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巨石遺跡とハズレのダンジョン

お久しぶりです。ノーパソが終了したり、IMacが沈黙したり、いろいろな山を乗り越えていました。個人サイト移転のお知らせを活動方向に記載させていただきます。

 御者台にアエリックとバノスが座るのを待たずに、ハズレの仲間たちは最初に襲撃された場所へと引き返していった。あの襲撃からもう四、五時間は経っただろうか。双子たちが岩場に戻ってからも、二時間は経過しているはずだった。

 片手剣を持ったコウキのすぐ後ろに、槍を手にしたユーリがルナを支えるように続き、小犬がそれを追いかけていく。


「大丈夫かな、ルナさん」


 何人もの治療を一人で行ったルナを心配して、一番後ろを歩くグレンが言った。彼が集めた武器は仲間たちが使い勝手の良さそうなものをそれぞれ選んでいき、残ったものも職人の双子が嬉しそうに抱えていった。

 今、グレンが手にしているのは、何の変哲も無い幅広の両手剣だ。円盤形の柄頭にも握りにも装飾はない。一方、ダガーを選んだエドガーは、腰のベルトに二本ほど差し込んでいる。


「おや、グレン君はルナさんのような女の子がタイプですか」


 ニヤニヤと口元だけで笑って、エドガーが冷やかしてくる。


「タイプとそういうことじゃなくて…」


 ハズレ仲間の三人の女子で、彼女が一番心配な存在というのが正しかった。ユーリは性別詐称疑惑があるほど男らしく、ミハルはサバサバと明るい。自分自身のことすらよく分からないまま、知らない世界に放り出されても、二人は逞しく順応していきそうだ。

 だが、ルナは怯えて、戸惑い続けている。

 グレンを含めた他の仲間が泰然と構えているので気にしなかったが、よくよく考えてみれば、彼女のような反応のほうが普通なのかもしれない。


「グレン君の気持ちも分かるよ。どうやらこの世界の治療方法と、僕らが考えている治療師の能力では、かなりの差異があるようだし、あの異世界人たちがルナさんの能力を言い触らせば、面倒なことになるかもね」


 エドガーの指摘にグレンはよけいに心配になってきた。


 最初に襲われた街道まで戻ると、護送兵たちの遺体は街道の脇で焼かれ、その煙が細々と夜空へと昇っていた。闇が生々しい殺戮の跡を隠してくれているのが幸いだった。


「俺たちが乗っていた馬車がないぞ」


 先頭を歩いていたコウキが不意に足を止めて周囲を見渡した。言われてみれば跡形もなく消えている。グレンが最後に見た時には、護送車は馬を殺されて横倒しになっていた。


「多分、双子が持っていったんだよ。道具も材料も手に入ったって喜んでいたから…」


 彼らの疑問に答えるようにエドガーが言った。鍛冶屋のコウゾ、石工のイワンの小柄な兄弟が、どうやってあの塊を持っていたのか、グレンは首を傾げた。


「おい、この死体の山はあの闇獣にやられた奴らか」


 ようやく追いついてきた馬車から、アエリックが大声で聞いてきた。


「そうだ。そっちの御者の老人も、俺たちの仲間がここで火葬にした」


 この数時間ですっかりリーダー的な存在になったコウキが答える。


「隊長、あの胸当ては神殿兵のものじゃ…」


 夜目が利くのか、バノスが荒野に放ったままの装備を見つけて指摘した。アエリックが目を剥く。


「なんで神殿兵が…まさかお前たちが殺した訳じゃないだろうな」


 あまりの言い草にグレンが咄嗟に言い返していた。


「むしろ、どうして僕たちが殺したと思うんですか?」


 大人しそうな青年の怒りに満ちた声に、馬車の中から綺麗な少女が顔を出した。


「アエリック隊長、今の発言は失礼ですよ。危険を顧みずに助けて下さった恩人です」


 貴族のお姫様に窘められて、警護隊長は「申し訳ありません」と頭を下げる。少女が顔を引っ込めると、苛立った表情のメイドが勢いよく窓のカーテンを閉める。その見下したような態度に、ハズレの仲間たちもさすがに苛立つ。


「グレン、行くぞ。もう、あいつらに関わるな」


 今のやりとりでコウキも貴族の一行と距離を取ることを決めたようだった。



 街道から隠れ家に選んだ岩場までは道らしい道もなく、馬車は思うように進めないようだ。彼らが苦労している間に、ハズレの仲間たちは一足先に岩場に辿り着いた。


「これは確かに人工物だな」


 遠くからでは分からなかったが、そこには五メートルから八メートルほどの高さの岩が八枚、お互いを支えあうように立っていた。岩場の周りはほぼ円形に整地され、古い石畳が何らかの文明の名残のように埋められていた。


