヴォルフは何者なのだろうかという疑念は今は心の奥に閉まっておく。

 

 持って生まれた魔力量は、攻撃力の強さと同義ではある。

 しかし、戦闘経験の圧倒的な差、戦闘センスが、魔力量の差を超えてしまっている。

 

 つまるところ、二人の間には決して埋めることの出来ない力の差が現れ始めていた。


 




「あーーあ。"あの人"を悲しませちゃうなぁ…」



「……」

 ルゼの嘆きの意味がまるで解らない。


「やっとリュカに会えるって、楽しみにしてたんだけどさー」



「は?こいつは俺が連れて帰るんだよ、いい加減諦めろや」

「え、むりでしょ?今の君じゃあ僕には勝てないよ」

「そんなことわかんねーだろうが!!」


 

「…誰かと僕を勘違いしてませんか?僕ば”あの方”なんて知りません」

「ま、会えば解るよ。というか、君があまりに平凡顔すぎて僕も最初は気が付かなかったんだけどー……やっぱ似てるんだよねリュカって。”あの人”に」


「それって、似てないですよね」

「詳しくは言えないんだー♪」



「ふふふ…気になってきたでしょ?リュカ♪」

「いえ、全く」



「あーーー楽しい♪リュカは全然可愛くないのに、可愛すぎるよーー。どういうことなのかなーーー?」


「あいつ…大分イカレてんな。リュカが可愛いわけないだろ…」

「まぁその通りなんだけど…」




「残念だけど、お遊びはこの辺で終わりにしよっかなー♪」



「…チッ、こっちは最初から本気だっての…!」

「君はクソ生意気だけど、とっても美しいし、センスあるし、僕の部下にしてあげよっかーー?」

「はぁ?冗談は寝て言えや」

「あはー、ふられちゃった♪♪」





「…【剛を司りし神の名は〈アレウス〉 我が名は〈ルッジェーロ〉 我が血に流るるは貴方の〈尊厳〉 今こそ其の力我に与え給え】 【狂戦士(バーサーカー)】」

   


 次の瞬間、ルゼの筋骨が隆々と盛り上がっていく。

 それと同時に肌の色も白磁から褐色に近づいていくではないか。

 

 

「おいおいおい……あいつ魔人族の力に獣人族の力を重ねやがったぞ…?」

「あの場合ってさ、どっちの力が優勢になるのかな?自在に調節できるのかな?それって強すぎない?切り替えの時ってどうなるのかな?」


「おい、馬鹿リュカ……悠長なこと言ってる場合じゃねーぞ…!」




    ドドドドドド…‼‼‼




「ルゼ様をお守りしろぉぉぉぉ!!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!」」」



「……うわ、こんな時に増援到着かよ…とりあえず周囲に穴でも掘っとくか」

「それは良い考えだ」



「【地割れ(テレ・モトゥス)】!!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!...



 突如ルゼの後方の大地に無数の割れ目が出現する。

 無数の割れ目は瞬く間に結合し合い、大地を分断していく。



「これで当分馬は近付けねぇな」

「さすがヴォルフ!」



「あーあ、()()()()してくれるよねー♪」


 ルゼはヴォルフの魔法を妨害することもなく、変わらず薄ら笑いを浮かべている。



「あんな力の使い方、きっと長くは持たないはずだ」

「俺もそうは思うけどよ…」


 



「ンフフフフ…♪それはどうかなぁー? 【影化(オンヴラ・フィアリ)】…」

         


   ズブブブブブ…_  




「影化だと…?厄介な魔法重ねやがって……!」

 

「影化…」

 そんなものどう考えても危険すぎる。

 しかし……どう対抗すれば良いのだろう。そんな魔法初めて聞いたぞ俺は。


「グルルル…!!」

 鼻をひくひくさせながら俺の足元でクロが警戒している。

 クロにもルゼの姿は見えないらしい。

 

