表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

19

「…とりあえず、もう少し進んでみましょう」

 

 ここで止まっていても仕方がない。

 クロの様子を見るに、まだ先がありそうだ。


「…ま、それしかねーか」

 クリスは立ち上がると頭を軽く振ってから歩き始めた。



「居なくなった奴が普通に存在してるってことはよ、絶対良からぬことだよな?」


「半々でしょうね。理由は解りませんが、アリッサがビリーから逃げ出したかった可能性もあります」


「はぁ~~…予想の三十倍嫌な依頼だったわ…」

 クリスは少しへこんでいるようだ。


「クリスさん。元気出していきましょう」

 

 無理もない。

 クリスはまだ12歳だ。こういった複雑な依頼の経験はまだないのだろう。

 

「…おう!」

 クリスは自分の頬を叩き気合いをいれた。

 

 クリスは可愛らしい顔に似合わずかなり男らしい子だが、クリスの母上も男勝りな人なのだろうか。

 クリスの母上にもいつかお会いしてみたいものだ。

 





「ふんふんふん…!」

 クロは尻尾を元気に振りながら一生懸命アリッサの匂いを辿ってくれている。

 

 あれから二十分ほど経過した。

 ツィアーノの町を下から上に縦断している感覚だ。




「けっこう歩いたなー。ビリーさんの家から大分離れたぞ?」

「そうですね。運河沿いをずっと北上してきましたけど…」

 

 運河には大小さまざまな船が並んでいるが、さすがにここまでくると観光客の姿は見られなかった。

 それに、景色もだいぶ変わった。

 海岸沿いの家は色とりどりの住居が立ち並んでいたが、この辺りは少し年季の入った古い家が多いようだ。


 

「ワン!!!」

「どうしたクロ?」

 クロが匂いを嗅ぐのをやめてちょこんとお座りをした。

 

「もしかして、ここが一番アリッサの匂いがするの?」

「ワン!!」

 クロが『そうだ』と言わんばかりに尻尾を振る。



「よくやったぞクロ!!」

「ワン!!!」

 

 

 俺たちがたどり着いたのは通称『バンディットストリート :ならず者の町』と呼ばれる歓楽街だった。

 

 昼間だというのにこの辺りだけ何故か薄暗く感じる。

 この辺りは海賊やゴロツキなどの不法な客を多く扱っているようだが、今は殆どの店が閉まっていた。



 クロはその中で一番広い屋敷の前に俺たちを案内してくれたのだった。





「看板はねーけど…宿屋かなんかなのか?」

 

 

 窓から中を見ることはできなかったが、クリスが言うように屋敷は誰かの住まいというよりは何かの店のように感じられた。

 重厚な正面扉にも、入り口に置かれた二つのランプにも、おしげもなく金が使われている。

 住まいというにはいささか派手過ぎる。

 

「お、こっちに酒樽があるぞ!」

 クリスがいつもより小さい声で叫んだ。

 確かに裏口には空の酒樽や空の木箱が何個も積まれていた。



「店である気はしますが、念のため少し町の人に聞いてみましょうか?」

「そうだな、ここで考えててもわかんねーし」

 


「じゃあ俺はクロと一緒に運河の方をあたってくるわ」

「ワン!!」


「僕とニヴラは開いているお店をまわってみますね」

「ぎゃあ!」


 俺たちは二手に分かれて聞き込みと捜索を開始した。




「ニヴラは目立つので前かばんに入って下さい」

「致し方ない。パン5個で手を打とう!」


「…仕方がないですね」

「約束だからな!」

 

 ニヴラは満足げに前かばんに入りひょっこりと顔だけだしている。

 面倒なので本人には言わないが、とてもかわいい。

 


「こんにちは」

 俺は気を取り直して屋敷から少し離れた八百屋のおかみさんに話しかけてみた。


「いらっしゃい!」


「りんごを4つ下さい」

「ありがとうね、ボク!」

 

 そう言うとおかみさんはおまけのりんごを一つ入れてくれた。

 加えて俺のようなふつうの子どもがこの辺りにいるのは珍しいらしいことも教えてくれた。

 よほど治安が悪いのだろう。 


「あの、ちょっと聞いていいですか?」

「なんだい?」


「あそこの立派なお屋敷ってどんな人が住んでるんですか?」

 俺は少し離れたあの屋敷を指さした。


「あぁ、あそこは何でも”会員専用”の酒場らしいよ?夜になると上等な黒い服を着た男が扉の前に立つんだ」

 朗らかなおかみさんの顔色が少し曇る。


「”会員専用”、ですか…」


「まったく、あたしらみたいなもんは会員にはなれないんだってさ。失礼しちまうよな?」

「それはひどい話ですね」


 王都には貴族専用の店はあったし、そういった店があること自体は不思議ではなない。

 しかしこの町に住んでいるのはほぼ平民だ。

 近くに住まう平民を敵に回して商売上良いことがあるとは思えないが…


「だろう?わたしも数年前にできたばっかりの時に行ってみたんだ、仲間数人でね?そしたら中から物凄い美形の男が出てきて、門前払いされちまったわけさ!」

「そうなんですね…」

 

