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小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋 作者:理不尽な孫の手
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7/12

L21

投稿21回目

●1日目●

『100000pt達成:ディスプレイがアップグレードされました』
『感想1000件達成:キーボードがアップグレードされました』
『月間一位達成:マンス・ループが解除されました』
『四半期一位達成:ウィーク・ループが解除されました』
『年間一位達成:ワンデイ・ループが解除されました』


 今回は、パッと見で明らかに変わっている部分があることに気付いた。
 ディスプレイだ。
 二つに増えている。

 キーボードも、何やらゴテゴテとボタンが増えていた。
 今までに解除されたソフトを立ち上げるボタンがズラっと並んでいるが……。
 これ、逆に使いにくいんじゃないだろうか。
 使いやすそうなのはアンドゥ、リドゥボタンぐらいか。

 まあ、それらはさておき。
 今回、月間から年間までの一位を達成したことで、なにやら見知らぬ機能が増えていた。

 マンス・ループ。
 ウィーク・ループ。
 ワンデイ・ループ。

 字面だけを見れば、それぞれ一ヶ月だけ、一週間だけ、一日だけループできる、ということだろうか。
 とはいえ、見た所、どこを押せばそれが出来るかは、わからない。
 だが、リセットボタンは二日目から出現する。
 なら、ループ機能も二日目から使えるようになるのかもしれない。

「ひとまず、予定通りいくか」

 今回の作戦はこうだ。
 まず、予めコピーしておいた、いくつかの作品を投稿する。
 できれば、完結済みの作品がいいだろう。
 それらを順に、二ヶ月ほどの期間、投稿し続ける。

 どれも実績のある作品だ。
 投稿の時間さえ間違わなければ、月間一位か、うまくいけば四半期一位ぐらいは取れるだろう。

 その後、満を持して年間一位を取った作品を投下。
 ポイントの底上げが行われ、前回よりも多くのポイントを取得できる……というわけだ。

 ではさっそく、一つ目の作品から投稿を開始してみよう。


●2日目●

 ポイントはあまり期待していない。
 だが、それでもさすがはランキングに入った作品といった所か。
 初日だというのに十分すぎるぐらい高いポイントを確保していた。

 まぁ、それはいい。かなりどうでもいい。
 目先のポイントを取得するのが目的じゃない。
 一年後のポイントを取得するための土台を作るのが目的なのだから。
 もちろん、ある程度のポイントを取得するに越したことはないだろうが……。

 それより、各種のループボタンについて少しわかったことがある。
 といっても、ワンデイ・ループだけだが……。

 今日、朝起きると、リセットボタンが出現していた。
 リセットボタンは、2日目になると必ず出現する。それ自体はおかしなことではない。
 だが同時に、リセットボタンの隣に、もう一つ、ボタンが出現していたのだ。
 それはリセットボタンと同じようにカバーがしてあり、赤色で、しかし若干小さく、表面には1Dと書かれていた。
 ボタンを押したら、空からサイコロが一つ振ってきた……なんてことはなく、意識を失って4月1日に戻った。
 つまり、予想通り、このボタンは1日時間を戻すことができる、というもののようだ。

 また、ワンデイ・ループボタンの隣に、不自然にスペースが空いていた。
 ちょうど、ワンデイ・ループボタンが二つほど並んで設置してあってもおかしくないスペースだ。
 ウィーク・ループとマンス・ループはここに来るのだろう。


●30日目●

 予想通りだった。
 7日目には1Wと書かれたボタンが、30日目には1Mと書かれたボタンが出現した。
 今回はわざわざ押すことは無いが、これを使えば、いちいちリセットボタンで初日に戻らずとも、時間を調整して戻ることができる。
 何のために使うかは、今のところわからないが……しかし使いみちはあるだろう。
 必要な時に使うとしよう。


●70日目●

 さて、幾つかの作品を投稿した。
 どれも投稿方法は前回と同じ。
 日間ランキングも取得している。
 そして目論見通り、二つ目、三つ目の作品と投稿する度に、日間ランキング一位を取った時のポイントの増え方が大きくなっていた。

 やってみてわかったが、これは初期読者の数が増えたおかげだ。
 一つの作品を投稿すれば、読者の何割かは、それを書いた作者自体につく。
 面白いものを書いた作者が、次にまた面白い作品を書いてくれることを期待しているわけだ。
 つまり、ファンになってくれたってことだな。

 それが証拠に、俺が新しい作品を投稿すると、毎回同じハンドルネームを持つ人物が感想をくれる。
 今回は少し文体を変えたんですね。
 前回より面白いです。
 続きが楽しみです、と。

