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 グェスリー男爵家は代々ランス辺境伯の領地のいくつかの管理を任されていた。

 いずれも主要都市ではなく小さな村や町ばかりだ。

 

 グェスリー男爵家前当主であるノーマンは良くも悪くもない普通の男だった。

 大きな野望をもつことはなく、言われた仕事をこなすことが好きな性分だった。

 

 妻のサラはそんな夫を常々つまらなく思っていた。

 

 サラは平民の出だったがとても美しかった。

 『もっと贅沢できると思ったのに…』というのが彼女の口癖だった。

 

 サラはノーマンを愛していないがノーマンは少なからずサラを愛していた。

 サラの心がノーマンに向いていなくとも美しいサラが傍にいてくれるだけでノーマンの心は満たされた。

 だからサラが浮気をしようとも口を出すことはなかった。


 しかし一度だけノーマンはサラを激しく叱責した。

 サラが年若い浮気相手に多額の金をつぎ込んだためだった。

 手こそあげなかったがそれはそれは鬼のような形相であったという。

 そしてノーマンはこのとき気が付いてしまった。

 一番恐れているのは愛する妻を失うことではなく、男爵家という自分の居場所がなくなることなのだと。

 

 幸い、そのときのサラの散財によって領地経営が傾くことはなかった。

 それからもノーマンはサラが贅沢をすることだけは許さなかった。




 男爵家を愛する父。

 イメストラは父に興味はなかった。


 浮気を繰り返す母。

 イメストラは母にも興味がなかった。


 両親に無関心な兄。

 イメストラは兄は好んだ。



 『お父様もお母様もおばかさんなんだなぁ…』


 イメストラは齢4つのときにそう感じていた。





 

 時は流れ嫡男であるボルターが男爵家の当主となった。

 ボルターは父とは真逆の男だった。

 


 ボルタ―はいつも野心に溢れ、自分の魅力も大いに活用する男だった。

 幸いボルタ―はサラの血を多く受け継いでいたので見目はいい。

 グェスリー男爵家は子爵家に成るのだと息巻いていた。

 

 そしてボルタ―は当主となるや否や早々に父と母を遠くの領地へ追いやった。

 ボルターは使用人からの信頼も高かったので反対するものは殆どいなかった。

 

 しかしボルタ―は妹であるイメストラだけは手元においた。

 イメストラはボルターにとって、唯一の愛する家族だった。





 「イース……あぁ…俺の世界で一番可愛い妹よ…!」



 

 「あらあら…私より可愛い子なんて山ほどおりますわ?ボルターお兄さま」

 

 齢19とは思えない少女らしさが残るイメストラは、困ったように笑った。


 「お前より愛らしい者などいるものか!あぁ…あいつにお前の愛らしさを煎じて飲ませたいくらいだよ…」

 「お兄さま…そういうことは言ってはだめです。お兄さまの大切な奥様なんですから」

 「人を思いやることができるのはお前の美徳の1つであるが…あいつが商会の娘だから婚姻を結んだのだ。俺たちの間に愛などない!」

 「そんなこと言わないで下さい…ね?生まれてくる子には…罪はないのですから…」


 「……そうだな。すまんイメストラ。俺は馬鹿な両親と同じ過ちを繰りかえすところだった…!やはりお前だけが心の頼りだ…」

 



 ボルターはイメストラを誰よりも溺愛していた。

 イメストラの少女のような愛らしい見目や人を思いやることができる美しい心が好きだった。


 しかしそれらは、ボルタ―が作り上げた幻想でしかなかったのだが…。







 「…ふぅ……」

 「おかえりなさいませお嬢様」


 イメストラは自室へ戻りソファへ深く腰かけた。

 執事長見習いであるポールは書類の整理をしていたようだった。

 ポールの見目は美しくはないが優秀でイメストラのいうことを何でも聞いてくれた。

 だからイメストラはポールを好んだ。

 


 「イメストラ様。紅茶をお入れ致しますか?」

 「ありがとうポール。…ほんとうに貴方は私なんかにはもったいない使用人ね…」

 「いいえ、お嬢様。お嬢様にお仕えできる私が幸せ者なのです」

 「違うわポール。貴方はこの家の執事長になる人なんだから、いずれこの家を出ていく私に時間をさくことなんてないのよ。私からお兄さまによく言っておくから、安心してね?」

 

 「お嬢様…」

 

 

 いずれこの家をでていくなどと言ったが、恐らくボルタ―はそれを認めないだろう。

 イメストラに対するボルタ―の執着は異常だ。

 否、そうなるように仕向けたのはイメストラ自身だが。


 両親が使えないと理解したイメストラは兄にその矛先を向けた。

 兄はいずれ当主となる。

 だから兄からの寵愛を逃すわけにはいかなかった。

 

