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小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋 作者:理不尽な孫の手
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2/12

L1

投稿1回目

●1日目●

 俺は小説をよく読む。
 趣味は読書だ。
 基本的になんでも読む。ラノベも文学作品も、特に選り好みはしない。なんでも面白く感じるってわけじゃないがね。
 もっぱら読む方がメインであるが、何本か書いたこともある。
 なのでひとまず、かつて書いたことのある小説を書いて投稿してみることにした。

 文字数自体はそれほど多いわけではない。
 一度書いたことのある話だし、すぐに書き終わるだろう。
 人はなぜ生きるのかというテーマで、多角的な視点から深い考察を重ねた、哲学的な作品。
 俺の最高傑作だ。
 高校時代に書いたものだから一位を取れるとは限らないが、いい所までいくだろう。

 っと、思ったが、このパソコンには小説を書くためのソフトが存在していない。
 どうしたもんかと半日ほど迷ったが、どうやら『小説を書こう』には、備え付けのテキストエディタが存在しているらしい。
 それを使うためには、会員登録が必要だ。

 パスワードに、ユーザー名……。
 面倒だ、適当でいいだろう。どうせランキング1位になったら使わないアカウントだ。
 パスワードはabcde12345、ユーザ名はあいうえお。
 これでいい。


●2日目●

 朝、目覚めると、昨日までには存在していなかったものが目についた。
 赤いボタンだ。
 パソコンデスクの隅の方。
 そこに赤いボタンが存在していたのだ。
 服を留めるやつじゃなくて「ポチッとな」の方だ。
 ご丁寧にカバーまでついている。
 まるで、これを押せば核ミサイルでも発射されるかのような形だ。

 そして、そのボタンの表面には、はっきりとした文字でこう書かれていた。
 『リセット』。
 なにをどうリセットするのかはわからない。
 ただ、このカバーと、この文字列を見て、ああ、これを押せば扉が開くんだな、と思う馬鹿はそうそういないだろう。

 とても気になるが……押すのは怖い。
 ひとまず、ボタンのことは置いておこう。


●5日目●

 書き終わった。
 その間にわかった事だが、どうやらこの部屋の中では、食料の心配は無いらしい。
 というのも、腹が全然減らないのだ。
 かといって時間の感覚が無いわけではない。
 パソコンの内部時計は健在で、夜に近づくにつれて蛍光灯の明かりが調節された。完全に真っ暗になるわけではないが。
 ともあれ、1日、2日という概念もある。
 今日は4月5日。
 あれから4回睡眠を取ったので、俺がここに閉じ込められたのは、4月1日ということになる。

 ていうか、俺は3月末になにをしていただろうか。
 自分自身がいつまで普通の生活を送っていたのか、なぜか記憶が曖昧だ。
 ともあれ、はやい内にここから出た方がいいだろう。
 両親も心配する。
 仕事にも行かなければならない。
 さっさとランキング1位を取って、ここから出るとしよう。

 さて、投稿だ。
 タイトルは『Rhapsody of Egoism』。
 全6話。自分で見てもほれぼれするような傑作だ。
 ランキングをどうやって定めているかわからないが、見る奴が見ればわかる小説だ。
 明日になれば、すぐに外に出られるだろう。


●6日目●

 朝一番、ランキングを見てみる。
 ランキングにはトップページから飛ぶことが出来るようだ。
 早速、ランキングの一位のタイトルを見てみる。

「違う」

 一位は、俺の作品ではなかった。
 二位も違う。
 三位も。
 四位でもない。
 五位ですらない。

 まて、じゃあ何位なんだ。
 ランキング一覧から、自分の作品を探してみる。
 見つからない。
 見つからない。
 少なくとも、五十位以内にはいないようだ。

 ちょっとまて。
 どういうことだ。
 落ち着いて考えよう。
 例えばそう、ランキングがまだ更新されていないとかだ。

 そう思って何度かブラウザの更新ボタンを押してみるが、変化は無い。

 そもそも、このサイトはどうやってランキングを付けているんだ。
 ざっと見た感じ、このポイントというのがランキングに直結しているようだが……。
 一位の作品は30万ポイント以上ある。
 五十位近い作品も、10万ポイント近い。
 俺の作品は何万ポイントぐらいあるんだ?
 そもそも、このポイントってやつは、どうやって計測してる?

