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小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋 作者:理不尽な孫の手
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11/12

L???



 あれから何日経っただろうか。
 もう、時間の感覚が無い。
 いつしか俺は、『異界のハサミ使い』を投稿することをやめてしまっていた。

 やめたからといって、特に何をするでもない。
 『小説を書こう』の作品を読んだり、一日中寝転がったり、意味もなく筋トレをしたり。
 ベッドの足にかじりついて過ごしたりした日もあった。
 腹が減っていたわけじゃない。なんでもいいから口に入れたかったのだ。

 やれることは少なかった。
 出来ることと言えば、『小説を書こう』を眺めるか、小説を書くか、描画ソフトで絵を書くか。
 とにかく創作物を見るか作るかしかなかった。
 小説なんて見たくもなかったが、他にすることも無かった。
 一日の大半を、小説を読んで過ごし、残りの少しの時間で、瞑想したり奇行に走ったりした。
 『小説を書こう』の作品は大量にある。
 いくらでも時間を潰すことが出来た。

 とはいえ、それももう、終わった。
 『小説を書こう』の作品にだって、限りがある。
 なにせ、1年でループするのだ。
 2017年4月から2018年3月末まで。
 そこまでの間に投稿された作品しか、俺には読むことは許されていない。

 大体、すべて、読み終えてしまった。
 もしかすると、俺の知らない作品がどこかにあるかもしれないが、少なくとも、ランキングに乗っている作品は全て読み切った。

 お絵かきも上達した。
 プロ級とまではいかないし、決して性能のいいソフトではないため、対して綺麗にもならないが、俺の記憶にあるものなら、大体書けるようになった。
 ていうか、何日かに一度は絵を書かないと、忘れてしまいそうになるのだ。
 人の顔とかね。

 しかし、いずれ、それもしなくなった。

 俺は部屋の端で丸まって座りながら、見慣れすぎてしまった部屋を見ていた。
 音は無い。
 パソコンの動くぶーんという音も、ディスプレイから聞こえる小さな電気音も無い。
 ただ静かな部屋の中で、俺は対角線上にある部屋の角を見ていた。
 それが、この部屋の中で、一番遠い場所だからだ。

 おもむろに立ち上がり、走った。
 壁にぶちあたり、方向転換。
 三歩目を踏めずに壁にぶちあたった。

 拳を握り、壁に叩きつけた。
 足で壁を何度も蹴った。
 何度も何度も。何度も何度も。
 口を開き、喉から声を絞り出した。

「あぁぁぁぁぁ………」

 星空が見たかった。
 道を走りたかった。
 雨に打たれたかった。

 口を大きく開き、舌を突き出した。
 ……噛んだ。
 顎に極限まで力を入れて、歯をギリギリと肉に食い込ませた。
 電撃のような痛みが脳内を走り回るも、顎の力を緩めることはしなかった。
 鼻の奥に鉄の匂いが充満する。
 次の瞬間。パツンと音がした。
 喉に何かが詰まった。
 息をしようにも出来ず、膝を付き、喉を抑えた。
 鼻から息をしようとすると、大量の血が吹き出てきてそれもかなわない。
 肺の中の空気が全て吐き出されるも、新たに空気を吸うことは敵わない。
 久しぶりに得た苦しみ。とてつもない刺激に、脳が冴え渡る。
 しかし視界がどんどん暗くなる。
 どんどん苦しくなる。
 体が痙攣をし始める。
 倒れる。
 喉を抑える。かきむしる。
 苦しい。
 苦しい。
 し……。



 気づけば、部屋の中央に立っていた。

「……」

 指を口の中に突っ込んで、舌を触った。
 舌にざらりとした感触があり、指先が濡れた。
 俺はへたり込んだ。
 横になり、膝を抱え、顔を埋めた。
 自然と体が震え、涙が出てきた。

 死ぬことすら、許されなかった。



 投稿???回目

●1日目●

 それが何周目の事だったかは憶えていない。
 一日目だとわかったのは、後に日付を見てのことだ。
 気づいたら椅子に座り、気づいたら自分の作品を見直していた。

 自分の作品といっても『異界のハサミ使い』ではない。
 あれは俺の作品ではない。
 後半部分は俺が書いたが、作りかけの料理を勝手に完成させただけだ。
 食材も選んでいないし、料理も選んでいない。
 せいぜい、仕上げのソースを和風か洋風か選んだだけのものだ。

 俺が見ていたのは、もっと昔に書いたやつだ。
 タイトルは『よくある勇者の英雄譚』。
 俺がこの部屋にきて唯一、ランキングを取るために、ゼロから書いた作品だ。

 タイトル通り、実に平凡で、実につまらない話だ。

 当時は、この作品の何がダメなのか、イマイチわからなかった。
 だが、今はわかる。
 この作品は、ダメな所だらけだ。

 まずタイトル。
 『よくある勇者の英雄譚』。
 このタイトルからわかるのは、よくある物語って事だけだ。
 どういう主人公が、どういう立場で、どういう力で、どういう気持ちで、何をするのか。
 そういったものがまるでわからない。
 とはいえ、勇者や英雄譚といった字面は、そこはかとなくファンタジーを想起させるもので、このサイトの読者のニーズにはかすっていた。
 それが、他の作品と違ってポイントをもらえた要因だろう。