 イメストラはそういった意味でとても賢い子だった。

 勉学に秀でているわけでも、錬金術に秀でているわけでもない。

 人の欲しがる言葉が感覚でわかる。

 ただそれだけだった。




「お嬢様、ナハロ村の視察はいつ参りますか?」


「そうね…」



 イメストラは2年前から男爵家の管理地の1つであるナハロ村の代官を任されていた。

 ナハロ村はこれといった特産物も興業もない小さな村だ。


 こればっかりは理解に苦しんだ。

 領地経営など学んだことがない自分を代官に任命するなど、兄は相当に自分を買いかぶっているようだ。

 加えて嫁に出したくない思いもあるのだろうが。

 優秀なポールを代官補佐としてくれなければ、イメストラは兄を嫌いになっていたかもしれない。


 イメストラは19。

 結婚適齢期まっただ中だ。

 しかし、愛のない両親を見て育ったおかげで結婚に興味がない。

 もちろん美しい殿方は好きだ。

 兄には知られていないが、王立学園で少しばかり男遊びも覚えた。

 その内何人かとは今も繋がっている。


 白馬に乗った麗しい王子様が自分を迎えに来てくれるならば、嫁に行ったっていい。 

 そうでなければ、領地のどこかを兄に貰って自分が好きなものに囲まれてのんびりと生きていきたいと考えていた。



 イメストラの行動の基準は、好きか、興味がないかだ。

 美しいものは好きだ。

 珍しいものも好き。

 自分を愛してくれる人も好き。

 興味がわかないものに時間をとられることはとっても嫌い。


 王立学園は美しいもので溢れていたので好きだ。

 まったく期待はしていなかったがナハロ村も好きになった。

 木こりの家の寄木細工は素晴らしかったので好き。

 誠実な男が情欲に溺れる姿も好き。ナハロ村の村長は元気だろうか。

 

  

「…明後日にでも行こうかしら。秋の納税前にいろいろ見ておきたいものね」

「承知いたしました。そのように村長にも伝えておきます」

「ありがとうポール。 それと…今夜は…………」

「………お嬢様のおうせのままに…」

「じゃあ……鍵をあけておくね………」 

「……承知致しました…」 


 



 男というのは本当に簡単に落ちる。

 イメストラが笑って手を握るだけで多くの男たちはイメストラに恋をした。

 極めつけは少女のような愛らしい見目に反する夜の姿だそうだ。

 イメストラよりも美しい女は沢山いたが、なぜかもてはやされるのはイメストラだった。



 これまで通り難しいことはポールに任せるとしよう。

 ナハロ村へ行くのは春ぶりだ。

 

「はやく明後日にならないかしら…」


 イメストラは人知れずにんまり深い笑みをこぼした。





**



「お初にお目にかかります代官様。私は村長補佐のパースと申します!」

「初めましてパース様。私は代官のグェスリー・イメストラです。どうぞイメストラと呼んでくださいね」

 

 イメストラはパースと名乗った男の手を両手で握り、笑顔で挨拶をした。

 

「代官様の麗しい御名前を僕ごときが呼ばせていただくなど、言語道断ですから」

「あら、そんなに畏まらなくて良いのに…」

 

 …へぇ?

 イメストラの笑顔に陥落しない男は久しぶりだった。


「あの、村長さんはいらっしゃらないのですか?」

「まことに申し訳ありません代官様…!村長は急に体調を崩してしまいまして…」

「それは大変だわ…どのような具合なのかしら?」

「はい。まず高熱が下がりません。それと……妙な吹き出物が体中にたくさん出来てしまって…」

「…それは心配ですわね。私にできることがあれば何でも仰ってくださいね?」

「勿体なきお言葉です」


 …なんだ、村長はいないのね。

 せっかく私が会いに来たというのに信じられないわ。でも吹き出物なんて、うつってしまったら恐ろしいものね…


「…では私は村人さんにごあいさつをして参りますわ。ポール、あとは宜しくね」

「承知いたしました」


 イメストラはいつもどおり護衛を連れて村の大通りへ向かおうとした。

 するとパースが走って追いかけてきた。


「代官様っ!もしよろしければうちの新しい使用人が是非ご案内いたします」


「あら、新しい使用人さんが?」

「はい!衛兵上がりの使用人でして、腕がとても立つのです!」

「そうなのね…」


 腕が立つだけなら男爵家の護衛で十分だ。

 重要なのはイメストラが気に入るか気に入らないかだ。


「ジェ、ジーク!こちらへ!」


 パースに呼ばれてひとりの男がやってきた。

 男はパースよりもずっと上に顔があった。

 イメストラはその男の顔を何気なく見上げた。


「…お目に係れて光栄です。私の名はジークと申します」


「まぁ……」



 イメストラの体に衝撃がはしった。

 

 イメストラは目の前の男から一瞬たりとも目を離すことが出来ない。

 

  


 …これほどの美形は王立学園にもいたかしら?