 調べてみる。
 こういう時は、マニュアルを読むんだ。

 すると、驚くべきことがわかった。
 ポイントが入る条件は二つ。
 一つ、会員登録したユーザーが、作品をブックマークすること。これで2ポイント入る。
 二つ、会員登録したユーザーが、作品の最後のページにある『評価』で点数をつけること。文章評価で5ポイント、ストーリー評価で5ポイント。合わせて10ポイント。
 つまり、ユーザー一人あたり、12ポイントを入れることが出来るってことになる。

 まぁ、それはいい。そういうシステムってだけだ。何の問題もない。
 問題は俺の作品のポイントだ。

 俺の作品のポイントは……0ポイントだった。


●7日目●

 昨日は、ショックのあまり寝込んでしまった。
 だが、仕方のないことだ。
 俺の作品は、ここの読者には高尚すぎたのだ。
 この一位の作品を見てみろ、冴えない社畜が異世界に転生して俺TUEEEする話だ。
 こんな作品をありがたがる連中に、俺の作品の良さがわかるわけがない。

 でもまぁ、大丈夫だ。
 俺の方がレベルを落としてやればいい。
 幸いにして、まだ書ける作品は残っている。
 最高傑作とは言えないが、まぁ、こいつらは、ちょっと落としたぐらいがちょうどいいんだろう。
 そうだ。
 そうに違いない。


●21日目●

 また0ポイントだ。
 これで3作品目。
 感想もブックマークもつかない。
 1ポイントも入らないということは、恐らく誰も読んでいないのだ。
 もしくは、この本物のように見えるサイトは実はダミーサイトで、読者など一人も存在していないか、だ。

 いや、そう断定するには、まだ早いか。
 少なくとも、表面上はちゃんと投稿できているように見える。
 他の作者の作品も更新されているわけだし、読者も作者も、確かに存在しているはずだ。


●23日目●

 いいことを思いついた。
 作品投稿に今の状況を書いて、助けを求めるのだ。
 警察に通報してくれるように頼むんだ。


●24日目●

 助けを求める文章を書いて投稿した所、ポイントがついた。
 2ポイントだ。
 感想ももらえた。
 「臨場感があります。これから先が楽しみです」
 だとさ。

 ひとまず、「早く警察に通報してくれ」と返信しておいた。


●25日目●

 運営から警告がきた。
 詳しいことはわからないが、俺は規約違反をしているらしい。
 該当する小説を削除、あるいは改稿しなければ、アカウントを停止すると書いてある。
 なるほどな。
 段々と理解できてきた。

 恐らく、俺が作品を投稿すると、俺をここに閉じ込めた奴の所に送られて、そいつらが俺の作品を読んでやがるんだ。
 そして、俺が全ての作品を投稿し終わった頃に種明かし、俺を盛大に馬鹿にするって寸法だ。
 だからこうして、本気で警察に通報すると書かれると困る。
 運営という形を通して、それはルール違反だと言ってるわけだ。
 弱味を見せたのが運の尽きだ。

 だれが削除するか。
 お前らのしていることは犯罪だ。
 警察を恐れて震えて眠れ。

 運営を名乗る連中に、そう返事をしておいた。


●26日目●

 目覚めると、『このアカウントは規約違反により、運営によって停止されました』という文字列が出ていた。
 呆然と眺める。
 一体何が起こったんだ。
 そう思いつつ、何気なくマウスに手を伸ばす。

 マウスに触れた瞬間、画面がパチンという音を立てて切り替わった。

 GAME OVER

 赤字でそう書かれた画面へと。

 しばらく呆然としたのち、マウスを動かしてみる。
 何も起こらない。
 キーボードを触っても同じだ。
 うんともすんとも言わない。
 どれだけキーボードを叩いても、パソコンを叩いても、反応が無い。

 焦りが出て来る。
 俺は何か、取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
 だが同時に思った。
 GAMEOVER。
 つまり、ゲームは終わりだ。
 ここから出られるかもしれない。
 そう思って扉に取り付く。
 しかし、扉に変化は無い。押しても引いても動く気配が無い。

 何も変わっていない。
 ただパソコンが動かなくなった。
 何にも反応しなくなった。
 それだけだが、決定的に、何か大きなミスをしたことを理解できた。
 お前は一生ここから出られない。そう宣言された気がした。

 どうすればいい?
 どうすればやり直せる?

 そう思いながら周囲を見渡した所、ボタンが目にとまった。
 そう、初めて投稿した次の日に出てきた、あの赤いボタンだ。

 リセット。
 そう書かれたボタン。
 最近はあまり見なくなったが、昔のゲームにはリセットボタンというものが存在していた。
 それを押すと、一瞬でゲーム機の電源が切れて、オープニング画面へと戻るというものだ。

 俺は藁にもすがる思いで、そのボタンを見た。
 押すべきか、押さざるべきか。

 パソコンはもう動かない。
 扉は開かない。
 他に出来ることは無い。

 俺は一瞬だけ躊躇したが、ボタンのカバーを外し……。
 ゆっくりと、しかし力強く、そのボタンを押した。
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