 あらすじもだ。
 作中に出てくる細々とした装備や魔法や種族の設定が書かれている。
 無駄に固有名詞や説明が入りすぎていて、実に読みにくい。
 そのくせ、どんな人物が、何をする話かって部分はわからない。
 設定をあらすじで説明する必要は無いのだ。
 その装備やら魔法やらが、物語の根幹をなす特殊なものならまだしもな。

 ダメな部分はまだまだある。

 全体的な文章がヘタで、読みにくい。
 いわゆる「主語・述語・修飾語」や「5W1H」、「てにをは」といった基礎が出来ていない部分が多くある。
 たまに、キャラクターが何を言いたいのかすら、わからない時がある。
 わかるのは、当時の俺だけだ。
 書いてから時間が経過しすぎていて、今の俺には解読ができない。

 また、改行も全然されていない。
 縦書きならまだしも、WEBブラウザでこれでは、読みにくくて仕方がない。
 文章の稚拙さも相まって、最初に数行で帰りたくなるだろう。

 主人公に面白みがない。
 善良で、正義感で、無趣味で、主体性も無ければ、信条も無い。
 いい奴ではあるだろう。
 だが、平凡すぎた。
 こいつなら何か面白いことをやらかしてくれるかも、という期待が持てない。
 どうでもいい奴なんだ。

 せっかく手に入れた能力を使う場面も少ない。
 平凡な男が、何かしらの力を手に入れた。
 これは本来なら、もっと面白くて、ワクワクする展開のはずだ。
 だが、主人公の主体性の無さも相まって、その力を使う場面がさほど多くない。
 気持ちの良い場面が少ないのだ。
 偶然手に入れた力より大切なものがあるというのが作品のテーマではあるが、それを出そうとする気持ちが先行しすぎてしまい、気持ち良さより、説教臭さが出てしまっている。

 キャラクターにも展開にも、驚きがない。
 一本筋が通っていると言えば聞こえはいいが、とにかく変化が無く、深みもない。
 例えば、作中に高慢な女騎士が出て来る。
 しかし、なぜ高慢なのかという説明は無い。
 高慢であると最初に決めたからだ。そこに理由など無かった。
 彼女は、作中で何が起ころうとも、高慢なままだ。
 例え主人公にボロ負けしようとも、自分の家が没落しようとも、絶対の自信を持ち続ける。
 彼女が心を揺さぶられることは無い。
 よって、どんな状況でも、行動が読めてしまう。
 行動が読めてしまえば、当然ながらストーリーも読めてしまう。
 緊張感のありそうな場面も特に緊張はせず、予定調和を感じられる。
 そのくせ、何かをしでかしても反省すらしないキャラクターに、苛立ちを覚えるレベルだ。

 ダメな所はまだまだある。
 上げだせばキリが無い。
 この作品を読んで、ブックマークを入れて、高い評価をつけようという人は、そうそういないだろう。
 それどころか、第一話を読んでくれるかどうかすら怪しい。

 何日も、このサイトのことだけを見てきたからわかる。
 この作品には、読者はつかない。
 ポイントも入らない。

 作品を店に例えると、客が入るような店構えになっていないからだ。
 客が入る店構え。
 それはつまり、店の前に何を取り扱っているのかが一目でわかるような看板やサンプルが設置されていて、入り口も入りやすいように大きく、しかも開け放たれている。外にはゴミ一つ落ちていなくて、ショーウインドウには目玉商品が並ぶ。
 商品を求める人が躊躇なく……そんな店構えだ。
 俺の作品は、そうなっていない。
 看板やサンプルには『すごい』とか『ヤバイ』といった文字が並び、入り口は小さくて地下にあり、鼠の死体が転がっている。ショーウインドウなんて存在すらしない。
 しかも、中に入っても良い商品が無いとくれば、客もすぐに回れ右して帰るだろう。
 リピーター? 冗談じゃない。

 俺は根本的なことを理解していなかった。
 だが、今ならわかる。
 どうすれば読者が入るのか、どんなのが読者が好むのか、わかる。
 そんな気がする。

 俺はマウスを操り、ワードプロセッサを立ち上げた。


●1日目-377●

 作品のテーマは非常に重要だ。
 このテーマ如何によって、その作品を読む人間の数が決まってくる。
 そう言われても、ピンとこないかもしれない。

 スポーツで例えると、野球やサッカーといったメジャーなスポーツは、やる人も多いし、やらないまでも観戦する人も多い、知らないけど興味はあるという人も多いだろう。
 しかし、名前も知らないようなマイナーなスポーツとなるとどうだろう。
 カバディやハーリングといった競技の作品を書いたとして、一体どれだけの人が興味を持つだろうか。読んでみようと思うだろうか。
 無作為に選んだ100人に、野球とカバディの試合、どちらが見たいかと訪ねたら、野球の方が多くなるのではないだろうか。

