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L2

投稿2回目


●1日目●


 気がつくと、俺は部屋の中央に立ち尽くしていた。

 立ち上がった記憶はない。

 だが、何か、夢から覚めたような、そんな感覚が体を支配していた。


「あれ?」


 次の瞬間、強烈な違和感が俺を襲った。

 まず……そう、ベッドだ。

 俺が使っていたベッドはそれなりに乱れていたはずだが、きちんと整えられている。


 それから、デスクの端。

 異様なまでの存在感を放っていた、あれが無くなっていた。

 リセットボタンがなくなっていた。

 そう、先程押したはずの、あのリセットボタンがだ。


「……」


 何かおかしい。

 そう感じつつ、俺は恐る恐る、周囲を見渡した。

 何か変化していると、直感的に思った。

 注意深く、色んなものを見ていくことにした。


 まず扉。

 これは変化が無い。

 先程と同じように、固く閉ざされている。


 ベッド、これも注意深く見ていたが、先程以上の変化は無い。

 いつの間にか整えられていた、という程度だ。


 天井。変化無し。


 パソコン、これも……。

 いや、画面が変化している。

 いつの間にか【GAME OVER】という文字が消えて、デスクトップに変化している。

 デスクトップには、ここ最近ですっかり見慣れてしまった、【この部屋は、小説投稿サイト『小説を書こう』のランキングで一位にならなければ出られない】という文字列だ。

 試しにマウスを動かしてみると、マウスカーソルがスルスルと移動した。


 少しほっとした。

 先程はどんな操作も受け付けなかったからな。

 少なくとも、あの状態は解除されたということだろう。


「ん?」


 もう一つ。

 デスクトップ画面の中に、見慣れないものを発見した。

 それも、二つ。

 一つは、デスクトップ下部。

 そこに、黒い一本の帯が敷かれていた。

 タスクバーだ。

 ただ、俺の知っているタスクバーと違い、スタートメニューやアイコンが置かれているわけではなかった。

 だというのに、なぜそれがタスクバーだとわかったか。

 それは、右端に時刻と日付が表示されていたからだ。


 そこには、7:00 2017/04/01 と書かれていた。

 04/01。

 4月1日。

 おかしい。

 今日は4月26日だったはずだ。


 だがひとまず、それは置いておこう。

 時刻と日付の表示、その隣にある、1と表示のついたアイコン。

 たしか、wind○wsなら、これはアクションセンターからの通知だったはずだ。

 パソコンに何かがあった時に知らせてくれるやつだ。


 クリックしてみる。

 すると、画面の右側に大きなウィンドウが表示され、そこにはこんな文字が書かれていた。


『初感想:ワードプロセッサが解除されました』


 ワードプロセッサ。

 これはw○rdやら、○太郎といった、文章を書くためのソフトだ。

 前回、俺は『小説を書こう』のサイト上の入力フォームに直接書いていた。

 それとは別に、何かが使えるようになったということだろうか。


 よくわからないため、デスクトップにある、もう一つの見慣れないものについて確かめてみることにした。

 それは『小説を書こう』のショートカットのすぐ下に存在していた。

 フォルダだ。

 『投稿1回目 著者:あいうえお』と書かれた、黄色いフォルダ。

 何もかもが白いこの部屋の中で、唯一の黄色。


 フォルダの中を除いてみる。

 もう少し慎重に、という思いもあったが、ファイルならともかくフォルダなら、という思いが俺の手を動かした。まぁ、どうせ見ないという選択肢は無いのだから、さっさと見るべきだ。


