31
ポクルの部屋を後にした俺たちは、無事診療所の前に辿り着いていた。
途中で貨物船から物資を運ぶ信者たちと擦れ違ったが、【遮蔽外套】を付けた俺たちに気づく者はいなかった。
「まだ見張りはいないようだな。クロ」
「わふ!」
診療所の周りに怪しい人影も見えない。
フィヨルドとポクルが俺たちに捕らえられていることは奴らにはまだ知られていないようだ。
「よっと」
ポクルが入った麻袋を担ぎ直すと、ヨハンに教えてもらった裏口へと回る。
裏口はフィヨルドとヨハンしか使えないらしい。なので裏口は当然鍵が閉まっていた。
しかし幸運なことに俺は一度その鍵を見せて貰っている。
その場で【裏口の鍵】を造り、鍵穴に差し込んだ。
「…よし」
扉を開くと、すぐに地下への階段が見えた。
どうやら直接地下室に行けるような仕組みになっているようだ。
俺はもう一度麻袋に入ったポクルを担ぎ直すと、慎重に階段を下り始めた。
―コンコン...
扉を控えめに叩く。恐らくフィヨルドの部屋のすぐ隣にあった扉だ。
「…はい?」
少し間をおいてから、警戒心を強めたヨハンの声が聞こえる。
「僕だ。リュカだよ、ヨハン」
「!!」
俺がそう告げると、中でバタつく音が聞こえる。
そして暫くすると、扉の鍵が一気に開けられた。
「お前っ…本当に無事だったのか!!」
俺の姿を見るなり、ヨハンが力いっぱい俺を抱き締めた。
「うん、なんとかなったよ」
喜んでもらえて嬉しいが少し苦しい。
「わふわふわふ!!!」
クロがニヴラに飛び掛かりにいくも、ニヴラはそれを軽々躱す。
「だから、何度もそう言ったであろうが医者の小僧。御苦労だったな、クロ」
「リュカ!」
「ピーーッ!」
部屋の奥から、元気な声が聞こえてくる。
「フルゥ!イーグル!」
俺は飛びついてきた【イーグル】を抱きとめた。
「無事で本当に良かった!ルゼに捕まっちまったって聞いて、いったいどうなることかと…」
「僕は大丈夫だ。フルゥも無事で本当によかった」
元気そうなフルゥの姿に俺はほっと胸を撫でおろす。
しかしそれと同時に、俺はフルゥに謝らなければならなかったことを思い出した。
「あの、フルゥ」
「どうしたんだい?」
「ソフィのこと…ごめん」
「あぁ、そのことかい!」
「うん。ソフィ も一緒に連れて行くことは出来る。でもソフィのことは僕はまだ信用出来ない。だからフルゥに嫌な選択をさせてしまった。本当にごめん」
「…いいや、そうじゃないんだよ。それに、リュカはアタイの命の恩人さ。謝る事なんて、一つもないよ」
「フルゥ…」
「…ソフィはさ、体調を崩していただろう?」
「確かに、具合は悪そうに見えた」
「…あのね……ソフィは……妊娠していたみたいなんだ」
「…え?そうなの…?」
「…あぁ。しかもどうやら……薬草小屋の監視者ととデキてたみたいなんだよ」
「え、監視者と…?」
「そういった事案は俺も偶に耳にしていた。この島では奴隷どうしの婚姻は認められているし、夫婦なら子作りも認められる。しかしソフィたちの場合は…婚姻は認められないだろうな」
「…そうなんだ」
「だから、そもそもソフィはこの島を離れたいとは思ってないんだ」
「…そっか。無事にお腹の子が生まれるといいね」
「うん。アタイも心からそう願ってる」
「…で、お前はルゼ様に会ったんだよな?」
ヨハンが俺の手首に包帯を巻いてくれている。手錠が擦れて所々擦り切れていたようだ。
鎖はクロが食い千切ってくれたが手錠はさっきまでついていた。【鑑定鏡】で手錠の構造を視て、【手錠の鍵】を造る他なかったので少し面倒だった。
「うん。少しだけね。すぐにどこかへ行ったよ」
「そうか……俺はもうてっきり…戻ってこれないんじゃないかと…」
「こ奴がなかなか信じなくてな」
ニヴラがヨハンを見ながら大げさにため息をついてみせた。
「アタイはニヴラ様の言うことを信じていたよ!」
「うむ。小娘は理解が早いな」
…フルゥがいつのまにかニヴラのことを『様』付けで呼んでいる。獣人族は名前の通り魔獣に近い血統だ。獣人と魔獣にしか解らない何かがあるのだろうか。
