11.広がる心理と謎、そして白い宙
俺らの出会いは、
そこまでロマンティックじゃなかった。
ぶつかってきて、戦いを見て、降ってきた。
ざっくり言うとこんな感じに出会った。
まぁ、こんな説明で出会いも何も分からんだろ。
でも、こんな感じだったんだ。
同じタイミングで、皆と出会った。
運命だなんてそんな、
綺麗な言葉でまとめるのもアレだけど、
この出会いに何かしら意味はあるのかもしれない。
不老不死になって、勇者になって。
平凡な俺らが、死なない強者へとなった意味。
その意味を知るには、
その前に知るべきことがある。
メロン・ランプスィ。
彼女のことだ。
出会った時から、彼女を守りたいと…
いや、守らないと、という思いがあった。
無力な自分だけど、この仲間とならきっと…
皆が笑顔でいられる気がするんだ。
不老不死勇者・フォーエバー。
終わりのない俺らの、目指すべきものとは
一体なんなのだろうか。
静かな空間に、ぎゅるるぅ、と腹が唸る。
「あいつら、何を買いに行ったんだ?」
腹に手を当て、セリスィは呟く。
戦いの後だ。腹も減ってきた。
不老不死を理由に、食べ物も与えられず
放置プレイ…何てならなければいいのだが。
そもそも、不老不死の意味ってあるのだろうか。
斬られたら痛いし、痺れたら動けない。
薬がないとすぐ回復もしないし、腹も減る。
基本は、普通の人と変わらない。
逆に何が違うのだろうか。
まぁひとつは、最悪な逃げ道がなくなったことか。
じゃあ何だろう。
考えても分からないし、空腹で頭も回らない。
メロンに食べ物はないか聞こうとしたが、
そっとしておくべきだろうと、やめた。
あの涙の意味とは。
気になるけれど、気にしちゃいけない気がした。
「本当、良い事ねぇな」
分からないことだらけで、戸惑ってばかりだ。
良い事なんて、ほとんどない。
「…でも、仲間がいる…」
あとに続いた言葉は、希望の言葉。
大切な仲間が出来た。
些細な事でも、セリスィにとっては大きな事。
独りだったら、負の感情で終わっていただろう。
フッ、と鼻で小さく笑った。
何故だか最近笑う事が多い気がする。
「気のせいか」
無自覚に声にして自問自答する。
今更言うのもアレだが、
ひとりで淡々とひとり言を言うのもくどいな。
オチがないというか、区切りがないというか。
誰もツッコミを入れないし。
でも、こう色々と思考を巡らせる癖は昔からで、
時折「思考漏れてるよ」と言われがちだ。
誰に喋ってんだ。ひとり言だよ。
自問自答に飽きてきた。
でも、ひとりだから止められない。
「……メローン?」
ひとりが焦れったくなって、彼女を求める。
だが、返事はない。
「まぁ、仕方ねぇか」
そう言って、ごろりとまた寝転がる。
早く帰ってこい、と念じる。
大の字になり、眠りの世界に潜り込む。
最近は、宇宙の夢ばかりが脳内に広がってばかりだ。
「メローン?」
一度、返事をしようか考える。
だが、返さないという結論に決めた。
その後、呼びかける声が消え、
再び静寂に包まれる。
メロンはずっと、扉に背をくっつけて泣いていた。
久しぶりに涙をこらえずに流した。
溜まっていた思いとともに流しきり、
ようやく冷静になったところだった。
涙の意味など、誰にも話せない。
正直、自分にだってよく分かってないから。
顔に貼り付いた雫の跡を手のひらで拭き取り、
ぺチョン、と頬を軽く叩く。
大丈夫、この道で間違ってはいない。
自分自身に言い聞かせる。
説得力とか根拠とかは無いけれど、言うしかない。
「………あれは…」
ふと、何かに気づいた。
横に長く広がった研究室の、一番左の奥。
机の上には高く積み上げられた分厚い本。
棚には、一目じゃ効果が分からない薬品。
そして、開きっぱなしのノート。
気になってしまえば、調べずにはいられなかった。
ちょっと見るだけ。触らない、覗くだけ。
カルディアに言われていたこと、
許可なく研究室にある物に触れないこと。
万が一、実験を狂わせたりしたら、
それこそ死んでも償えないし、
永遠に生きてても償えないだろう。
すぃーっとためらいもなく奥までたどり着いた。
真っ先に視界に入る、ノート。
ここまできたら、プライバシーとか関係ない。
ちらっと。ちらっとだ。
だが…
「…………宙…?」
ちらっとどころではない。
思わず目を奪われてしまった。
カルディア直筆の文字を読み進める。
