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L23~L24

投稿23回目


●1日目●


 『異界のハサミ使い』。

 これが、年間一位を取った作品のタイトルだ。

 続きを書くからには、まずこの作品のことを、きっちりと理解しなければならない。


 主人公は28歳のサラリーマン、名前は『ヒラタ』。

 彼は冒頭で過労死。

 目覚めると、真っ白い神殿の中に立っている。

 周囲には、何十人もの人の姿。

 一体なにが起こったのかと誰もが混乱している中、天より女神が舞い降りてくる。

 女神は、その場にいる人々に説明を始める。

 これは罰だ、と。

 お前たちは神を信じぬ上、神に対して不敬を行ったから、罰を与えるのだ、と。

 その罰とは、魔物の闊歩する過酷な世界への転生である、と。


 女神は一人一人に罪状を言い渡し、異世界へと落としていく。

 ヒラタの罪状とは『神の住まう社を破壊し、上にマンションを立てたこと』。

 ヒラタが死ぬ直前にやった仕事の内容だ。

 しかし、それはヒラタの仕事というより、会社の仕事。

 自分は命令されるままにやったことだと主張するが、女神は聞いてくれない。


 異世界へと落とされる……という段階になって、一匹の虫が飛んでくる。

 それはヒラタが小さかった頃、死にかけていたのを見つけ、助けてあげたクワガタムシだった。

 そのクワガタムシ、実は世界の危機を救った英雄で、世界を救った功績を讃えられて神々の末席に加わった存在だった。

 そんな彼は、かつての恩人がピンチと見て飛んできたのだ。

 彼は神だ。だが所詮は末席に座る下級神。

 なので、異世界へと落とされるヒラタを助けることは出来ない。

 しかし加護を与えてくれる。

 罰として落とされる者でも、生前の功績によっては力を与えられることもあるのだ、と。


 こうしてクワガタムシ神の力を手に入れたヒラタの、異世界での冒険が始まる。


 それが、『異界のハサミ使い』の概要だ。


 神の力とはいえ、所詮はクワガタムシ。

 最初はとても弱い。

 だが、しかし魔物を倒して経験を詰む内にどんどん強くなっていく。


 その後、ヒラタは世界を旅しながら、仲間をどんどん増えていく。

 蝶のような羽を持つ、妖精族の巫女『アゲハ』。

 雷を操る巨人族の魔道士『ブロンテス』。

 トカゲのような鱗と尻尾を持つ女戦士『パイライト』。


 物語が進むにつれて、この世界ではあらゆる種族が二つの陣営に分かれて戦っていることに気づいていく。

 同時に、ヒラタの敵として、ある存在が出て来る。


 それがヒラタと同じような経緯で、蝿の神から力を貰った、元ニートの青年『クロバ』。


 クロバは、この物語における第二の主人公だ。

 物語の途中、神々が二つの陣営に分かれて戦っていると気付いたあたりで、ヒラタから彼の視点に切り替わる。

 善性が高く、優しさや思いやりで仲間を増やしていくヒラタと対照的に、クロバは暴力と悪意を用いて悪のカリスマとなっていく。

 綺麗事の多いヒラタの物語と違い、クロバは悪意にはより強い悪意を、暴力にはより強い暴力をぶつけることで勝利していく物語だ。

 つまり腹の底が煮えくり返るような性質の悪い輩を、より性質の悪いクロバが、よりダークな手段で倒していくわけだ。

 前半の物語とかなり変わるが、目には目よ、歯には歯をという言葉をまさに体現している展開は、これはこれで爽快感がある。


 その道中で、クロバにも魅力的な仲間が増えていく。