 作戦は成功だ。


●71日目●

 年間一位の作品を投稿し始めた。
 前回と同じ1日2回更新。
 しかし、取れるポイントは違う。

 今回は、初日に1万2000ポイントを取った。
 当然、日間一位だ。

 いける。
 そんな確信があった。


●75日目●

 勢いが止まらない。
 すでに五万ポイントを超えた。
 もう5日を過ぎたというのに、まだ1万ポイント以上入ってくる。
 夢のようだ。

 感想もたくさんきている。
 どうやら、そこそこ人気だった作家が、とんでもない大作を書き始めたと、ネットで噂になっているらしい。
 それに対する俺の感想はこうだ。

「どうでもいいな」

 もし、自分で書いた作品が、そんな風に噂になっていたら、もっと嬉しかっただろう。
 だが、所詮は他人の書いた作品を、そのままコピーして投稿しているだけ。
 褒められても、虚しいだけだ。

 さっさと累計一位を取って、この部屋から出たい。


●76日目●

 メッセージがきた。
 タイトルは『盗作野郎』。
 内容は簡潔に言えば「俺が書いていた作品を盗みやがって、許せない」といったものだ。
 前回のループでも似たようなメッセージは貰ったことがある。
 完全に頭のおかしい奴で、わけのわからない事をまくし立てていたのを覚えている。

 しかし、今回はそれとは別の人物だ。

 本来なら、いちいち名前なんて憶えていない。
 そんなメッセージなんて、言いがかりに過ぎない。
 いや、実際には言いがかりではないのだが、少なくとも「お前から盗んだわけじゃねえよ」と言い返したくなるような相手ばかりだった。

 だが、今回、俺はメッセージを送ってきた人物の名前を知っていた。

 メッセージを送ってきた人物。
 そのハンドルネームは『UNI-END』。
 前回、俺に応援のメッセージを送ってきた人物だ。

 それだけじゃない。もっと大切なことがあった。
 どうして憶えていなかったのだろうか。
 当時は、作品の方が大事で、作者の名前なんてどうでもよかったからだ。

 『UNI-END』。
 彼は、元々この作品……年間一位の作品を投稿していた作者だった。


●77日目●

 前回はあれだけ褒めてくれたのになぜ……?
 と、思えるほど俺は馬鹿じゃない。
 俺が干渉しない世界において、彼はこの作品を書いていたのだ。
 そして、ちょうどこれぐらいの時期に、日間一位を取っていた。

 前回は1日目から作品を投稿したから、書き始める前に自分の作品を見つけた。
 だが、今回は違う。
 二ヶ月もの期間を置いてから、投稿を開始した。

 そして、俺が投稿を開始した時、彼は恐らく、もう書いていたのだろう。
 書き始めていたのだろう。
 この作品を。
 将来、年間一位を取る作品を。

 しかし、それを投稿するより前に、俺が投稿し始めてしまった。
 彼は驚くだろう。
 発想が同じとか、アイデアが同じとか、そういう些細なレベルじゃない。
 細部に至るまで、まったく同じ文章が掲載されていたのだから。

 もちろん、証拠は無い。
 俺が先に投稿した。
 盗んできたのは、ずっと前のループだ。
 もし、この部屋が本当に時間を巻き戻しているのなら、コピーした痕跡だって見つからないだろう。

 だから俺はこのメッセージを無視して、投稿を続けるだろう。
 何事も無かったかのように。

 だが、俺の気持ちは別だった。
 ベッドにうずくまり、枕に噛み付いた。
 全身をこわばらせ、何度も壁を殴った。
 彼に罵倒されるのが、これほど堪えるとは思いもよらなかった。

 俺にとって、彼は光明だった。
 彼の作品はきっかけだった。
 この作品を見て、このやり方を思いついたのだ。
 そしてこの作品がなければ、きっと今に至っても、俺はこの部屋から出る目処が立っていなかったはずだ。

 俺は壁にすがりつきながら、祈った。
 あと少しなんだ。
 許してくれ。
 もうこの部屋にはいたくないんだ。


●110日目●

 彼、UNI-ENDさんは、『小説を書こう』を退会した。
 メッセージの差出人の欄が空白になっていたから、すぐにわかった。
 小説を書くのもやめてしまったのかもしれない。
 あるいは、俺にメッセージを送りつけたことが原因で、運営にアカウント停止処分にされたのかもしれない。

 彼はこれが原因で、小説を書くのもやめてしまったのかもしれない。
 だというのに、今日も俺は、彼の作品を投稿している。

 ……はやくこの悪夢を終わらせてくれ。


●150日目●

 どうにも旗色が悪い。
 ポイントは伸びている。
 だが、感覚でわかる。
 これは、届かない。
 前回以上のポイントは取れるだろうが、それだけだ。
 累計一位には、届かない。


●206日目●

 ストックが尽きた。
 結果は予想通りだ。
 ポイントは21万。前回よりも3万高い。実験は大成功。
 累計ランキングは11位。
 1と1が並んでダブルワンだ。ははっ。

 はぁ。

 さて、あと160日ある。
 思いの他、日数が余ってしまった。
 次のループに入る前に、次の計画を考えなければいけない。

 累計10位以内は見えた。
 だが、ここからが遠い。
 あと14万ポイント。
 気が遠くなるような数字だ。

 ここから、どうすればいい?
 何をすれば、ポイントを増やすことが出来る?

