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狐の嫁様  作者: 葛籠
3/7

子狐

なんとか接待して、注文された品を運ぶ。内心冷や汗かきまくりだが、ここでボロを出すわけにもいかず、いつも通りに振る舞う。

「姐さん。」

「?姐さんとは誰のことですか?」

「あんたのことなんやけど。」

「俺らのこと忘れたんか?それともバレないと思っとった?」

前世の呼び方に反応しないように不思議そうな顔をしたが、どうも元子狐は見逃してくれない。小声だがはっきりと聞こえる。後ろに下がる前に新月に腕を掴まれる。思ってた以上に強く、痛みで顔をしかめてしまう。

「姐さん、仕事いつ終わんの?」

「…亥の刻前には。」

「時間ある?」

「…早く家に帰らないと怒られるから無理。」

「俺ら、信さんのとこが家とちゃうの?」

「何を言って」

「姐さん、逃げないで。お願いやから。俺らはもう姐さんが知っとる子狐とちゃう。力もついた。姐さんがいくら誤魔化そうとしても、昔っから姐さんを見てん。騙されるはずがない。…あの時凄い後悔した。せやから修行しまくった。姐さんがいつ帰って来ても良いように。次は姐さんを守れるように。」

「何年も、何十年も、何百年も待っていた。」

「俺らだけやない。皆待っとた。」

「…なのに何で俺らのことも信さんのことも拒絶するん?」

違うと言おうとするが真実でもあるため開けた口を閉ざす。

「なぁ、お願いや姐さん。戻って来て、帰って来て。」

じっと透き通る様な三者の目に観念せざる得なくなった。

「…関係ない。」

そう言うと、なら俺らにも姐さんの事情は関係ないと言いながら新月が腕を引っ張り手首を舐めて来た。ヤバイと思ったが遅く、痛みにうずくまる。

「なら、約束や。明日迎えに行きます。」

「…っ、約束?」

「明日寅の刻。あの思い出の場所に来てください。」

それ以降は絡むことはなく、ただ料理を食べ、帰っていった。私も仕事が終え、帰宅中新月がやった印を見て呪いに近いなと思い、消そうとすれば痛みが走る。道端でうずくまるわけにもいかず、重い体を引きずって帰る。300年はとても長く感じた。殺されない限り、本来力が強ければ寿命は1,000年を軽く超える。私は前世が22歳で死んで、今は17歳だ。子狐の方が年上かと思うと、少し複雑な気持ちになった。

(…あっ、どうやって隠そう。)

子供の様に純粋で、心配してくれる両親がこれを見れば、大ごとになるに違いない。回避するために方法を考えながら帰宅する。

「し・ず・くちゃ〜ん‼︎おかえり‼︎」

「…ただいま。」

相変わらずの能天気さ、アホ面に考えていた事がバレないように心の中で祈る。馬鹿なのに、感が良い。馬鹿なのに。






誰かが泣いている。華やかだった部屋は壁に穴や大きな爪痕、花瓶が割れ水が滴る。机は破壊され、部屋中に血が飛び散っている。足元にふと目をやると胴体と切り離された名も知らぬ侍女の首が転がっていた。

「…ごめんね深月。あんな事があったのに生きるなんて無理。」

声を震わせながら謝る少し年上の女性。顔は暗くてよく見えないが誰かは分かる。そう、これは私にとっての悪夢の始まりだった。

八つ当たりに殺してごめんなさい。物を壊してごめんなさい。関係ない方を殺してごめんなさい。でも、こうでもしないと私は私じゃなくなる。とブツブツ言う。

「ごめんね、ごめんね。だからお願い。…私を殺して。」

場面が変わり、相変わらず暗い闇の中だが自分の周りにいる。

「なんで俺に押し付けた。なんで何も言わない。なんで死んだ。」

「ごめんなさい。もう耐えきれない。貴方は悪くないの。でも、もう嫌。」

「…儂が愛した全てをあの愚息いや忌帝に壊され、奪われた。」

「ありがとう。さようなら。」

「…私はもう戻らない。一度もお前を弟子、友だとも思ったことはない。もう二度と会うことはないだろう。」

「お前は本当に死ぬ気でいるのか。」

「それは無責任だ。」

次々と紡がれる言葉。最後に長髪の女が近寄って言う。

「…貴方は酷い狐ね。ある意味忌帝より酷い狐よ。……裏切り者。」








最悪だ。目が覚めて汗がびっしょりとかいている。時間を確認するとまだ余裕はあった。頭を横に振り、準備する。背中には紋様が赤く光って鏡に映っていた。

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