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18 不穏

「ソティラス。今日もよろしくね」

「ヒヒン」


 ソティラスことソティは俺のほぼ全財産である10万ギルで買い取った白銀の馬だ。

 ちなみに成馬の相場は20万ギルからとなっている。

 俺がゆっくり手を近づけると少しにおいをかいだ後鼻をすり寄せてきた。

 とてもかわいい。 


 俺はこの穏やかな瞳の馬を一目で気に入った。

 馬宿のホールさん曰く他の馬より小さなこの馬は推定5歳らしい。

 きっとゆっくり大きくなっていくのだろう。

 




      「リュカ!!」



 おや、この声は…

 

 俺は声が聞こえた方へ振り向いた。


「クロとニヴラも!なんだかひさしぶりだな!」


「ジェドさん」

「ワン!!」

「……」

 ジェドさんが手を振りながら俺たちのところに駆け寄ってきた。

 

 久しぶりのジェドさんは早朝でも変わらず爽やかで驚くほど男前だ。対して俺の肩の上の最年長であるニヴラはまだ眠っている。



「馬宿で会うなんてな珍しいな!まさかその白銀の馬でも買ったのか?ハハ…」

「そうなんです。この子はソティラスっていいます」

  俺はソティラスの首をやさしく撫でた。


「え、は?いや、なんでまた…?」

  話ながらもジェドさんは慣れた手付きでソティに挨拶をする。


「僕冒険者登録をしたんです。なので今日もクリスさんと一緒にツィアーノの」



「はああああぁぁぁぁ…??!!」


「わふ?!」


「リュカお前、何でそういう大事な事俺に相談しないんだよ?!」

「え、あ、そうでしたっけ…?うっかりしてました。すみません」

 

「少し説教したいところだが………しかし、よくルーシュが許してくれたな?」

「クリスさんとディックさんが手伝って下さいました。本当に助かりました」


「そうなのか?俺に言えばいいのに…まぁ、あの親子は確かに良い人だもんなー」

「はい。初依頼料を使って僕が造った錬成物をプレゼントしました」

 

 ディックさんは装具屋なので軽くて使いやすい【槌〈上級〉】を贈り、クリスには【魔法のカバン〈上級〉】を贈った。

 二人ともかなり驚いていたが喜んでくれて俺は大満足だ。


「え、それは羨ましいな…」

「じゃあ今度ジェドさんにも何か贈りますね」

「ありがとう!それは楽しみだ!!」


「そういえばリュカは育成官を誰にしたんだ?俺は久しくツィアーノのギルドへ行ってないけど…」

「レイさんです。40代半ばくらいの男性です」


「…は?」



「…え?」

「わふ?」

 


「おいおいおいおい……なんでよりによって”そいつ”にしたんだお前は…?」

「え…だって、クリスさんも凄く信頼してましたし…」

 どうやらジェドさんはレイさんを知っているようだが…


「……あんな女ったらしのクソ爺なんて絶対にだめだ!リュカには有害すぎる…!!!」

「えぇ…」

 ジェドさんはレイさんと女性を取り合ったことでもあるのだろうか…。

 

 仮にそんなことがあったとしたならお相手はいったいどんな麗しい女性だったのだろう。

 まぁ俺としては業務に支障がなければレイさんの素行は気にならない。



「よし、俺も一緒に行くから育成官を変更しよう!何なら俺がやってもいい!」 

「ちょ、ちょっと待ってください。ジェドさんもこれからお出かけするんですよね?」

 急展開すぎてさすがの俺もついていけない。

 レイさんとの間で一体なにがあった。


「…………………」

 ジェドさんはむすっとした顔で何かを考えている。

 

まさか予定変更なんて考えてないだろうな…?