「…けど、フルゥも驚いたんじゃない?小竜が流暢に人語を喋ってて」
「いいや?竜は特別だし、ニヴラ様はきっとすっっごい特別な竜なんだろ?!」
「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃ!まったくその通りだ!」
確かにニヴラは凄い竜なのだろう。それは間違いない。
「なぁ、さっきの話だが…」
「あ、うん。ルゼの行方だよね。いったいどこに行ったんだろう」
俺が知らない施設がまだこの島にはあったのだろうか。
「…恐らく、『地下闘技場』だろうな」
「地下闘技場…?」
「なんだいそれは…?」
この島に五年以上もいるフルゥでさえ知らない場所らしい。
「ルゼ様…いや、ルゼは警護部門を任されていると言ったのは覚えているか?」
「うん。覚えているよ」
「その人員の多くは戦闘奴隷で構成されている。奴隷は褒美をチラつかせれば常人を越えた力を発揮するのだとオレクスたちは得意げに言っていた」
「…そうなんだ」
確かにあの男なら言いそうだ。
「そしてその戦闘奴隷を育てているのが、地下の闘技場ってわけだ」
「そんなの…今初めて聞いたよ……」
「知っていたのは、一握りの人間だろうな。それに俺はもう『隷属』されてないから、自由に話すことが出来たみたいだ」
「…ん?そういや、『れいぞく』って、何だい?」
「あ、」
そういえば、フルゥにはまだ伝えていなかった。
「フルゥには言ってなかったのか?」
「うん。時期が悪くて」
「え、何だよ…?アタイにも教えてくれよう…!」
「勿論さ。でも……心の準備は大丈夫?フルゥ」
「…うん。とっくに覚悟してるよ」
「…解った。これは僕がツィアーノでルゼに付けられた【銀のピアス】だ」
俺は朽ちた【銀のピアス】をフルゥの掌に乗せた。
「え…?!リュカはルゼに外してもらったのかい…?!」
フルゥが恐る恐るそれに触れる。
「いや、これは僕が自分で外した」
「えっ……え…?」
「フルゥが言っていたように、その耳飾りはとても良くない錬成物だった」
「やっぱり…!!そうだと思ってたんだよ!!」
「そして、それを僕は【干渉否定】することが出来る。僕は錬金術が人より少し得意なんだ」
「……え…そ、そんなこと……出来るのか…?」
「……君の気持ちは解るフルゥ。いきなりそんな事を言われても混乱するよな」
「ヨハン先生………」
「…けど、実際俺もさっきリュカに取って貰ったんだ」
ヨハンの掌の上にも朽ちた【銀のピアス】が乗せられている。
「!!!……ヨハン先生も…」
「……そう…だよな。リュカはニヴラ様の”弟子”なんだもんな……」
「俺たちの理解が及ばなくても当然だ。俺は小竜を連れた6歳の子どもなんて、物語以外で聞いたことがない」
「…やっぱりはこの島の外は……果てしなく広いな。フルゥ」
「…そうだね。ヨハン先生」
「リュカ……」
フルゥが服の裾をぎゅっと握りしめる。
「……アタイの『これ』を取ってくれ……お願いだ………」
顔をあげたフルゥの目には、たくさんの涙が溜まっていた。
「…もちろんさ。フルゥ」
五年だ。
何の罪もない子どもが、五年の間禄でもない大人に自由を奪われ続けた。その感情に一体なんと名前を付けられるだろうか。心の底から幹部どもを同じ目に合わせたいと、切に思う。
「ありがとう…っ…リュカ……」
フルゥはそう言うと、ポロポロと涙を流して静かに、泣いた。
「……やっぱり【こいつ】のせいだった」
フルゥは自分の耳についていた【銀のピアス】をぎゅっと握りしめた。
「それは【隷属の指輪】という”禁忌”の錬成物だ」
「……一体どうしたらこんなことが出来るんだろうね」
「僕も本当にそう思う。そして、それを造ったのはポクルだ。本人がそう言っていたからね」
「え、ポクル様が…?!この島を造ったっていう…あの…?!」
「うん。そのポクルだ」
「結局この島はただの家畜小屋だったって訳か」
「ヨハン…」
「……アタイはずっと怪しいと思ってたんだよ、”あの人”も”この島”も…!!だって、おかしいじゃないか!!ここが本当にみんなの『理想郷』なら、アタイたちを奴隷にしてるのはおかしいよ!!」
