7.相反する目的
「んー、なかなか粘り強いねぇ」
白い宙で、空中戦が続いていた。
勇者セリスィと、闇ガラスプリクスィの戦いだ。
「それにしてもすごい回復力だよねー」
「まぁな。この位大したことはねぇさ」
余裕ぶって強がりの言葉を放つ。
本当はまだ、体中の傷が痛むし、
無理に動かしている腕が引きちぎれそうだった。
今もまだ、プリクスィによる攻撃は続く。
手から黒い弾丸を放っているが、
わざとセリスィを狙わず、セリスィの周囲を狙い
彼のバランスと軌道を崩していく。
気づけば、目的地のミラの家が遠ざかっている。
知らずにセリスィは後退していたのだ。
「くっ!どけ、邪魔だ!」
「どかないよ!あたしの目的は二つだもの。
…聞きたい?」
また催促された。
避けながら会話することはこう見えて体力を使う。
「…勝手に話せ」
「ふふーん!じゃあ教えてあげる!
まず一つはね、あんたを封じることー!
どうせフォーエバーの力だけじゃ
あたし達インフィニティに勝てない。
…そう思ってるでしょ?」
舌打ちをしてしまったが、これは事実だ。
俺らだけの力じゃ、今は勝つことは出来ない。
これは、サロスとイレモも分かっていた。
メロンは、違った気がするが。
「んで、もう一つはね、殺すこと!」
楽しげに話すプリクスィは、気味が悪かった。
何故このようなことを笑顔で語れるのだろうか。
「つまり、あたし達は今の二つのことを
ちゃんとやれば勝てるってこと!
これがあたし達の、勝つための手段なの」
なるほどな、と納得してしまった。
最初の分岐点は、俺がミラに助けを求められるか。
たどり着ければこの状況をひっくり返せるはずだ。
だが、その道を閉ざされれば絶望に逆戻りになる。
さらに、逆戻りした場合は殺されてしまう。
これは正直、俺らではどうにもできないかもしれない。
つまり、俺が勝つためにはやはり、
ミラの元へ行くこと…しかないのだろうか?
何かを見落としているような気がする…
ビュンッ!
プリクスィの耳元を、桃色のクリスタルがかすめた。
「…え、イレモ!?」
振り返ると、イレモがニッコリと微笑んでいた。
「響け、エクスプロージョン」
小さく呪文を唱えた後、声と反比例に
ドォーン、と大きな衝撃が広がった。
もくもくと上がる煙に紛れて、
サロスらはその場を離れた。
イレモから秘密の話を聞き、
俺らが「勝つ」ための作戦を整理する。
「…なぁ、イレモ。気になってたんだけど
この周りにめっちゃあるマフィリは何だ?」
マフィリとは、クリスタル状の短剣だ。
今、宙を飛ぶ彼らをマフィリは囲っていた。
「あーそれは後から分かるわ。
それより、この後だけど…
上手く相手の思考を利用して……」
ふんふん、と頷きながら考えを聞く。
途中、難しい話が混じってたために
全部は理解出来なかったけども…。
でも、この後の手順はバッチリと分かった。
「よし、んじゃ、そうと決まれば動くか!」
作戦実行、彼らはそれぞれの行動に出た。
「ふん、一人増えようと勝てっこないよ!」
乱雑に弾丸を撃ち込まれる。
それをスパスィを使って上手く弾き返す。
セリスィとイレモの二人がかりでも、
プリクスィは屈することなく戦い続けた。
「…イレモ、メロンとサロスは大丈夫なのか?」
突然ひょっこりと現れたイレモに尋ねる。
「えぇ、サロスはメロンを守りながら
あの二人と戦ってくれてるの。
女の子同士で固まると危ないからって…」
そういうことか。
でも、やけに紳士的というか女の子思いだな。
「いやいやぁ、他人の心配してる場合?」
話をしてる間にプリクスィは弾丸を細長く変形し、
剣で切るようにブンッ、と二人を振り払った。
バランスを崩し、地面に顔からぶつかり落ちる。
「くっそ、見かけによらず手強いな」
目的の家がぼやけて見えるほどになった。
いい加減、前に進まなくては。
草っぱに突き刺さったスパスィをグッと引き抜き、
セリスィとイレモは再び飛び立つ。
ダァンッ、ドォーン!
遠くから地響きのような音が聞こえた。
方角からして、サロスの戦いによる音だろう。
サロスが大技を放つ音か、相手が暴れている音か、
セリスィには区別出来なかった。
心配であるが、今はプリクスィに集中しなくては。
その時だった。
「ぐっ、何……え?」
突然プリクスィが硬直した。
あまりに唐突過ぎて、こっちまで止まってしまった。
そして彼女は、ぎろりと目を見開き
何処か遠くを睨んでいた。
気になって同じ方向を見ると、
ヒュッと真横に何かが通り過ぎたのを感じた。
それは、確実にプリクスィを捉え、
彼女を地面にまで叩きつけた。
セリスィの目には、プリクスィなど映らない。
彼の目には、ただ一人の少女だけが映る。
「………メロン」
白い宙に溶け込むように光り輝きながら、
メロン・ランプスィはそこにいた。
その表情は凛としていた。
暫く、メロンの表情と言えば、
苦しむ顔や、強がる顔などが殆どだった。
見ているだけで、胸がざわめく顔ばかりだった。
けれど今は、ぼやけた顔が晴れたかのように、
くっきりとした表情であった。
相変わらず、笑顔というものはまだ写ってないが
それでも、メロンの意識が戻ったことが
何よりも嬉しかった。
…だが、ずっと見てると
メロンの眉間にシワがよってきた。
「…何ずっと見てんだよ」
ビクッと体が震えた。ぶっきらぼうな言葉使い。
一瞬にして元のメロンに戻ってしまった。
「プリクスィに逃げられるわ。早く!」
「え!あっ、そうだ…あぁあぁ!?」
ふわふわとした感覚が一気に抜け、
目的を思い出す。
…だが、腕の力も抜けていたため、
セリスィは無様に落っこちる。
ドシャっ!
意識を失わない程度に頭を打ち、我に返る。
プリクスィは、何処にいるのだろうか。
「んもぉ…まさかあんたが出てくるなんて…
…ん!?あー!!はめられたぁ!」
近くでプリクスィの声が聞こえる。
「もぉー、でも、いいよ!
今度はあんた達の希望ごと打ち砕いてあげるから!」
そう吐き捨て、プリクスィは立ち上がり、
ある一方へ飛んで行ってしまった。
「セリスィ、追うわよ」
メロンも一度地面につき、
セリスィを引っ張って起こした。
「あいつ、ミラの家に向かっているわ」
「え?先回りするつもりなのか…」
「……とりあえず、追うわよ」
メロンは目をそらして、ふぅとため息をついた。
「イレモ、ちゃんとやってくれてるといいんだけど」
その言葉で、セリスィはやっと状況を察した。
いつからだっただろうか。
イレモは既に次の行動に移っていた。
セリスィとプリクスィが、そして、
敵の意表をついたメロンが戦っている間にだ。
彼女はひっそりと、その場を離れて
とある場所へ向かった。
白い宙の下。
永遠の命は、戦いの終止符を打とうとしている。