 『小説を書こう』の登録者数は百万人いる。
 百万人だ。
 トップページにそう表示されているから、間違いない。
 以前、友人の言っていた全世界の5分の1というのは流石にありえないが、百万だ。
 決して、少ない数ではない。
 百万もいれば、それはもう、様々な人がいるだろう。
 男、女、子供、老人、ゲイ、ノンケ、学生、医者、警察官、船乗り、研究科、ジャーナリスト、ドライバー、ミュージシャン、ニート……。
 そうした人々の多くが理解できるものをテーマにした方が、全体的な読者数は大きくなる。
 理解できないものをテーマにした作品より、理解できるものをテーマにした作品の方を読みたい人が多い。

 誰にも共通して理解できる事柄は少ないが、生きていれば、多くの人間が直面する問題は存在する。
 親兄弟、仕事、勉強、金、男女関係、死、友情、誇り、忠誠……。
 そういったものだ。
 それをテーマに据える。

 良いタイトルというのは、人の目につくタイトルだ。
 では具体的にどうすれば人の目につくかというと、印象が強く、興味深く、強い単語を使うのがベターだ。
 印象が強い単語は、星の数ほどある。
 いわゆる、パワーワードというヤツだ。
 見た人が、思わず自分でも口にしてしまうような、そんな単語。
 流行語と言い換えてもいい。

 しかし興味というのは、人によって違うものだ。コレといったものはない。
 だが、コミュニティ内においては別だ。
 コミュニティとは、あることに興味をもつ集団のことを指すわけだから、興味深い単語にも方向性が出て来る。
 例えば主婦の間では、『激安』だとか『限定』だとか『セール』といった単語が、興味深くて印象が強い単語になる。

 では、『小説を書こう』ではどうだろうか。
 このサイトでは、異世界ものが流行している。
 ファンタジー世界へと転生して、そこで生活を送ったり、勉強したり、冒険したりする。
 となれば、そう、異世界やファンタジーを想起するような単語が強くなってくるわけだ。

 剣、魔法、英雄、勇者、魔王、賢者、騎士、冒険、世界、最強、転生、転移、迷宮、下克上……。

 これらに、作品の特色やテーマとなる単語を付け加え、印象強く整えたものが、良いタイトルだ。


●2日目-377●

 多くの作品を見てきて、わかったことがある。
 タイトルとあらすじ、そして最初の数話で、その後に入るポイントの大部分が決まる。

 『小説を書こう』では、新規の作者が新規の作品を投稿したとき、30から180程度のユニークアクセスがある。
 ユニークアクセスというのは、端的に言うと、同じ人をカウントしない場合のアクセス数だ。
 つまり、初日に、まったく無名の作者の作品を見てくれる人の数というわけだ。
 そのうちの何割がブックマークを入れてくれることで、始めてポイントが入る。
 そして、実を言うと、ブックマークに入れてくれる確率というものは、基本的に大きく変わることはない。
 ランキングを登って人気になっても、アクセス数が増えるだけで、確率は変わらない。
 もちろん、他サイトでレビューされていたり、前に面白い作品を投稿してゲタを履いていたりすれば多少は変わってくる。
 だが、それでもタイトルを、あらすじを、第一話を読んだ後、続きを読むかどうかを決めるのは、読者だ。読者が自分で判断して、ブックマークに入れるのだ。

 では、どうすればその確率を上げることが出来るか。
 ブックマークを入れてもらえるのか。
 ブックマークに入れてもらうために、タイトル、あらすじ、第一話で必要な要素は何か。

 それは『期待』だ。
 ただ、期待させればいい。
 『もしかすると、この作品は面白くなるかもしれない』と、そう思わせるのだ。
 そう思わせることに成功すれば、タイトルやあらすじ、第一話を見て、「読まなくてもいい」と判断される可能性は減る。

 その上で、実際に面白い場面を見せる。
 それも、早い段階でだ。
 面白いかもと期待させられ、実際に面白い場面があった。
 なら、続きを読まない理由は無い。
 ブックマークを入れて、人によっては評価もつけてくれるだろう。


●3日目-377●

 これまでの理論は、全てある一点を達成することに集約している。
 ポイントを取る上で、最も重要なことだ。
 それは『読者の母数を増やすこと』だ。
 母数、すなわち分母の数である。

 いきなり、読者の母数と言われてもわからないだろう。
 順を追って話そう。
 あれはまだ俺に友人がいて、普通に会話とかできていた頃の話だ。
 もしかすると、その記憶は、俺の妄想かもしれないが……。
 まあ、それならそれでもいい。
 ともあれ、昔、ある人物が、こんな言葉を言ったのだ。