 なんて美しくも雄々しい殿方なの…


 短く切られた艶やかな亜麻色の髪。

 美しい額に相応な柳眉。 

 その下には涼やかな切れ長の瞳。

 形のよい鼻と薄く男らしい口もと。

 そして鍛え上げられた長躯。

 


 イメストラはもう、ジークに夢中だった。

 だから気が付かなかったのだ。

 ポールがイメストラとジークをじっとみつめていたことを。




「ご案内させて頂いてもよろしいですか?代官様」

「えぇ、お願いします…。それと…」

「はい」

「私のことはどうか、イメストラと、そう呼んでください」


 この男の艶やかな声で自分の名を呼んでほしい。

 頬を薄紅色にそめたイメストラはジークを見あげた。



「…私のような平民が…お呼びしていいのですか?」

「構いません。どうか私の名を呼んでほしいのです」

「では…イメストラ様」

「はい」


 イメストラは幸せだった。

 名前を呼ばれただけでこんなに幸せを感じられるならばこの先どうなってしまうのだろう。 


「私が村をご案内させて頂きますね。どうぞ腕を」

「お願いしますわ。ジーク」




 

 

 「もうすっかり夕暮れになってしまいましたね」

 「そうね…あっという間だったわ」



 イメストラにとって夢のような時間だった。

 ジークが隣にいるだけでちっぽけなナハロ村が光輝いて見えるなんて。

 


 ちらりとジークを見る。

 ジークは洋紙を見ていた。

 横顔もうっとりするほど美しかった。


 イメストラの胸が何度高鳴っただろうか。こんなにも手に入れたいと思ったのは初めてかもしれない。


 ナハロ村にまさかこんな美しい殿方がいるなんて思いもしなかった。村長も美しい男だったが、まったくもって比にならない。




「ではイメストラ様。村長の屋敷までお送りいたしますね」


 あぁ……もう、終わってしまう…。



「…まだ…帰りたくありませんわ」


 ……どうしたらこの男を手に入れられる?

 イメストラは必死に考えた。



「まだ気になるところがおありでしたか?」


「……違います。貴方と……まだ離れたくない…」



「イメストラ様……」


 ジークの瞳が揺れ動いてる。

 

 ……もう一押しなの。 

 なにか……





「いらっしゃいませー」


「!」


 イメストラの耳に呼び込みの少年の声が飛び込んだ。



「じゃあ最後に…あの酒場にいきたいわ」

「あの店ですね。承知しました」



 ”あれ”を使うしかない。

 イメストラは胸元のペンダントを静かに撫でた。



「2人だが、空いているか?」

「はい!どうぞこちらへー!」


 

 空いていたのは幸運にも一番奥の席だけだった。

 この席ならば他の客から見えない。

 イメストラは笑いがこみあげてくるのを必死に我慢した。



「この店は最近新しくできたのです」

「そうなのね」


 店内は他の客で賑わっていた。

 これも好都合だ。


「イメストラ様は何を飲まれますか?」

「こちらのぶどう酒をいただきますわ」

「承知しました。申し訳ありませんが私は下戸なので茶を頂きたく思います」

「それは仕方ないわ。ご無理をされてはなりませんもの」


 イメストラは内心肩を落としつつもジークの身を案じてみせた。

 

 ”あれ”と酒は相性が良いのに…ついてないわね。

 素面ならもって2.3時間かしら…

 

「…ねぇジーク。貴方…婚約者はいるのかしら?」

「いいえイメストラ様。私にそのような人はおりません」


「こんなにも貴方は素敵なのに…ナハロ村の娘は本当に見る目がないのね…」

「イメストラ様にそのように言っていただけて光栄です」


 こんなに素敵な人に婚約者がいないなんてにわかに信じがたい。といって婚約者がいたらそれはそれで許せない。イメストラは架空の婚約者を想像しただけで怒りに打ち震えた。




「イメストラ様…大変申し訳ありませんが少し厠へ…」

 

 ジークが申し訳なさそうに中座の許可を願い出た。


「……あら、お気になさらないで?」

「何かあれば大声を出してください。私が絶対に駆けつけます」

「何もありはしないわ。気にせずにいってきて」



…フフフフフ…!!


