22 遭遇
7/23 転記をミスっていたので改稿してます。。
「じゃあ、俺は診療所へ行ってくる。痛みが我慢できなくなったらそこにある薬を飲むこと、いいな?」
「わかった」
ヨハンはこくりと頷くと、颯爽と出かけて行った。医者見習いの期間は10年と長く、なかなか大変な道のりだ。ヨハンはなぜ医者を志したのだろう。今度聞いてみよう。
「…にしても、暇だな…」
普通に動くことはできるが腹の傷は痛む。
なので俺は今日もベッドの上でじっとしていた。
いいのか悪いのか、昨日目が覚めてから状況はほぼ変わっていない。
この島唯一の診療所のベッドが満床のため俺は入院出来なかったのだと、今朝の食事のときにヨハンは教えてくれた。ちなみにヨハンに言わせれば俺の傷は全治三週間だ。なので、まだ働けるような体ではない旨をルッジェーロに報告してくれたそうだ。
「ルッジェーロもこの島にいるのか、いないのか…」
あの顔を思い出すだけで腹ただしい。
何の躊躇いもなく俺の腹をさしやがって。
腹の傷も勝手にピアスを開けたことも許さん。
―コンコン..
扉をノックする音が部屋の中に響く。
「今開けます…っと」
フルゥ、ではないよな。この感じは。
ここに来てからの初めての来訪者だ。俺はベッドから降りて扉をゆっくりと開けた。
「…お前が新入りのリュカか?」
「はい、そうです…」
そこには、今一つやる気のなそうな若い男がひとり立っていた。どこの組織にもこういった男はいるらしい。
「お前を鑑定するように言われてるんだが…」
なるほど、この男は鑑定員らしい。
「ルゼ様に、ですか?」
「…はぁ?そんな訳ないだろ。ルゼ様がお前みたいな庶民のチビの処遇に関わるかよ」
なるほど。俺がなぜここにいるのかこの男は知らないらしい。ならば..
.
「…今はお腹の傷がすごく痛むんです。…なので、鑑定はご勘弁を……」
俺は当て布をめくり傷口を鑑定員に見せた。
すると案の定鑑定員は『うわ…』と小さな悲鳴をあげて口元をおさえた。
この鑑定員がヨハンが書いた報告書を読んでいないことは明らかだった。
俺にとってこの人選はかなり幸運だ。
俺は今は【改ざん首飾り】が無いので鑑定されると非常に困る。
だからこの鑑定員にはこのままお帰り頂く他ない。
「…それじゃあ、しょうがないよな?」
…俺に同意を求められてもな。なんだか共犯者にされた気分だ。
しかしやる気のないこの男はもう一押しで帰りそうだった。
「そういえば、先日ギルドで鑑定を受けた時は、実践値〈下級〉、錬金術師〈下級〉でしたよ?冒険者証にもそう書いてあるんじゃないですかね?」
それを聞いた鑑定員の男がニヤッと笑う。
「…それは本当だな?」
「はい」
「じゃあ、あとは…っと…」
男が洋紙をめくる。
尋問事項を確認しているのだろう。
「…あぁ、お前の荷物の確認だな。あれらは、盗品か?」
「…はい?あれは全部僕の物ですが…」
何を言うんだこの男は………と思ったが、それもそうか。平民の6歳の下級冒険者の荷物の内容ではないな。【魔法のかばん】なんて中級冒険者以上が持つような道具だ。
「はぁ?嘘をつけ。じゃあ『高度と思しき錬成物を多数確認』したらしいが、あれらはどうやって手に入れた?まさか、自分で造ったとか言わないよな?ハハ」
「えっと、通りすがりの…錬金術師に貰いました」
良かった。【鍵】はまだ有効のようだ。
「通りすがりだぁ…?…まぁいいか。どうせお前の荷物は戻って来ない」
「…え、何故ですか?」
「ここでは個人の財産を持つことは禁じられてるんだよ。全ては『仲間のために』、ってな。覚えとけよ、新入り」
「…じゃあ怪我が良くなったら僕は何をさせられるんですか?」
「お、理解が早いのはいいことだな。まぁ、それを決めるのは俺じゃなくて上席だがな」
「上席はルゼ様ですか?」
「だから、そんな訳ないだろうが!ルゼ様が上席だったらやってられ……オホン」
「…えー、『重篤な傷病人の場合は…』っと…あーはいはい、お前にはとりあえず一週間の入院…じゃなかった、休養を命じる。解ったな?」
