表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/42

16


「よっしゃ、とりあえずギルド行くぞ!!」

 夜明けとともにこの馬車に乗ったというのに、クリスはいつも通り元気いっぱいだ。

 


「はい。クリスさん」

「…」

 俺は眠い目を擦りながら乗合馬車からさっさと降りたクリスに続いた。

 ニヴラに至っては俺の肩の上で器用に眠っている。


 今日はクロは留守番だ。

 いつも一緒なので少し寂しい。

 しかしこの人通りの多さではクロは絶対に迷子になってしまう。




 そう俺は今、ランス辺境伯領最大の港町であるツィアーノへ来ていた。








**




「クリスさん」

「なんだ?」

  

 俺は少し前を歩くクリスにいつもより大きな声で話し掛ける。


「ツィアーノは人が多いですね」

「あったり前だろ!ナハロ村のうん十倍の人が住んでんだからな」



 俺たちは今ツィアーノの市場通りを進んでいる。

 見渡す限りの人、人、人だ。

 

 色とりどりの家並みの前には屋台が立ち並んでいる。

 さして買い物好きではない俺ですらワクワクが止まらない。

 

「おい田舎もん!観光は次だ次!」

「あ、すみません」


 なんと楽しそうな町なんだ。


 立ち止まってじっくり見たい気持ちを抑えつつ俺はクリスの後に続いた。






「さぁ、着いたぞ!ここがツィアーノのギルドだ!」


「おぉ…」

「…ぎゃぁ…」


 …俺が知るギルドとは随分と違うな。

 俺が知っているギルドはもっとこう、小屋?みたいな感じだったのだが。

 ニブラはやっと起きたようで目を擦っている。



 俺たちの前に広がる大きな建物は、珍しいことに五階建てだ。

 まるで小さな城のようにも見える。


 一階右手の酒場では朝だというのに大勢の冒険者が騒いでいるし、左手の道具屋には装備品を買い求める冒険者で溢れかえっていた。

 脇の螺旋階段に目をやると大量の書類を持って駆け上っていくギルド職員の姿が目に入る。

 

 のんびりとした時間が過ぎていくナハロ村では味わえない高揚感を感じつつ、俺たちは正面入口に向かった。






「…中にも人がたくさんいますね」

 そして当然ながらギルドの中も多くの冒険者で溢れかえっていた。

 カウンターで依頼を受け取る人、どの依頼にしようか悩んでいる人、情報交換をする人、パーティへの勧誘をする人。

 このギルドはとても活気に溢れているように見えた。

 


「ツィアーノのギルドがここら辺だと一番でかいから、依頼を求めて冒険者が腐るほど来やがる」

「なるほど」

 それでも壁一面に貼られた依頼書がなくなることはないらしい。

 冒険者にとっても住民にとってもありがたいことだ。



「おはようクリス!今日はお友達ときたの?」

 小柄な男性がクリスのもとに駆け寄ってきた。


「おはようフィリップさん。コイツは友達じゃねぇ、弟分だ!」

「え、そうなの?僕はフィリップだよ!えっと…」

「僕はリュカです。よろしくお願いします」

「え、リュカ…?ルーシュのところの…?」

「あ、はい。そうです」

「うそっ!ずいぶん大きくなったね!あ、僕は薬屋のモノレの旦那だよ!」

「なるほど、そうだったんですね」

 この人がモノレさんが話していた旦那さんだったのか。

 なんだか小さくてかわいらしい。

 



「フィリップさん、こいつの冒険者登録してほしいんだけど!」

「あぁ、なるほど!じゃあ、あそこの席にかけて貰っていいかなー?」

「はい」

 フィリップさんは人がまばらな中二階の席を指さした。

 さすがにここでは集中できないからと、フィリップさんは少し恥ずかしそうに言った。



「…じゃ、早速【鑑定】しちゃうね!」

「お願いします」

 そういうと、フィリップさんは【鑑定鏡】を掛けた目で俺を視はじめる。

 俺はそっとロロに貰った首飾りに触れた。



「…錬金術士〈下級〉、実践値〈下級〉、だけど………あれ?ほぼ実践値中級じゃない…!」

「?」

「だって、お前魔熊狩ってんだもんなぁー?」

「あぁ、まぁ、はい」

「えっ?!魔熊ってそんなに弱い魔獣じゃないよね……?!」





「……うん、病気もなさそうだし、問題ないね!」

「ありがとうございます」


 …ふぅー…良かった。


 さすがはロロだ、この首飾りのおかげでリュカのステータスである”錬金術士(伝説級)”を隠蔽することできたようだ。

 俺はひとり、先日のロロとのやり取りを思い出していた。

 


