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10 悪い奴


「あ~、あの悪徳代官ね~!」


「悪徳代官…?今度ナハロ村にくるんだって。ギークが言ってたよ」

「そうなんだ~!じゃあニヴラさまはボクの部屋から出たらだめですよ~?」

「ほう……?我輩の自由を奪うとは……良い度胸だなロロ?!」

「ニヴラさまのお目に入れるのも憚られるいやーーーーな女なんです~!!」

「それは逆に見てみたくなっちゃうよ?ロロ」


 ロロもギークとサザと似たような反応をしている。

 その”悪徳代官”の名は『イメストラ』という女性らしい。


「代官が疎まれやすいのは解るけど、何でそんなに嫌われてるの?」

「あいつが差別ばっかりするからだよ~!」

「代官が差別したらだめでしょう…」

「ランス辺境伯の領地の税率の平均は30%から40%なんだけど~…」

「大体税率はそんなものじゃない?」

「ふむ。悪くはない」

「竜族も税金とかあるの?」

「あるぞ。人族のように貨幣ではないがな」

「興味深いですニヴラさま~」


「…一見いつも通りの税率にみえるんだけど~この数値はどうやら”平均”なんだよね~」

「つまり……税率が不当に高くなっている場所と、逆に、凄く安くなっている場所があるってこと?」

「さすがリュカ~大正解~!」


「じゃあ、ナハロ村の税率も三割くらいかな?」

「いや~?去年は50%くらいだってきいたね~風のうわさだけど~」

「それは………高いね」

「しかも~どうやらナハロ村の中でも税率に差があるみたいなんだよね~」


「え…?それは不公平じゃないか。税率は基本的に一律のはずだろ…?」

「ちなみにボクの店は60%だったよ~びっっくりだよね~」


「なっ…?!そんなばかな税率がまかり通るわけないよね…?!」


「ほぇ~…リュカが怒るの珍しい~…」

「何をいうロロ。そんなもの怒って当然だろう!」


「ニヴラさまも落ち着いてください~。貴族相手の”本業”の売り上げは”計上しなくていい”から大した損失じゃないんです~」

「それなら…良かったけど…」


 ロロの店の売り上げの殆どが”本業”である錬成業の売り上げだ。

 そこに税金がかからないならば、確かになんてことはない。



「…でも許せないよ」

「ワン!!!」

「そんな奴殺してしまえばいいではないか?竜族ならば愚行が解り次第死刑に処すぞ」

「高潔な竜族から見れば滑稽に思われるとおもうんですが~人族は何をするにも手続きを求める種族なんです~」

「全く面倒だな…」



「でも、さすがに証拠はあるでしょ?どこの店でも出納帳をつけているはずだ」

「それがね~…どうも”村の帳簿”が改ざんされてるみたいなんだよね~…」


「じゃあ…残念ながら代官と手を組んでいる人たちがこの村にいるってことか…」

「ボクも去年この村にきたばかりだったからとりあえず払っちゃったんだ~。村人さんのためにちゃんと調べてあげるべきだったよね~…反省~…」


「しょうがないよ、ロロ。ロロは越してきたばかりで人脈もなかったんだから」

「弟子になぐさめられた~!元気もりもり~~!」



「とりあえず、代官が来る日はニヴラは大人しくロロの部屋にいてくださいね」

「そうですよニヴラさま~!しかもアイツ収集家なんです~気持ちワルいですよね~?」

「え、もしかしてこの店に来たことあるの?」

「あるよ~。でも監査のときだけだよ~。ボクあのヒト嫌いだから、お店にいれてあげないんだ~」

「そんなことして大丈夫なの?代官てことは貴族かもしれないよ」

「貴族だってカンケイないよ~。この村の随所に【カンシカメラ】を設置してるからね~誰が来たかわかるのさ~!」

「さすがロロだ」

「【かんしかめら】とはなんだ?ロロ」

「ボクが造った”景色を記録する機械”ですよ~!」

「ほう!やはりロロは人間にしてはやりおるな!」


「ニヴラさまにほめられちゃった~~!」

「ロロは天才錬金術師だからね。それはそうとして、ニヴラは約束を守ってくださいね?」

「…何度もうるさいわ!どうせそいつは”穢れし魂”だ、そんな奴見たくもない。貴様は大人しくぱんを持ってこい!」

「じゃあニヴラが好きないちじくぱんも持ってきますね」

「……約束したからな?」

「はい。約束です」







「あぁ、あの代官様が来るの?」

「え…あ、そうみたい。ギークがそう言ってた」


 なんだかロロ達の反応とは全然違う。

 大らかなルーシュだってさすがに不当な税率をつきつけられたら烈火のごとく怒ると思うのだが…。


