表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

15 出会い

「神父様、ノア。こんにちは」

「ワン!!」

「ぎゃぁ」


「リュカ。クロとニヴラもこんにちは。よく来てくれました」

「リュカお兄ちゃんこんにちは!クロもニヴラさまもこんにちは!」

「ぎゃあ」 

 ノアは何故かニヴラのことを『ニヴラさま』と呼んでいる。

 本人に理由を聞くと『なんとなく?』と言っていた。

 獣人にしかわからない何かがあるのだと俺は思っている。

 


「パンを食堂まで運びましょうか?」

 

「大丈夫ですよリュカ、ありがとうございます。セイジュいいですか?」

「…」

 神父様にセイジュと呼ばれた背の高い男の子がこちらに駆け寄る。


「このパンをセイジュとノアで運んでください」

「ノアがんばる!」

「…(こくり)」

 元気いっぱい返事をするノアの横でセイジュが静かに頷いた。


 どうやらセイジュは耳は聞こえるが言葉は話せないらしい。

 教会に預けられた時には既にそういう状態だった。

 

「セイジュはああ見えて12歳なんですよ?今は夏季休暇で領立学校から戻ってきているんです」

「そうなんですね。すこし大人びて見えます」

 セイジュの顔だちが中性的だからなのか単に背が高いからなのか、ルーシュと同じくらいの歳に見えた。

 

「でも、話せないと大変ですね。普段はどうしてるんですか?」

「基本的には筆談ですが、学校では【コトバボード】なる錬成物を使って会話の練習をしているようです」

「【コトバボード】、ですか」

「えぇ。なんでも王立学園の錬金術科を歴代最高成績で卒業した方が作った遺物を譲り受けたと聞いています」


 文字盤を押すと音声が流れる何とも夢のような代物らしい。

 歴代最高成績の錬金術の天才か。

 俺の脳裏には学生服を着たロロの姿が浮かんでいた。





「今日も子どもたちは元気いっぱいですね」

 あの中にヴォルフがいないことが部外者の俺にも寂しく思えた。


「そうですね。あの子たちにはいつも元気をもらっています」

 神父様はすこし疲れた顔でほほ笑んだ。


「ヴォルフも元気そうでしたよ」

 俺は宿で一生懸命働くヴォルフの姿を思い出していた。


 ヴォルフは仕事を覚えるのがとても早いとテオさんは嬉しそうに話した。

 それを聞いたヴォルフは少し照れくさそうだったがとても嬉しそうだった。 


「それは何よりです。元来ヴォルフはまじめな子ですからね」

 

 ヴォルフはまだ教会の預かりになっているが、近いうちにテオさんのところの徒弟になるそうだ。

 ヴォルフにとっては良かったといえるだろう。

 しかし教会のみんながすぐに手放しで喜ぶのは難しい。

 ヴォルフがいなくなってみんな寂しい思いをしているのは鈍いと言われる俺の目からみても明白だった。

 


「もしヴォルフが望めば、養子にもして下さると、テオさんは言ってくださいました」

「それは素敵な話ですね」

「えぇ。教会の預かりの身では苦労させてしまうことの方が多いですからね。もっと早くこうしてあげればよかったのですが…」

「……」 

「……私はヴォルフに残って欲しかったのです。ヴォルフが外の世界へ行きたがっていることを知りながらもなお…」



「…僕は神父様とヴォルフは親子みたいだと常々思っていましたよ」

「…ありがとうございますリュカ。ヴォルフは私みたいな父親はいやでしょうね。テオさんのような優秀な方の方が良いに決まっています」

 そう言うと神父様は寂しそうに笑った。

 俺はそうは思わないが、ヴォルフの気持ちを聞いたわけでもないので気休めの言葉を口にするのはやめておいた。



「これからもあの子のことをお願いしてもいいですか?」

「もちろんです。ヴォルフは僕の大切な友達ですから」

「ありがとうございます」

 

「神父様」

「はい?」




「今度一緒にヴォルフの仕事ぶりを見に行きましょう」


「……それは楽しみです」

 神父様の目には、うっすらと涙が見えた気がした。




 俺に何度目かの会釈をしてから、神父様は仕事に戻っていった。

 その足取りがさっきよりも重くないように思えたのはたぶん俺の気のせいではないと思う。













「こんにちはディックさん」

「ワン!!」

「ぎゃあ」



「やぁリュカ!それにクロとニヴラも!いつも助かるよ」




 教会を出た俺は、その足で大通りの装具屋にきていた。

 店主のディックさんは腕のいい装具士らしくわざわざ足しげくこの店に通ってくる冒険者も少なくない。

 基本的には下級冒険者から中級冒険者用の装具が多いが、注文すれば上級冒険者用の装具も作ってくれる。

 


