L4
投稿4回目
●1日目●
ふと気づくと、部屋の中央に立っていた。
憶えのある感覚だ。
ちょうど一年前も、この感覚を味わった。
あれ? と思った次の瞬間、もしかして、という感情が湧き上がる。
「まさか……!」
咄嗟にパソコンに駆け寄り、日付を見る。
やはりだった。
2017/04/01
ループしていた。
リセットボタンを押した記憶は無い。
デスクに倒れ込んだ時に偶然押してしまった? いいや、カバーがついているのだ、俺の体重ぐらいでは押せないだろう。
どういうことだ……?
何か、ループする条件がもう一つあるのか?
俺は、どんな条件を満たしてしまったんだ……。
作品をコピーするのがダメだったのか?
いや、それならコピーしている最中に、ループが発生するはずだ。
特に、運営にアカウントを停止させられるようなこともしていない。
仮にしていたとしても、画面にゲームオーバーと出るだけで、ループはボタンを押さないと発生しないはずだ。
思い出せ、他に何か無かったか?
あの日は……そう、確か365日目だった。
365日。ちょうど1年だ。
もしかすると1年、すなわち365日がタイムリミットで、それを過ぎると自動的にループが発生してしまうのだろうか。
ありそうな話だ。
でも365日か。
確認するのはちょっと大変だな。
まぁ、ひとまずそれは置いておこう。
何にせよループしてしまったのは間違いなく、すぐに確かめるのも難しい。
なら、少し予定とズレたが、ひとまず今回でどんな実績が解除されたのかを確認するのが先だろう。
そう考え、俺はデスクの前に座り、右下のアイコンをクリックした。
『1000pt達成:アクセス解析が解除されました』
『感想10件達成:描画ソフトが解除されました』
『終焉:ループデータビューワが解除されました』
ふむ。
アクセス解析は『小説を書こう』に連携しているものとほぼ同じものだ。
ワードプロセッサ同様、ブラウザを使わずに閲覧できるようになったって事だ。
描画ソフトは、文字通り絵を書くソフトだ。
小説を書く上で何の役に立つのかはわからない。
最後の一つ。
これはなんだろう。
終焉、ループデータビューワ……。
多分。推測になるが、終焉というのは、ループの最後まで到達したということを意味するのではないだろうか。
やはり、365日が1ループの終わりなのだ。
しかし、ループデータビューワ。
まるで聞いたことの無い文字列だ。
ビューワというからには何かを閲覧するソフトなのだろうけど……。
ひとまず、立ち上げてみるか。
そう思ってデスクトップに戻ると、見慣れぬアイコンが出現していた。
ファイル名は『ループデータビューワ』。
これに間違いないだろう。
ていうか、これで間違いだったらパソコンを叩き壊すしかない。
ループデータビューワを立ち上げると、見慣れぬ画面が出てきた。
左右に別れたウィンドウ。
左側のウィンドウには1回目、2回目、3回目という項目が並び、右側には何も表示されていない。
パッと見ただけだと、イマイチ使い方がわかりにくい。
試しに、1回目の文字をクリックしてみる。
すると、1回目の文字がツリー表示され、見覚えのある文字が表示された。
『Rhapsody of Egoism』
『久遠の潮騒』
『透明なる窓辺』
『監禁されています。どなたか通報をお願いします』
どれも、俺が最初のループで投稿した作品だ。
試しに、『久遠の潮騒』をクリックしてみる。
すると、右側のウィンドウに文字が表示された。
『4/11
投稿話数:日3 総3
感想:日0 総0
ブックマーク:日0 総0
ポイント:日0 総0
アクセス:日31 総31』
それだけだ。
イマイチわからない。
4/11というのは、この作品を投稿した日のことだ。
感想は0、ブックマークも0、アクセスは31件。
そんなにあったかな……?
