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小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋 作者:理不尽な孫の手
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プロローグ


 気がつくと、見知らぬ部屋にいた。
 広さは四畳半ほど、決して広くは無い。
 白い部屋だった。
 全てが白かった。壁も天井も、ベッドも、デスクも、パソコンも、扉も、天井の蛍光灯も、全てが白だった。
 ただ、二つほど白くないものが存在していた。
 一つは、パソコンのキーボードの印字。
 もう一つは、パソコンのディスプレイに表示された文字。
 それ以外は、全て白だった。それもピュアホワイトだ。

「なんだ、ここ……」

 俺は、何気なくパソコンのディスプレイに近づき、そこに書かれた文字を読んだ。

【この部屋は、小説投稿サイト『小説を書こう』のランキングで一位にならなければ出られない】

 それだけだ。
 いや、よくみると画面の左上の方に、『小説を書こう』とタイトルのついたショートカットが存在していた。
 半透明の白で、非常に見にくかったが、確かにあった。
 マウスを手にとってクリックしてみようかとも思ったが、ひとまずそれは置いておき、俺は扉の方を見た。
 このディスプレイに書かれている文字の内容、「出られない」という文字が本当かどうか、確かめようと思ったのだ。

 扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けて、ひねる。
 ぐっと押すも、びくともしない。
 ぐっと引くも、びくともしない。

 鍵穴があるわけではない。
 扉と蝶番が触れ合う、ガチャガチャという音がするわけでもない。
 溶接でもされたかのように、ビタリとも動かなかった。

「開かない」

 そこで初めて、言い知れぬ焦りが出てきた。
 周囲を見渡す。
 この扉以外には、出入口が無い。窓すら存在していない。

 閉じ込められた。
 出られない。
 監禁、誘拐。
 なぜ、どうやって、何が目的で、誰が、いつまで……。
 様々な単語や疑問が湧き出し、そして消えずに残った。

 口の中がカラカラに乾くのを感じる。
 鼓動が早まり、息が荒くなるのを感じる。
 舌で歯の裏側を舐める。
 落ち着け、落ち着くんだ。

「ふぅー……」

 息を吐いて、もう一度、よく部屋の中を探る。
 枕の下、マットレスの下、ベッドの下、デスクの下、パソコンのディスプレイの裏。
 何を探すというわけでもない。
 何かがあるという確信があったわけでもない。
 ただ何か無いか、この状況を理解するためのヒントのようなものはと、そんな気持ちだった。

 何もなかった。

 ただ、一つだけだ。
 パソコンのディスプレイに書かれた文字だけが、俺の視界に照らされていた。
 そこでハッとなった。
 インターネットを使えば、何かわかるかもしれない。
 あるいは、誰かに助けを呼ぶことも……。

 俺は椅子に座り、デスクに向かった。
 真っ白いマウスを手にとり、はたと止まる。
 ディスプレイには『小説を書こう』とタイトルのついたショートカットのみ。
 タスクバーすら存在していない。

 ショートカットを起動するべきか、否か。
 これを起動すると、何やらとてつもない、嫌な方向に話が進んでしまう気がした。
 具体的にどうなるかはわからないが、罠である気がしてならない。
 マウスカーソルを四方八方へと動かす。
 特にランチャーが起動することもない。

 おかしい、普通のパソコンではない。
 そもそもこれは、Wind○wsでは無いのかもしれない。

 そう思って、デスクに乗っているパソコン本体を見てみる。
 これまた真っ白い、ミドルタワー型のパソコンケースだ。
 ネジや換気口なども存在していない。完全に密閉された箱だった。
 それどころか、ケーブルすら接続されていなかった。
 ディスプレイ側も同様である。
 もしかすると、これはパソコンですら無いのか?
 そう思えるが、しかし、触ってみるとほんのりと暖かく、そして何かが駆動する音が聞こえてきた。
 だから恐らく、これはパソコンなのだろう。

 ともあれ、こうなると手詰まりであった。
 あるいは乱暴者であれば、ディスプレイやパソコンを破壊し、内部を確認したかもしれない。
 だが俺は、そうした不可逆的なことをするほど、無鉄砲ではないつもりだった。
 あるいは、俺以上の知恵者なら、他に何か手を考えたかもしれないが、残念ながら俺はそう大した知恵者でもない。

 ゆえに、俺は『小説を書こう』のショートカットへと、カーソルを移動させた。



 『小説を書こう』というサイトは、株式会社テバサキケイカクが提供する小説投稿サイトだ。
 会員登録するだけで、無料で小説をウェブ上に公開することが出来る。
 全体的にシンプルなデザインから来る使いやすさや高いリーダビリティが利用者に高い評価を受け、またたく間に全世界に広がった。
 現在では地球上の五人に一人が『小説を書こう』を利用しているといっても過言ではない。
 生まれてくる赤子の内何人は、泣くより前に会員登録を済ませる。
 というのは、あくまで俺の友人の弁だ。
 過言に過ぎる。
 そう言うと、友人は言った。