「わかりました」
…というか、俺の大切な荷物戻ってこないのかよ……向こうからすれば当然の措置なんだろうが……
「じゃあな」
もうここには用はないと、鑑定員の男がさっさと部屋から出ようと振り向いた。
その時だった。
「この部屋であってるー?」
「??!!」
「…?」
ふわふわ頭の少年が突然、ひょっこりと俺たちの前に現れた。
「ポ、ポ、ポクル様っ…?!」
…奴隷……ではなさそうだな。白衣を着ているし『銀のピアス』もしていないようだ。
「お、お会いできまして光栄の、」
「いいよソレ。もう君は下がって?」
「しょ、承知いたしましたッ!!」
脱兎の如くとはこのことかもしれない。
始めからずっとやる気のなかった男は、最後の最後は全力で去っていった。
「ねぇ」
「…はい?」
「僕の部屋でお話しよ?そしたら、いっぱいコインあげる」
「え、本当ですか?」
「うん」
今朝もヨハンに奢ってもらったところだった。タダメシに申し訳なく思っていたので貰えるなら助かる。俺は見ず知らずの、恐らくただ者じゃない少年に付いていってみることにした。
*
「そこに座って」
「ありがとうございます」
俺はおとなしくすすめられたソファの腰をおろした。
「紅茶でいいかな?」
「あ、いえ、お構いなく…」
「飲めるってことね。じゃあちょっと待ってて」
そう言うと、ポクルと呼ばれた少年は部屋の奥へと消えていった。
「……一体何者なんだあの少年…」
さっきの鑑定員の態度からしてどうやらあの少年は偉い立場にあるようだ。
見た目の年齢や背丈は俺と同じくらいなのだが。
「…家具も高そうなんだよな」
この部屋に来るまで何度扉を開けたか解らない。
加えて、この部屋の造りも調度品もヨハンの部屋とは全く異なるものだった。
「…あの本、見たことある…」
俺の目に留まったのは『錬金術のその先へ』という分厚い本だった。
確か、あれを見たのは……
「はい、どうぞ」
「え、あ…ありがとうございます」
ポクルが俺に紅茶の入ったカップを手渡す。
紅茶のいい香りが俺の鼻を掠めた。
「そういえば、何で君はここに来たの?」
ポクルは俺の対面のソファに腰を下ろした。
「何で……僕はルゼ様に捕らえられました。理由は解りません」
「ふぅん?まぁ、ルゼは強いもんね」
「…そうですね」
悔しいが、認めざるを得ない。
元の俺の身体なら奴と渡り合えるが、今の俺では正直難しい気がする。
「そういえば君の名前は?」
「リュカです。6つです」
「僕はポクルだよ。歳は30…だったかな?」
「えっ、」
「あはは、僕って若く見えるんでしょ?見た目なんてどうでもいいよね」
「……」
この少年、もといこの男は、今まさに全世界の女性を敵に回した。
「ポクル様は…ここで何をしてるんですか?」
「錬金術の研究だよ」
「そうなんですね…」
ここは応接室のようなものなのだろう。
棚の上のあの本以外これといったものはなさそうだ。
「あ、そうそう」
ポクルはおもむろに見覚えのあるかばんの中から何かを取り出した。
「懐中時計作ったの、君?」
「それ、」
ガタンッ‼
しまった。見覚えのある懐中時計を見た俺は、思わず立ち上がってしまった。
「肯定反応だね」
ポクルはふむ…とつぶやく。
「【改ざん首飾り】と、【弓】も君の?」
ポクルは次から次へと俺の【魔法のかばん】の中から見覚えのあり過ぎるものたちを出してきた。
「…そっか。アイツ以来の天才が出てきちゃったんだね…」
ポクルは悲しみとも、喜びとも、怒りともとれるような複雑な顔をした。
「僕の【鑑定】だとさ…」
ポクルが懐中時計を開こうと手をかける__
―バチッ‼‼
途端、小さな雷がポクルの手を弾く。
「ね?いったい誰がこの【鍵】かけたの?発案者はだれ?」
「……」
「…じゃあ、質問を変えようか。そのピアス造ったのだれだか、知ってる?」
「…そんなこと…」
俺が知るわけないだろう。そんな歴史に残るような大犯罪者を。
「ふふふ……『ロロ』だよ?」
「嘘だっっ!!!」
…チィッ!!