「…何かあったら一番にジェドさんに言いますから。ね?」

「……………………………絶対だぞ?」

「はい。約束です」


 少し見ない間にジェドはとても過保護になったようだ。きっとリュカに似ているという大切な弟さんに会えていないのだろう。

 

「僕はもうすぐ7歳になりますし、そんなに心配してもらわなくて大丈夫ですよ」

「何も安心できる要素がないんだよな……」

「それじゃまた」

「あ、おいっ!」




なんとかジェドを言いくるめ…と言うか半ば強引に振り切り、俺たちは村の外で待つクリスのもとへたどり着く。


「おいっ!!お前おっせーぞ!!」

 クリスは既に馬にまたがっている。

 クリスの馬は美しい黒馬で『オスカー』という。


「すみませんクリスさん!馬宿で知り合いに偶然会いまして…」

 俺もソティラスに『よろしく』と声を掛けてから騎乗した。

 クロは俺の前カバンからひょっこり顔をだしている。とてつもないかわいさだ。



「それはしょうがねーな!」


「僕も驚きました、すみません。あと、ちょっと気になる事を聞いたんですけど…」

「なんだ?」


「レイさんて巷で有名な人なんですか?」

「さぁ?そういや、俺もレイさんが一番つえーこと以外知らねーな」

 なんだかクリスらしい答えだと俺は思った。


「そうなんですね」

「おう。おら、早く行くぞ!依頼は早いもん勝ちだからな!!」

「はい」

「ワン!!」



「…ぐぅ」

 慌ただしく出発するなかニヴラはソティの上ですやすやと眠っていた。






*


「今日も人がいっぱいですね」

「ほんとにな!」


 ツィアーノの馬宿にソティとオスカーを預けた俺達はギルドに到着していた。

 まだ朝だというのにツィアーノのギルドは今日も賑わっている。

 



「クリスー!リュカー!」


 フィリップさんが受付席から元気に手を振っている。

 ギルド職員も朝から晩まで本当に御苦労なことだと思う。


「おはようフィリップさん!」

「おはようございますフィリップさん」

 俺たちはフィリップさんのところへ向かった。



「わー!そっちのかわいい子は?!」

「クロと言います。魔狼なんですけど、使役登録できますか?」

「もちろん!クロおいでー」

「ワン!!」

 クロは人見知りをしないので助かる。


 俺はクロ用の【改ざん首飾り〈超級〉】を着けてからフィリップさんにクロを預けた。

 これでクロが霊獣の子孫であることはバレないだろう。

  

 そして俺達は依頼書が張り巡らされている掲示場へ向かった。





「…なんか俺も相棒ほしくなっちまったなー…」

  クリスは物寂しそうにニヴラの小さい頭を撫でている。

  ニヴラはまだ寝ぼけているのでされるがままだ。


「クリスさんは何が好きなんですか?」

「猫。なんかこう、かっけー猫とかいねーかなー!」

「いい子が見つかるといいですね」

「だなー」



「んで、この前は何の依頼にしたんだっけ?」

「薬草小屋に居ついたゴブリンのせん滅です。一応下級依頼でしたけど…」

「そりゃ、レイさんありきの依頼だな!」

「ですよね。僕もそう思います」


「仕方ねーからお前が決めていいぞ。俺はぶっちゃけ何でもいい。いい意味でな!」

「わかりました」




「うーん…」

 どれもやりがいがありそうなものばかりだ。

 それにここは基幹ギルドなだけあって報酬も高めだ。


「ほれほれほれ」

「ワフ?」

 どこから出したのかクリスは猫じゃらしを左右に動かしている。

 クリスはクロと遊びたいようだが遊び方が間違っている気がする。

 

 



「『砂浜のゴミ掃除』か…」

「それはむりですごめんなさい」

 

 クリスは正直ものだな。

 確かにディック家はこう、ロロの家ほどではないものの、物で溢れてかえっていたのを俺は思い出した。


「クリスさん。『食人木の駆逐』だそうです」

「お、それは面白そうだな!」

「でもちょっと遠いんですよね。モラヴィア草原の先のヴェルドン渓谷だそうです」

「そりゃ遠いな!泊りの依頼はまだ無理だな、お前は」

「そうですよね…残念です」

 

 こういった長期依頼は掛かった経費をあとでギルドに申請すればもらえる。

 しかし俺の場合は資金の問題ではなく年齢と評点が足りない。

 長期依頼は10歳以上の下級冒険者以上でなければならないのだ。

 


「『人探し依頼〈下級〉』か…。けっこうありますね」

 貼り出し日付を見るとほとんどが最近のものだった。


「クロもいるし、いんじゃねーか?」

 俺もそう思う。

 今日はクロもいることだし、人探しか採集系の依頼にしよう。



 そう思い依頼書を吟味し始めた俺の目に一枚の古びた依頼書が飛び込んできた。

「……ん?」

 