「漫画ならいいけど、文字ばっかなのはちょっと……」

 誰かに「この小説、面白いよ!」と勧めた時だったかな。
 誰に何を勧めたのかは、まるで憶えていないが。
 ともあれ、そいつはそう言って断った。
 当時は、単純に面倒臭いだけだろうと思っていたのだが……。

 そのことを思い出した時、ふと俺は気づいたのだ。
 もしかすると、そいつは、本当に文字を読めなかったのではないか、と。

 そう思ったのは『異界のハサミ使い』でもらった、ある感想が原因だった。
 あの作品は、大量の感想をもらっていた。
 その中に、明らかに、文章の意図を読み取れていないヤツがいたのだ。
 こいつは嫌がらせでこんな事を書いているのかとも思ったが、似たような奴が何人もいた。
 結局の所、俺の文章の方がおかしかったのだとは思うが、わかる人にはわかっていた。
 ということはつまり、世の中には一定数、文字で書かれた本を読めない人がいる、ということではないだろうか。

 いや、それは正確ではないな。
 漫画にだって文字があるし、彼らだってまったく読めないなら、わざわざ小説投稿サイトで小説を読もうとなんてしないはずなのだから。
 つまり正しくは、

 『難しい文章で書かれた本は、一定数の人が読めない』だ。

 例えば、ここに、クメール語で書かれた本があったとする。
 クメール語だ。聞いたことはあるだろうか。無いかもしれない。
 日本に住んでいる人の中で、その本を読める人は、何割いるだろうか。
 10%もいないんじゃなかろうか。
 仮にその本の内容が専門的なことだったとしたら、その1割未満の人の中で、その本に書かれている内容を理解できる人(読める人)はそう多くはないだろう。
 1%もいないんじゃなかろうか。
 もしその本に書かれているクメール語がスラングだらけだったり、筆者の文章力が致命的に低かったら?
 0.1%にも満たないかもしれない。

 クメール語というのはイジワルだったかもしれない。
 だが、例えば、六法全書だったらどうだろうか?
 特許を取得するための分厚い資料なら?
 相対性理論について書かれた論文なら?
 読めない人、つまり理解できない人がいても、おかしくないんじゃなかろうか。

 では逆に。
 「アン○ンマンの絵本」ならどうだろう。
 読めるだろうか?
 読もうと思うかどうかはさておき、読んでと言われたら、読めるだろう。
 なにせ日本語で書かれているし、全部ひらがなだし、やさしい言葉で書かれている。
 教育の度合いにもよるだろうが、小学校一年生ぐらいだったら、問題なく読めるんじゃなかろうか。
 幼稚園児でも、読み聞かせをしてもらっている子だったら、半分ぐらいは自力で読めるかもしれない。
 幼稚園児が読めるってことは、日本に住んでいる人間の9割以上は読めるって事になるんじゃないだろうか。

 なぜ読めるのか。
 「アン○ンマンの絵本」は、簡単だからだ。
 全て、簡単な文章で書かれているからだ。
 『読むことが可能な読者の母数が多い』のだ。

 『小説を書こう』で言うと、
 『小説を書こう』ユーザーの中で、現在稼働しているユーザーは何割か。
 その中で、『異世界』以外について書かれた話を読もう人が何割か。
 その中で、意味のわかりにくいタイトルやあらすじを見て読もうと思う人が何割か。
 その中で、説明文だらけの導入部分を読んで読み進めようと思う人が何割か。
 その中で、小難しく回りくどく書かれた文章を読める人が何割か。

 そんな感じで「総ユーザー数」から減らしていった先にあるのが、「読者の母数」になる。
 もちろん、異世界以外で、意味のわかりにくいタイトルで、説明文だらけの導入で、小難しく回りくどい文章が続くのなら、「読者の母数」は少なくなる。
 逆に、異世界もので、意味がわかりやすいタイトルで、説明が少なく没入しやすい導入で、ストレートで簡単な文章が続くのなら、「読者の母数」は多くなる。

 この「読者の母数」というのは実際の読者の数ではない。
 でも、この母数より実読者の数が増えることは、無いといえるだろう。
 だから、ポイントを増やすためには、読者の母数を増やさなければならない。

 具体的には、この読者の母数が10万人を超えなければ、累計一位を取ることは物理的に不可能だろう。

 累計上位作品をいくつか調べてみればわかるが、ブックマーク数に対する評価者の割合は15%~20%前後に集約している。
 評価点は文章・ストーリー合わせて9前後が多い。
 現在の累計一位のポイントは35万。
 10万人がブックマークを入れてくれたとして、20万。
 10万人中、1万7000人が9の評価をいれてくれたとして、15万3000。
 合わせて35万3000。
 累計一位を取ることが出来る数値となる。
 ちょうど、十万人でだ。