 なんという幸運。

 笑いが止まらない。

  

 周囲に誰もいないことを確認するとイメストラは胸元のペンダントを”開いた”。

 そして、その”中身”をジークのグラスへと注いだ___





 「現行犯たいほーーーーーーっ!!!!」

  

 突然、少女の叫び声がイメストラに浴びせられた。




「な、」


 …確かに誰もいなかったはずよ……?

 どこからこの女はわいてきたっていうの…?!


「ほうほう~それは【眠り薬(上級)】ですね~?それ他人に飲ませたらいけないんですよ~??」


「な、なんなのあなたは?!」


「通りすがりの店員さんですよ~?まったく、代官様がこんなマヌケさんだったなんてね~。いやこれはむしろジェド(ジーク)の演技力をほめるべきじあんかな~?」


「…代官に向かってそんなこと言っていいのかしら?私が【眠り薬】を入れた証拠はあるの?」



「ありますとも。代官様」



「ジ、ジークッ…この女が私のことを…!!」



 …いや、待って?

 あの女は今なんて…



「彼女は天才錬金術師です。グラスの中の【薬物】を鑑定することなど容易いことですが?」

「てれる~!」



 …うそよ


 ジークが私を騙すわけ…




「詳しくは村長の屋敷で聞かせて頂きます」



「ジー……ク…あなた………」



 わたしをだましたの?





**




 両手を拘束されたイメストラは椅子に括りつけられた。



「こんなことをしてお兄様が黙っていないわよ!!!」


 なんという屈辱…!!!!

 男爵家の私をこんな目に合わせるなんて…ッ!!!!



「さすがにグェスリー男爵サマもかばいきれないと思いますよ~?なにせ現行犯であると同時に複数の容疑がありますからね~?」


「そ、そんなわけ………!!」


「もう潮時なのです代官様」

グレイ(村長)?!あなた体調は…?!」

「全て嘘だったのです。もう終わりです。貴女も私も」

「うそ……って…いったいなにが…」



「…私は村長がいない時点で気が付いていました」


「ポール………?」


「貴女は………私だけなのだと……仰っていたではありませんか…ッ!!!」

「あなたまさか……そんなことで……」

「えぇ!!貴女にとっては”そんなこと”でしょうね!!貴女がこの男(ジェド)を見たときに全てを理解しました」


「はあ?!なんだっていうのよ…??!!」

「”あんな目”をして数々の男をたぶらかしてきたのでしょう??!!この村長だってそうだ!!!」



「ま~ま~。痴話ゲンカはちょいとおいといて、ね~?」

「これ以上は収拾がつかなくなる。代官様はひとまず牢屋へ連行します」



「ぜんぶ…あなたが悪いんだ……」



「フフフフ…ははははは!!この私が貴方を好きになるなんて本当に思ったのポール?なんともおめでたい頭だわ!!!」




「…頼んだ」


「「おう」」



そしてイメストラは駆けつけた衛兵によって連行されていったのだった。











 村長であるグレイさん、妻のメルザさん、補佐のパースさん、ジェドさん、ロロ、そして先代村長のマクイッドさんと俺が話を聞くことになった。

 ちなみに俺の今日の役目はジェドさんと代官が最後に寄った”嘘の”飲み屋で店員をすることだった。

 




 …というかあの上品なお爺さんはただの庭師じゃなかったんだな…。



 俺はこっそりマクイッドさんを眺めた。

 いつも麦わら帽子を被っていたので気が付かなかった。

 いわれてみると執務室にそっくりの写真があった気がする。



 …さて


 ここからはどう考えても子どもが聞いていい話ではない。

 なので俺は退席させられるかと思ったが…ジェドさんとロロが援護してくれたのだ。

 

 『この子はとても賢い。この子たちの世代が同じ過ちを繰り返さない為にもぜひ参加させてあげてほしい』

 そんなことを二人が言ってくれたのだ。

 

 二人がそういうならばと、他の大人の了承を得ることができたわけだった。





 その後、代官補佐であるポールがこれまでナハロ村で行ってきたことをポツリポツリはなし始めた。


 イメストラが好き嫌いで各店の税率を決めていたこと(やはり一番高い税率は六割だった)、

 自分が気に入ったものを”必ず”手に入れていたこと、イメストラご贔屓の商人をこの村に住まわせるつもりだった、ということを語った。

 

