第三話 今月最後のラーメン
二郎は、机に向かい、一人で会議を始めた。
――兄ラーメン衝突事件。あれから、どれぐらい月日が経っただろうか。
「来月、お小遣いなし」と言われてから、この数週間、僕は、ラーメンの無い生活を強いられてきた。
――地獄だった。
しかし、僕は耐えた。
カップラーメン売り場の前を、何度も素通りしながら、耐え続けた。
そして、ようやく、この日が来た。
明日は、お小遣いが貰える。
新しいラーメンを買うことができるのだ。
最後のラーメンを食べよう。
――いや、これから、迎えるラーメン達の前に、最後のラーメンを食べるのだ。
僕は、机から、立ち上がると、普段着に着替えた。
――これで、怒られることもないだろう。
颯爽とリビングに行くと、カップラーメンの袋を剥がす。
――今がチャンスだ。
カップラーメンの蓋を開けて、お湯を入れた。
――これでもう、後戻りは出来ない。
今日は、あの因縁の兄も、バイトに行っているはず。
「ただいま。」
――この声は、弟の三郎か。
弟は、まだ小学六年。
――今回は、絶対に食べられる。
「兄ちゃん。ただいま。」
「おう。お帰り。」
僕は、気持ちよく返事をすると、再び、カウントダウンを開始する。
――今日は違う。誰にも邪魔されない、完全な勝利の日だ。
「ラーメン食べるの?」
「良いだろう。」
「僕も食べたい。」
「ううん。そうだな。。。」
「おかーさん。僕もラーメン食べたい。」
「二郎。三郎にも、少し分けてあげなさい。」
――なんだと。
でも、まあ、少しくらいなら、分けてやってもいいだろう。
「今日は、機嫌が良い。特別だぞ。」
僕は、三郎が持ってきた小皿に、慎重にラーメンを分けることにした。
――これだと、少ないかな。
僕のラーメンだ。
三郎には悪いが、なるべく少なくしよう。
見栄えは、多く入っているように盛ってやる。
「三郎、もう少しだ。待っていろ。」
――せっかくだ。
盛り付けには、拘ってやる。
綺麗な盛り付けをして、三郎を感動させてやる。
スープの中の麺を揃え、イメージ通りの並びにする。
小皿のラーメンを整え終えると、三郎に手渡した。
「ほらっ、出来たぞ。」
――美しい。完璧だ。もはや芸術。
「兄ちゃん。ありがとう。」
――一仕事終えたし、食べようかな。
カップに触ると、思ったより、軽い感じがした。
――おかしいな。こんなはずはない。ゆっくりと中を覗き込む。
……無い。
カップの中身は、空になっていた。
「三郎。待て。」
三郎は、小皿のラーメンを一口で、飲み干すと、幸せそうな顔をしていた。
「おい、三郎。」
「なあに、兄ちゃん。」
「さっきの半分、食べたよな。」
「うん。ありがとう。」
「僕のは?」
「くれたでしょ。ありがとう。」
僕の最後のラーメンは、無くなった。
ラーメン記録帳
出来事
ラーメンを盛り付けていたら、弟に食べられた
教訓
盛り付けより、先に食べる
命名
弟完食事件