「なんだ、どうした」

 クリスはクロと遊ぶのをやめて立ち上がった。


「クリスさん見てください。『見つからなくても報酬は差し上げます』って書いてありますよ?」

 これだと端から諦めてるみたいに俺には思える。


「そんなもんじゃね?簡単に見つかるくらいなら、依頼主が既に見つけてんだろー」

 クリスは事も無げにそう言うとまたクロと遊び始めた。


「…あ、なるほど。手伝ってくれたことに対する報酬ってことですね」

「いや、逆に他にどんな意味があんだよ?」


「なんだか、誘い文句みたいだなって」

「…どういうことだ?」

 クリスが怪訝な顔をする。


「”人探しに協力する人”を集めることが目的なのかな、と思いました。それに…」

「んだそれ…考えすぎじゃねーの?」

「そうかもしれませんけど…この依頼書の貼りだし日付が一年前なんですよね」

 俺から見える範囲ではこの依頼書がどうやら一番古かった。



「……」

 クリスが顎に手を当てて考えている。


「依頼料だってタダじゃないじゃないですか?大切な家族だからと言えばそれまでですが…」

 依頼者が貴族だというのなら話は別だが…


「……ま、お前の気のせいな気はするが、一応フィリップさんに聞いてみるか!」

「そうですね」


 






「…で、その依頼主がどんな人なのか知りたんだねー?」

「そうだ」

「はい」

 フィリップさんはきょとんとした顔をしている。

 


「えっとね、別にふつうの漁師のおじさんだね…」

 フィリップさんは依頼者に提出してもらった申込書に目を通している。



「あぁ、そうだ!この人ね、娘さんと二人暮らしをしていたみたいなんだけど…」




 フィリップさんいわく、この依頼者であるビリーは娘のアリッサと二人で仲良く暮らしていたそうだ。

 

 娘のアリッサが10歳の誕生日を控えていたある日。

 ビリーはアリッサのプレゼント代を稼ぐためにいつもより遠い漁場へ向かった。

 

 結局戻るまでに丸一日かかってしまったが、ビリーは運よく高級魚をたくさん捕まえることができた。

 そしてビリーはその足でプレゼントを買い、急ぎ足で家に戻った。

 しかし……




「……アリッサちゃんはどこにもいなかったんだって」

「で、未だに見つかってないわけか…」

「そうなんだ。『海神様のたたりだー!』って、当時はけっこう話題になってね。衛兵も冒険者もこぞって探したんだけど…ついぞ見つからなかったわけさ」




「…どうすっかな」

  

 他の冒険者も待っているので俺たちは一度受付から離れた場所に移動した。

 

「僕はこの依頼を受けたいと思います」

 一度気になると俺は確かめずにはいられない。

 しかしクリスはまだ悩んでいるようだった。

 

「…おいおい、気の毒だが一年前だぜ?それにこの依頼書がお前の言うように怪しいモンである可能性も拭えてねぇぞ」

 クリスのいうこともわかる。

 一年前ということは普通に考えて探すのは困難だ。

 つまり、”割に合わない”可能性がかなり高い。


「…それでも冒険者の基本は人助けです。仮に”全部嘘 ”だったとしたら、僕たちで依頼主を捕まえましょう」

「それは、確かにその通りだな!」

 クリスは腕を組みうんうんと頷いている。

 

 クリスは純戦士らしいまっすぐな子だ。

 もし何かあったら全力でこの子を守ろうと俺は心に決めた。






「フィリップさん、この下級依頼受託したいんだけど!」

 俺たちはもう一度受付待ちの列へ並び直しフィリップさんに受託希望を提出した。


「わかったー!『人探し依頼〈下級〉』だね。達成期限『なし』タイプでー…」



「難易度も問題ないね。…うん、受託を認めるよ!」

「ありがとうフィリップさん!」

「ありがとうございます」

「頑張ってねー!」




「よっしゃ、行くか!」

「はい」


 俺たちはフィリップさんと別れ、依頼主の住む港のはずれへと向かった。









「ごめんくださーい」

 クリスは少し古びた扉を数回叩いた。




 しばらく待っていると、家の奥から足音が近づいてくる。

 