「あの人少し変わってるわよね!だからなのかしら?あの人のこと嫌ってる人多いものね~」

「…変わってる何てもんじゃないよ。ロロが税率が高すぎるって怒ってたよ」

「そうなの?ターニャも食堂のベニスも特に税率のことは言ってなかったけれど…?」


「………え?えっと、去年の税率はいくらだったの?」


「なんと20%なのよ!何故かは解らないけど安くなったの!たしか、代官があの人になってからなのよね~」

「…それ本当?」

「? えぇ、そうよ?『本当にこの税率で良いんですか?!』って、村長さんのところに何度か聞きに行ったぐらいだもの!」



 衝撃の事実を聞いた俺はしばし呆然とした。

 この小さな村の中で、税率が四割も異なるなんて…。

 

 ルーシュが不当に搾取されていなかったことは幸いだった。

 それは良かったのだが……

 


「リュ、リュカ…?!どうしたの急に怖い顔して…?」

「…ごめん。何でもない」



 木こり業のターニャ。

 食堂のベニス。

 この二人はルーシュと年の近い女性がいる家だ。

 今はそれくらいしか解らない。 

 代官はどんな差別をしてるんだろうか。


「…ねぇルーシュ。今の村長ってどんな人なの?」

「ギークのお父さんよ?とても真面目そうな人よね!」


 ギークのお父上か…。

 そういえば俺はまだ会ったことはない。

 

 しかし残念ながら俺は村長は代官の共犯者だと思っている。 

 ギークはあんなにいい子なのに、ギークを悲しませるなんて酷い父親だ。


 神父様にも話を聞きたいがいかんせん教会は納税とは無縁の存在だ。

 むしろ領主から村の収入の一割を運営費として貰っている。

 しかしもしかすると代官との接点があるかもしれない。

 明日教会へ行って話を聞いてみよう。



 しかしどう考えても俺とロロだけで代官に立ち向かうのは不可能だ。

 もう少し仲間が欲しい。

 ギークやサザは俺の仲間だと断言できるが、彼らは村長の身内なので立場が微妙だ。

 それに彼らは何も知らない可能性がある。

   

 誰か……頼りになりそうな大人はいないだろうか…………

 


 




 …………ジェドだ。




 ジェドがいるじゃないか……!



「…ルーシュ、少しだけ出かけていい?」



「うーん、もう夕方だけど……仕方ない!晩御飯までに帰ってきてね?」

「わかった」

「ワン!!」


 俺は全速力で衛兵の宿舎に向かった。







「誰もいないな…」

「ワン!」


 ものの数分で村のはずれにある宿舎へ到着した。

 しかし宿舎前の訓練場には誰もいない。 

 宿舎の扉も固く閉ざされている。 

 

俺がどうしたもんかとうろうろしていると誰かに話し掛けられた。


「あらかわいいわんちゃんね~。こんな夕暮れときにどうしたの?」


「こんばんは。僕はリュカと言います」


 おばさんは宿舎で働いているのだという。

 帰ろうとしたところで俺を見つけたと。

 

 俺がおばさんにジェドさんに会いたいのだと伝えると少し考えてから俺に向かってほほ笑んだ。

 そして『アンタが女の子だったら断っていたけど…特別だよ』と言った。

 どうやら村の女の子にとって兵士は憧れの的らしい。


「じゃあ、おばさんがジェドを連れてきてあげるわね!」

「ありがとうございます…!!」

「いえいえ」




数分後…



「…リュカ!クロ!久しぶりだな!」

「ワン!!」


 おばさんは本当にジェドを連れてきてくれた。


 ジェドは相変わらずはつらつとしていた。

 今はそれがとても心地よかった。


「ジェドさんお久しぶりです。いきなりごめんなさい」



「良かったわねリュカちゃん。ジェドは飲みに行く寸前だったのよ?」

「そうだったんですね…ごめんなさい」

「別に気にするな!酒はいつでも飲めるからな!」

「あらあら、酒好きのアンタからそんな言葉がでてくるとわねぇ」


「…ちょっとおばさん!それだと俺が酒狂いの男にきこえるだろう?!」

「まぁ、アンタは酒好きでも酒に弱いタチだからねぇ~」

「ほら!リュカの俺を見る目が変わっちまっただろ!」

「まったく良いのは見目だけで、小さい男だねぇ?そう思うだろリュカちゃん?」

「あははは…」

「わふ?」



「じゃあ私は帰るよ。じゃあねリュカちゃん」

「はい。さようなら」

「気を付けてなー!」

 





「…で、どうしたんだ、こんな夕暮れ時に?」

「あの…」


 何から話すか……

  