『ギルドの鑑定~?近衛騎士団に入るわけじゃないし~これでいいかな~?』

 とロロが適当に棚から出したこの首飾りの有能なのこと。



『これはこの前の【遮蔽網】の応用編?みたいなやつだよ~。リュカにあげるね~』

『ありがとう。助かるよロロ』

『どういたしまして~!リュカが隠したい”性質”をそこに【組み込めば】いいからね~?』

『わかった』



 …ふむ。今後も色々と使えそうだ。


 俺は首飾りをなくさないようそっと【魔法のかばん】の中にしまった。




「あと、その小竜ちゃんはリュカの相棒ってことで登録しとくね!」

「ありがとうございます」

 今度クロも登録してもらおう。


「よしっ、登録はこれで完了だよ。とりあえず聞いておきたいことはある?」

 


 …聞きたいことか…沢山あるな…


「…とりあえず、中級冒険者になるにはどうするのが早いですか?」

「はぁぁぁ?!俺だってまだ下級なのに何生意気言ってやがる!!」

 クリスが俺に掴みかかってきたので俺はそれを避けておいた。


「わぁ、リュカはやる気があっていいね!僕応援しちゃう!」

「ありがとうございます」

「せいぜい頑張るこった!!」


「…えっとね、中級冒険者に上がるためには年に数回行われる”集団討伐”で結果を残さないとだめなんだ」

「集団討伐…」

「そう。しかも、その集団討伐に参加するためには、ギルドからの一定の評点が求められるのさ」

「なるほど。大体どれくらいで評点がたまりますか?」

「本当に人に依るんだけど…例えば依頼(下級)ばかりこなした場合だと、5年ぐらい掛かっちゃうかもね?」

「そうなんですね…でも、下級冒険者の僕が依頼(中級)を受けることは出来ないですよね?」

「そんなことはないよ!確かに個人としては無理だけど、パーティー(下級)でも認められる場合があるからね!」


「ったく、先のことばっか気にしやがって。お前は当面の間は下級依頼をこなすしかねーんだよ!」

「まぁそうですよね…」 

 

「あと、新人さんは最低でも1年間は育成専門官と組んで貰わないといけないんだ。パーティを組めるのはそれからだね」

「なるほど。育成専門官は固定ですか?」

「基本的にはそうだね!リュカはどんな人がいいかなー?」


「ちなみにクリスさんの育成官は誰だったんですか?」

「俺はレイさんだ!あの人が一番このギルドでつえーからな!」

 クリスは自分のことのように誇らしげだ。

 余程そのレイさんとやらを気に入っているらしい。


「じゃあ、僕もその方でお願いします」

「おいコラ?!お前適当に決めてんじゃねーぞ…?!」

「そうだよリュカ?えっと……レイさんは確かに凄腕の冒険者だけど、えっと、難ありというか…?」

「問題ないです」

 多少の難なら大したことはないだろう。

 それにクリスが”一番強い”と慕うのなら大丈夫な気がする。


「そ、そう?他にも優秀な育成官いっぱいいるよ?」

「大丈夫です。クリスさんを信頼してますので」


「っだよ……じゃあしょうがねーな!!」

 クリスは何故か嬉しそうにしている。


「リュカ……末恐ろしい子だ…!」

 その隣でフィリップさんも何か言っていたが、まぁ良いか。



「リュカの希望はわかったよ!レイさんはもうすぐ『モラヴィア草原』の討伐から帰って来ると思うから、少し観光してきたらどうかな?」

「ま、しょうがねぇ。田舎もんの弟分のために案内してやるか!」

「お願いしますお兄さん?」

「そこは兄貴だろ!」

「クリス兄貴」


「……やっぱいいわ。なんか思ってたのと違った」

 






「ここが俺が良く泊まってる宿屋だ。ちなみに経営者はお前も良く知ってるテオさんだな!」

「おぉ…」


 テオさんは実は結構な資産家なのかもしれない。

 そのうち商会でも始めるつもりだろうか。

 

「そんで、ここが行きつけの防具屋だ。親父の腕にはかなわねーが、まぁ悪くわねぇな」

「そうなんですね」

 