 そして、ゆっくりと扉が開いた。


「…君たちは…」

 真面目そうな中年の男性が顔出した。


「俺たちは…っ、」 

 クリスが突然鼻をおさえる。


「!」

 何事かと思っていると、突然猛烈な酒の匂いが外へ運ばれてきた。

  

「わふ?!」

 クロもたまらず顔を背けている。

 


「あ…悪いな。俺は漁師なもんで、いつもこの時間に晩酌してんだ」

 男はそう言うと申し訳なさそうに笑った。


「お食事中に失礼しました」

 俺はすぐに頭をさげた。

 

「いきなりすみません。俺たちはツィアーノの冒険者ギルドから来た冒険者です」

 クリスも気を取り直して男性に挨拶をする。

 

「あぁ…冒険者だったか」

 男性は俺を見て少し驚いている。

 確かに6歳の冒険者は珍しいかもしれない。


「この依頼主は貴方で間違いないですか?」

「あぁ、そうだ。俺が依頼主のビリーだが…」


「随分かわいらしい冒険者が来てくれたもんだ。君たちの善意に感謝する」

 そう言うとビリーさんは穏やかに笑った。



「あの早速なんですが、アリッサさんの私物をいくつか貸して頂けますか?」

 

「えっと、何故だ?」

 ビリーさんは少し戸惑っている。


「僕の相棒に匂いを覚えさせたいのです」

「ワン!」


「あぁ、なるほどね。じゃあ少し待っていてくれ」

「ありがとうございます」




「ふんふんふん…」

 アリッサの衣服をクロが一生懸命嗅いでいる。

 

 アリッサがいつ帰ってきてもいいように部屋はそのままにしているらしい。

 それを聞いた俺は何とも言えず切なくなった。

 


「そして、これがアリッサの写真だ」

「ありがとうございます」

 

 アリッサはビリーによく似ていた。

 仲睦まじそうな、とてもいい写真だった。



「俺は毎日早朝には漁に出ちまうが、それ以外は大抵飲み屋か家にいる」




「報酬はちゃんと払うと約束する。どうか……アリッサを見つけてやってくれ」

「全力をつくします」


 ビリーさんは今にも泣きだしそうだった。


 ビリーさんを疑いたくはないが…


 何とも言えない気持ちで俺はビリーさんの家を後にした。










「さぁクロ!!!お前にかかってるぞー!!!」

「ワン!!!」

 

 クロもクリスもやる気満々だ。

 俺とニヴラは二人の少し後ろを歩いていた。




「おい、リュカ」


「なんですか?ニヴラ」

 

 小さな声でニヴラが俺に話しかけてきた。

 今まで全然話さなかったので少し心配していたところだ。

 



「あの男は”穢れし魂”だ」



 ニヴラが静かにでもしっかりと、俺に告げた。

 


「え…」

 ”穢れし魂”って、

「あの女代官(イメストラ)と同じにおいがする」


「…それは本当ですか?」

 

 それはビリーが何らかの悪事に手を染めていることを指している。

 俺は『やはりか』と、天を仰いだ。


「まったく、くさくてたまらんわ」

「確かに驚くほど酒臭かったですけど…」

「それだけではないわ!貴様、気をつけろよ?」

「……わかりました」


 じゃあこの賑やかな町の裏で何かが起きているというのか…?


 俺は依頼中止も考えながら前を行く二人に続いた。









「フンフンフン…」

 

 あれから十分ほど経った。

 しかしクロは相変わらず快調に進んでいる。





「なぁリュカ…」

「はい?」

 いつのまにかクリスは渋い顔に変わっている。

 さっきまで楽しそうにクロの後ろを追っかけていたというのに。




「やっぱ、この依頼おかしいわ」

 クリスははっきりと俺に告げた。




「………そうですよね」


 俺ももうそれを確信していた。

 それをどうクリスに説明するか考えているところだった。



「一年前にアリッサはいなくなったんだよな?」

「はい」


「クロが魔狼だとしても、さすがに一年前の痕跡は辿れねーよな?」

「はい。そう思います」



「ってことはさ、アリッサは『普通に』生きてんじゃねーか?」



「そうなりますね…」



「…まじかよ……俺こういう頭使う系苦手なんだけど……!」

 クリスが頭を抱えている。




 ……さて、どうしたもんか。

 


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