第二話 肌身離さず
二郎は、机に向かい、一人で会議を始めた。
――兄ラーメン強奪事件。
まさか、兄が家にいるとは、思わなかった。
これからは、ラーメンは、肌身離さないでおこう。
今日こそは、食べてやる。
学校が終わり、自宅に帰ると、昨日の光景が、頭から離れない。
兄が、カップラーメンを食べていた。
――昨日の麺達よ。ゆるしてくれ。
――あの後、兄には、何も言えなかった。だけど、今日こそは、完食だ。
二郎は、自分の部屋に戻ると、引き出しから、新しいカップラーメンを取り出した。
――今日の相棒は、お前だ。頼んだぞ。
二郎は、リビングに戻ると、カップラーメンの袋を剥がし、カップラーメンの準備をする。
――今度は、誰にも渡さない。お前の側を離れないぞ。
準備を終えたカップラーメンをテーブルの上に置くと、黙って、腕を組む。
――三十秒経った。そろそろ麺達がお湯に気づき始めた頃だ。
――一分経った。麺達も暖かさに慣れてきたはずだ。
「ただいま。」
玄関の方から、母親の声が聞こえてきた。
……今は、それどころじゃない。
「二郎。帰ったなら、さっさと着替えなさい。」
――今、僕は、カップラーメンを守る守護神だ。
こんなことで、動じるわけにはいかない。
「こらっ、聞いてんの。二郎!」
――動かざること山の如し。今の僕には、譲れないものがある。
「来月のお小遣い無しにするわよ。」
――背に腹は、変えられない。
お小遣いが無くなれば、来月から、カップラーメンを食べられなくなる。
僕は、立ち上がると、テーブルにあるカップラーメンを見下ろす。
――このまま、ここに置いといては、危ない。
――ここで離れたら、昨日と同じだ。
一緒に行動しよう。
カップラーメンを手に取る。
――二分経った。もう時間がない。
待ってろ、麺達。もう少しの辛抱だ。
麺から目を離さないで、机まで直行だ。
「あいたっ」
視線が揺れた。
「あつっ」
溢れたスープが手に触れると、熱さで、カップから手が離れた。
床に溢れた麺達。
その向こうで、スマホを手にしたまま、兄がいた。
――兄貴っ。
「あんた達、何やってんの。ほら、早く服脱いで。クリーニングに出すわよ。」
僕が呆然としていると、母がさらに声を上げる。
「あんた、何でラーメンなんて持ち歩いてるの。
クリーニング代で、来月のお小遣い無しよ。」
「ワリィ、見てなかった」
兄は、スマホを見たまま返事をした。
――ラーメンは、消えた。
お小遣いも消えた。
ラーメン記録帳
出来事
ラーメンを持ち歩いていたら、兄とぶつかり、こぼれた
教訓
ラーメンを持ち歩いてはいけない
命名
兄ラーメン衝突事件