 実はクリスもディックさんの腕は認めているらしい。

 ディックさんにぜひとも聞かせてあげたいものだ。


「で、あそこが魔石屋だな。魔石は便利だが、高すぎるのが難点だよなー……んで、その隣が武器屋だが…」

「どうしました?」


「お前弓だけはすっげーの使ってるもんな…。つーか、そんなモンどこで手に入れたんだよ?」

 

「あ、えっとこれは…ロロに譲って貰いました?」



「ロロ…?あのうさんくせぇ雑貨屋の店主か…?!」


 なんと酷い言われようだ…。

 …ま、仕方ないか。人のいいモノレさんでも行った事がないと言っていたし。


「僕も時々お手伝いしてるので、クリスさんも良かったら来てくださいね」

「別にいいけどよ…つーか何売ってんだよ?」

「ふつうの商品ですよ。中には不思議なものもありますけど…。それに、他のところより安く売っています」

「え?そうなのか…?」

「はい。ロロはあまり商売っ気がないので」

「よし。じゃあ今度俺を連れてけ!」

「わかりました」


 誤解?が解けたようで良かった。

 俺はロロの弟子でもあるのだから師匠の汚名は晴らしていかなくてはならないのだ。


「お前弓以外の装備はあんのか?」

「はい、今のところ入用なものはないですかね…」

 

 しいて言えば魔石は気になるが…

 クリスを待たせるほどでもない。

 次の機会にくればいいだろう。


「じゃあ、飯でも食うか!」

「はい。お腹減りました」

「ぎゃあ!」


 もうそんな時間なのか。あっという間だな。

 確かに時計は昼を指している。


「今日は俺がおごってやる!」

「いいんですか?ありがとうございます」

「ぎゃっぎゃっ!」


 クリスはこれまたよく行くという飯屋を紹介してくれた。

 クリスもこう見えて面倒見がとてもいいようだ。

 クリスのおかげでツィアーノのおおよその地図が俺の頭の中に出来上がっていた。






「…そういえば、クリスさんのパーティはどんな構成なんですか?」

 俺はパスタを飲み込んでから目の前でほおばるクリスに話し掛けた。


「うちは戦士の俺と、魔導士と、癒術士だな!」

「なるほど、癒術士 :エルフ]]ですか」

「俺は純戦士だが、錬金術士(中級)でもあるからな!特別に俺の戦いっぷりを見せてやってもいいぞ!」

「はい、ぜひお願いします」


「…あとお前、馬に乗れるようにしとけよ?」

「そうなんですよね…」

 クリスはいつも自分の馬でツィアーノへ行っているようだった。

 乗合馬車だと安いがちょうどいい時間に来なかったりするし辻馬車は単純に高すぎる。

 リュカになってから俺は一度も馬に乗ったことがなかったことを思い出した。


「馬宿のホールさんに言えば一頭ぐらい貸して貰えんだろ」

「そうですね。お金がたまったら自分の馬を買うことにします」

「おう、そうしろ」


 なんだかやることが盛りだくさんだな。

 

 パン屋の方はルーシュの友人のターニャが手伝ってくれることになったが、ロロの店は時々手伝いに行かなくてはならない。

 それにギークの様子も気になるし、ヴォルフの顔を見たい。

 あと神父様と一緒にヴォルフのところへ行く約束もした。


 これからいろいろと楽しみではあるが、やることの多さを考えるとおじさんの胃は少しだけ重くなった。







「あ、いいところに帰ってきた!」

 俺たちがギルドに戻るとフィリップが嬉しそうに近づいてきた。



「レイさんがちょうど帰ってきたんだ。レイさんの部屋に案内するね!」


「ありがとうございます」

「俺もレイさんに会うの久しぶりだわ…!!」

 

 クリスは珍しくとても嬉しそうにしている。

 よほどレイさんを慕っているようだ。


「さぁ、こっちだよ!」


「何階ですか?」

「四階だよー!四階は育成課だから覚えておいてね!」

「わかりました」


 一階は依頼受付や鑑定などの応対業務をしていて、二階と三階は依頼品置き場となっている。

 四階は育成課で、育成官の他に、専属冒険者の部屋などが設けられている。

 そして五階はギルド長の部屋や副ギルド長など偉い人たちの部屋があるらしい。

 まぁ新人冒険者の俺には関係ないことだ。

 



