8.意表の連鎖
とんだ計算ミスだった。
ミラの家に向かいながら、プリクスィはイラ立つ。
戦力外にしたはずのメロンによって、
ダメージを受けた上、隙を与えてしまったこと。
そのことに自分で腹を立てているのだ。
その隙に、イレモという奴が
ミラの家に向かってしまったのだ。
勇者達の狙いは、ミラという名の最強戦士を、
太陽という名の希望を呼ぶことだ。
こちらの思いとしては、呼ばれたら厄介。
助けが来てしまう前に、心をへし折りたいところだ。
怒りでいっぱいになりながら飛んでいると、
目的の家が見えた。
「厄介っちゃ厄介だけど…
こうなったら戦士ごとまとめて倒してやる!」
彼女は考えるよりも先に体が動いた。
とにかく、ドアをぶち破って、
イレモでも、ミラでも、中にいる皆を
めちゃくちゃにしてやろうと。
そして何も恐れずに、家の目の前に降り立つ。
思い切りドアを蹴って、ダァンと押し倒す。
自覚はなかったが、
彼女の体は怒りで支配されていた。
そのため、一度止まって考えれば分かることさえ、
彼女は分からず踏み入れてしまった。
例えば、丁寧にドアが閉じられていた事とか。
「サロス、耳を貸してくれる?」
オモルフォとエルピダと対峙していた時。
イレモはサロスに、ある事を伝えた。
「…メロンは意識があって動けるそうよ」
「!」
この事に、サロスはとても驚いた。
自分も、メロンは意識がないものだと
思い込んでいたからだ。
「この事は、相手には内緒にしておきましょう」
んだな、と小さく頷く。
自分が驚いたように、
相手にも意表をつけるかもしれない。
「あらぁ?何をこしょこしょ話してるの?
私にも、聞かせて欲しいなぁ~♡」
「…もう少し深く作戦を練りたいわね。
この状況じゃ少し難しいと思うわ…」
気づけば前と後ろを囲まれていた。
この場を抜け出したいところだ。
「抜け出すために…うーん…
…一か八かってとこか?いやぁ、でもなぁー」
悩みながら、ある事を決めた。
ギュッとスパスィを握りしめる。
そして、エルピダの攻撃を先読みして呟く。
「響け、エクスプロージョン」
人は、突然現れたり消えたりすれば一瞬でも驚く。
その一瞬を重ねれば、隙から生まれたミスにより
相手を焦らせることが出来る。
それが、勇者達の策略だった。
片足でドアを倒し、
すかさず弾丸を打つため手を前に出す。
だが、その先には誰もいなかった。
イレモも、他の勇者も、そしてミラさえも。
さすがに誰もいないのは予測してなかった。
思わぬことに、戸惑ってしまった。
目の前には小さく狭い一つの部屋。
その奥には、いかにも頑丈そうな扉があるだけ。
一歩中に入った時、背筋が凍るのを感じた。
ほんの少し前まで自分が放っていたはずの、殺気。
今は、逆に自分が殺気を感じていた。
背中には、四つのスパスィの剣先が当てられていた。
方向を変えて振り返るも、遅かった。
「突き進め、フォーエバーレイ!」
ドゥオォオオオオンッ!!
四色の光線を勢いよく打ち出し、
プリクスィを飲み込みながら奥へと押しやった。
カーペットの表面を犠牲にしつつも、
小さな部屋で容赦なく大技を放つ。
予想外、その三文字を残して
プリクスィはふらつきながら倒れ込んだ。
「謎のソラなんちゃら宗教に入れようとした
会員の命と、この小さな家の、
どっちが大事だって言うんだよ!?」
小さい部屋に合わない大ボリュームで
サロスは叫ぶ。
「宗教じゃないわ。プロジェクトよ。
確かにあなた達も必要だけど、この家も…ねぇ?