「しかし、このサイトが数ある小説投稿サイトの中でも特にユーザー数が多く、人気が高いのは確かだ。現に『小説を書こう』に存在しているランキングの上位作品は、出版社から書籍化していたりする。だから僕も、このサイトで一発デカイのを当てて、プロの作家になるんだ」

 ……と。
 興味を持った俺は、彼にサイトのURLとオススメ小説をいくつか聞いて、サイトに赴いたのを憶えている。

 『小説を書こう』のショートカットをクリックすると、その時に見たサイトが表示されていた。
 『小説を書こう』のロゴ。サイト案内、質問版、ランキング、ユーザ登録、ログイン、お知らせ、新着小説、関連コンテンツ、などなど。
 あの日見たのと同じトップページだ。

 詳細まで知っているわけじゃないから、本物であると確信が持てたわけじゃない。
 ただ、試しに投稿されている小説をクリックしてみた所、普通に内容を読めた。
 何度かブラウザの更新ボタンを押してみると、新着小説のラインナップが更新された。
 俺には、本当に『小説を書こう』が表示されているように見える。

「ここのランキングで一位を取ってみろって?」

 独り言をしつつ思い出すのは、『小説を書こう』を教えてもらってから、一ヶ月ほど経過した日のことだ。
 俺は、彼にこんな感じのことを言った。

 まぁ、ぶっちゃけ言わせてもらうと、大した作品はなかった。
 正直、俺でも書けそうなものばかりだった。
 ランキングに入る? 誰でもできるだろ。

 そう言うと、彼は顔を真っ赤にして怒り、「ならやってみろよ!」と怒鳴った。
 その場ではひとまず「冗談だよ、冗談」と彼をなだめたが……。

 もしかすると、これは彼の意趣返しなのだろうか。
 いや、彼は少し自意識が肥大している人間ではあるが、前頭葉が肥大していて超能力が使えるわけではない。
 関係無いだろう。

 しかし、可能性はある。
 そう思い、俺は椅子から立ち上がると、扉の前に立った。
 息を大きく吸い込み、拳を握りしめ、扉を叩き、叫んだ。

「おい! 俺が悪かったよ! こないだの事は謝るから出してくれ!」

 扉の向こうにいるであろう誰かに聞こえるように、声を張り上げる。
 それから、扉に耳を付けて向こう側の音を聞いた。
 不気味なほど、何の音も伝わってこなかった。

「俺が何かしたなら謝るから、ここから出してくれ! 頼むよ!」

 何度かそうして叫んだ。
 だが反応は無い。
 もしかすると、この扉の先にあるのは壁か何かかもしれない。
 そう思えるほどの静寂が耳についた。

「……くそ!」

 やがて俺は扉を蹴りつけ、その場を離れた。

 パソコンの前へと戻ってくる。
 イライラとした気持ちで何気なくマウスを動かしていると、ブラウザ上部のURLに気がついた。
 そこには当然、『小説を書こう』のURLが書かれている。

「……他のサイトには、繋がるのか?」

 もし他のサイトに繋がるのであれば、こっちのもんだ。
 警察に通報してやる。
 最近はIPアドレスから住所を特定できると聞いたこともある。
 これは明らかな誘拐、すなわち犯罪だ。助けてもらえるだろう。
 そう思い、俺は世界一有名な検索サイトのURLを打ち込み、エンターを押した。

 一瞬の明滅。
 その後、ブラウザに表示されていたのは『小説を書こう』のトップページだった。

「なんだよ、これ……」

 その後、何度か同じURLを打ち込み、さらに知りうる限りのURLを打ち込んだ。
 最後には、適当な文字列を打ち込みまくった。
 だが、全て『小説を書こう』のトップページへと飛ばされた。
 恐らく、『小説を書こう』以外のサイトにアクセスしようとすると、トップページに飛ばされる仕組みになっているのだろう。

「ああ、もう」

 俺は苛立ちと無力感を覚え、椅子から立ち上がった。
 ベッドに座り、寝転ぶ。
 天井を見ながら、そのまま目を閉じる。

 そして考える。
 パソコンのデスクトップに書かれた文字が、本当か否か。
 すなわち、小説投稿サイト『小説を書こう』のランキングで一位になれば、出ることが出来るかどうかだ。
 あの文字列が、扉やこの部屋と関係している保障は無い。
 でも、少なくとも、ヒントはこれしかない。

 書けるだろうか。
 まあ、俺も中学校から高校にかけて、よくこの手の小説は読んでいたし、自分で書いてみた事もある。
 賞などに応募したことは無いが、まったくの素人ではないと言えるだろう。
 そして、ここにある作品は、ほとんどが素人の作品。
 書籍化してプロになった人もいるらしいから、中にはレベルの高いものもあるだろうが……。
 ま、ランキングで一位を取るぐらい、余裕だろう。

「書いてやるよ! 一位も取ってやる! だからちゃんとここから出せよな!」

 部屋の外に向かってそう叫び、俺はパソコンへと向かった。

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