「はぁはぁ……フィリップです…!新人を連れてきました!」

 事務員であるフィリップが息を切らしている。

 確かに四階まで上がるのはなかなかの運動量かもしれない。

 広すぎるのも大変だ。

 


「おぉ。入れ」

「はい!」


 部屋の中から深みのある良い声が聞こえてきた。

 ディノよりも年上かもしれないな。


 俺たちはフィリップに促され室内に足を踏みいれた。




「レイさんお久しぶりです!!」

 クリスは元気よく執務椅子に腰かけたレイさんに駆け寄る。


「おー、クリスか。なんだ、元気そうじゃねぇか」

 クリスに気づいたレイさんが気だるげに応対する。

 

「はい!!パーティの方も順調です!」

「そうか。お前は悪くねぇ戦士だが、今度の集団討伐は気ぃ抜くんじゃねーぞ」

「はい、勿論です!!!」

 

 …二人の温度差が凄いな。

 クリスとフィリップさんの様子からしてレイさんはこれが普通なのかもしれない。

 難ありなんて言っていたのでどんな人なのかと思っていたが、鍛え上げられた渋いおじさんという印象だ。


「新人冒険者のリュカです。よろしくお願いします」

「あー、悪ぃな。今帰ってきたところで、まだお前の鑑定書見てなかったわ…」

 レイさんは長めの前髪をかきあげながら手元の鑑定書に目を通している。


「お前は弓使いなの?」

 鑑定書を読み終えたレイさんと目が合う。


「一番得意なのは弓ですが、剣と体術も多少心得があります」

「ふーん…」

「すごいねリュカは!まだ6歳なのにね!」 

「別にそんなん普通だろ!!」



「…その青い小竜はどうした?珍しいな」

 レイさんが顎髭をさすりながらニヴラを見つめる。


「ナハロ村の裏山で”迷子”になっていたのを見つけました」

「ぎゃっぎゃっぎゃ!」

 『迷子なわけあるか!』と毎回ニヴラは笑っているが、これ以外の説明を考えるのが面倒なのでしかたない。

 


「迷子ねぇ…。あぁ、自己紹介が遅くなった。俺はレイだ、よろしくな」

「よろしくお願いします」


「しかし、6歳ってのも久しぶりだな?」

「そうですね、6歳で登録するのは今は獣人族くらいですからねー」


「まぁ、あいつらは基本戦闘民族だからな…あ、そうだ。”こいつ”が俺たちの連絡係になる」

 レイさんが白い何かを俺に投げてよこす。


「これは…」

「【デンショバト】のポウだ。悪いが、俺も一冒険者でな。俺の都合が良い日をそいつでお前に知らせる」


「わかりました。よろしくね、ポウ」

 俺の挨拶に対してポウは羽根をパタパタ動かした。

 うん、とてもかわいい。

 

 触ってみたところ伝書鳩の錬成物のようだ。

 構造はそこまで複雑ではないがなかなか精巧な造りをしているのがわかる。



「それ以外の日はクリスについてってもいいし、代理の育成官を立ててもいい」

「夏季休暇が終わるまでは任せてください!!」

「頼む。じゃあ、一年間よろしくな。リュカ」

「はい。よろしくお願いします」


 

「…じゃ、準備したら行くか」



「…え?」

「え、いや、だって、レイさん集団討伐から今帰ってきたばかりじゃないですかー…?!」

「あのな、フィリップ。んなもん大したことねぇっての。モラヴィア草原なんてお散歩みたいなもんだろ?」

「確かにそうですね!!」

「この人たち体力おばけ過ぎて…」



「…って君の育成官は言ってるけど…どうするリュカ?」

「行きます」

「そうこなくっちゃな」

「じゃ俺も…」


「お前はお留守番だ、クリス」

「えぇぇぇぇぇぇ!!!せっかくレイさんに会いに来たのにーーーー??!!」


「リュカの査定なんだからお前が来たらだめだろ。つーわけで、準備はいいのか?」

「はい。ニヴラも連れて行っていいですか?」

「おう。お前ニヴラってのか?よろしくな」

「…ぎゃあ」



 フィリップさんは苦笑いをしているし、クリスはその隣で膝をついて項垂れている。


 なんだか良く解らない雰囲気だが、レイさんは今から一緒に依頼に行ってくれるらしい。


「楽しみです。頑張ります」

「おう。無理すんなよ」


 (リュカ)の初めての依頼は何になるのだろう。

 楽しみで仕方ない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