 そうこうしているうちにルゼの姿が完全に闇にまみれてしまった。




「道理としては…影化に抗うには、光魔法しかねーよな…?!」

 ヴォルフが口元に人差し指を寄せる。


     ーーピリッ、


「!」

 禍々しい気配が俺たちに迫る。


「ヴォル、」

「ぐはッ…?!」

 


 ヴォルフの腹に何かがめり込むと同時に、ヴォルフの身体が後方へ吹っ飛ぶ。




「綺麗な顔は避けてあげたよーーーー♪」

 ルゼの楽し気な声が木霊する。

 

「ヴォルフ!!」

「っゲホ、…大丈夫だ!…ナッシュさんと修行したからな!」

  

 そうは言うもののヴォルフの顔は真っ青だ。

 もしかすると肋をやられてしまったのかもしれない。

 


「グルルルルル!!!」

「クロッ、」


 クロはいつの間にかヴォルフをかばうように立っていた。

 クロもルゼの姿は見えないようだがクロにはルゼの匂いが解る。

 クロはまた奴が近づくその一瞬を狙っているようだった。



 …考えろ。何かあるはずだ…。

 

 ヴォルフが先ほど言っていたように影ならば照らせばいいのだろうか。

 それとも、実体はあるのだから、燃やすなり凍らすなりの質的な攻撃も有効かもしれな…

 




「…僕犬っころ嫌いなんだよね.」

 

 『あの頃を思い出しちゃうから』




「っつ?!」

 

 俺は咄嗟に声の方に振り向く。

 最後の方はよく聞こえなかったが、まるで小さな子どものような呟きが俺の側で聞こえた。



 そして次の瞬間_



「お返しするね… 【風の刃(ヴェントルムフェルム)】」





  ーーーーザシュッッッ‼‼‼‼


「グ、ァ‥ッ」

 クロの小さな身体から大量の血飛沫が舞った。


   

       __パタッ.....



「クロォォォッ!!!」

 




「来るなッッ!!そいつの狙いはずっとお前だ、リュカ!!!」





「ふふふふ…!!」


「くそ…!!」

 ルゼの笑い声に俺の苛立ちが加速する。

 

 俺に用があるのなら俺だけを狙えよ、ふざけやがって…!!!



「海まで走れリュカ!!!奴も水には同化できないはずだ!!!」


 ヴォルフを見るとクロを凍らせて出血を止めてくれている。



「ヴォルフ!!」

 俺はポケットから『それ』を取り出すと、ヴォルフに向かって放り投げる。


「これは…?」

「僕がつくった癒しの石(複製品)だ、患部に当てれば多少傷が癒える。2人で使ってくれ!」


「わかった!」

 


 念のためにつくっておいて良かった。

 これで傷は大分塞がるはずだ。



「良し!!クロの傷は塞がったぞ!!!海まで走れリュカ!!!」




「……先に行ってくれ。ヴォルフ」


「は…?!何言って、」



 俺はそっと、目を閉じた。



「おい、何やってんだよリュカ…?!」

 




 ルゼの気配がそこら中から感じられる。俺の隙を探って動いているのだろう。

 

 良くもまぁ影化なんて恐ろしい魔法を考え付くものだ。

 一体どんな悪事に活用してきたのか考えたくもない。



 ルゼが攻撃をしかけてくるならば俺は刺し違えてでも奴を必ず仕留める。

 どうあがいてもアイツを許すことは俺には出来そうもない。

 


「おいッリュカやめろ!!!テメェマジでふざけんなよ......??!!」

 ヴォルフは俺が何をしようとしているのか、はっきりと理解したようだ。




 俺は心の中で、深くヴォルフに謝った。

 せっかく助けにきてくれたというのに、ごめんな。



「….スゥ」


 短く息を吸う。

 そして、俺の持てる全てでルゼの気配を探り続けた。

 



 

 ...どれだけ時間が経っただろうか。

 空気の流れが、僅かに変わった。



 そして俺は静かにシャムシール(両刃剣)を構え直した__

 




 

 その時だった。





――――ガキィィィンッッッッ!!!!!!!!!!!