 仲間になってくれるのはジェドしかいないと思い勢いでここまで来てしまった。

 しかし冷静に考えてみるとこれはふつうに告発行為だ。

 村長は確実に捕らえられるだろう。

 父親が捕らわれたギークは…村人からどんな扱いを受けてしまうんだろうか…。



「……場所を変えようか。俺の部屋に来い」


 ジェドは何となく事情を察してくれたらしい。

 俺は頷くとクロを抱き上げ、ジェドの後に無言で続いた。






「…代官ともあろうものがなんと愚かなことを……!!」


 俺の話を黙って聞いていたジェドは怒髪天を衝かんばかりに怒り出した。

 ジェドも最近この村に赴任してきたらしく俺の話は寝耳に水だったようだ。


「でもジェドさん。証拠はそれぞれのお店の出納帳しかないんです」

「いや、大丈夫だリュカ。それは重要な証拠だ」

「本当ですか?」

「勿論だ。村の帳簿上と店の出納帳上の納税額は当然合致していなければならないからな」

「それはそうですね」

「加えて、食い違う村人の証言もまちがいなく証拠になる。同じ村の中で税率が異なることは、病気など特別な場合を除いて認められないからな」

「それを聞けて安心しました」


「それに…”税率50%”なんていう数字をランス辺境伯の優秀な財務官たちが見過ごすわけがない」

「そう思います」

「となると、確実に村の帳簿は改ざんされている」

「僕もそう考えています」


「『おたくの税率はどうでしたか?』なんて普通聞かない。自分のところはとんでもない税をもっていかれたのに、隣の家は『税が安くて助かりますね」なんて言われた日には…何も言えなくなっちまうだろうな。自分の家の収入は低いんだと恥じ入ってしまう」

「その通りです。不平等だからこそ村人は結託できなかったんだと思います」


 まったく酷いことを考えられるもんだ。

 いったい代官補佐は何をやってるんだ?

 みんなが必死に稼いだお金を不当に奪うなんて絶対に許されることじゃないだろう……

 

 ……あ、しまった。


 1人で考え込んでしまったことに気づき俺は慌てて顔をあげた。

 すると、こちらをじっと見ているジェドと目が合う。


「どうしました?」

「いや……お前は本当に賢いんだなと思ってな。感心を通り越して尊敬してたのよ」

「尊敬だなんてやめてください。何かの本で読んだんですよ」


「謙遜だな!村長の取り調べをすぐにでも行いたいところだが……それは日を改める」

「はい」

「こちらも準備が必要だ」

「そうですね」


 ジェドさんは自分に任せろと言ってくれた。

 こう見えて自分には貴族の知り合いがいるからと。

 俺には必ず事の顛末のすべてを話すとも約束してくれた。

 なんていい人なんだろう。

 俺が女だったら惚れている。





「…あの今更ですけど…ジェドさんは僕の話を信じて下さるんですか?」


 

「あっはっはっは!本当に今更だな?俺は人を見る目だけはあるんだ、お前は信頼に値する少年だから、信じるさ!」

「そういっていただけて嬉しいです。ありがとうございます」

「おう!そういうお前も俺に話して良かったのか?今さら聞かなかったことにしてやるのは無理だけどな!」

「僕も人を見る目はあると思います。ジェドさんは信頼できる大人だから、僕はここにきました」

「くぅーーーー……言ってくれるぜ!!とりあえず今日は送るから、お姉ちゃんのところに帰ろう」

「わざわざすみません。ありがとうございます」

「気にするな!ただし、一人で絶対に突っ走るなよ?」

「はい。ジェドさんも僕と一緒に巻き込まれてくれるんですよね?」

「おう!だから、約束だ」

「はい。約束です」








「こんばんはー!」



「はーい……!あら、リュカ…と…………」


「俺は衛兵のジェドです!俺が彼を引き留めてしまったので遅くなりました。どうか怒らないでやってください」

「は、はい…」


「じゃあまたな、リュカ!」

「はい。ありがとうございました」



 ジェドがいてくれて本当に良かった。

 なんと心強いことだろう。




「か……」



「…ルーシュ?どうしたの?」



「かっこいい……」


「そうだね。ジェドさんはかっこいいよね」

「ジェドさん……」



「………ルーシュ?」

「わふ?」


 ルーシュがぼーっとしている。

 珍しい。



「ルーシュ、どうしたの…?」

「あ、……いや、何でもないわ!さぁ、ご飯にしましょう!」

「うん」







 何事もなくイメストラが解任されますように。

 そして次の代官はまともな人でありますように。

 俺はベッドの中で創造神にお願いしたのだった。

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