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27 侵入

「【ロロ、僕はどうしてもポクルを捕まえたいんだ】」

  


「【むむむ〜……やっぱりボク個人としてはリュカだけでも先に脱出して欲しいんだけどね~……リュカはそうはしないもんね~…」 

 ロロが困ったように笑う。


「【……ごめんロロ。ポクルはロロのこと知ってるみたいだったけど、知り合いなの?】」

「【…たぶん~…『アイツ』かな~ってヤツは~ひとりいるよ~】」


「【え、そうなの?】」

「【うん~。名前が違うけど~、たぶん合ってると思う~】」


「【その人の名前は何ていうの?】」

「【『アンティオーネ』だよ~。ボクの兄弟子さ~】」


「【…えッ?!よりによって兄弟子……?!】」

「【なははは〜…ホントはずかしいなんだけど~……師匠が悲し…まないよな〜…あのヒトは~…】」




「…なんにせよ【銀のピアス(隷属の耳飾り)】をリュカが自力で打ち破ったわけだし~、リュカは島の創始者である『ポクル』よりも格上なことが証明されたわけだ~】」

「【格上……そういうもの?】」


「【それはそうさ~!さっっっすがボクの自慢の弟子だよぉ~~!!】」

「【ありがとう。一時はどうなることかと思ったけどね……】」


 


「【バレアス島(奴隷島)で起きていることは~、国…いや、クリヲラ全土を揺るがすくらいの大問題だと思う~…】」

「【うん。僕もそう理解してる】」


「【だからね~、ひとまずその島のヒトたちにはそのまま日常を過ごしていてほしいんだ~】」

「【日常を過ごす…】」


「【そう〜。リュカはボクたちが島に着くまで”何も”してはいけないよ~?】」

「【…なるほど。この惨状を王様や貴族に見せる必要があるもんね】」


「【それもあるし~、リュカが”告発者“だってバレたら命を狙われちゃうんだからね〜?!】」

「【あ、そうだよね】」



「【つまりリュカが頑張ることは~、全力で自分の身を守ること〜っ、わかった〜?!】」

「【わかったよ、ロロ】」



「【ボクもリュカと同じ気持ちだからね~?だからゼッッタイに一人でポクルを捕まえようとしたらダメだからね~~?!】」

「【うん。約束する】」



「【おい、ロロ…】」

「【あ~ジェド、】」


 ツーッ…ツー…



「あ、切れた…」


 みんなそれぞれの仕事も生活もあるはずなのに俺の為に集まってくれている。俺は絶対にここから生きて帰らなくてはならない。俺はいま一度決意を新たにしたのだった。






 俺はヨハンが買ってきてくれたパンを食べながら、昨日のロロとの【ツウワ】を思い出していた。

 

「ふがふがふが」

「もぐもぐ」

 クロとニヴラも俺の隣で夢中でパン食べている。




「……」


 俺はふと、支度をしているヨハンを見た。

 


 もう診療所に行く時間だ。

 ロロと『何もしない』と約束したが俺の頭にはヨハンとフルゥの顔が浮かんでいた。 


 フルゥと話しているうちにフルゥが”あの方”を嫌っていることやこの島を出たがっていることは読み取ることが出来た。しかし同室者であるヨハンからそういった気持ちを読み取ることは出来ていない。

 

 ヨハンは医者見習いということもあって他の奴隷たちと違う立場にいるようだ。ヨハンも”あの方”に心酔しているひとりなのだろうか。





「………お前、昨日薬草小屋に行ったか?」

 ヨハンが独り言のようにぽつりとこぼす。



「え…あぁ、うん。行ったよ。あと鉱石化工場もね」

 考え込んでいた俺は慌てて返事をする。



「…”アレ”を、見たんだろ?」

  


「…アレ?」



 どれのことだろう…

 確かに俺は昨日色々なものを視たが……





「……だよな。お前が…気が付かないわけがないよな…」


 何と答えればいいか困っていると、ヨハンはひとりで何かを納得したらしい。

 ヨハンは少しだけ天を仰いでから俺を物憂げに見た。




「……ルゼ様預かりの奴なんて、初めてだったんだからな?」

「え、あ…そう言ってたよね」

「お前は知らないだろうが、ルゼ様は俺たちが話せるようなお人じゃないんだよ」

 鑑定員もそのようなことを言っていた。



「だからお前はきっと『特別な奴』なんだろうと思ってたよ」

「別に僕は、」


「…ま、俺の読みは当たってたみたいだな」

 ヨハンがニヴラとクロに視線を移す。


「わふ?」

「ぎゃ…」


 