「恐らくだが……【薬】を多用していたのだと思う。今考えれば不自然な点が多すぎる…。グェスリー男爵家は金には厳しいのにあの量の商品を買うことは出来ないはずだ」



 ポールは元来冷静な男らしい。

 盲目的な恋というのは恐ろしいものだ。




「私は……」


 今度は村長がその重い口を開いた。



 村長の話によると、イメストラが来る日は決まって記憶が無くなるのだと。

 そして、”何故か”決まってベッドで目が覚めるのだと憔悴しきった顔で語った。


 そうして”既成事実”を何度も作らされた村長は、イメストラのいうことを聞くしかなかった。

 



 


「男爵家の娘と同衾していたことがばれてしまったら……私の家族は…村は………そう考えると…誰にも相談することが出来なかった…本当に……申し訳ない……」


「アンタ……何で早く言わなかったんだい!!!ずっとひとりで……こんなに痩せちまって………!!!」

「メルザ……」


「でも村のみんなには本当に悪いことをしちまった……みんなに合わす顔がないよ…」

「すまない…本当にすなまない…!!!!」

 

「…村長さんはもしかしたらいろんな【薬】を飲まされちゃったのかもしれないね~…」

「…やはりその可能性はありますかな?ロロさん」

「あると思います~。こんな家族思いの人があんな性悪女に…ああ失礼~」

「しかし、立証するのはさすがに不可能だろう?」

「残念ながらね~…時間が経ちすぎているよ~」


「でしたら…販売経路だけでも追えないでしょうか?」

「リュカてんさーい~!!諸悪のこんげんを探すぞ~!」

「そうだな。まずは“贔屓の商人”ってのを当たってみよう」

「お願いできますかな、ジェドさん」

「任せてください」








「…僕につとまるかな?」


「お前なら大丈夫さ。パース」

「グレイ……」

「わしもおる。今度こそ…力を合わせてこの村を守るのじゃ…!」

「…そうですね!みんなで力を合わせればなんとかなりますよね!」


 グレイは妻のメルザと一緒にメルザの実家で休養することとなった。

 その間、パースは村長代理を任されたのだった。


「リュカ…ギークのこと……よろしく頼んでもいいかい?」

 メルザさんの瞳が揺れている。


「もちろんです。ギークは僕の大事な友達ですから」

「ありがとうね…!!」


 


 その後、グェスリー男爵家はすぐにイメストラを除名した。

 妹を溺愛していたと聞いていたので俺は些か意外に思った。


 イメストラはどこかの修道院に入れられたそうだ。

 それだけでは収まらず、結局グェスラー男爵家は一代貴族に降格が決まった。

 

 そしてランス辺境伯は今回のことを重く受け止めた。

 代官の選定はかならずキース子爵が行うこととなった。








「…あの元代官のひいきの商人なんだが…」


 俺は今ジェドさんと並んで果実氷を食べているところだ。

 もちろんジェドさんの奢りだ。


「何か解ったんですか?」

「どうやら”フラウド商会”の商人だったらしい」

「フラウド商会……聞いたことありませんね」

「新しく業績を伸ばしている商会らしいが…黒い噂も絶えないらしい」

「そうなんですね…」


 今度調べてみるか…

 

 

「…お前今”今度調べよう”とか考えてないよな?」

「え、あ、まぁ…はい…すみません」

「そういうのは俺に任せとけって!俺には伝手があるんだよ、今回ので解っただろ?」

「…そうですね。宜しくお願いします」

「おう!」




「ジェドさん」

「なんだ?」

「一緒に巻き込まれて下さって、ありがとうございました」

「おう!約束したからな!」

「ジェドさんがいなかったらこんなにうまくいかなかったと思います。ジェドさんはナハロ村の恩人です」

「……別に俺だけの功績じゃないさ。みんなが苦しんで…みんなで頑張って勝ち取った結果だろ?」

「それは……そうかもしれないですね」



「あと、ジェドさんの素顔が村中の女の子にばれちゃいましたね?」

「隠してたのにな~…ばれると面倒くせーんだよな…」

「男前も度が過ぎると大変ですね」

「リュカお前…他人事だと思って、」




ギュゥウ…


「…ちょっと心配しました」


 俺はなんとなく、ジェドさんの胸に抱き着いてみた。


 俺は今回見守ることしかできなかったから。

 かなり歯がゆかったし、かなり気をもんだ。



「…リュカは意外に心配性なんだな?」


 俺を安心させるようにジェドさんは俺の頬を優しくなでた。

 なんだか猫になった気分だ。



「そう…なのかもしれません。とりあえず、これからも宜しくおねがいします」

「おう、まかせとけ」



誤りがあったので訂正しました!7/15

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