13 おつかい
「こんにちはハンスさん」
「ぎゃぁ」
「ワン!!」
「おぉ、リュカじゃねぇか。その小竜は何度見ても慣れねぇな!はっはっはっは!」
俺は今ナハロ村の肉屋にきている。
店主のハンスさんはとても気のいいおじさんだ。
もともと冒険者だったらしいが結婚を機に肉屋になったそうだ。
「今日はどの肉にするんだ?」
「いえ、今日はお使いじゃないんです」
「お?なんだどうした?」
「魔獣の肉を買い取ってもらうことってできますか?」
「そりゃあ勿論できるが…」
最近やっと時間が出来たので【魔法のかばん】の中に大量に入っていた魔獣の死骸を処理した。
さすがに全部はできなかったがそれでも大量の熊肉や猪肉、鹿肉が手に入った。
毎日消費するがこんなにあっても仕方がないので引き取って貰いに来たのだ。
「これなんですけど」
「どれどれ?」
俺はしょっていた籠から熊肉をひとつ取り出した。
「…お?熊肉(上)じゃねーか。え、まさか…お前が狩ったのか?」
「はい。友だち?と一緒に狩りました」
「はっはっは!大したもんだぜ!最近のガキどもは腑抜けてると思っていたが…お前はなかなか骨があるじゃねーか!」
「ありがとうございます。僕は狩りが好きなんです」
「そりゃあいい!将来が楽しみだな!」
「あのよリュカ。ついでに薬屋の方にも顔をだしてやってくんねぇか?モノレが少し困ってたみてぇなんだ」
「わかりました。行ってみます」
「悪ぃな!次もいい肉まってるぜ!」
「任せてください」
ハンスさんは熊肉(上)を5つ全部買い取ってくれた。
ひとかたまり2000ギルなので合わせて10000ギル。
スタンピードのおかげで御の字だ。
「…人族の貨幣文化は面倒だな。物々交換の方が手っ取り早いではないか」
俺の肩にいるニヴラが小さな声で話しかけてくる。
ここは大通りなのでニヴラなりに気を使っているらしい。
「面倒ではありますけど、わかりやすいですよ。子どもでもお金があれば何でも買えますし」
俺も通行人にばれないよう口元を布で隠した。
『あの子独り言ってる…』と思われるのはおじさんの俺でも恥ずかしい。
「…ふむ。確かに価値が統一されているのはいいかもしれんな…」
ニヴラが何やら考え込んでいる。
ワイバーンの生息地はエルフ族の国である北国だったな。
きっと竜の世界も色々大変なのだろう。
*
「モノレさん。こんにちは」
「ワン!!」
「ぎゃあ」
「あら、リュカ。それにクロとニヴラもこんにちは。今日はみんなでどうしたの?」
薬屋のモノレさんはポーラと同じエルフ族だ。
黄金の髪と少しとんがった耳が特徴的だ。
モノレさんは背が低くとても可愛らしい人だ。
ちなみに旦那さんは人族の男性だ。
大恋愛の末に結婚したそうだ。
かぎ慣れた薬屋の匂いがとても懐かしい。
ポーラは元気にしているだろうか。
「何かお困りのことがあるってハンスさんに聞いたんです」
「そうなのね。実は娘のシンシアが夏風邪をこじらせてしまってね…」
「それはかわいそうですね。薬の材料が足りないんですか?」
「えぇ、そうなの。旦那は『ツィアーノ』のギルド職員だから、なかなか帰ってこれないし…」
『ツィアーノ』はナハロ村から馬で二時間ほど進んだところにあるランス辺境領で一番大きな港町だ。
ツィアーノには毎日多くの船が物資を運んでくるので市場はいつも大盛況だ。
「それは大変ですね。じゃあ僕が代わりに採ってきますよ」
「え?本当にいいの…?」
「もちろんです。どの材料ですか?」
この会話も懐かしいな。
俺もよくポーラの手伝いをしたものだ。
「えぇと、眠りきのこと、いさいらずの葉がほしいわ」
「わかりました。それなら大丈夫ですよ」
「えっ?裏山に行くのではないの?」
「はい。『ロロの雑貨店』に行ってきます」
「あぁ…あの奥まったところにあるお店ね!」
「そうです。では行ってきます」
「本当にありがとう。お願いね、リュカ」
俺はモノレさんからお金を預かりロロの店へ出発した。
ここからならゆっくり歩いても2.3分で着くだろう。
夏が終わりだというのにまだまだ暑い。
そういえばモノレさんはロロのお店に行ったことがないようだった。
確かに壁が蔦だらけだったり看板が小さかったりして一見入りづらい。
普通の人は入るのに勇気がいるのだな。
*
「ロロ。こんにちは」
店内にはロロしかいなかった。
俺の声だと気付いたようでロロは読んでいた分厚い本を閉じた。
「リュカだ~!なんだか久しぶり~?」
「一昨日会ったよ」
「そうだっけ~?」
はじめのうちはニヴラをロロの家まで送り届けていたがその内ニヴラは自力でうちに来て自力でロロの家に帰るようになった。
村の人たちもニヴラに慣れたようでおやつをくれたりするらしい。
知らない人のおうちに行ったらだめだよとニヴラに言ったらドラゴンフレイムを出そうとしたので代わりにパンを突っ込んでおいた。