「!!!」



 俺の数歩後ろで剣と剣が激しくぶつかり合う。

 俺は瞬時に目を開き音の方へ振り向く。




 





「待たせたなァ!!!リュカッッ!!!」


 




「ジェ….ド……さん…?」



甲冑を身にまとってはいるが、この声はジェドに違いない。


しかし、いったいどこから…


俺はふと、上空を見上げた。



「大馬鹿者が…」


するとそこには、悠々と翼をはためかせる蒼き龍の姿があった。




「怪我はないかリュカ?!」

兜の面具を上げると二つとない端正な、見知った顔がそこにはあった。


「僕は大丈夫です。ルゼを仕留めましょう」

俺は【弓(超級)】に矢をつがえルゼに狙いを定めた。




「いや、少し落ち着け。リュカ」


「…ジェドさん」



「お前…傷だらけなんだろう?」

ジェドは血の滲む両手首の包帯をじっと見てから、俺の頬の火傷痕にそっと触れた。


「…でも、僕はまだ戦えます」

あんな危険な奴を野放しになんてしておけない。今ここで、俺はあいつを仕留めなければならないんだ。



「……解ってる」

ジェドはやれやれと微笑むと、兜の面を下ろした。

そして、俺に背を向ける。



「背後は頼んだぞ、リュカ」


「、はい!」





俺は今、場違いにもワクワクしてしまっている。

ジェドと共闘したことは無いが、間違いなく合わせられる自信があるからだ。


それに…


…さっきのジェドの笑顔が、何故かアルトの笑顔に重なって見えた。


全然似ていないのに。

俺はジェドの中に、アルト(親友)を感じ始めているとでもいうのだろうか。






「…お前がルッジェーロだな?リュカをこんな島に連れ込みやがって……」

ジェドが見事な大剣をルゼに向ける。

  


「……何で人族のお前が()()()を持ってるわけー…?♪」

 


「…お前こそ何故この剣を知っている?」

 


「…?」


ジェドとルゼの間に、奇妙な空気が流れる。


確かにジェドの持つ大剣は見事なものだが、名の知れたものなのだろうか。





「おいジェド!!!先走るなと言っただろうが!!!!」



「、レイさん…!!」



「いつも遅いんだよあんたは!!」





「…ちぃッ、次から次へとぉ゙…ッ…♪」


未曾有の事態と味方の不甲斐なさ。

ルゼの美しい顔は、怒りで完全に歪んでいた。





____ばたばたばたばた…

 


そして、緊張感の無い足音が、段々と近付いてくる。





「リュカぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」




「…ロロ…」



「ふええええええええん……!!!!リュカの…ばかばかばかばかばかぁ~~~!!!」


 

ロロは泣きながら俺の胸をポカポカと叩くと、俺を力いっばい抱きしめた。

 






「…で、観念したらどうだ。ルッジェーロさんよ?」

レイさんは俺たちを一瞥すると、愛剣クレイモアを肩に担いだ。


「この島は包囲されている。お前らは何人たりとも逃げられない」

ジェドが大剣の切っ先をルゼに向ける。







「……はーーーーー…もうムリムリ、降参〜〜と♪」


__ガンッ!!!



ルゼは漆黒の双剣を地面に投げ捨てた。




「じゃ、()()は僕の負けってことでー♪」

 


「…は?何を言っているんだお前?まさかこの期に及んで逃げられるとでも…?」



「だって、アンタたちリュカを助けに来たんでしょー?♪あーもーーリュカの()()でこの島終わりなんだけどーーアハハハハ♪♪」


「リュカの名前を呼ぶな。穢れる」



「ふふふふ!!アンタリュカのなんなのー?♪てか、どうせクソ医者(フィヨルド)バカ(ポクル)もそっちの船でしょ?三下の僕なんて必要なくなーい?♪」

 