「…全くその通りだ。何で俺たちは…”あの方”を信じてしまったんだろうな……」
「…解んないけど……たぶん、仕方がないことだったんだと思う…」
「…そうだと良いな」
「…それにさ、アタイは罪を償ったらさ…やりたいことが、たくさんあるんだ。だから、過去のことなんて……許してやるよ!とっととおさらばさ!」
「フルゥは信じられないくらいに強いな…」
「へへへ!獣人族はタフなんだ!!それにヨハン先生だってさ、この島を出たらやりたいことがいっぱいあるだろう?」
「…俺は……まぁ、あるにはあるな」
下がりきったヨハンの口の端が、ほんの少しだけ上がった。
「…で、お前はどうやって管理棟から抜け出してきたんだ?それに、さっきから気になってたんだがその大きな麻袋は何なんだ…?」
「…あ、忘れてた」
ヨハンに言われ、やっと床に放り出した麻袋の存在を思い出す。
「あはははは!そんなおっきな袋のことを忘れるなんて、リュカはなかなかのうっかり屋さんだな!」
「そうなんだよね。うっかり忘れてたんだけど、この中にポクルを入れてきたんだ」
「「…は?」」
さっきまで笑っていた二人の顔が、途端に真顔になる。
「ちゃんと生きてるよ?眠り薬で眠らせてるだけだし」
俺は麻袋の口を開けようとしたが、ヨハンに止められた。
曰く、さすがに心の準備が出来ないらしい。
「い、いやっ、そこを気にしているわけじゃなくてだな……?!」
「ポ、ポクル様だって…??!!アタイ会ったことないよ?!」
「ポクルはただの……いや、歴史上の大罪人だよ?どうせ起きないし踏みつけておけば?」
「お前はそう言うだろうがな……!こちとら五年の奴隷歴があるんだよ…!!」
「そ、そうだよリュカ!!ポクル様っていったら、ルゼなんか目じゃないくらいの雲の上の人なんだよ!!」
「ふーん…」
「フルゥの言う通りだ。この島におけるポクルさ……ポクルの立ち位置は、唯一”あの方”に並ぶ御方といっても過言ではない。何たってこの島の実質の創設者だからな…」
「……ということは……こんなに悠長に話をしている暇はないんじゃないのか…?」
ヨハンの顔が青ざめていく。
「そうかもね。さすがに怪しまれる頃かも」
「え、ど…どうするの?!」
「大丈夫だよ、フルゥ。僕の仲間たちの到着を待つつもりだったんだけど、一旦この島を脱出する」
「え、仲間ぁ?!っていうかどうやって…?!」
「…ニヴラ、お願いします」
俺はニヴラに向かって深々と頭を下げた。
「…はぁ。ま、こうなることは予想していたが……ロロたちは今どの辺りにおるのだ」
「それはわかりません。さっきも【ツウワ】してみたんですが…止む無く途中で切りました」
「どうとでもなるか。こんな島にいつまでもいる意味もない」
「島の人たちのことは気がかりですが……ひとまず脱出してからロロに【ツウワ】します」
「我輩の背の上ならば落ち着いて話をすることもできよう。もっと我輩に感謝せぬかリュカ!」
「いちじくパンでもぶどうパンでも、好きなだけ作りますね」
「…ふん」
そうと決まれば、さっさと行動に移そう。
「ポクルは危険な奴だからこの島に置いてはいけない。フィヨルドは一応医者だから……今は置いていくしかないと思っている。どうかなヨハン」
「それは同感だ。フィヨルドは全く信用できないが、医者が不在になることは避けたい……」
「……それか……」
「…それか?」
「……俺がこの島に残るか、だ」
「!!!」
「え……ヨハン先生…?!」
「そんなの、僕は反対だ。隷属されていない君をひとりこの島に残してはいけない。危険すぎる」
「そうだよヨハン先生!」
「…俺だって、こんな島とっとと出たいに決まっている」
「じゃあなんでそんなことを言うんだい…?!」
「それに……許されるなら…家族にだって会いたい。島外の真っ当な医者に師事したいさ」
「そんなの、許されない訳がない。ヨハンは被害者なんだから」
「そうだよヨハン先生!!」
「……二人とも有難う。でもな……またここで患者を見捨てちまったら………俺はもう医者にも…何にもなれない気がする」