 10万人は、『小説を書こう』の総ユーザ数の10%だ。
 もっとも100万人全員が書こうを利用しているとは思えない。
 実稼働がどれぐらいかはわからないが、仮に半分にして20%。

 『全体の20%がブックマークを入れる作品』。
 そう考えると、少し厳しく感じるかもしれないが……。
 相手は幼稚園児ではない。
 小説投稿サイトに登録して、小説を読もうという人たちだ。
 しかも、難しいことを書くわけではない。
 不可能ではないだろう。


●7日目-377●

 多くの人が経験しやすい物事をテーマに据える。
 良いタイトルを付ける。
 あらすじと一話目で期待させる。
 数話以内に、実際に面白い場面を見せる。
 そうやって読者の母数を増やす。

 『異界のハサミ使い』は、それができていた。
 累計上位のほとんどの作品も、それができている。

 口で言うのは簡単だ。
 でも実際やるのは簡単じゃない。
 俺がそれら全てを成し遂げるのに、376回の試行を必要とした。
 だがひとまず、これで第一関門は突破したといえよう。
 日間一位だ。

 さて、ここからが勝負だ。
 ここからは、2点を同時に行わなければいけない。
 一つは、ブックマーク数に対する評価者の割合を上げること。
 もう一つは、読んでくれている人が離れていかないようにすること。

 ただ、これらはそう難しくない。
 単に面白い作品を書けばいいのだ。
 いや、難しいか。
 これが一番難しいか……。

 とはいえ、これに関しては明確な方法は無い。
 こうすれば確実に面白くなるなんて必勝法は無い。
 なぜなら、人によって「面白い」は、違うからだ。
 自分の感性を信じて、試行錯誤を繰り返していくしかない。
 これが面白いんだというのが、読者に伝わるまで。


●13日目-431●

 人が集中していられる時間には、限りがある。
 約40分から120分。
 個人差はあるが、それぐらいで疲れを感じたり、集中力がガクッと落ちてくる。
 読書に関しても、同様だ。
 40分から120分。
 120分集中していられる人は40分集中することも可能だから、40分としよう。

 日本人の1分間の平均読書速度は400~600字だそうだから40分で読めるのは、16000字~24000字ぐらいだ。
 1話の平均を5000字ぐらいに設定すると、3話~5話になる。

 この3話から5話の間に、話を一区切りさせる。
 話し合いのシーンでも、戦いのシーンでもいいが、3~5話以上は続けない。
 あるいは、何か一つでもいいから、読者に面白いと思わせるようなことを書く。読者に刺激を与える。
 それを繰り返すことで、読者は集中→休憩→集中のサイクルを繰り返しつつも、情報を途切れさせることなく、読み続けることができる。

 それに気づいたのは、どの作品を読んでいた時だったか。
 そう、ある作品を読んでいた時だった。
 あれは、そう、累計80位ぐらいの作品だったか。
 その作品は、素晴らしく面白かった。
 特に山場となるシーンはおおいに盛り上がり、このサイトで最も優れた作品なのではないかと錯覚するほどだった。ファンもたくさんいた。
 感想欄には、「この作品がこの順位なのはおかしい」といったものも並んでいたように思う。

 だが同時に、非常に長かった。
 一つ一つの話がとてつもなく長く、話の区切りまで読むのに、3~4時間ほどの時間を必要とした。
 それを休憩無しで読み続けるのは、非常に疲れることだった。
 面白い話のはずなのに全然内容は入ってこなかったり、「この話題、まだ続くのか」とげんなりしたり、一度読むのをやめて休憩し、翌日になって改めて読み始めると、内容が理解できず数話前から読み直したり……。
 最後まで読むのに、そうした事が多々あったのだ。

 集中力が3~4時間と続く人や、一度休憩を挟んでも内容を忘れないぐらい記憶力のいい人、通常の2倍の速度で文章を読める人。あるいは、読書慣れしていて、そういったものを受け入れられる人なら、それは何の問題にもならないだろう。

 だが、全ての人間がそうじゃない。
 読者の中には、疲れたり、げんなりとしたものを感じた時点で、読むのをやめるかもしれない。
 もったいないことに、離れていってしまうかもしれない。

 それを避ける。
 ゆえに40分。
 人の集中力が持続している間に、最低一つ面白いことを書き、話を区切るのだ。


●38日目-766●

 読者が楽しんでいるかどうか。
 面白いと思ってもらえているかどうか。
 作者が伝えたいことを過不足なく、かつ違和感なく伝えられているかどうか。
 それを確かめる方法の一つに、感想欄がある。
 日間一位を取れば、少なからず感想を貰えるようになる。
 律儀に毎回面白かったと感想をくれる人、矛盾点を指摘してくれる人、誤字脱字の指摘をしてくれる人、先の展開を予想する人、批判をしてくる人。
 色々いるが、批判には要注意だ。

