6.予想と盲点
最初は、単に信頼をされていると思った。
勇者を仕留めるという大きな任務を任されたから。
だけど、その任務は予想よりもややこしかった。
「はぁ?勇者が不老不死だって?」
インフィニティ仲間のグリから、
厄介な事情を聞いた。
聞いただけでは無理難題のようにも思える。
けれど、グリは何かに気づいているようだった。
それに、曰く付き難題のためか
あの方があたし達に、あることを教えてくれた。
『命は殺せなくても、心は殺せ』
自分で言っちゃうのもアレだけど、あたしは黒い。
どんな手を使ってでも、
任されたことはちゃんとやる。
だからこそ、不老不死の相手にも負けない。
狙いは、その心。
厄介な性質な分、その心を思いきり打ち砕く。
「…そうだ。必ず勇者を倒すのだ…
インフィニティの一員として行け、プリクスィ」
あたしの名はプリクスィ。
結果を求める、残酷な闇ガラス。
「ちょっちょっとぉ!
待ちなさいよぉー!キィー!」
白い宙と緑の草の間に挟まれて、一点へ駆け抜けて行く。
「イレモ、大丈夫か?走らせてばっかでゴメンな」
「いえ、大丈夫!メロンも…予想以上に軽いから」
サロスはセリスィを、
イレモはメロンを背負いながらひたすら走り続けている。
担がれている二人は、体にダメージを負っている。
まだ思うようには戦えない状況だ。
「…やっぱり、逃げる選択になっちゃうんだな」
意識のあるセリスィは、ポツリと呟いた。
まぁ安全第一、仕方がないが。
「…速い」
インフィニティの三人がしつこく追ってくる。
時折、電球やら水の塊やらが飛んでくるが
距離があるため避けきれている。
「…それでサロス、何処へ向かえばいいの?っ!」
「あー、やっぱりミラんとこ戻るのが一番かな。
下手に時間稼ぎも出来ないし」
サロスとイレモは、今の状況では太刀打ち出来ないと
判断をしていた。
死なぬとも痛いのは嫌なので、
今は逃げるべきだと。
本当は飛んで逃げたいところだが
飛ぶ技法…フライを使うにはスパスィが必要だ。
かつてはジェットスキーとも言われたように
スパスィから放つ波動で宙に浮く仕組みである。
そのため、仲間を背負った状態では不安定になりがちだ。
なので、走って行く他はない。
早く助けを求めなくては。
「あ!」
目の前に、プリクスィが立ちはだかった。
見えぬところで先回れたのか。
だが、後ろを振り返るも
残りの二人が逃げ道を塞いでいる。
「さぁさぁ、逃げるのはもーおしまいだよ」
「くっ…どーすりゃいいんだ?セリスィ?」
俺に聞くのか。
助けを求められても、上手く思考も回らない。
「強行突破は…難しそうよね」
イレモの言う通りだ。
何処の間を突破しようにも負担が大きいが…
「セリスィ、動けるようになったか?」
「んー、スパスィは握れるくらいには。
振り回すのはちょっと無理かもだけど…」
「あーおけおけ!じゃあ、飛べ!」
一瞬、何も理解出来なかった。
「君だけでもミラんとこに行ってくれ!」
「あぁ、分かった。飛べ、フライ!」
ようやく理解し単純な呪文を放つと、
スパスィが現れ、剣先から赤い波動が勢いよく溢れ出た。
ビュン、とすぐにセリスィは白い宙高く飛んだ。
「…あれ、でも、飛んだらさ…」
嫌な予感がした。そしてそれはすぐに的中する。
「待て!行かせないよー」
やっぱり。
プリクスィが飛んで来てしまった。
「うわ!やっべ…」
何とか動かせる手首の力で、波動を操る。
うっすらと見えるミラの家を狙い飛び出す。
そしてプリクスィもまた、後ろを追いかけてきた。
ビリビリィッ!
「弾け、スパーク!」
地上では、身軽になったサロスがスパスィを手に戦っていた。
そしてイレモも、自分の周りに数々のクリスタルを
生み出して、時折放ちながら逃げ回る。
「…あたし達は、こいつらに集中して倒そう」
「そうね!空飛ぶ少年はプリクスィで充分だわ」
戦いの方向を定め、エルピダと人魚は…
「私はオモルフォ・セイレーン!」
「え!?いきなり何だよビックリさせるなよ!」
「だって私の名前、覚えて欲しいんだもの♡」
…エルピダとオモルフォはサロスらの前に再び立ちはだかった。
「サロス、耳を貸してくれる?」
闇と距離を置き、イレモがサロスに尋ねる。
あぁ、と左耳を寄せて声を聞いた。
「あらぁ?何をこしょこしょ話してるの?
私にも、聞かせて欲しいなぁ~♡」
甘い声色で、オモルフォが近づいてくる。
その手には大量の水が溢れ出している。
それと同時にエルピダは、ゆっくりと彼らの背後に位置した。
イレモとの秘密の話が終わり、
サロスはしばし考えた。
「…一か八かってとこか?いやぁ、でもなぁー」
「考えてる暇なんて、あんた達にはない」
しびれを切らしたようにエルピダは雷撃を放つ。
ドォーン、と衝撃が響きうっすらと煙が上がる。
だが……
「…は?何処…行った?」
焼き焦がした訳でもない。
それでも、サロスらの姿は見当たらなかった。
ただエルピダの視界に入るのは、
膝をついてるオモルフォだけだった。
「…まさか」
彼女は、ある判断ミスをしていた。
それは、まさに予想外のことだった。
「仮定は過信するべきじゃなかった」
白い宙の下。
永遠の命は、ある賭けに出た。