 ……アテが無いわけでもない。

 大抵の場合、ある程度連載が進んだ場合、ポイントの増加は停滞する。
 しかし、例外がある。
 どんな作品でも、ドカンとポイントが増えるタイミングがある。

 それは『完結』だ。
 物語を完結させること。

 『小説を書こう』はWEBの小説投稿サイトだ。
 そこに投稿するのは、当然、ほとんどが素人だ。
 素人の大半は、自分に扱いきれないような大作を書き始める。
 終わりなど考えず、ダラダラと物語をかき続ける。
 そして飽きる。あるいは実生活が忙しくなって書く時間を得られなくなる。
 理由は様々だろうが、とにかく更新が止まる。
 そう、大抵の作品は、未完結のままに更新を終え、放置されるのだ。

 俺もこうやって他人の作品を投稿し、それが途中で止まることで実感したが……。
 大半の読者は、できれば最後までやってほしいと思っている。
 物語の結末を見たいと思っている。
 そうじゃない読者も一定数はいるようだが、大抵の読者は、物語が完結する所を見たい。
 打ち切りみたいな中途半端な形じゃなくて、きちんとしたストーリーを辿った末の完結をだ。

 ゆえに、完結させると、ポイントが入る。
 今まで評価を入れてくれてなかった人も、評価してくれる。
 『小説を書こう』において、完結ご祝儀とか、完結ブーストとか呼ばれる現象だ。
 もちろん、目に見えて増えるかどうかは、どれだけ読者がついているにもよるが……。
 累計11位の作品ともなれば、その増加率は凄まじいことになるだろう。

 しかし、俺はこの作品を完結させることは出来ない。
 俺がこの作品の作者じゃないからだ。
 そりゃ、多少なりとも続きを書くことは出来るだろう。
 文体を真似て、それっぽく書くことも、きっと不可能じゃない。

 だが、完結は無理だ。
 俺はこの物語がどこに向かっているのか、知らない。
 各話に散りばめられた伏線がわからない。
 この物語の完璧な姿を知らない。

 大体、俺は素人だ。
 あんな凄い作品の続きなんて、書けるわけがないじゃないか。
 書いたって、どうせつまらないものが出来上がるだけだ。
 書ききれるかどうかすら、定かじゃない。

 ……いや、言い訳だ。

 本当は出来る。
 1日や2日では無理だろうが、今はこの部屋で、無限の時間を与えられている。
 本来の形とは違っていて、しかもずっとつまらないものになるかもしれないが、でっち上げることぐらいは可能だろう。

 でも、やりたくない。
 もうコレ以上、UNI-ENDさんを裏切りたくない。
 出来れば、この作品は、本来の作者の手で完結させて欲しい。


●300日目●

 あれから約100日経過した。
 何もしない日が続くのは、苦痛だ。
 できることと言えば、小説を読むことか、小説を書くこと、あるいはお絵かきソフトを使って、ヘタクソな絵を書くことぐらい。
 後は寝るか、意味もなく筋トレするか、妄想するか。
 とにかくできることが無い。

 腹は減っていないが、飯が食いたい。
 油でぎっとりしたラーメンを、思う様に貪り食いたい。

 人の声を聞きたい。
 友人の、あの他人を見下したような、鼻につく声を聞きたい。

 狂おしいほどの欲求が、俺を支配している。
 ベッドに横になりつつ、パソコンのディスプレイを見る。
 そこからは、煌々とした明かりが放たれている。
 扉の方を見る。
 相変わらず、開く気配の無い扉が、どっしりと構えている。
 部屋全体を見る。
 何もない、白い部屋だ。狭苦しくて、息苦しくて、何もなくて、白くて、狭くて……。

「……あああぁぁぁぁぁ!」

 俺は立ち上がった。
 パソコンの前に立った。

 俺には、続きを書く資格なんて無い。
 わかっている。
 UNI-ENDさんを裏切りたくもない。
 今だってそう思っている。

 この部屋から出たい。
 全てはその後だ。

 やろう。
 続きを書こう。
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