 批判には3つの種類がある。
 単なる嫌がらせ。
 不快に思ったことや、気に食わない部分を素直に叩きつけてくるもの。
 言い方は厳しいが客観的で、正しいことを言っている人。

 思わず全てを無視したくなるが、無視していいのは最初の一つだけだ。
 二つ目のような批判は、極力減らした方がいい。
 普通に連載している分には、そういうものがあるのは仕方ないと割り切ってもいいが、俺の場合はダメだ。全てなくすつもりで書き直さなければいけない。
 最後の一つは最も重要だ。
 耳は痛くなるし、上から目線での指摘には心底ウンザリするが、しかし正しいのも事実だ。
 正しいのだから、聞き入れなければいけない。

 二つ目と三つ目。
 これらが、作品を直すヒントとなる。
 俺は一週間前へと戻り、それらを参考にして、最大限のポイントを取れるまで、改稿を繰り返すのだ。


●53日目-910●

 作品を直す際に、一つだけ気をつけなければいけないことがある。
 正しい指摘をした人が提示した解決方法が必ずしも正しいとは、言い切れないということだ。
 つまり、誰かに言われた通りに直しても、面白くはならないということだ。
 彼らは物語の全体像を知っているわけではない。
 こうした方がいい、という意見を言うことはあるが、それが物語の将来を見越してのことではないのだ。
 指摘と問題点は別にある。

 例えば、あるキャラがとても嫌なヤツだったとする。
 態度は悪いし、口も悪い、行動も余計なことばかり。主人公とも敵対する。
 当然ながら、読者の人気も低い。
 そんなヤツを主人公は許し、仲間にする。
 そうなれば、当然、感想欄は荒れる。
 なんでこんな邪魔で不快なヤツを仲間にしたんだ、仲間からはずせ、そして殺せと、不平不満を垂れ流す。

 だが、実際にそいつを仲間にせずに殺しても、別にスカッとするわけじゃない。
 キャラの性格を変えてマイルドにしても、面白みが減るだけだ。
 やろうと思っていた今後の展開にも支障をきたし、結果として、面白さが減る結果に終わりかねない。

 だからやるべきは、その嫌なヤツを殺すことではない。
 そいつがなぜ嫌なヤツで、態度が悪く、行動が余計なことばかりになってしまうのかを、掘り下げることだ。
 その上で、こいつにも少しはいい所もあるんだよ、というのを提示する。

 主人公はそいつのほんの少しばかりのいい所を認め、悪い態度や口を笑って受け入れ、許すのだ。
 嫌なヤツは、そんな主人公の器と懐の大きさに感銘を受け、主人公に対してだけは敬意を払うようになる。
 嫌なヤツからも受け入れられる。
 気持ちのいい展開だ。

 そこまで丁寧に書けば、読者も受け入れる。
 あとは、その嫌なヤツが真価を発揮するまで、物語を進めるだけだ。


●14日目-1244●

 人が集中している時間は40分。その間に一つ、面白いことがあればいい。
 それは間違いないことだ。
 だが、それだけではダメだ。
 それだけでは、ブックマークに対する評価の比率は上がらない。

 なぜなら、人は刺激に慣れるからだ。
 40分間で感じられる面白さがいつも一定だと、慣れてしまう。
 そう、飽きるのだ。

 これを回避するために、数十回に一度『凄まじく面白い40分』を用意する必要がある。
 普段と同じぐらいの面白さだな、と思わせるような話から、普段とは比べ物にならないぐらいの難所への挑戦が始まるのだ。
 どう転ぶかわからない、緊張しっぱなしの40分。
 テンションは一気に最高潮へと上り詰める。
 そして、それを超えた時、物語の核心に迫る謎が解明され、物語はさらなるステージへと以降する。
 それによって読者が得られる興奮度は、通常の数倍だ。

 これは、ギャンブルで得られる快感に近い。
 ギャンブルというものは(ものにもよるが)、ルールやセオリーを覚えるほど、大勝ちもしなければ、大負けもしなくなっていく。
 セオリーに従えば、トータルで少しずつ勝っていくことが出来る。
 自分の技量、実力で買っているような感覚は、物事に長く持続させる。

 だが、ある日、ある時、どうしようもなくいい手がくる事がある。
 当てると掛け金が何十倍にもなるような、大きなチャンスが転がり込んでくる事がある。
 震える手で金を賭け、心臓をバクバクさせながら結果を待ち……そして勝つ。
 大当たりってやつだ。
 そう何度も起こるものじゃない。
 数十回、いや数百回に一度がせいぜいだろう。
 だが、当たった時の快感は、日頃の小さな勝利などとは比べ物にならないほど、大きなものとなる。
 そして、人はその快感を体験すると、変わる。
 数百回に一度しか訪れない快感を得るため、ギャンブルをやり続けてしまう。

 思わず作品を読み続けてしまうような、宝の山場。
 それがあれば、人はその作品を、かけがえのないものだと思う。
 人に紹介したくなるほどに、面白いものだと思う。
 評価も入れる。