「…おいおいおい、そんな訳ねぇだろ。お前には聞きたいことが腐るほどあるんだ、ルッジェーロさんよォ?」





「え゛ーーー…」


「……」

「……」

ジェドとレイさんがじりじりと間合いを詰める。




「…僕を見逃してくれないならー…ねぇ?♪」




「「「グギャアァァァァァァァァ!!!!!!」」」


ルゼが指を弾いた瞬間、巨大な二体の焔龍が禍々しい姿を現す。



「「「!!」」」


そして、横たわる戦闘奴隷たちに向かって焔龍が飛び掛かろうと身を屈め___



「…チィッ、解った解った!」

今度は、レイさんが降参の意を示す番だった。


「さっすがオジサン♪ソイツ(ジェド)と違って、局面を解ってるよねーー」


「おい、レイ!!みすみすアイツを逃がすのかよ?!」

「……仕方ねぇだろ。人命には代えられない」

「っ、チッ…」




「まっったねーーー♪♪」


ルゼはミリオを横抱きにすると、焔龍と共に颯爽と飛び立った。



「クソッ!!みすみす逃がすか!!!!」



「深追いするなジェド!今はリュカと奴隷たちの救出が優先だ!」

「あんたは今度こそ死んでもリュカを守れ!!!追うぞ!!」


「「「ハッ!!!」」」

 いつの間にかに上陸していた辺境伯の兵団員たちがジェドの後に続いた。





「ったく、あいつの直情さは誰に似たんだか……」



「レイさん。ルゼは捕まえられるでしょうか…」

ロロの腕から抜け出した俺は、レイさんに駆け寄る。



「…ま、無理だろうな」


残念ながら、俺も同意見だ。

恐らくこの島にいる人たちはもう、あいつらにとって()()()()じゃなくなったのだ。



レイさんと俺は、何とも言えない気持ちでジェドの背中を見つめたのだった。

 




「…てかお前、ちょっと痩せたんじゃねーか?」


「…どうなんでしょう。食事は一応摂ってましたけど…」


そうなのだろうか。何か得体のしれないモノが入っていた可能性は大いにあるが。



「まったく、飄々としやがって…こっちは本気で心配したんだっつーの…」

レイさんはポツリとそう零すと、俺をギュッと抱きしめた。

 

「…ごめんなさい」 


煙草の香ばしい匂いと柑橘系の爽やかな香りが俺の鼻を掠める。

この匂いをレイさんの背中で感じたあの日が、随分と昔のことのように感じられた。

 

 

「お前の姉貴は心労でぶっ倒れるし…お前の馬は暴れるし……」

「……ごめんなさい」




「…ま、お前は何も悪くないけどな」

「レイさん…」


そもそもあの依頼を選んだのは俺自身だ。

だから、全ての責任は間違いなく俺にある。



「お前が普通じゃないと知りながら俺はお前から目を離した。それに『奴隷島』なんつー悪夢が世に出なかったのも、俺たち大人の責任だ」


「……」



「だから、お前は何も悪くねぇんだよ。六歳児」




『いや、違うんです』


そう言えない俺は本当にずるい奴だ。

俺の身体がリュカであることを盾に俺は今日も押し黙ることを選ぶ。

 

嘘を重ね続ける俺に……いつかは”来たるべき日”なんてものが、くるのかもしれない。


だけど今は…



「…レイさん。こんなところまで来てくださって、本当に有難うございました」


「俺はお前の育成官だからな、気にすんな。んなことより、お前がどうしても助けたい奴ってのはどこだ?」


「はい、案内します」

「頼む」






あの依頼がまさかこんな事になるなんて誰が想像出来ただろう。クリスを押し切って大人しく海岸の掃除をしていたら、ヨハンやフルゥと出会うことも無かったのか。




 

とりあえず、人探しの依頼は二度と受けたくないなぁ…


俺はこっそりと、ひとり笑ったのだった。

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