「ご注文のぶどうパン10個と堅パン10個です」

「ありがとう!代金はいつもの集金袋にいれておいたよ」

「ありがとうございます。そういえば、いつもより少し多かったですね?」

 


「あぁ、今日は息子のクリスが帰ってくるからな!」

 ディックさんはとても嬉しそうに言った。


 ディックさんの一人息子であるクリスはそばかすが似合う可愛らしい12の男の子だ。

 俺も見かけたことはあるが見た目に反していわゆる”やんちゃ者”だった。

 クリスが友達を泣かすことは日常茶飯事だったのでディックさんは何度頭を下げに行ったか解らないと困り顔で笑っていた。


「冒険者の活動も板についてきたみだいでね。夏季休暇中だというのにツィアーノのギルドに入り浸ってるんだぞ?」

「冒険者の活動ですか。羨ましいです」


 冒険者には6歳からなれる規定だが『じゃあどうぞ』なんて言う親はそうはいない。

 基本的に冒険者は危険と隣り合わせなので致し方ない。

 子どもたちは大体学校に通い始める10歳で冒険者に登録することが多い。

 10歳がまだ子どもであることに変わりはないが、ひとつの境目として考えられているからだ。


「もしかしてリュカも冒険者に興味があるのかい?」

「はい。でもルーシュに許可を貰うのに苦戦していまして…」

「あぁ、君はまだ6歳だっけか?君はうちのクリスなんかよりずっと落ち着いているのにな!」

「あははは…」


「まぁルーシュの気持ちは解らんでもない。しかしリュカの気持ちも解る。何故なら俺もかつては冒険者だったからな…!!」

「そうなんですか?」

「あぁ!肉屋のハンスと魔導士と一緒に冒険したもんだ」

「そうだったんですね…ディックさんはどんな役割だったんですか?」

「ふふふ。俺はな、」




「…とまぁそんな感じだ!」

「なるほど。パーティにおける錬金術師の動きは本当に重要ですよね」

「俺もそう学んだよ。しかし、リュカが今冒険者になったらクリスはすぐに抜かされるだろうな!」






バンッ!!!!

   



   「「「俺がなんだってクソ親父!!!」」」

 






「うわっ、え、クリス?!」

「!」

「わふ?!」

 件のやんちゃ息子が、突然俺たちの前に現れた。

 


 以前よりも豪快さに拍車がかかっている気がする。

 クロは驚いて俺の足にしがみつきニヴラはうっとおしそうにしていた。


「お前ツィアーノに行ってたんじゃ…」

「今日はレイさんが大規模討伐でいねぇから行かねぇつっただろうが!!」

 

 ディックさんにそう怒鳴りつけるとクリスは俺を見るなりつかつかと近づいてくる。




「何だお前…まだチビな癖に冒険者になりてーのかよ?」


 クリスが存外冷静に俺に問いかけてきた。

 俺たちの話し声は隣の住屋の方にまで響いてたらしい。


「こらクリス!もっと他に言い方があるだろうが!」

「はぁ?こんなチビが冒険者になったところであぶねーだけだろうが!」

「それは、まぁ…」

 ディックさんは完全にクリスの勢いにのまれている。

 しかしクリスが言っていることは正論だ。


「おいパン屋のチビ。お前名前は?」

「リュカです」


「歳は?」

「6つです」


「ふん。何で冒険者になりてーんだよ」



 いざ聞かれてみると答えに困るものだ。

 ……でもまぁ


「…将来冒険者になるかどうかはまだ解りませんが冒険者登録は早くしたいです。うちは両親がいないですし姉もいつ結婚するかわからないので10歳とは言わずに早いところ自立したいんです。いまの段階で狩りで生活費を稼ぐことも出来ますけど依頼をこなして冒険者の等級を上げていくことが長期的にみて一番効率的だと考えています。錬金術も…少しは出来ますがそれで食べていこうとは考えていません」