俺はすぐに乗せられたことに気づいたが、もう後の祭りだった。
「はははははは!!やっぱりロロと繋がってるんだね!」
「ロロは絶対にそんなことはしない。ふざけるな!」
「へぇ?そんなにロロを信頼してるんだね……ま、嘘だけど」
「…何の為にそんな嘘を……」
「だって、それ造ったの僕だもの」
「!!」
…おいおいおい、何だって…?
この小さな男が……フルゥやヨハンの人生を奪い取った張本人だと…?
「……何故こんなものを造ったんですか?奴隷制度はとうに禁止されたはずだ」
「えー、そうだっけ?」
「な、んだと…?」
俺はたまらずポクルの胸倉を掴んだ。
「…離してよ。リュカ」
「隷属された人の……残された家族の人生を……あんたは一度だって考えたことはあるのか…?!」
「僕には『それ』を造る知識と技術があった。僕が造ったものをどう使おうが、後は僕の知る事じゃない」
「生み出しておいて無責任すぎるだろう!!!」
「というか、こんな風に話せてる時点で君は最早”こっち側”の人間だ」
「…何をわけのわからないことを、」
「だって僕は【絶対に反抗できない】ように造ったんだ。そんなの基本だ」
「!!」
「つまり君は、僕と同等…いや、それ以上のの錬金術師なんだって、さっきから自分で証明しちゃったわけだ!あはは…!!」
「…まったく、嫉妬しちゃうよなぁ」
ポクルは左手の人差し指を口元に寄せる。
あれは錬成動作…!
「【≪跪け≫】」
「っ、?!」
次の瞬間、体の自由が突然奪われる。
状況はすぐに理解できたが、俺はポクルの胸倉を掴んだままポクルを睨み続けるしかなかった。
「あははは…ははははははは!!!君にとってはその程度の効果しかないんだ…ねッッ!!」
動けなくなった俺をポクルは思いっきり突き飛ばした。
「っつ、!!」
受け身の取れない俺はテーブルに思いっきり頭をぶつける。その衝撃で飛んでしまったカップが地面で無残に砕け散った。俺は涙目で自分の頭をさすった。
「………え?もう動けるの……?」
ポクルの唇が戦慄く。
「……」
そう言われれば、そうだな。俺は掌を閉じては開いてみた。
「…いいね!いいよ、君!!まだ6歳なんでしょ?!信じられないよ!!」
「あーーーー………許せない。ロロも許せなかったけど……君はそれ以上だよ……」
いきなり大声をあげたかと思えば、後の言葉は小さすぎて俺には聞き取れなかった。
「僕は”数日”でその『ピアス』を上回るものを造ってみせる。そしたら君の才能は死ぬまで僕のものになるわけだ……楽しみだね、リュカ?」
ポクルの邪悪な笑顔があの女と、ぴったり重なった。
ひょっとしてこの国は”穢れし魂”だらけなのか?
何にせよこいつだけは絶対に許すことはできない。