「かなりの美形だったけどね、ありゃ、ただ者じゃないね…」

 アンタもあまり近づかないほうが良いよ、とおかみさんは最後に忠告してくれた。



 おかみさんの話はどうやらこの辺りでは有名な話のようだ。

 俺はもう何件か開いている店を見つけたので話を聞いてみることにした。

 







「…あ、クリスさんとクロだ」

 

 人通りの殆どない引き船道を進んでいると川べりに腰掛けるクリスとクロを見つけた。

 

 

「おー、こっちだ!」

「ワン!」

 二人も俺たちに気づいたようで手を振っている。


 

「クリスさんの方はどうでしたか?」

 

 俺はクリスの横に腰かけた。


「俺の方も大方お前と同じだな。堅気の人間は関わらないようにしてるっぽい」

「なるほど。あとは、店の方にはメイド服を着た女性や男性の使用人が時々買い物に来るようです」

「なんだか貴族の家みてぇだな」


 ”会員専用の店”に出入りする行方不明中の少女。

 そこではメイドと使用人が雇われている。


 さすがに同じ町にいたのならば客の一人や従業員の一人ぐらいアリッサの存在に気がついても良さそうなものだが。

 まだまだ情報が少なすぎる。




「なぁ、そろそろ飯食おうぜ!腹減ったーー」

 クリスが草の上に大の字に寝転ぶ。



「ワン!!」

「ぎゃあ!」

 ニヴラとクロもクリスの真似をしている。

 とてもかわいい。


「もうそんな時間でしたね」

 俺は時計を見やる。

 すると確かに時計は昼の二時を指していた。


「お前もチビなんだから飯いっぱい食った方がいいぞ!」

「そうですね。僕ももっと大きくなりたいです」

 

 『わかるわー』とクリスが頷く。

 クリスは純戦士らしく筋力はあるが、同じ12歳のセイジュに比べると小さい。



「飯屋つってもなぁ、なんかこのあたりの店怪しいとこばっかなんだよな…」

 『手持ちの干し肉じゃ絶対に足りねぇし』とクリスは真剣に悩んでいる。

 

 確かにこのあたりの店に入る気にはなれない。

 正規の3倍くらいの代金を取られそうな臭いがプンプンする。

 


「よかったらクリスさんどうぞ」

 俺はこんな時のために用意していたサンドウィッチを【魔法のかばん〈中級〉】から4つ取り出した。

 


「お、うまそうだな!助かる!」

 クリスは大きな口でサンドウィッチにかぶりつく。


「ワンワン!!!」

「ぎゃあ!!!」

 それを見たクロとニヴラが騒ぎだす。


「もちろん二人の分もあるよ。どうぞ」

「ワン!!」

「ぎゃあ!!」

 二人とも上手に前足を使って食べている。

 とてもかわいい。

 



「…うーん。どうすっかなー」

 腹が多少満たされたクリスが腕を組んで今後の作戦を考え始めた。

 

「そうですね…」

 俺はデザートのりんごをかじりながら相槌を打った。

 


「とりあえず夜まで待ってみるか?」

「僕も…それがいい気がします」

 

 アリッサの匂いがこの近辺で薄れていないということは、アリッサ自身も頻繁に外出していることになる。だから今日会える可能性も低くはないと俺は踏んでいた。




「そういやお前さ、」

 クリスが昼寝体制に入ったクロを撫でながら思い出したように話し出す。


「はい、何ですか?」


「レイさんが使ってる【伝書バト】みたいな錬金物持ってたりすんのか?」



「あー…」

 俺の脳裏に【伝書バト】のポウが蘇る。


「さすがにそんなワケねーか!あの【伝書バト】使ってんの限られた育成官だけだもんな…」

 クリスはひとり納得したようでうんうん頷いている。


「…いえ、実は念のために似たようなものを用意しています」

 


「やっぱりか!さすがリュカだな!」

「ははは…」

 クリスは全力で褒めてくれるが、リュカの錬金術の才能がばれたらまずいと思っているに俺は胸中複雑だ。



「今日はナハロ村に帰れなそうだから、ルーシュに言っといた方がいいんじゃねーかと思ってな!」

「そうですよね。お気遣いありがとうございます」

 クリスは豪胆だが気遣いも出来る子なのだ。

 


「じゃあ俺はその間にちょっくら宿屋の予約取って来るから、お前はここで見張っててくれ!」

「ありがとうございます。わかりました」


「たぶん二十分くらいで戻れんだろ。……あ、お前絶対に一人で深追いするなよな…?」

「はい。もちろんです」


 俺の返事に納得したクリスは全速力で駆け出していった。

 