 岩のような肌を持つ岩石人の魔道士『ロジーナ』。

 片目に眼帯を付けたスズメバチ族の獰猛な戦士『スガレ』。

 三つの顔と六本の腕を持つスケルトン『アシュラ』。

 どいつもこいつも悪側のキャラだが、かろうじて悪人には思えない書き方をしている。


 善のヒラタと、悪のクロバ。

 二人はそれぞれ違う神に転生させられ、それぞれ違う方法で周辺の種族に認められ、そして同じようにまとめていく。

 そんな二人は、中盤に出会い、当然ながら衝突する。

 以後、二人はライバルとして、各地で戦いを続けていく。


 しかしさらに物語が進んだ時、二人はある事に気づき始める。

 この戦争は、何かがおかしい……。



 という所で、俺の持っているストックは終わりだ。

 これの続きを書かなければいけない。


 次の話は、恐らく、何がおかしいのかについて、だろう。

 もちろん、物語の中では、何がおかしいとか、そういうことは書かれていない。

 どういう結末になるかなど、俺にはわかるはずもない。



●92日目●


 三ヶ月ほどかけて、結末について色々と考えてみた。

 伏線や要素を抜き出し、まとめ、繋がる部分を導き出した。


 その際には、アイデアプロセッサとアウトラインプロセッサが役に立った。

 あれらは、まさにそういう事をするためのソフトだった。


 その過程で、一つわかった事がある。

 海外のドラマなんかで登場人物が掲示板に写真や新聞記事といった『要素』を貼り付けて、事件の真相を暴くシーン。

 ああいう事をする場合、一つ一つの『要素』は実際に起こった事件になる。

 つまり、実際に起こった事件をつなぎ合わせることで、それら全てと共通する真犯人を導き出そうというものだ。


 とはいえ、この作品は最後まで書かれていない。

 それどころか、途中で止まっている。

 どれだけ『要素』をつなぎ合わせた所で、真相が見えてくることは無い。


 だが、真相を導き出す必要は無い。


 なぜなら、これは創作だからだ。

 犯人も、事件も、共通項も、結末も、全て作者が作ってしまってもいい。


 もちろん、俺にそんな権利が無いことはわかっている。

 これは俺の作品じゃないんだから。

 本来なら、俺がやるべきではなく、この作品の本来の作者がやるべきだ。

 でも権利とか義務とか言っている場合ではないんだ。

 俺はそれをやらないと、出られないんだから。


 そういう言い訳をしつつも、俺は結末について三つの解答を導き出した。

 つまり、3パターンのエンディングだ。


 パターン1。

 戦争を引き起こしていたのは、その世界に奥底に潜む怪物が原因だった。

 怪物は人の悪意や殺意で成長する生物で、各種族を裏から操り、ずっと魔物を生み出し続けていたのだ。

 主人公であるヒラタは、悪であるクロバを倒すか説得するかして仲間にし、その魔神を倒すべく、世界の中心にある超巨大な大穴から地下へと潜る。(なぜか世界の中心には大穴が空いている)

 怪物は強敵だったが、罪人であるにもかかわらず世界を救おうというヒラタたちの心意気に、女神が力を貸してくれる。

 怪物を倒し、世界から魔物が消え、魔物が消えたことで各種族は争う理由がなくなり、平和になる。


 パターン2。

 戦争を煽っていたのは、二つの国の宰相だった。

 彼らの目的は、自分たちが世界の支配者となること。

 戦争によって各種族の力を減少させ、自分たちの種族だけ力を温存することで、最終的な勝者になろうとしたのだ。(その二人の宰相は、同じ種族)

