41.無意識改革
コークの商業ギルド倉庫に到着した二人は、荷馬車から降りると卵の搬入を御者とギルドスタッフに依頼した上で、普段とは違う倉庫側から商業ギルドに入り、なじみのスタッフに声を掛ける。
「えーっまさんっ、仕入れて来たよっ♪」
「早すぎませんか…?」
「それは、ほら…これだよ、これ。」
そう言って、掌を上に向けて人差し指と親指で輪を作る。所謂マネーシンボルを。
「あと、僕達ギルド証貰ってないんだよね。代金は自分達で払っちゃったけど。」
「あ…私のミスですね。すぐ昇格するので渡さなくてもと大丈夫と思ってしまっていました。」
「まぁ、こんな事もあんまりないもんね。問題なかったし大丈夫だよ。」
「すみませんでした…」
謝罪の後に、この後に卵の検品を行って確認後、問題ないとは思いますが評価を行い、昇格後のライセンスをお渡しする流れになると説明を受ける。確かにこの流れだと、初期のライセンスの発行は省いてしまっても問題なく思えてしまう。支払の立替えの件さえ無かったならば。
「大丈夫だよ。僕たちはあの子と違って、そこそこの蓄えはあるからさ。それよりも特例として通してくれた方がよっぽどありがたいしね♪」
「そう言って頂ければ、助かります。」
「そういえばさー、エマさんって、あの子と仲良さげよね?」
「…めぐっ!?…」
「あの子って言うのはミズキさんですか?仲…いいのでしょうか…?」
「ご飯とか一緒に食べたって聞いたよ?プレイヤーがギルド員と食事ってあまり聞かないからさ。」
「ミズキさんは…興奮すると突拍子も無いんですよ…断れないタイミングと言うか…」
「…(コクコク)…」
「まぁ、変な子だよねぇ。」
エマが困惑した表情で答えるのと別に、るぅも無言でうなずき、メグミもクスクスと笑いながら同意する。三人が三人とも思い当たる節を持ち合わせているのだ。
「悪い子じゃないんだけどねぇ…」
「そうですね…」
「…(コクコク)…」
妙なエンパシーと言えばいいのか、互いに共感を感じる。暴走を体験した事のないメグミですらも共感している辺りが面白い。何がスイッチかわからないと言う意味では全員が体験はしているが。
「それじゃあさ、そのうち今度は僕たちと女子会でもしようよ♪」
「えぇ、是非。」
「それじゃ、僕達はまた明日以降にでも来ればいいかな?」
「えぇ、それで大丈夫だと思いますよ。」
「じゃ、まったね~。」
元気に挨拶をして倉庫側に回ると、御者が荷を下ろし終えて帰る処に出くわす。
「あっ!今日はありがとね♪」
「…ありがとう…」
「おうっ、また使ってくれよっ!」
二人してエマや御者に「普通に」世間話だったり御礼だったりを伝える…そう違和感も感じること無くとても自然に。二人共に特に気が付いていないが、NPCをNPCとして見ずに、人が人に接する様に行動しているのだ。
一人用のVRゲームからMMOVRゲームに入った二人は、今迄この仮想世界をゲームとして捉えていた為に、今迄にNPCに対して、会話、お礼、罪悪感的な感情は生まれていなかった。
そこに、何の偏見も持たずに、誰にでも、何にでも素のままに行動するプレイヤーの行動・発言に接した事でいい方向に毒されつつあるのだ。
勿論、ミズキ以外にだって似た様にNPCに接するプレイヤーは居るだろう。
そうではあっても、そう接するプレイヤーを目の前で見る機会が無ければ、影響を受ける事だってあり得ない。幸か不幸か…いや、るぅにとって幸運ならば、メグミにとっての幸運でもある。
そんな事など二人は微塵も感じていない、感じたつもりも、自分が変わった自覚もない。
そんな二人は、まだ結果は出ていないものの、とりあえずの今日の成果に満足する。
ミズキが居なくとも色鮮やかに感じられる体験が出来た事を二人は不思議がる。今迄だって特に特別な事をしてはいなかったのに、何が違うのか…そんな疑問も湧きつつも自覚がなければ答えも出ない。でも、なんとなく…あの変なプレイヤーのせいだと結論づけるのだ。
その日は満足感からか特に何かをする訳でも無く、おしゃべりをする為だけに時間を使う事にする。
例の如くパブに赴き、いつも通りのウェッジポテトを頼もうとしたその時に、隣の席からとてもいい匂いが漂う…その匂いがとても美味しそうに感じて、名前も知らない料理を頼んでみる。匂いからすると肉料理の様だが、こんな気分で料理を頼むのも珍しい。
るぅもつられる様に同じ料理をオーダーする。因みに飲み物はまだ頼んでいない。
やってきた料理は「エッグプラントの肉詰め」…要はナスの肉詰めだ。
現実世界の日本で見るものより一回り以上大きいナスの皮を剥き、見た感じでは焼くなり揚げるなりして焼き目を付けた物に切り込みを入れて上部を開き、挽肉を細かく刻んだ玉ねぎ・人参・セロリ等のみじん切りと共にを炒めた物を詰めたものの様である。
その出来立て熱々の肉詰めをナイフで一口サイズに切り、フォークで口に放り込んだ瞬間に思う…
「うまっ!」「…おいしい…」
るぅとメグミはハモった感想を口にした後、互いに目を合わせると頷き合い…エールではなく価格が数倍はするラガーを頼む。エールの様に常温での発酵ではなく、自然の氷室や魔法等を用いて低温で発酵させる製法の上に保存も低温で行う為に、エールに比べて値段が跳ね上がるのだが食べた瞬間にラガーが飲みたくなった二人は熱い肉詰めを冷たいラガーで流し込む。
仮想世界で食べる料理には、口に合わないものも多いが、美味しいものにも巡り合う。そんな美味しい料理に出会った時には幸せを感じられるのだ。
そうして舌鼓を打ちながら色んな事に満足してその日を終えるのだが、それから現実世界の時間で4日間…犬猫コンビは非常に不安を伴う時間を過ごす事になってしまう…
無意識に影響されている犬猫のお話。
ビールの製法知識はアバウトなので、突っ込まないで頂ければと。