我輩をガキ扱いするとはうんぬんかんぬん言っていたが面倒なので放っておいた。
「今日はどしたの~?」
「眠りきのことのいさいらずの葉あったよね?」
「あるよ~。右から二番目の棚の上から三段目の列ね~」
それだけ俺に伝えるとロロは分厚い本をまた開く。
その本の題名は『錬金術のその先へ』だ。
内容はすこし気になるけれど俺では到底理解できない内容だろう。
読み終えたロロがいつものように感想を教えてくれるのを待つとしよう。
「お金ここに置いとくから」
「いらないよ~」
「これは薬屋さんのお使いだから」
「そうなんだ~。じゃあ毎度あり~!」
…まったく、ロロは商売っ気がなさすぎるのは少し勿体ない。
日常品から高級品までふつうより安く取り扱っているのに。
「じゃあねロロ」
「うん~リュカまたね~。ニヴラさま~今日のご飯は魔牛のステーキですからね~」
「ほう、それは楽しみだな!」
ロロはニヴラの扱いがさらに上達している。
ロロはああ見えて面倒見が良いのかもしれない。
そういえばなんで『ニヴラさま』と呼んでいるのだろう。
ニヴラが偉そうだからか。
*
「モノレさん戻りました。ロロの店にありましたよ」
「良かった…!何とお礼を言えばいいのか…」
「たまにロロの店を使ってやってください。ふつうより安く売ってますし」
「まぁ、そうなの…?今度ぜひ伺わせてもらうわ」
「ありがとうございます。ぜひそうしてあげて下さい」
ふだん薬草は裏山で取れないものは行商人から買ったり、ツィアーノへ買い出しに行っていたようだ。
なので近所にあるロロの店で買うことができればかなり楽になることは間違いない。
「フフフ…なんだかリュカはロロさんのお店の売り子さんみたいね?」
「縁があってたまにお手伝いをしてるんです」
「あら、そうなのね!じゃあますます行きたくなっちゃったわ」
「シンシアちゃんとぜひ来てください。面白いものもありますので」
「わかったわ。シンシアが元気になったら行くわね」
モノレさんは『さぁ、急いで解熱薬を作らなくちゃ!』と意気込んでいた。
シンシアちゃんはきっと明日には治るだろう。
エルフ族の作る薬の効果は抜群だ。
モノレさんの調薬の姿がポーラの姿と重なったことに懐かしさを覚えつつ俺は薬屋を後にした。
*
「1000ギル貰ってしまった…」
俺はモノレさんから手間賃として1000ギルを頂いた。
近所にお使いに行ったくらいでお金を貰えないと伝えたがモノレさんも引かなかった。
最後に『またお願いすることがあるかも』と言われたのでそれは了承しておいた。
けっきょく今日の収入は11000ギルになった。
ものにもよるが冒険者の依頼(下級)五個分くらいになった。
「こうやって毎日貯めてったらなかなか良い額になりそうだな…」
「ふらふらしてないでとっとと冒険者とやらになれば良いではないか?」
「そこはルーシュが許してくれるかどうかですよね」
「既にひとり立ちできる力がありながら何を躊躇してるのだ貴様は?」
「人族は関係性の中で生きてますからね。徒弟制度もないわけではありませんけど、今は10歳になったら学園に通いますしね」
「すべての子どもが通うのか?」
「そうですね。そのために授業料は無料になっています。色んな学校がありますよ」
俺はこのままいけばランス辺境伯領の領立学園に通うことになる。
ランス辺境伯領の学校は王立学園にも劣らない優秀な先生がたくさんいると聞く。
一度は学び終えた俺だが少し楽しみではある。
俺は騎士科だったので次は違う科に行きたい。
錬金術科か経営科も楽しそうだ。
「ならば我輩も行くとしよう。人族がどのような学びをしているか気になっていたところなのだ!」
「そうなんですか?まぁ、ついてくるのは大丈夫だと思いますけど」
魔獣医科もあるし、騎士科の中にも魔獣を使役して戦うことを専門とする魔獣士専攻もあるから魔獣を連れてくる生徒もいる。
「いや、我輩も入学する」
「それはさすがに無理だと思います」
「我輩は人型にもなれるのだ。それならば問題ないだろう?」
「えっ……?ニヴラは……そんなことも出来るんですか…?」
えっ、嘘だろ?
ワイバーンってみんなそんなことできるのか?
え…じゃあ、あの長いしっぽはどうなるんだろう…。
「獣人族みたいなものだろう」
「あぁ…なるほど?」
「ふふふふ…そのうち見せてやるからな!ありがたく思え!」
「ありがとうございます?」
「「「リュカ!!!!」」」
この声は……
「ヴォルフ…?」
「どうしたの…?そんなに慌てて」
ヴォルフが大通りにひとりでいるのは珍しい。
お使いにしては様子がおかしいが…
「俺、もうこの村出るわ。…じゃあな!」
「……え?」
「ぎゃぁ…?」
「わふ?」
……おいおいおい。
一体何がどうしたんだ。