「……ヨハン」
「…ヨハン先生はいつもアタイたちに良くしてくれたじゃないか……ヨハン先生はどこに行ったって、立派なお医者さんだ!!」
「有難うな。フルゥ」
「…さぁ、早く行け。リュカ」
顔を上げたヨハンの目には、確かな覚悟が宿っていた。
「…気持ちは変わらない?」
「あぁ。俺は俺に出来ることをするよ。お前のようにな、リュカ」
―――カンカンカンカン‼‼‼‼
「「!!!」」
「警報だ。どうやら敵が動き出したようだな」
『島内で侵入者を確認しました。島民はただちに生活棟へ戻りなさい。繰り返します』
「…侵入者?何だいそれは…?」
「十中八九僕のことだと思う。ポクルを攫ってきたしね」
「リュカ。とっとと動かぬか。その小僧も貴様のように頑固者だ」
「ワンワン!!」
「…そうですね」
俺はコクリと頷くと、ヨハンに向き直った。
「僕たちは必ずこの島に戻っては来るけど、それがすぐかは解らない」
俺たちも体制を整える必要がある。簡単にはこの島に戻って来れないかもしれない。
「あぁ。理解している」
「フィヨルドは連れていく。こいつも大罪人だ」
「そうしてくれ。治療指示書もあるし、当面は俺一人で事足りる」
「…でも【イーグル】は置いていく」
「…有難う」
「…イーグル。僕が戻るまでヨハンを頼んだよ」
「ピーー!」
俺は【イーグル】をぎゅっと抱きしめた。
「ヨハン先生っ…」
「…行こう、フルゥ。クロと一緒に奥の部屋からフィヨルドを連れてきてくれ」
「わむわむ」
クロがフルゥの服を引っ張る。
「…っ………アタイはお別れだなんて思ってないんだからなーーーー!!……行くよ、クロ!!」
「じゃあ行ってくるね。ヨハン」
「…おう。なんだかいつもと逆だから…変な感じだな」
俺たちは少しだけ笑い合うと、固い握手を交わした。
「……まったく、ガキが見栄を張りおって…」
「わふ?」
そうして俺たちは、ヨハンとイーグルを残し、診療所を後にしたのだった。
*
診療所を出た俺たちは、誰にも見つかることなく海岸に到着していた。
その間も警報はずっと鳴り続けているがまだ追っ手が来ている様子もない。
「ニヴラ、お願いします!」
みるみるうちにニヴラの身体が膨れ上がる。
そして、瞬く間に人の数十倍の大きさとなったニヴラが、その大きな翼を悠々とはためかせる。
「す、凄いよ!!ニヴラ様……!!」
フルゥが唖然としている。
「フルゥ!ニヴラの背中に乗るんだ!」
「あ、あぁ!……ニヴラ様失礼するよ?!」
「光栄に思え小娘!」
「うん!!」
まずはフルゥがニヴラの背に飛び乗る。
「ポクルを!」
「うん、任せて!」
そして麻袋に入ったポクルをフルゥに向かって投げる。フルゥはそれをしっかりと受け取った。
「リュカも!」
「う」
――ピリッッ..!!!!
射貫くような殺気を背後に受ける。
俺は即座に背中の【弓〈超級〉 】に手をまわした。
「え、リュカ…?」
「グルルルルル…!!!!」
「え…クロ…?!」
「小娘。貴様は我輩にしっかり掴まれ」
「ニヴラ様……!みんな一体どうし…」
「………ふふふふふ……♪♪」
不気味な笑い声が、俺たちの耳に届く。
もう来てしまったらしい。
その姿を視界にいれるや否や俺は速やかに矢をつがえた。
「やっと見つけたよーーリュカ。そんなにあの部屋ががお気に召さなかったーのー?♪」
「な、なんで…ここにルッジェーロが…?!」
ニヴラの上のフルゥがカタカタと震えだす。
「バカからクソみたいな【伝書バト】が来たからさー…怪しいと思って部屋に戻ってみれば……」
「…また会ったねー竜ちゃん!もう行っちゃうのー?♪」
「フン。半端者は消えろ」
「竜ちゃんも純血派ー?」
「そんな些末な事に興味はない」
「…ふぅん?」
「ねぇ、リュカ。バカとクソ爺はどこかな?♪」
「ポクル様の部屋で寝てるんじゃないですかね?」
「またまたー。僕にとっては心底どうでもいいんだけど、”あの人”が困るんだよねー♪」
「へぇ。そうなんですか」
「そ♪だからとっとと返してもらえるー?」
ルゼは俺に向かって一歩ずつ近づいてくる。