 ヒラタとクロバはその企みを嗅ぎつけるも、時過でに遅く、二人の宰相は決起、他全ての種族に対して侵略戦争を開始する。

 侵略戦争によって各種族は滅びかけるが、ヒラタとクロバが手を組んだことで再起、大決戦にて二人を破り、世界は平和になる。


 パターン3。

 悪いのは神様だった。

 この世界は神様が作った牢獄であり、未来永劫、戦争が続くように仕組まれていたのだ。

 ヒラタとクロバは何らかの方法で世界の殻を破る方法を入手し、女神へと戦いを挑む。

 女神は強敵だが、最後の最後にヒラタとクロバに力を貸してくれたクワガタ神とハエ神が助けてくれてパワーアップ。

 二人は女神を倒し、世界は平和になる。


 個人的にはパターン1か3が好みだ。

 神様に関しては、プロローグに出てきただけで、中盤以降は名前すら出てこない。

 それが、最後の最後に出て来るのは、大きな伏線回収となる。

 よくあるパターンではあるが、一番綺麗に思える。

 1と3の違いと言えば、女神が敵になるか味方になるかというだけだ。

 なんなら、パターン3の女神の元にいくための方法が、大穴の奥底にあるとかでもいい。


 対して、2は中盤から後半にかけての展開を、最高潮に持っていく形だ。

 ヒラタとクロバは、長い時間をかけて色んな種族を仲間にし、戦力を蓄えてきた。

 恒常的に仲間にはならなかったものの、ゲスト参戦した種族も大勢いる。

 そんな彼らの仲間たちが集結し、軍勢という形で一つの巨悪にぶつかる。見せ場ができ、二人のやってきた事は無駄ではなかったとわかる。

 実に分かりやすい。


 とはいえ、どれが一番良いというのは、俺が判断することじゃない。


 全部書き、全部投稿する。

 その上で、一番ポイントが取れるものが、この作品の『真相』だ。



●93日目●


 執筆を開始した。

 まずは、パターン1からだ。


 他人の文体を真似るというのは、これが中々難しい。

 彼も、いわゆる素人作家だ。

 序盤と終盤で、文体が大きく違っている。

 俺のナチュラルな文章に一番似ているのは中盤あたりで、そのあたりが一番読みやすいと思うが、真似るのは終盤だ。



●150日目●


 一日中執筆を続けていると、まるで自分が、この世界にいない人間であるかのように思えてくる。

 急激に孤独な気持ちになり、急激に人に会いたくなる。

 誰でも良いから、話をしたくなる。

 今の俺なら、口汚い罵倒でも、喜んで聞くだろう。

 まぁ、聞いたらショックは受けるだろうが……。

 孤独の中で、いもしない人間について書き続ける。

 苦痛な作業だ。

 もし、ここが白い部屋ではなく、時間もループしないのなら、俺はきっともう投げ出しているだろう。

 あるいは、ブラウザで別のサイトを見ることが出来たら、ずっとそのサイトを見ていたかもしれない。



●210日目●


 作中で飯を食うシーンを書いたら、猛烈に何か食べたくなった。

 腹が減っているわけじゃない。

 ただ、何かを食べたいと思った。

 なんでもいい。とてつもなくまずくてもいい。


 俺がこれまで生きてきた中で、最もまずかったのはなんだったか。

 ああ、そうだ。あれだ。大学時代、知り合いがバーベキューをするというので、みんなで肉や野菜を持ち寄った。

 その中に、業務用スーパーで買ってきた冷凍肉があった。

 牛のもも肉だった。

 カチンコチンに凍りついたそれを網の上に載せると、溶け出した水分が落ちてジュージューと美味しそうな音を立てた。

 だが、美味しそうなのは音だけだった。

 臭いは、妙に生臭かった。

 それでも肉なんだかうまいに違いないと考え、食った。

 吐きそうになった。


 業務用スーパーが腐った肉を売っていたわけじゃない。

 解凍の仕方が悪かったんだ。


 だが、今はそれでもいい。

 あのゴムみたいに固くて生臭い肉を、口中いっぱいにほうばりたい。

 鼻の奥に抜けるツンとした匂いでえづいて、吐き出してもいい。


 机の足や、枕をかじるよりマシだ。



●270日目●


 枕の中にある綿を食べていると、口の中が荒れる。

 枕がなくなると、眠っている間に肩が痛くなる。

 夢見も悪く、怪物に襲われる悪夢を見た。


 だが良いこともある。

 悪夢をヒントに、怪物の設定を思いつくことが出来た。

 奴は地の奥底で眠る、おぞましい魔神だ。

 女神は大昔の戦いで奴を封印したが、奴を封印し続けるには莫大なエネルギーが必要だった。

 莫大なエネルギーは、人が生にしがみつき、抗えず死んだ時にのみ発生する。

 ロウソクは、最後に一瞬燃え上がる。

 あのイメージだ。


 そのために、女神は罪人をこの世界へと送り続けたのだ。

 仕方なかったのだ。

 そうでもしなければ、魔神が暴れまわって、全ての世界をめちゃくちゃにしていたから。



●340日目●


 書き終わった。

 全130話。

 完璧とは言えないかもしれないが、出来る限りのことはした。

 次は、パターン2だ。

 と、その前にループか。




投稿24回目


●100日目●


 戦闘シーンは使い回しができる。

 敵は違うが能力は同じ、一緒に戦っている仲間は違うが役割は同じだ。

 使い回しでも何も問題ない。

 それぞれのパターンは、一緒に投稿することは無いのだから。


 ヒラタとクロバの衝突に関しては、全てのパターンに存在するため、何も変えることなくコピーできる。

 平和になった後のパターンも一緒だ。

 ほんの少し、各キャラのセリフを変えるだけ。


 実際に2パターン書いてみてわかったが、基本的な流れはそう大きく変わらない。

 流用できるシーンも、多く存在していた。

 変えるべき所は、その繋ぎや、理由付け、説明。

 それさえわかっていれば、パターン2もすぐに出来上がった。


 この戦争は何かがおかしい。黒幕がいるはずだ!