「お、お帰り。遅かったな」


 岩場の中から双子の片方が顔を出す。


「イワオのほうだな。後から馬車が来るが中に入れそうか?」


 コウキは一目で弟のほうだと気付いたらしい。


「外から見るより中は広いぞ」


 イワオに手招きされて仲間たちは石畳の中に足を踏み入れる。その瞬間、グレンはカチリと小さな音が聞こえたような気がした。何か踏んだのかと足下を見るが、砂埃と剥がれかけたタイルがあるだけだ。


「どうかした?」


 先に進もうとしない彼に気付いて、エドガーが振り返る。


「何か今カチッて音がした気がするんだけど。いや、多分気のせいだと思う。それにしても、ここだけ随分綺麗だね。周りは岩だらけの荒れ地なのに、砂埃もあまり積もってない」


「そういわれてみれば…ここは特別な場所かもしれない。ほら、さっき隊長たちが何かの遺跡のようなこと言ってたし…」


 エドガーの言葉にグレンも思い出す。


「確か、レアムとかリアムとか言ってたね。随分古い感じだから、千年以上は昔の文明かもしれないな」


 古代文明かと思うと少しだけ気持ちが高揚するのを感じて、グレンは遺跡の中に入っていった。



「おお、本当に広いな」


「いや、広すぎだろ」


 誰からともなく呟きがあがる。岩場の内側は思っていた以上に広かった。いや、異常なほど広いかもしれない。外からは、馬車が二台も入れば、それでぎゅうぎゅうになるだろうと思えた。だが、実際は馬車二台どころか、二十台入っても余裕がある。

 それに外は闇に包まれつつあるのに、この場所は自然な明るさが保たれている。明らかにおかしい作りだ。しかも、何かいろいろ場違いな人工物が置かれていた。


「多分、この場所自体に何らかの空間魔法が掛けられているんじゃないのか。岩のあちこちに魔法陣が描かれている」


 そう言ったのは、焚き火の前で寛いでいるカエンだ。なぜか石作りのソファに座っている。その周囲には石のテーブルや椅子、竃まで作られていた。人工物の正体はこの石で作られた家具たちだった。


「凄いな、ひょっとして石工のイワオが作ったのか?」


 感心したようにユーリが声を上げ、石の椅子に腰を下ろした。


「座り心地もいいな。この石はどこから持ってきたんだ?」


 褒められて満更でもなさそうに双子の弟が頭を掻いた。


「石は地面の中から取り出したに決まっているだろ。俺は石工だからな」


「いや、意味が分からん」


 真顔でコウキが突っ込む。すると弟に代わって、兄のコウゾが説明した。


「イワオは土魔法が使えるようだ。石で作れるものなら、鍋でもコップでも何でも作れるぞ。俺は金属の加工が魔法で出来た。拾った武器を道具に変えて、あの馬車で女子用のベッドを作ってみた」


 少し離れたところに、石塀で囲まれた場所があり、中には馬車を切断して作った寝台が置かれていた。


「これはいいな、ゆっくり休める。ルナ、疲れているだろう。少し横になるといい」


 顔色の悪い治療師を心配してユーリが話しかけると、ルナは焚き火の側に座って首を横に振った。


「大丈夫です。後で怪我した人たちの様子を診たいですから…」


 ルナは馬の背に括られ運ばれている男たちを心配していた。そこに明るい声が響く。


「みんな、お疲れさま。野草のスープと堅焼きパンが出来てるよ」


 岩場に残っていたミハルだ。


「ああ、ありがたい!」

「腹減ったよ」


 職人の双子は大喜びだが、後から来たコウキたちには聞きたいことが沢山あった。


「取り合えず、どうやって飯の準備が出来たのか教えてくれ。もちろん食いながら…」



 ようやく合流したハズレの仲間たちに懇願され、ミハルは襲撃された直後からのことを話すことにした。


「私が商人見習いだってことは馬車の中で話したと思うけど、商人の能力の一つに鑑定があったみたいなの。この岩場に逃げてきた時、急に『壊れた結界』って浮かんできたのよ。それで、下を見たら岩場を中心に円形に石畳が残っていて…多分、昔は円の内側を守る結界があったんだと思うわ。それからは意識して物を見ると、鑑定できることに気付いたの」


「そうそう、それでミハルが岩場の周りに食える草があるっていうから、俺たちはそれを調理するのに必要な鍋とか竃を用意したんだよ。自分の職業を知った時から、何となく何が出来るか分かっていたし…」