 だが、多くてはいけない。
 あまり多すぎると、人はその快楽にすら慣れてしまうから。


●88日目-1531●

 そうして、毎日、毎日、毎日、毎日、一話を投稿していく。
 最高の一話を投稿していく。
 一日二回、投稿していく。
 出来る限りの技術を使い、取れる限りのポイントを取っていく。
 取れるまで、何度も1日を繰り返し、書き直す。


●63日目-1890●

 だが、致命的なミスに気づく時はある。
 この展開は、どうあっても面白くならない、もっといい案があったと気づく時が来る。
 期待に応えておらず、予想を超えられなかった時もある。
 無駄な話を書いてしまったり、本筋と関係のない話が肥大化してしまったり……。

 そういう時は、大きく戻る。
 そして書き直す。
 前回よりも高いポイントが取れるまで、
 前回よりも面白い物語が書けるまで、
 何度でも戻り、書き直す。


●193日目-????●

 読者の意見を聞き、時には取り入れ、概ね王道を行き、時に邪道にそれつつも、外道にはおちず、進んでいく。
 歩いた跡はいびつな軌跡、誰も知らない物語。
 余裕はあれども無駄は無く、期待に応え、予想を裏切る。

 書けばかくほど、物語の規模が増える。
 物語の大きさに応じて、少しずつ作品も大きくしていく。
 一ヶ月前に戻り、土台をしっかりと固め直し、外堀を作り、内堀を作り、城壁を築いていく。
 風呂敷を敷き終わったら、城に着工。
 大きく、固く、堅牢に、難攻不落の要塞のごとく。

 そして物語が大きくなれば、城もまた大きくしなければならない時もある。
 時には城壁を崩し、内堀を埋め、外堀を埋め、城を崩し、土台を掘り返す時もある。
 もう一度やり直し、今度はもっと大きな城を築く。
 大きくなった分だけ、労力も掛かる。
 気の遠くなるような、長い作業を繰り返していく。
 飽きもせず、毎日、毎日、毎日、毎日。


●■■日目-????●

 今が何日目か、今が何周目か。
 まるでわからない。
 もはや気にもしていない。
 ただ、作品だけは進んでいく。

 毎日、毎日、毎日、毎日、投稿していく。
 最高の一話を二回、投稿していく。
 できる限りの技術を使い、取れる限りのポイントを取っていく。
 取れるまで何度も繰り返す。
 書き直す、書き直す。何度も何度も書き直す。
 ダメだと思ったら一ヶ月前まで戻り、書き直す。
 それでも無理なら、さらに一ヶ月。

 繰り返す。繰り返す。繰り返す。
 毎日、毎日、同じことの繰り返し。
 しかし、書いている内容だけは違う。
 彼らは毎日、何かしらのイベントをこなし、時に歴史を揺るがすような大事件に遭遇し、しかし大きく進むことはなく、少しずつ、少しずつ、着実に最終目的に近づいていく。


●■■日目-????●

 続く。
 続く。
 冒険は続く。
 失敗すれば、まるでセーブ地点からやり直すように戻り、彼らは正解の道を行く。
 彼らはそれを知らない。
 自分たちが何度もやり直し、時には大きな分岐点まで戻っていることも、知らない。
 大きな決断を、まったく違う結論で出したことも、知らない。
 ある出来事を、違う方法で、より劇的に解決したことも、知らない。
 冒険は続く。
 しかし、いつまでもじゃない。
 終わりは近づいてくる。

 最後の敵との戦いが始まる。


●■■日目-????●

 最後の敵は、とても強かった。
 主人公たちは、敵に勝つために、全ての力を出し切っていた。
 それでも勝てない。
 どうしても勝てない。
 しかし、彼らは知らない。
 ほんの一回前には、その敵を倒していたことを。
 ほんの二回前には、その敵に全滅させられていたことを。
 ほんの三回前には、その敵を倒していたことを。
 自分たちが本当に全力を出し切るまで、何度も何度もやり直していることを。
 敵が本当に全力を出し切るまで、何度も何度もやり直していることを。

 その結果、死闘となった。
 文字通りの、死闘となった。
 物語の最後を飾るのに相応しい、全力対全力の戦いとなった。
 どちらが勝ってもおかしくない戦い、誰が死んでもおかしくない戦い。
 その場にいる全員が、一度は死んだ戦い。

 勝ったのは、主人公だった。


●■■日目-????●

 世界に平和が訪れた。
 全ての国が、平和になった。
 戦争をしていた国も、内部でいがみ合っていた国も、飢饉で飢えていた国も。
 全て、平和になった。
 主人公たちは、そのための行動をしてきた。
 全ては偶然の行動であったが、全ては必然の結果であった。
 あらゆる事態が、この平和のために動いてきた。
 この世界における全ての問題は解決され、何の憂いも残すことなく、主人公は最後の決断に迫られる。