「…あぁ、そういえば…」
「んー?」
「この島って、『バレアス島』っていうんですね?」
「…ん?」
ルゼの足がピタリと止まる。
「もしかして『フラウド商会』の会長も”あの方”だったりしますか?まぁ、そこまで簡単じゃないですかね」
これは完全に俺の推測だ。ルゼの反応を見てみたかったというのもあったが。
「ふふふふふ……」
ルゼの笑顔がくしゃりと歪む。
「…ははははは……」
そして、ルゼが漆黒の双剣を俺に向けた。
「……やっぱ【ソレ】…効いてないじゃねぇかバカポクルがあ゛ぁぁ゛ぁ!!!」
――キイイィィンッ‼‼‼‼
ルゼの双剣と俺のシャムシールが激しくぶつかり合う。
「ニヴラッ!!!」
「小娘行くぞ!」
「え?!リュカは…?!」
「…【魔を司りし神の名は〈トリウィア〉。我が名は〈ルッジェーロ〉。我の血に流るるは貴方の冀望 。今こそ其の力我に与え給え】 【拘束魔法】・【重力魔法】!!!」
「む、っ」
どこからともなく現れた”鉄の鎖”がニヴラの首に巻き付けられる。
「な、なんだ?!急に重く…?!」
それと同時に見えない何かににフルゥが押し潰されていく。
「さっさと差し出さないとそこの役立たずが潰れちゃうよー?♪」
「…フルゥはあなたの古い知り合いなんじゃないんですか?」
――キンッッ‼‼‼
「…はぁー?そんなワケないでしょ?竜ちゃんもそんな奴落としちゃいなよーー♪」
ルゼは俺と攻防を繰り返しながら的確に魔法を操る。こいつの戦闘センスが邪魔だ。
「うぐッ…?!」
フルゥの身体が更に押し潰される。
「フルゥ!!!」
「ルゼ様ッ!!!」
「ミリオやっと来たのー?おっそーーー!」
ルゼに駆け寄ってくるミリオの後方に、馬にまたがる戦闘奴隷たちの姿が見える。
「てか、その犬コロから先にやっちゃおっかなーー?♪」
「グルルルルッ…!!!」
現状は結局ツィアーノの二の舞になってしまっている。誰かをかばいながら戦闘できる程俺はまだ強くなれていない。
しかし俺には一つ考えていることがあった。
この技はまだ人に試したことはない。それでも今やるしかない。
激しく怒りを表すクロの隣で俺は錬成動作に入ろうとした。
まさに、その時だった。
「【風の刃】!!!!」
―――ザシュッッ‼‼‼‼
「っ、?!」
途端、かまいたちがルゼを襲う。
「……おいおいおい、何やってんだリュカ!!」
「……え…」
俺はその声がする方へと顔を向けた。
「んな雑魚相手に手間取ってんじゃねーよ!」
「ヴォル……フ…」
「あ゛あ゛ん…?なんだあのクソガキはぁ゛ぁ゛…!!」
ルゼの顔や身体が赤く染まっている。
「…ルゼ様!傷をお見せください!」
ミリオがルゼの傍に駆け寄る。
「ヴォルフ。やっぱり空飛べたんだ」
「あ?言わなかったっけか?」
宙に浮かぶヴォルフがにやりと笑う。
「それに、随分と派手な登場じゃないか」
俺は背中の【弓〈超級〉】を取ると、ルゼたちに向かって矢をつがえた。
「おかげで助かっただろ?」
ニヒヒと、ヴォルフが楽し気に笑う。
「…うん。さすがヴォルフだ」
「っふん!」
そして、ルゼの支配が弱まった隙にニヴラが鉄の鎖を引きちぎる。
「うわぁっ?!」
フルゥはなんとかニヴラの背にしがみついた。
去り際に俺とヴォルフを一瞥すると、ニヴラは黒い海原に浮かぶ一筋の光の元へ飛び立っていった。
「さぁ、とっとと片づけるぞリュカ!!クロ!!」
「あぁ!!」
「ワン!!!」
「かかれ!!!」
ミリオの怒号が飛ぶ。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
戦闘奴隷が俺達に向かってくる。
「なあ、一気にやっちゃっていいか?」
両の掌に竜巻を創り上げたヴォルフの目が爛々としている。
「だめだよ。戦闘奴隷は出来るだけ手負いは少なくしてあげたい」
「ったく、お人よしなんだからよーリュカは!」
「代わりに僕いいもの持ってるよ」
俺は白い包みをヴォルフに見せる。
「……なるほど?」
代替え案がヴォルフのお気に召したらしい。
ここからは反撃の時間といこうじゃないか。