私の、てよりミラの家だし…」
口ごもりながら、カルディアは答える。
カーペットや床は黒く焦げて、
壁の至るところに傷がついている。
確かに、荒らしてしまったのは悪いが
何ていうか…仕方がないっちゃ仕方がない気もする。
そして、ミラはと尋ねれば
この地下室でぐっすりと寝ているそうだ。
必死に戦ったのにこれじゃ、すっきりとしない。
「自分達だけで頑張ったんだから、
そんなお粗末な扱いじゃなくてもよくないか?」
セリスィも不満を漏らす。
どうも「頑張ったね」とも言われない
このちょっと寂しい扱いに納得がいかない。
「え、でも、トドメを刺したのは私だけど…」
「そういう考え!?」
そう、あの大技のあとに
コメディーチックなことは起きたのだ。
「よっしゃ!何とか、作戦実行出来たな!」
安堵の表情を浮かべ、サロスはガッツポーズをする。
「え、作戦?てか、ちょ、え?」
周囲がほっとしてる中、
セリスィ一人は戸惑いを隠せなかった。
「ごめんなさい、セリスィ。
私たちの方で、勝手に作戦立てちゃったの」
両手を合わせ、イレモが謝る。
「あぁ、まぁ結果的にいいけどな。
…でも、俺もイレモはミラの家に向かってるって
思い込んでいたからさ。ちょっと動揺してる」
彼女は、確かにメロンが現れた時に姿を消したが、
家に行ったわけではなかった。
彼女曰く、突撃のために
サロスを呼びに行ったのだそう。
つまり、あの時プリクスィ以外に
家に行った者はいなかったのだ。
「セリスィと同じように、プリクスィにも
意表をついて、思い込ませて、動揺させた。
それによって、誘導してみたの」
「あ、でももちろん君に悪気なんてないからさ!
一人知らない方がリアリティあるかなーって」
少しずつだが、何となく把握出来た。
俺らの、そして相手の目的を逆手に取ったんだな。
それによって違和感なくプリクスィを、
確実にダメージを与えやすい
小さなこの家に誘導した、てことだろう。
「…ったく、んもぉ…あんた達許さないからぁ…」
小刻みに震えながら立ち上がるプリクスィ。
ゼェゼェと息を切らし、苦痛の表情をしているが
目つきからは激しい怒りを感じる。
まだ気力があるか。
再びスパスィを構え、じっとプリクスィを見る。
「これで、終わりだと…思わないでよね。
あんた達も、この世界も…インフィニティが…!」
ガチャ、ダゴンッ!
閉ざされていた扉が開いた。
「ちょっと、何事…あ、おかえりフォーエバー」
「あ、ただ…いま?」
扉から出てきたのは、カルディアだった。
彼女が戸を開けたことにより、
扉のすぐ前にいたプリクスィは思い切り頭を打った。
そして、先程のようにまた、倒れ込む。
「カルディア、ナイス!」
親指を突き立て、サロスは素直に喜ぶ。
まさかの展開に内心、「はぁ?」と拍子抜けするが
勝てたことに変わりないからいいだろう。
倒れたプリクスィをどうするか悩んでたその時、
「何をしている。…もういい、戻れ、
プリクスィ、エルピダ、オモルフォ!」
空間中に、心臓に響くほどの低音ボイスが広がった。
それと同時に何処からか、
爪の長くどす黒い大きな手がプリクスィを包み、
彼女ごと何処かへ消えてしまったのだ…。
「ね!トドメは私、でしょ?」
不満はあるものの、まぁその通りなので
とりあえず「そうだな」と納得しておく。
これで、プリクスィ、エルピダ、オモルフォとの
戦いがひとまず終わった。
肩の力が抜け、その場にペタンと座る。
今後、このような戦いが続くのだと思うと、
先は長い、そう悩みつつ寝っ転がった。
何せ、永遠に戦い続ける宿命となったのだから。
白い宙の下。
永遠の命は、やっと一息をつく。