 石の器に注がれたスープを飲みながら、イワオが続ける。


「草はともかくとして、水とパンはどうしたんだ?」


 穀物の粉を練って焼いただけの薄いパンを齧りながら、ユーリが尋ねる。


「この岩場の裏側に井戸があったんです。鑑定で『綺麗な地下水』と出ましたから、双子に汲み上げてもらいました」


 キラキラした目をユーリに向けると、ミハルが答えた。


「なんでそいつにだけ敬語なんだ?パンもここに材料があった訳じゃないよな?」


 小犬のロウガに千切ったパンを与えながらコウキが聞くと、双子の兄が説明した。


「壊れた馬車の屋根に積んであったぞ。穀物の粉と塩、あと壊れていたけど水の樽もあった。あの護送兵の食料だったんだろ。樽は修理して井戸のつるべにした」


「死んだ奴らには気の毒だが、運が良かったな」


 焚き火に馬車の一部らしい木片を投げ込み、カエンが呟く。


「異世界最初の食事にしてはお粗末だけどね」


 ミハルはそう言うが温かなスープを飲むことで、みな満たされた気持ちになっていた。ルナが遠慮がちに「ほっとしました」と囁いた。



「みんな、聞いてくれ」


 落ち着いたところでコウキが切り出した。


「改めて俺たちが置かれている状況を確認したいと思う」


 みなの視線が凡庸な容姿の村人に集まる。意識が自分に向いたことで、彼は再び口を開く。


「もうじき、貴族と護衛の一行がやってくるが、俺は自分たちの状況を話すつもりはない。あっちも何か事情があってぴりぴりしているから、なおさらだ。今夜だけこの場を共有して、明日の朝にはさっさと旅立ってもらおう」


「しかし、この世界の情報は欲しいな。誰に、何の目的で召喚されたのか分からないままだし、どこに連れて行かれるところだったのかも不明だ」


 焚き火から目を離さずに大道芸人が重い口調で言う。


「貴族の護衛たちの会話じゃ、俺たちを護送していたのは神殿兵らしいぞ。召喚はどこかの神殿がやったのは間違いない。ハズレじゃなかった四人は、神殿か国のために働かされるとして、俺たちのお粗末な扱いから考えると、良くて奴隷、悪くて生け贄か何かにするために運ばれていたんだろう」


 コウキの推察に仲間たちは身震いする。


「うむ、あの貴族の子供たちが私たちの味方だっていう保証はないしな。人里を目指すにしろ、彼らとは別行動にするのが良さそうだ」


 ユーリもコウキの判断に従うようだった。


「僕もそれでいいと思う。あの女の子は別として、他の人間はすごく感じ悪いから面倒臭い」


 エドガーが言うように、命を救われた護衛たちもメイドたちも、こちらに友好的とは思えなかった。グレンも同意することにした。


「コウキ君の判断に任せるよ。水があるなら暫くここにいてもいいし、後は食料さえなんとかなれば…」


「そのことなんだけどな、食料…いるぞ」


 グレンの言葉に被せるようにイワオが言ってきた。


「いる?あるんじゃなくて、いるのか?」


 コウキが聞き返すと双子の弟は「おう」とあっさり頷く。


「地面の下から石を取り出したって言っただろ。わいの感覚だと、やたら石が密集して並んでるし、空洞もあるし、何かありそうなんだ。それに石の一個を抜き出す時に、何かにぶつかって…無理矢理引っぱったらちょっと血っぽいのとか、毛皮的な残骸が…」


「やめてぇ、生々しく言わないでよ。思い出すでしょ」


 悲鳴をあげるミハルは、そのスプラッタを目撃していたようだ。コウキは腕組みすると傍らで尻尾をぶんぶん振っている小犬を見た。


「ワンッワン!」

「ロウガ、解るのか?」


 え、なんで犬に聞くんだ? 

 仲間たちは同時にそう思った。賢い小犬だがそれはただの犬だろうと、みなが考えたのだ。だが、ロウガが地面に目を向けた瞬間、小犬に異変が起こった。その目の中が全て銀色に変わり、そこに幾何学的な模様や解読できない文字が浮かんでは消えて行きだした。


「ワンッ!」


 数秒後、自信ありげに小犬が一声鳴いた直後、元の可愛らしいくりくりとした目に戻っていた。


「イワオの言う通り、この地下にはかなりの数の生命反応があるようだぞ。きっとダンジョンだ」


 嬉しそうに報告するコウキにみなが突っ込む。


「なんで解るんだよ」

「その犬は犬なのか?」

「その前に犬の言葉がわかるのか?」

「美味しいモンスターを希望します!」


 最後のはミハルのようだ。


「細かいことは気にするな。ともかくダンジョンだ、血沸き肉踊るダンジョンだぞ。普通、ダンジョンは発見者が命名するよな?」


 なにやらテンションを上げて、コウキが仲間たちに肯定を促してくる。


「まあ、そういう感じじゃないのか?ほら、わいらには記憶がないし…」


 仕方がなくコウゾが答えると、コウキは嬉々として立ち上がった。


「よし、それでは俺たち全員が見つけたダンジョンってことで『ハズレのダンジョン』と命名する!」


 村人Aの高らかな宣言に、誰かが冷静に呟いた。


「いや、ハズレちゃ駄目じゃん」

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