 ヨハンは一体どうしたのだろう。何だか思い出を振り返っているような口ぶりに聞こえるのは俺の気の所為だろうか。

 


「…あのさ、ヨハン」

「なんだ?」



「今日は必ず……早く帰って来てくれないか?」

 

「どうした?もしかして……不安なのか?」

『ルゼ様が帰って来るもんな』と、ヨハンが小さな声で言う。



「……理由は今は言えないんだ。ごめん」

「……そうか」




 

 

 __ガチャ。



 ヨハンがおもむろに私物入れの鍵を開けた。




「ほらよ」



 ヨハンが俺に小さい何かを投げて寄こした。

 


「……それは俺がルゼ様からお預かりした【独裁者の指輪(もの)】だ。これが何なのか仰らなかったが………どうせ禄でもないものなんだろう?」



「…………何で……僕に見せたの?」

 俺は【独裁者の指輪】をじっと見てから、力いっぱい握り締めた。

 

 まさか自分の部屋に"これ"があっただなんて思いもしなかった。通りで錬成出来なかったはずだ。



「…お前だからだよ。お前には何故だろうな、嘘をつきたくなかったのかもしれない」

 ヨハンが困ったように笑った。


「だから、さっさとそいつら連れて逃げちまえ」


「わふ…?」

「……」



「ヨハン、」

「なに、俺のことは気にするな。もうここに5年いるんだぜ?どうとでもなるさ、ハハ」



「いいや、そんな訳がない」

「…言っておくが、同情なんかいらないからな。お前は元の人生に戻れ。そしてここでの事は忘れてしまえ」



「…それは本当に、君の気持ちなのか?」

「あぁ、そうだ。そいつらと一緒にとっとと出ていけ」

  


「…僕は君から何も聞かなかった」

 俺は【独裁者の指輪】をヨハンの手にそっと乗せた。



「……勝手にしろ」

 ヨハンは【独裁者の指輪】をぎゅっと握り締めると、静かに棚へ戻した。




「…言っておくが、早く帰れるかは解らない」

「うん、解った。いってらっしゃい」






 _パタン。



「……」


 俺は暫しのあいだ、扉を見つめた。



「何をぼーっとしておる。あ奴が言っていたことは最もだと思うが?」

「ロロたちがこの島に向かっています」


「だとしてもだ。白髪頭(ルッジェーロ)がこの島に来るのだろう?貴様は馬鹿正直に再戦でも挑むつもりか」

「今の俺では良くて相討ちでしょうか」


「ほぉ。解ってるではないか」



「ニヴラ」

「何だ」


「ヨハンを……見守ってやってくれませんか?」

「はあ…?!なんで我輩が、」


「どうしても………ヨハンが心配なんです」

 ヨハンは賢い。でもさっきのヨハンは、いつものヨハンじゃなかった。

 


「…あの小僧は白髪頭(ルッジェーロ)の仲間なのだろう?何故わざわざ守る必要がある」

「仲間…ではないと思います。だから心配なんです」




「…………」

「ニヴラ…」




「はぁーー……まったく、どうしようもないお人好しだな……貴様は…!」

「…すみません。ニヴラの強さは圧倒的ですから」



「当たり前だ。っと…何だこれは?!」


「これは【隠ぺいの首飾り】です。これでニヴラの姿は誰にも見えません。どうか、ヨハンを宜しくお願いします」

「……パン20個でも足りないからな?」


「ロロにお腹の薬貰ってくださいね」

「はっ!我輩の胃袋はアダマンタイト製だわ」






 俺にはどうしてもあと二つ気になっていることがあった。


 一つ目は、フルゥだ。

 どうしてもフルゥのことが気になっていた俺は、クロと一緒に採掘場へ来ていた。



 勿論クロにはと【隠ぺい首飾り】をつけて貰っている。この島にも黒い犬はいるが念のためだ。


 最初は鉱石加工場へ行ってみたが、フルゥはいないと親切な職人が教えてくれた。

 だからきっと今日は採掘場にいるだろうと。

 そしてその職人は採掘場の行き方まで丁寧に教えてくれたのだった。




 そして林道を進むこと十分。


 ようやく眼前に鉱山が見えてくる。

 さらにそこからニ十分歩くと、やっと島の最北端にある鉱山に到着した。

 

 そして、山道を少し上がったところに採掘場の入り口があるのを見つける。


 採掘場の入り口には鉱石加工場の比ではない沢山の労働者がいた。

 大人から子どもまで、フルゥのように泥で汚れている。

 運ばれてきた石を磨いているようだった。

 