と、思うが確かめる術は無い。
投稿話数の所をクリックしてみると、4/11日に俺が投稿した時間帯が表示された。
特に予約投稿をしたわけではないため、時間に少しずつズレがあるのがわかる。
とはいえ、一体これは何のために使うものなのだろうか。
どう活用しろってんだろうか。
そう思いながらカチカチとクリックしていくと、なんとなく機能が理解できてきた。
どうやら、このループデータビューワというのは、それぞれのループにおいて投稿した作品の更新日、更新時間 更新回数、感想、ブックマーク、ポイント、アクセスといった数値を記録しているものらしい。
何時に投稿し、何時から何時までにいくつアクセスがあったか、いくつ感想があったか。
そうした事がわかるようになっているのだ。
もっとも、機能がわかった所で、使いみちまでわかるわけではないが。
「ひとまず、追加機能はこれだけか……」
さて。
使えるかどうかわからない機能が解除されたが、本命はコレじゃない。
日間一位も取れていない状態で、大した機能が解除されるなんて思っちゃいない。
本命は、年間一位で解除される機能だ。
まず、俺が1年かけてコピーした、年間一位の作品のデータ。
これは、ループをしたにもかかわらず、きちんと2周目のフォルダの中に残っていた。
コピーしたのは3周目だが、3周目には『3周目フォルダ』が存在していなかったから、『2周目』のフォルダに保存しておいたのだ。
だから、間違っていない。
後はこれを投稿して、年間一位を取得。
ささっとループして、機能を解除。
解除された機能を使い、累計一位を目指す。
というわけで、早速投稿のための準備に取り掛かった。
今回のループは2~3日で終わるだろう。
●7日目●
おかしい。
思った以上にポイントが伸びていない。
ループが終わるまでにコピーしたのは全272話。
さすがに一回で全てを投稿しきるのは大変だから、1日に30話ずつ投稿しているが……。
どうにも、ポイントの伸びが悪い。
この作品は、確か日間ランキング一位を取った時は、7000ポイント以上取っていたはずだ。
一応、最初の30話を投稿した翌日は5000ポイントほど取得し、日間一位を取得。
ここまでは予定通りだった。
だが、その後は4000、3000と低下の一途を辿っている。
今日は800ポイントで、すでに日間ランキングは13位まで落ちてしまった。
それでも、すでに俺の今まで投稿した作品とは比べ物にならないほどのポイントではあるが……。
しかし、この作品はかなり数日間ランキングの上位に君臨し続け、そのまま年間ランキング一位を取った作品だ。
それにしては、やけにポイントの伸びが悪かった。
●11日目●
ダメだ。
今ある分、全てを投稿し終えたが、ポイントの上昇はせいぜい500ポイント前後。
500ポイント前後の増加は悪くない。
悪く無いのだが……。
累計一位どころか、年間一位にすら、全然足りなかった。
●12日目●
一体、何がダメだったのだろうか。
文面は全てコピーした。
前書きも後書きも含めて、全てだ。
年間一位の作品が、年間一位を取れない。
これほどおかしな事はない。
もしかすると、この作品を書いた奴は、何かズルをしていたのだろうか。
例えばリアルの知り合いに頼んで、ブックマークと評価を淹れてもらうとか。
まぁ、仮にそれをしたとしても、年間一位を取れるポイントにはならない。
俺のやり方が何か根本的にズレているのだろうか……。
いや、焦るのはまだ早い。
コピーしたのはこの作品だけじゃない。
月間一位を取った作品を3本、四半期一位を取った作品を1本、まだ残している。
それらを投稿してから、考えてみよう。
●34日目●
やはりダメだ。
どの作品も、前回のループで投稿されていた時に比べると、軒並みポイントが低かった。
となれば、俺の方が間違っているのだろう。
とはいえ、一体、何が間違っているのだろうか……。
●35日目●
ひとまず、もっとよく外の作品を見てみることにした。
内容ではなく、他の部分に関してだ。
彼らは何か、特別なことをやっているのかもしれない。
●39日目●
やらかした。
アカウントを乗っ取られた。
朝起きるとログオフされており、マイページにいけなかった。
ログオンしようとしても、パスワードが間違っていると言われるだけ……。
ユーザ名で検索して自分のページに飛んでみると、最もポイントの高い作品が削除され、別の作品が投稿されていた。
一瞬別のアカウントかとも思ったが、ユーザIDに見覚えがあったから、間違いないだろう。
ポイントがある程度高くなると、こういうこともありうるらしい。
やはり、高いポイントが取れるとなると、アカウント自体に価値が出て来るのだろう。
パスワードはちゃんと設定するとしよう。
まぁ今回はどうしようもないから、ゲームオーバーかな……。
●40日目●
すぐにリセットはせず、他の作品を見ながら色々と考えてみた。
落ちついて考えていると、いくつか、わかってきた。
まず俺の何がダメだったのか。
はっきりいって、30話も一気に投稿した事だろう。
日間ランキングの上位に入る作品を見ていると、基本的には1日に1~2話ぐらいを目安に投稿している。
なぜそれがポイントに結びつくのか?