 この世界に残るべきか、帰るべきか。
 最初は、彼には帰る理由が無かった。
 元の世界はクソの掃き溜めのようなもので、何の価値も見いだせなかった。
 だからこそ彼は「ガチャン」。


 背後で音がした。


 俺の意識は、急激に作品から、自分へと戻ってきた。
 白い部屋。何も無い部屋。
 音もない部屋で、音が鳴った。
 どこから鳴ったのか。
 音の鳴った方向はどっちだ。

 そう思いつつも、俺は扉の前にきていた。

 幻聴だったかもしれない。
 きっとそうだ。そうに違いない。
 俺はこの部屋にきてから、何度も幻聴を聞いている。
 だから、そう。
 これも幻聴だ。

 だって俺は、まだ累計一位を取っていない。
 なら、この扉は開くわけがない。
 いや、でもどうだ。
 最近の俺は、日毎のポイントしかチェックしていなかった。
 全体的なポイントは、今日、いくつだった?
 前に見た時は、確か、そう、一番左の数が、3だったはずだ。

「……っ」

 生唾を飲み込みつつ、俺はドアノブに手をかけた。
 戻って、ランキングを見れば、一発でわかるだろう。
 だが、そうしなかった。
 俺はドアノブに手を掛け、ゆっくりと回し……そしてゆっくりと、引いた。

 あるはずの抵抗は、無かった。

「ッ……ハァ……!」

 心臓がバクバクといいはじめた。
 腕に力が入る。足にも、腰にも、胸にも、背中にも、首にも。
 全身に力をみなぎらせ、俺は思い切りドアを!

 戻した。

「っー、ふー、はー」

 深呼吸する。
 ドアノブに掛けられた手をゆっくりと戻し、手を放す。
 そして、後退りながら一歩ずつパソコンの方へと戻り、椅子に座った。
 マウスを握り、ランキングを確認する。

「取ってたのか……」

 一位だった。
 350221ポイント。
 誰が評価をしてくれたか、ブックマークをしてくれたのか。
 わからない。わかるわけがない。
 でも、確かにそこには書いてあった。
 俺の作品が一位であると、書いてあった。

 だが、同時に目に映った。
 一位との差は、たった数ポイント。
 もし、誰かが気まぐれでブックマークを戻したり、評価を取り消せば、すぐに2位に転落する。

 そうなれば、あの扉は閉まるかもしれない。
 もう二度と、一位は取れないかもしれない。
 出れるのなら、出た方がいい。
 今すぐに。一位でいるうちに。
 そのためにやってきたのだから。

「……」

 でも俺は、マウスから手を離さなかった。

 俺は、旅をしてきた。
 長い、長い旅だ。
 彼らと一緒に、旅をしてきた。
 彼らと会話をしたわけじゃない。会話は全て俺が決めた。
 性格、性別、趣味、得意なこと、不得意なこと。
 ありとあらゆることを、俺が決めた。
 そこに、彼らの意思など存在しない。
 でも、俺は、彼らと、旅をした。
 確かに俺は、旅をした。

 そして読者も旅をした。
 長いこと、俺の作品を応援してくれた人がいる。
 毎日毎日、感想を書いてくれた人がいる。
 常に批判ばかり書いてきたけど、ラスボスとの戦いを投稿した直後、一度だけ褒めてくれた人がいる。
 色んな人が旅をした。

 そして、彼も旅をした。
 彼も感想を書いてくれた。
 回数は少ないけど、心あたたまる言葉を、贈ってくれた。
 彼は、メッセージもくれた。
 俺にとって印象深い、決して忘れることの出来ない、あの人だ。
 彼は、俺の作品を好きだと書いてくれた。
 自分の作品を投稿しながらも、俺の作品を好きだと書いてくれた。
 俺も、彼の作品が好きだ。

 ……旅は終わらなければならない。

 つけっぱなしになっていたワードプロセッサに視線を映す。
 最終話は、今から執筆する。

 内容はこうだ。
 主人公、彼はこの世界に残るべきか、帰るべきかを決断しなければならない。
 最初、彼には帰る理由が無かった。
 元の世界はクソの掃き溜めのようなもので、何の価値も見いだせなかった。
 しかし彼は気付いた。
 元の世界も、この世界も、同じであると。
 どの世界であっても、避けられぬ事態はあると。
 喜しいこと、むかつくこと、悲しいこと、楽しいこと。
 どこの世界にいても、同じことがあると。
 この世界は平和になった。
 この世界の問題は、全て彼が終わらせた。あらゆることを、彼は終わらせた。
 問題はもう、何一つ残っていない。
 本当にそうか?
 いいや。違う。
 この世界には、問題が一つだけ残っていた。
 たった一つだけ。
 それは、彼にある。
 彼の問題だ。彼だけの問題だ。
 だが、この世界の救世主たる彼は、それも終わらせなければいけない。
 だからこそ彼は――。
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