 しかしどうやらここにはフルゥはいない。もしかすると石を取りに行っているのかもしれない。

  

 俺はクロを【前カバン】に入れ、人ごみに紛れて中に入ることにした。



 採掘場の中にも沢山の労働者がいた。

 これならば俺がまぎれたところで目立つまい。


 ツルハシで壁を削る音が延々と鳴り響いて声は聞こえないし、採掘場の中はあまり明るくはない。

 俺は懸命に小さな獣耳の女の子を探した。





 「…いないな」


  ……一度入口まで戻るか…


  俺が来た道を戻ろうとした、その時だった。





「あれ、リュカじゃないか!」

 ガタガタと荷車の音を立てながらフルゥが駆け寄ってくる。




「フルゥ…!」


  

  




「こんなところでどうしたんだい?」

 フルゥがコテンと、首をかしげる。



「あのね、フルゥと話したいことがあって」

「話?もしかして、昨日のことかい…?」

「あ、いや、違うんだ」



「とりあえず隅っこに移動しようか」

「ごめん、ありがとう」





「…で、話ってなんだい?」

 フルゥが不思議そうな顔をしている。


「お願いがあって来たんだ」 


「お願い…?なんだい?」

「仕事が終わったら、僕の部屋に来てほしいんだ」

「…え?別にいいけど…」


「できればいつもより早く帰ってきてほしい」

「…何でだい?」



「今は理由は言えないんだ……ごめん」


「…そうかい。……でもわかったよ。アタイはリュカの部屋に行けばいいんだね?」

「うん。ありがとう。フルゥ」



「……昨日、別棟の小屋で()()を見つけたんだろう?」

  フルゥが声をひそめる。


「……そうだね」



「………それに、今日はルゼ様がこの島に来る。ヨハン先生にそう聞いただろ?」

「うん。聞いた」


「いつも通りなら、夕刻には到着するはずだけど…リュカはその…大丈夫なのかい…?」

「鑑定員からは何も言われてないけど…?」



「…なら、リュカはこの島から早く出た方が良いと思う」

「フルゥ…」

  

 フルゥもヨハンと同じことを言っている。しかし俺はロロを待つと約束したし、フルゥやヨハンを残してこの島から出ていくことは出来ない。



「多分だけど…アンタはそれが出来るんだろう?」

 これは獣人族の勘だよ、とフルゥが穏やかに笑う。


「僕は、」

「……いや、ごめん。今のはナシだ。とにかく、今日のことはわかったよ」

   


 フルゥに言えたらどんなに良かったことか。

 俺は拳を握り締めることしか出来なかった。

「フルゥ、待ってるから」


「あぁ、必ず行くよ」

  

 フルゥは俺の目をじっと見つめてから、力強く頷いた。








 俺はフルゥと別れ、生活棟の前まで戻ってきた。まもなく昼食時に差し掛かろうとしていることもあり人通りはかなり増えていた。

  

 俺にはもう一つ、どうしても気になっていることがあった。それは、”黒犬”に貰った耳飾りの行方だ。そういえばあれはブラックダイヤではないとロロが言っていた。その後お客が来たので詳しいことを聞きそびれてしまった。

 

 あれだけは絶対に取り返さなくてはならない。クロの仲間から託された大切なものなのだ。




「クロ。話があるんだ」


「わふ?」

 クロが前かばんの中で振り向く。


「あの耳飾りなんだけど…この島に来るまでに誰かに取られちゃったんだ。本当に、ごめん」

 俺はクロに向かって頭を下げた。


 クロはあの耳飾りの気配をたどってここまで来たらしいが、途中で俺の匂いがすることに気が付いた。なのですっかり耳飾りのことを忘れているようだった。



「わ、わふ?!」

 クロが前かばんの中で盛大に驚いている。

 


「絶対に僕が取り返すからっ…うぉっ、!」

 クロが前かばんからいきなり飛び出したので、俺は少しバランスを崩した。



「グルグルグル…!!」

 地面に着地したクロが管理棟に向かって唸っている。もしかしてその方向に首飾りがあるのだろうか。

 


「本当にごめんな。でも絶対取り返すから」

 俺はしゃがんで目線を合わせると、もう一度クロに向かって謝った。



「……」

 クロがじっと俺を見る。

 クロの目から怒りが段々と消え失せていくのが解った。そして、とてとてとクロが俺に近づいてきたかと思えば、クロは俺の頬をひと舐めした。

 