 中は、さらにフォルダ分けがされていた。

 それらのフォルダ全てに、見覚えのあるタイトルがついていた。


『Rhapsody of Egoism』

『久遠の潮騒』

『透明なる窓辺』

『監禁されています。誰か通報をお願いします』


 俺が投稿した三つの作品のタイトルと、最後に警察に通報してもらうように頼んだ時のタイトルだ。

 試しに、最初の作品のフォルダを開いてみる。

 すると、中にさらにもう一つ、フォルダがあった。

 『2017/04/05』

 何を隠そう、俺が『Rhapsody of Egoism』を投稿した日だ。

 いや、今日が本当に04/01だとすると、勘違いしていた可能性もあるが……。


 ともあれ、そのフォルダを開いてみる。

 すると、6つのアイコンが表示された。

 見覚えのあるような無いような、不思議なアイコンだ。具体的にいうとW○rdに似ている。

 ただ、それぞれのタイトルには見覚えがあった。

 『Rhapsody of Egoism』における、各話のタイトルだ。


 試しに1章を開いて見ることにした。

 1話目をダブルクリックすると、画面に見覚えのあるような無いようなアイコンが浮かび、すぐに縦書きの文字データが表示された。

 ワードプロセッサだ。

 もちろん、中の文字列をいじることもできた。


「なるほど、ワードプロセッサが解除されたってのは、こういう事か……」


 入力フォームを使うのと何が違うのかと言われると難しいが、とにかく『小説を書こう』のサイトを立ち上げずとも、文字の編集が可能になったというわけだ。


「……そういや、『小説を書こう』の方はどうなってるんだ?」


 正直、サイトを見るのは怖い。

 アカウントを停止されたのが最後の記憶だ。

 せっかくパソコンが直ったのに、また『GAMEOVER』と表示されて、動かなくなる可能性もある。

 とはいえ、ここまでの段階で、俺もなんとなく、察している所があった。

 恐らく……。


「……」


 生唾をごくりと飲み込んで、『小説を書こう』のサイトを立ち上げてみる。

 何事もなくトップページが表示される。

 そこで、俺は確信した。


「やっぱり、そうなのか」


 新着小説の一覧だ。

 そして、そこに書いてある、文字列。

 最新の新着小説の日付は、こう書かれていた。


 2017/04/01 7:01


 どうやら、俺はこの部屋にきた瞬間まで、戻ってしまったらしい。

 タイムループだ。



●2日目●


 一日使って、情報を整理してみた。


 まず、この部屋だが、時間の概念は存在しているが、食料の概念は存在していない。

 俺の腹が減ることはなく、餓死の心配は無い。


 出る方法は、恐らく『小説を書こうのランキングで一位を取ること』。

 そうすることで、扉の鍵が開き、外へと出られる。

 それで本当に出られるのかどうかはわからないが、とにかくそれを信じる他無い。


 ブラウザは『小説を書こう』以外にはアクセスできない。

 もしかすると、今後アクセスできるサイトが増えるかもしれないが、今の所は。


 『小説を書こう』のサイトで出来ることは、基本的に制限なく行うことが出来る。

 小説を投稿する。

 他の人の書いた小説を読む。

 小説を検索する。

 ランキングを閲覧する。

 『活動報告』という、サイトに付属しているブログを書く&読む。

 などなど、だ。


 会員登録して小説を投稿すると、『小説を書こう』の仕組みに従って投稿される。

 二日目になると、デスクの端にリセットボタンが現れる。


 何らかの条件を満たしてしまうと『GAMEOVER』となり、パソコンが使用不可状態になる。

 ひとまずゲームオーバーの条件の一つは、規約違反でアカウントを停止させられた場合、だ。

 その場合は完全に詰みであるため、リセットボタンでやり直さなければならない。


 リセットボタンを押すと、2017年4月1日7時に戻される。

 ただ、全てが元に戻るわけではない。

 その周回で投稿した作品が、フォルダ分けされて保存されるのだ。


 さらに、このタイミングで、パソコン内の機能が解除される。

 これは推測だが、ゲームにおける実績解除のような感じで、俺が何かを達成する度に、何かが使えるようになるのだと思う。

 初めて感想をもらうことで、ワードプロセッサが解除された。

 運が良かった。

 もし、一つも感想をもらえていなければ、自分が今まで投稿した作品の中身すら見ることが出来ない所だったろう。


 感想をもらった事で解除された。

 ということは、『小説を書こう』で活動を続ければ、他の機能も解除されていく、ということだろう。

 そして恐らくだが……その解除項目の最後の一つが『扉のロック』だ。


 つまり、俺はどうあっても、小説を書き、投稿し、ランキング一位を目指さなければならないというわけだ。



●3日目●


 ひとまず、今までの作品ではランキングに入るのは難しいとわかったため、新作を書くことにする。

 題材は何がいいだろうか。

 そうだな……こういう話はどうだろうか。

 舞台は宇宙。

 時代は未来。

 人類は宇宙開拓時代と呼ばれる時代に突入しており、政府は未発見の居住可能惑星や、鉱物資源の豊富な星を見つけると、大金を出す。ゆえに冒険家が次々と外宇宙へと旅立っている。

 主人公は冒険家の一人で、一隻のオンボロ宇宙船に乗り、一攫千金を夢見て旅している。


 よし、これでいこう。

 プロットは必要無い。構想は全て俺の頭の中にある。

 これは、俺が今まで書いたどの作品よりも面白くなるだろう。

 最高傑作の予感だ。



●30日目●


 なんとか書き終わった。

 かなり時間が掛かってしまった。大作だ。

 原稿用紙にして400枚近くあるだろう。

 他にすることが無いせいか、かなり執筆速度が早かった。

 コレほどの作品をこの速度で……やはり俺には作家としての才能があるのだろう。

 さて投稿するとしよう。


 っと、その前に会員登録をしないといけないな。

 SFを投稿するのだから、ユーザー名はもう少し凝ったものにしておこうか。

 デニム・ロッテンマイヤーなんてどうだろうか。



●31日目●


 ポイントが入らない。

 いや、まったく入らなかったわけじゃない。

 8pt入った。4人がブックマークしてくれたのだ。

 だが、それだけだ。

 感想も無い。



●33日目●


 そうだ、いいことを思いついた。

 前に別作品を読んだ時に見たが、作品の頭や前書き、後書きに、ブックマークに入れて欲しい旨や、評価を入れて欲しいという文言を入れておくのだ。

 作品を見た人が、全て評価を入れてくれれば、かなりの底上げになるだろう。



●35日目●


 運営から警告がきた。

 なんでも、作中にブックマークや評価を入れてほしいと書くのは、規約違反になるらしい。

 ひとまず、どれだけ効果があるのか確かめたいから、一週間ほどそのままにさせて欲しいと返信しておいた。



●36日目●


 アカウント停止になった。

 GAME OVERだ。

 最終的にどれだけポイントが増えていたのかを確認できず、どれほどの効果があるのかもわからなかった。



●37日目●


 そろそろ、認めなければならない。

 認めたく無いが、認めなければ先に進めない。

 いつまでも足踏みを続けることになってしまう。


 俺には、才能が無い。


 手なりに作品を書いても、爆発的な人気を得ることもない。そういう才能は無い。

 もしかすると、書いているうちに能力に大きな伸びはあるかもしれないが、少なくとも今の段階では、ランキングどころか、人に読まれることすらないのだ。

 違うやり方をしなければならない。

 小説に他のやり方があるのかどうかはわからない。

 だが、小説は人の手で作られるものだ。

 人の手で作られるものには、技術やコツ、手順や段取りが存在している。

 上達の方法もある。

 ゲームやスポーツと一緒だ。

 改めて、初心者のつもりで、1からやろう。


 俺は気持ちをリセットする意味も込めて、赤いボタンを押し込んだ。


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