 その黒幕とは誰だ……こいつだ! どーん!

 僕らが争っている場合じゃない、力をあわせて戦うんだ!

 協力してもらいたいんだったら、俺を倒してみろ! ばーん! 倒した! だがいい勝負だった。仲間だ!

 さぁ、巨悪が動き出した、でもそいつの所にいくには障害が!

 その障害はどうやって取り除くんだ!? そこでは今まで助けてやった仲間が力を貸してくれる!

 障害は取り除けた、巨悪の元にたどり着いた! 最終決戦だ!

 相手はとても強大だ、勝てない! でもその時、最後のピースが嵌まるように。何者かが力を貸してくれて……勝利!

 やった! 世界は平和になった! ハッピーエンドだ!


 あれ……。

 なんか陳腐すぎないか?

 パターン1を書いた時は思わなかったけど、これ、ちょっと幼稚なんじゃないか?

 もしかすると、面白くないんじゃないか?


 いや……まあいい。

 面白くないのも当然だ。

 何しろ、俺は素人なんだから。

 本来の作者の書くものに比べれば、そりゃ質も落ちるさ。

 そうだ。

 うん、そうだ。


 今、俺に必要なのは『最高に面白い小説』じゃない。

 累計一位を取るためのポイントだ。

 それ以上のものは必要ない。

 そして、ポイントを取るために『続き』と『完結ブースト』が必要だ。


 だから面白くなくてもいいんだ。

 無難でいい。

 今まで読んでいた作品が、予測は出来ていたとしても変な方向に進むことなく、伏線を回収し、無事に終わることだ。

 なんなら、期待はずれでも構わない。

 『小説を書こう』では、面白いからとポイントを入れる人は多くても、つまらないからとポイントを取り消す人は、ほとんどいないのだから。


 だからいいんだ。

 これでいい。

 余計なことを考えず、さっさとパターン3を書こう。



●145日目●


 ハエの描写で少し詰まった。

 ハエって、どんな形してたっけか。

 もう随分見ていないからわからなくなってきている。

 クワガタはイメージ通りのことをさせればそれっぽくなるけど、ハエってどんなだっけか。

 資料が欲しい……。



●147日目●


 ハエを題材にした作品を参考に、描写を進めてみた。

 『小説を書こう』には、小説とは思えない、資料の塊のような作品も多く存在する。

 それらの情報の信憑性はどれぐらいかわからないが、ひとまず正しいと信じてみるしかない。

 俺は読んでいて、正しいと感じたというか「そうそうこんな感じ」と思えたしな……。


 しかし、どうしてクワガタムシとハエなんだろうか。

 クワガタムシとカブトムシではダメだったんだろうか。

 いや、カブトムシには悪っぽさが無いからダメか。

 ハエはベルゼブブとかいるし、悪っぽさはある。

 クワガタが正義かと言われると、難しいが……。

 クワガタも黒いダイヤと呼ばれることはあるが……でもカブトムシの方が正義っぽくは無いだろうか。



●160日目●


 パターン3もかき終わった。

 最後のパターンはかなり早く掛けたが……まあ、戦闘シーンやエンディングなどは使い回ししているし、こんなもんか。

 大して労力は掛からなかったが、同じものを三回も書いているような感覚には、ひどくストレスを感じた。

 途中から2パターンあれば十分じゃないか、とか、まず最初の1パターン目で様子を見るべきだ、と心の声が響いてきたが、ぐっと我慢してかき終えた。


 どのパターンも、大体130話前後。

 元々あったものを合わせて、約400話。

 これを、350日目で完結するように調整し、投稿する。


 350日目にするのは、完結ブーストが数日続く場合があるからだ。

 この一年の間に累計作品の中で、完結した作品がある。

 そのポイントの増え方を見ていたが、完結ブーストは1日では終わらない。

 ポイントの増え方が落ち着くまで、平均して5日ほど掛かっている。


 『異界のハサミ使い』がどれだけ伸びるのかはわからないが、余裕を持って二週間見る。

 どれだけ増えるか。


 増えてくれ。

 頼むから。

 早くこの部屋から出たいんだ。


 そう思いながら、俺はリセットボタンを押した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >枕の中にある綿を食べていると、口の中が荒れる。 非常に参考になります!
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