 俺は落ち着きを取り戻したクロを抱き上げ、いったん自室に戻ることにした。


 ヨハンと俺の部屋があるのは生活棟の二階だ。

 生活棟は三階建てで、一階には大食堂や大浴場などがある。そして二階には男部屋、三階には女部屋がある。『管理棟』の方は四階建てで、ポクルの部屋は最上階にあった。組織の者たちが住まう管理棟は生活棟の隣にあるのだが、一階、二階、三階の全てに生活棟と管理棟を繋ぐ外通路が設けられていた。


 俺は昨日使った【レーダー】の『対象物』を【黒犬の耳飾り】に書き換え【遮蔽外套】を身につけると、【レーダー】に記された光の方へと向かった。



 俺はてっきり耳飾りもポクルの部屋にあるかと思っていたが、【 レーダー】が示しているのはどうやら管理棟の三階のようだ。


 当然外通路の扉はヨハン曰く”特別な鍵”で閉められているので、生活棟から管理棟へ入ることは出来ない。しかし俺は昨日ポクルと一緒にここを通っている。なので俺はこの扉が【錬成物】だということを知っていた。俺は扉の【条件】を【施錠】から【解錠】に書き換えようとした、その時だった。


 _ガチャ、

 

 「!」


 向こう側から扉が開けられる。俺はとっさに脇によけると、鑑定の男と同じローブを着た男が生活棟側に入ってきた。 

俺は扉が閉まりきる前になんとか体を滑り込ませる。


 クロが心配そうに俺のことを見ている。まさか同時にくるとは思わなかった。俺は頬をパチンと軽く叩いてから、管理棟側の扉へ向かった。


 今度はちゃんと向こう側の気配を探ってから扉に触れる。【解錠】をし扉の隙間から中を覗く。辺りに人が見ないことを確認すると、素早く管理棟内部へ侵入した。


 その後、ロロのいう『悪の組織』の仲間数人とすれ違ったが、俺とクロに気づく者はいなかった。

 面倒なので俺はこいつらのことを”あの方”の信者と呼ぶことにした。


 あと昨日も思ったが、管理棟の造りは生活棟と似ている。

 元々何かの宿舎だったのかもしれない。



 階段を上ると三階にたどり着く。生活棟で言えば女子寮だ。廊下で『信者』数人と遭遇したが、やはり全員女性だった。


 そして、【 レーダー】がある部屋の前で強く反応する。



 …ここか


 俺は【遮蔽網】を展開した。

 そして扉に耳を当てる。中には人の気配はなさそうだ。

 


 ……とはいえ、罪悪感がな…


 実のところ俺はディノのときは一度も女性の部屋に入ったことがない。リュカとなってからはルーシュとロロの部屋に入ることはあったが、家族という認識が強く特に何も思わなかった。つまり俺は婚約者のポーラの部屋にだって入ったことがない。貴族でもあるまいしと思われるだろうが、俺はそこのところはきちんとしておきたかった。


 しかし、迷っている暇はない。この部屋の主がいつ戻って来るかわからない。鉢合わせだなんて考えただけで面倒過ぎる。俺は覚悟を決め扉を【解錠】し、そっと部屋の中へ侵入した。



「……」

 甘い香りが鼻を掠める。

 部屋の主の香水の香りだろう。一気に罪悪感が増したが頭を振ってやり過ごす。

 

 【[レーダー】は明らかにあの棚を示している。引き出しをひとつずつ見ていくと、その中で一つだけ錠が掛けられた引き出しを見つけた。俺はその場で【ペンチ】を造り錠を破壊した。

 

 クロのしっぽがカバンの中で動いている。クロも興奮しているのが解った。そして俺は引き出しの摘みを、ゆっくり引く...__




 中に入っていたのは、”黒犬”から貰ったあの耳飾りと、一枚の写真だった。

 


 ………やっと見つけた……!!!



 この島に連れてこられてから取られてばかりだったが、やっとひとつ取り戻すことができた。クロの目もらんらんと輝いている。耳飾りをふんふんと一生懸命嗅いでから俺の口の脇を嬉しそうにひと舐めした。そして俺は取り返したばかりの耳飾りを【魔法のかばん】の中にそっと入れた。



 念のため耳飾りと一緒に入っていた写真を手に取る。写真に写っていたのは恐らくこの部屋の主であろう女性と、ひとりの美丈夫な中年の男だった。わざわざ鍵付きの引き出しに入れていたのだ、何か理由があるのだろう。俺はその写真を【複製】させてもらった。


 そして、【黒い耳飾り(複製品)】と写真を引き出しに戻し【錠】を付け直すと、俺はその部屋を後にした。


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