9.晴れるまで
もしも、のことを考えた。
もしも、宙が一色だけではなかったら。
光と闇の戦いによって白くなったこの宙。
白くなる前は、様々な色を持っていたらしい。
その宙は、幻想的で美しいものだったと。
宙の色の他、人々は何かを失ったのではないか。
永遠と白い宙の下で、人々の生活も変わった。
決まりが減り、自由に生きるようにと変わった。
それは自由というより、曖昧、と言った方がいい。
意味も深く知らず、戦う者が多く生まれた。
光は闇を、闇は光を傷つけて過ごした。
こんな世界は、正しいのだろうか。
そう、疑問に思ったこともある。
だが、そんな疑問はすぐに忘れてしまった。
無力な自分では、世界を変えるだなんて
はっきりと言えば馬鹿みたいな話。
この世界では、強い者が生き残って
弱い者は潰される不平等な運命だ。
弱い自分も、やがて消えてしまうのだろう。
変えられないのなら、消えてしまいたかった。
そう思ってばかりだった。
だが、逆ならどうなる。
今の不老不死の自分なら、
こう解釈も出来るのではないだろうか。
消えれないなら、変えてしまえばいい。
自分が強いとは思えないけれども、
もしかしたら不可能ではないかもしれない。
何せ、この人生はとっくに狂っているから。
真逆に生きる道に、
何故か自分でもうずうずとしている。
自分だけでは出来なくとも、
周りには、信じられる仲間がいる。
こいつらとなら、変えられるかもしれない。
この宙を。この世界を。
そしてこの運命を。
人生の狂った少年…
セリスィ・セルモクラスィアは静かに決意した。
ゆっくりと目が開くのを感じた。
天井が視界いっぱいに広がる。
「起きたの?」
すぐそばで、メロンが座っていた。
「あ、あれ、俺…」
「ったく…あのあと、お前すぐ寝ちゃったのよ」
戸惑うセリスィに、すかさずメロンは説明した。
そうか、カルディアを交え話していて、
軽く寝転がるつもりが、眠りに落ちちまったのか。
「他は皆、レオン町へ買い物に行ったわ」
あたりを見渡すと、
確かにメロン以外の気配はない。
サロスとイレモ、カルディア、
そして、寝てたというミラも
元気よく起きて出かけたそうだ。
てことは今、メロンと二人きりってことだ。
さっきの戦いでは、
俺はメロンを守れた、とは言えなかった。
俺以上に傷を負った彼女。何て声をかければ。
「ごめん」
まず、反省の言葉が漏れる。
唐突過ぎたか、メロンは状況を掴めてない。
「いや…俺、お前のこと守れてなかったから。
痛い目に合わせてしまったし…」
「ホント、それね。守るって言ったのに」
言葉を補い、ごめんの意味を伝えた。
メロンは相変わらず冷ややかに返事した。
彼女の言葉は、素直に胸に刺さる。
しかも、「守るって言ったのに」って。
気持ちが勝手に先走ったのか、
俺は知らずのうちに、
メロンに宣言していたらしい。
それなら一層、俺は無力で最低な奴だ。
「でも、別にいいわ。
結果としてはインフィニティを追い詰めたんだし」
そっぽを向きながらメロンは言う。
その態度は、明らかに「良くない」ってことだ。
彼女が横を向いたとき、首筋に赤い傷が見えた。
ひとつ見つければ、連鎖して複数の傷が目に入る。
数々の傷は、セリスィの心まで痛めつけた。
俺は、何にも出来なくて…
ダァン!!
「だから、いちいち落ち込まないでいいから!」
イライラを爆発させて、
メロンは力任せに、傷んだ床を踏みつけた。
ミシッと嫌な音はしたが、
女の子の力では壊れない。
突然の出来事に戸惑うセリスィ。
メロンは彼の目をしっかりと見て言った。
「お前は、本当は強いんだから。
一度や二度、上手くいかないくらいで
凹んでるんじゃねぇよ!
お前が上手くいかなくても、
それをカバーしてくれる仲間がいるだろ!」
崩れた言葉遣いには、
彼女の本音が込められている。
率直な言葉は、セリスィの心に響いた。
「仲間…そうだ、俺には…」
責任から、自分のことしか見えていなかった。
だけど、あの戦いだって、仲間がいたから
思い切り戦えて、追い詰めることが出来たんだ。
俺がうじうじしていることが、
メロンを傷付ける行為になってたのかもしれない。
気持ちを正直にぶつけてくれる人。
その人を大切にしなきゃな。
「メロン、ありがとう」
慣れない下手くそな笑みを浮かべながら、
ありがとうを伝える。
メロンの顔は、一瞬微笑みかけたが、
「…分かってくれたならいいんだけど」
いつものクールな態度に切り替わり、
セリスィの前から逃げるように去った。
「え!?おい、メロン!」
メロンは足早に、
とっさにある部屋に閉じこもった。
そこは、カルディアの研究室だった。
鍵をかけて、奥へと歩いていく。
扉越しに、セリスィの声が伝わる。
「ゆっくりでいいからな。
落ち着いたら、また顔見せろよ」
セリスィは見ていた。
メロンが微笑みかけた時、
彼女の瞳から涙が溢れそうになっていたのを。
その涙の解釈は分からないものの、
涙を止める権利なんて誰にもない。
心が晴れるまで、涙を降らせ。
セリスィは、静かに元の位置に戻り、
あぐらをかいてスパスィをいじる。
メロンの顔は既に、
誰にも見せたくないほどしょっぱく濡れていた。
白い宙の下。
永遠の命は、互いを思いやって生きている。