 うん。まぁこんなところだろうか。


「あっはっはっはっは!話長すぎだろ!」

「え、いや、なんて言ったんだリュカは…?」

 混乱するディックさんをしり目にクリスは手を叩いて笑っている。

 こういう人物に嘘をついても後で問い詰められるのは目に見えているので俺は正直に話した。



「お前狩りの武器は?」

 クリスは今の話を理解してくれたようで今度は実戦的なことを聞いてきた。


「一番得意なのは弓ですね」


「今まで狩った中で一番でかい獲物は?」

「魔熊です」


「まさか……一人でかよ?」

「一人でもあります」

「……ふん」

「え、嘘だろ…?6歳の子どもが魔熊を…?!」

 

 錬金術はさておき、狩りの技量については俺はもう隠す気はない。

 自由に狩りが出来ない状況は控えめに言って、生き地獄だ。

 『リュカ』になってから俺は自分の狩好き加減について思い知らされている。



「…なら大丈夫だろ。しょうがねーから、俺と親父が一緒に冒険者登録に行ってやる。光栄に思え!!!」

「はあーー?!クリス何を…」


 …え?

 今俺にとってかなり喜ばしい話が聞こえた気がしたのだが。


「俺の目にはこいつが嘘をついてるように見えねー。親父はどうなんだよ?」

「いや、俺だってリュカが嘘をついてるとは思わないが…」

「じゃあ問題ねーな。そうと決まればとっととお前の姉貴んとこ行くぞ!」

「いやいやいや、ちょっと待て!!!」

「……」


 聞き間違いではなかったようだ。

 何故かは解らないがクリスが俺の冒険者登録に協力してくれるらしい。


 …なんていい子なんだこの子は。

 ロロとジェド以外にも…ほかにもいるけど…ここにも俺の味方はいたのか…

 そんなことを考えていた俺は少し泣きそうになった。



「いいか、クソ親父。こういうチビはな、早くギルドにぶっこんじまった方がいいんだよ」

「お前それ自分のことだろ?!」

「だってどう考えてもこのチビ普通じゃねーだろ。親父は小竜を連れてるガキ見たことあんのか?」

「いや、ないだろ。普通に考えて」

「だからー、普通の大人の物差しでこいつを測って後で結局痛い目見んのは大人の方なんだぜ?」

「……どうせ絶対根拠ないのに……こいつの話は妙に説得力があるんだよな…」


「あの、本当にいいんですか…?」

 

「おう。男に二言はねぇ!!」

「…よしっ!俺も後輩の為に一肌脱いでやるか!!」

「母ちゃんの尻にしかれてばっかの癖にクソ親父よく言った!!」

「放っとけクソ息子!!!」


 どうやらこの親子は本当に協力してくれるらしい。

 俺のここ数か月の悩みが信じられない速度で解決しようとしていた。






「おいルーシュ!!」



「あら、クリスじゃない!久しぶりね!」


「やぁルーシュ」

「あら、ディックさんまで?親子そろってパンを買いに来てくれたのね!」

「違うだろ!今日の分はさっきリュカから受け取ったわ!!」

「あ、そうだったわね!じゃあ、どうしたの?」

「聞けルーシュ。リュカはなぁ、」

「いや、いきなりすぎるだろ?!」



 



「…そっか……リュカはそんなに冒険者登録をしたかったのね…」

 ルーシュは見るからに落ち込んでいた。

 

 クリスは冷静にルーシュと俺の間に立って話を進めてくれたのだ。

 ディックさんが俺たちのやりとりを静かに見守ってくれたのも大きかったと思う。



「ルーシュ……ちゃんと話さなくて、ごめん」

 落ち込むルーシュに心を痛めつつ俺は謝った。


「謝る必要なんてないわ。そうね…私もちゃんと本気で考えてあげられてなかったかもしれないわね…」

 

「いいか、ルーシュ。こういう才能あるガキはな、そのうち絶対に”我慢できなくなる”。だから早めにその力の使い方を学んでおく必要があるんだよ」

「クリス………貴方…随分大人になったのね…!!」

「うるせーな!!俺のことは放っとけ!!!」


「…ルーシュ。俺も親だからな、君の気持ちは理解しているつもりだ」

「ディックさん………ありがとう」

「それにギルドだって昔ほど無法地帯じゃない。今は育成専門官が一から指導してくれるんだぞ?」

「あら…そうなのね…!!」






 結局、ルーシュは思いのほか快く冒険者登録を許してくれた。

 

 しかしそれはクリスとディックの善意の協力なしでは難しかったと思う。

 二人には本当に感謝しきれない。


 初報酬はルーシュとクリスとディックのために使おうと、俺はこの時心に決めたのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