 なるほど、クリスは足も速いらしい。

 育成官だったレイさんに鍛えられたのかもしれない。




「…よし、ロロと一緒に造った【ツウワキ】の出番がついにきたぞ」


 クリスが走り去ったことを確認してから俺は【魔法のかばん〈中級〉】から【ツウワキ】を取り出した。一見懐中時計のように見えるこれは、実は【ツウワキ】というとてつもない優れものだ。 


「…わふ?」

「なんだそれは?」


「これは【ツウワキ】と言って、遠く離れた人と会話をする道具です。今からナハロ村にいるルーシュに繋ぐので静かにして下さいね?」

「ほう?!なんと便利なものなのだ!!」 

「わふぅ?!」



 勿論、発案者はロロだ。

 『冒険者になったんだ~!オメデト~!!じゃあ、近いうちにたぶん必要になると思うよ~』と、ロロが提案してくれたのだ。本当に俺には勿体ない素晴らしい師匠だと思う。


 これは【伝書バト】の応用編のようなもので、『ルーシュ』の印を押すとルーシュの【ツウワキ】に繋がる。そして顔を見ながら話が出来るという夢のような錬成物だ。

 

 ルーシュはこれを最初に見た時『ええええええええ?!』と叫んでいたしその後使い慣れるまで時間がかかったのは言うまでもない。

 

 ちなみに今『登録』しているのはロロとルーシュだけだ。

 今後『登録者』を増やすかどうかはロロに決めて貰うことにしている。




 早速、俺は【ツウワキ】のボタンを押した。



 【…ルーシュ?僕だけど…】



【……あらリュカ!えっと、今ツィアーノにいるのよね?】

 発信から少し遅れてルーシュの顔が映り込む。


【うん、そうだよ】

 ルーシュの後ろには見慣れたパン工房が映り少し遠くでターニャの声が聞こえた。

 俺との約束通り【ツウワキ】を使うために場所を移動してくれたようだった。



【あのね、冒険者の仕事がもう少しかかりそうなんだ】

【あら、そうなの?】

 ルーシュは心配そうな顔をしている。


【だから今日はクリスさんと一緒にこっちに泊まることになりそうなんだ】

【心配だけどーーー…仕方ないわね!クリスによろしく伝えてね?】

 

【うん、わかった】


 これでとりあえずは大丈夫だろう。

 さすがに明日はちゃんとナハロ村に帰らなければならないな。



「ずるいぞリュカ?!我輩にも使わせぬか!!」

 

「じゃあ、帰ったらロロに聞いてみましょうか」

 ニヴラなら操作できそうだ。

 何せ操作自体は印を押すだけだ。


「ワン!!」

「え?クロも使いたいの…?」

 というか、そのかわいいおててでは小さなボタンは押せまい。


「ワンワン!!!」

「クロは『オレだってできるぞ!』と言っておるぞ」



「…え?」




 クロは自分のことを『オレ』って言うのか?

  …じゃなくて、



「ニヴラはクロの言っていることが解ってたんですか…?」

「何を今更言っておるのだ?そんなもの当然だろうが!」


「えぇぇぇ……」

「わふ?」



 …いや、もっと早く教えてくれよっ!!





「……」

「クロ。お前の主人が落ち込んでおるぞ?」

「わふ?」


 

 俺もクロと話がしたい。

 帰ったらロロとノアに相談してみよう。







「ギリギリだったけどなんとか宿は押さえられたぞ!」


「野宿を覚悟してました。良かったです」

 

 ツィアーノにあるテオさんの宿屋の方が俺たちを優先してくれたそうだ。


 テオさんとヴォルグには俺が冒険者になったことを既に伝えてあったからだろうか。

 テオさんに今度お礼をしなくてはならない。

 


「こちらは相変わらず動きがありませんでした」


「そうか。つっても、そろそろ夕方だからなー」


「そうですね。そろそろ動きがあってもおかしくないですよね」

 

 まばらだった人通りが少しずつ増えてきた。

 冒険者のような格好の者もいれば、海賊やら盗賊やらに見えなくもない者もいる。

 


「もう少しねばって、駄目なら今日は諦めるかー」

「そうですね。あんまり遅い時間だと衛兵がうるさいですからね」

「おう。それにレイさんにも相談した方が良さそうだもんな」

「そうですね。この後ギルドの方に行ってみましょう」


 冒険者とは言え俺たちは未成年なので活動時間は限られている。

 それにこの通りの中で俺たちの存在は明らかに浮き始めている。


 願わくばもう少し進展が欲しいものだが……







 俺たちが諦めかけていた、その時だった。





     ガチャッ_





 

「「!!」」






 ひとりの少女が屋敷の裏口からそっと出てきたのを、俺たちは見逃さなかった。




「ワ、」

「クロ、静かに」

 俺は咄嗟にクロの口を押える。



「…おいクロ。あの女からアリッサの匂いがすんのか…?」

「わふっ」

クロは小さい声で吠えた。


「けど、ありゃあどう見てもよ…」

 クリスが、”訳が分からない”といった顔をしている。



「……そうか。アリッサは人族じゃなかったんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