そう聞かれると、俺もハッキリとした答えは出ていないが……。
言うなれば、雑誌で連載を追うのに似た感覚なんじゃないかと思う。
いきなり単行本を100冊積み上げられると、面白そうとか、早く読みたいとか思うより、時間が掛かりそうだなと感じてしまう。
しかし週に一度、1話ずつ読むのを10年間続けるのであれば、苦もなく出来てしまう。
むしろ毎日読みたいとすら思うだろう。
それが魅力的な作品であればの話だが。
あとは、投稿する時間帯も悪かった。
初めて投稿する場合、誰も知らない人間が、誰も知らない作品を投稿することになる。
誰も知らない。
ってことはつまり、誰のアンテナにも引っかからないということだ。
どれだけ面白い小説があっても、知らなければ読むことは出来ない。
それを知ってもらう方法こそが、宣伝だ。
『小説を書こう』には、宣伝をする機能がない。
もちろん、宣伝をしようと思えば、できないことはない。
例えば、他のユーザーに作品を読んでほしいとメッセージを送りつけるとか、他の作品の感想に自分の作品について載せるとかだ。
が、利用規約をざっと読んだ所によると、そういったことは禁じられていた。
じゃあ、どうやって無名の作者が無名の作品を読んでもらうのか。
『小説を書こう』において、新参者の小説が表示される場所が、一つだけある。
それが、トップページにある『更新された連載中小説』だ。
そこには新しく投稿された小説や、最新話が更新された連載小説が表示される。
表示されている時間はせいぜい10分かそこらといった所だが、とにかく表示される。
つまり、そのトップページに表示されている時間帯が長ければ長いほど、あるいは上に表示されるほど、多くの人に読んでもらう確率が上がるというわけだ。
さて、『小説を書こう』には、予約投稿という機能がある。
投稿したい小説を、決めた時間になると自動的に投稿できる、というものだ。
これによって、普段、仕事などの関係で人の多い時間に投稿出来ない者でも、毎日人の多い時間帯に投稿することが可能になる。
『小説を書こう』では、多くの者が使っているようだ。
しかしながら、この機能には弱点がある。
予約できる時間が、1時間毎なのだ。
なぜそれが弱点なのかというと……例えば、予約投稿を人の多い時間帯にセットするとしよう。
仮に19時とでもしておこうか。
しかし、人の多い時間帯に投稿しようという者は一人だけではない。
俺が思いついたのと同様のことをしようと考える者は、大勢存在する。
彼らもまた、19時に予約をセットする。
それがどれだけいるかはわからないが、『小説を書こう』のユーザー数はかなり多い。
20件以上の作品が、19時に予約投稿されるだろう。
でも、『更新された連載中小説』に表示されるのは10件しかない。
そう、溢れてしまうのだ。
その溢れを回避し、一番上に表示されるための技術。
それが1分後投稿だ。
これは一覧が更新された瞬間の時間から、最も近い時間に更新されたものが、一覧の最初に並ぶことを利用したテクニックだ。
まぁ要するに、1分後に投稿することで、『更新された連載中小説欄』の上の方に表示される確率が高まるということだ。
もちろん全員が予約投稿機能を使っているわけではないし、同じような技術を使う者もいるため、流れてしまう時はあるが……。
しかし、確率はグッと減る。
次回は、より人の多い時間帯を狙い、毎日2話ずつの投稿をするとしよう。
そう思いつつ、俺はリセットボタンを押した。