すらすらと最後まで目を通し、黙り込む。
「つまり、世界平和みたいなもんなの?」
ことの始まり、自分が言った言葉を思い出す。
そうだった。ソラトワプロジェクト。
和やかな響きだけれど、
その組織には大きな意味があったんだ。
その意味も知らず、
拒否した自分が馬鹿に思えてきた。
「じゃあ…そうしたら、叶う…の…?」
興奮を押さえ込み、緊張で震える体を撫でる。
未来が叶う希望と、叶わないかもしれない壁。
相反する二つが今彼女の願いに現れている。
もっと知りたい。
禁忌に触れようと、ガクガクしながら手を伸ばす。
ノートの、次のページへ。
めくろうとした時、
「ただいまー!ってセリスィ!?豪快な寝相だな!?」
ビクンッ!と体全体でブレーキをかける。
「ん?…あぁ、お帰り」
「…開けたら大の字で股間をこちらに向けて
『あぁ、お帰り』って…
出オチ感が半端ないぜ」
まずい。
皆、帰ってきたようだ。
慌ててノートから離れて、
扉に背をつけ、何事も無かったように演じる。
誰にも見えないけれど。
「あら、メロンは?また家出した?」
「メロンは、ん、まぁ色々あって…」
ミラに聞かれたセリスィは、ぼやかして答える。
俺に説教したら、泣いて閉じこもった
…なんて、さすがに言えなかったのだろう。
「お腹、空いたでしょ?これ、買ってきたの」
広げた足の間でしゃがみ、
イレモはセリスィにパンを差し出した。
「え、ありがとう!…わぁ、ありがとう」
そのパンは、セリスィの好物のパンだった。
余計な味付けのない、ベーシックなパン。
好みを考えてくれた嬉しさから、
無自覚にありがとうを二回言った。
「大の字でパンを受け取るシュールな光景…」
「イレモが中にいるから、
閉じるに閉じれない状況だな。本当、シュール」
カルディアとサロスは、ひそひそと
そのシュールな状況を呟く。
楽しそうだな、と扉越しにメロンは思う。
「メロンの分もあるけれど…どうしよう」
「出てきた時に、渡せばいいわ。
食べたくなったら出てくるでしょう。
それに、放って置いても飢え死にはしないし」
そうミラは言い、メロンのパンを机に置いた。
パンなんて別にいいや。
そう思いため息をつく。
背を向けたまんま、メロンはただ立っていた。
「ところで、あの、ソラトワプロジェクトって…」
「ん!そういや忘れてたな、それ!」
久しぶりに、ソラトワプロジェクトの話題が出る。
あの後、戦いもあってソラトワどころじゃなかった。
今なら、じっくり話せる良い機会だ。
「入ったほうが…いいですよね?
内容はまだ詳しく把握できていませんが、
きっと大切な任務…ですよね」
「まぁ、そうだけど…
んでもメロンが拒否ってるからねぇー」
チッと舌打ちをする。
今はもう拒否ってねぇよ、と思いながら。
「そもそも、何で宙について着目してるんだ?」
それな、と勇者らはうんうん頷く。
色々疑問はあるが、一番知りたいのはそこだ。
「それはね、
宙には誰も知らないような秘密があるの。
ただ白いだけじゃない。
何故白いのか、本当に白いのか。とかね。
宙を知れば、世界を知れる。
世界を知れば、全てを知れる。
全てを知れば…変えることができる。」
「変える…?何をだ?」
「それを見つけるために、宙を知るのよ」
「循環…てことですね」
そう、知れば知るほど変えることができる。
「変える……?」
片手で口を包み、セリスィは呟く。
微かに、眉間にシワがよる。
「…入るなら、四人…勇者全員で入って欲しい。」
ゆっくりとカルディアは言う。
秘密を知ったメロンには、その意図が分かっている。
「サロス、イレモ、セリスィ。
あなた達の考えを聞かせてほしいけどいいかしら」
その場にいる勇者三人に問いかける。
「……その前に、席を外してもいいか?」
先に発したのはセリスィだった。
「まだ、迷っているんだ。
すぐ戻る…待っていてくれないか」
迷っている。その言葉にメロンは戸惑った。
何に迷っているのだろう。
「じっくり考えて。大事なことだものね」
カルディアはふんわりとやさしく、
けれどどこか寂しげに微笑んだ。
サロス、イレモに「悪ぃな」と目配せし、
セリスィは家から出た。
「真剣ねぇー。結果は何となく見えてるけど」
「んだな!何するつもりかも何となく見えてるぜ?」
そう言って、ミラとサロスはニヒヒと笑う。
笑う、といってもバカにしてるのではなく、
一途だなぁ、という微笑ましさからの笑顔だ。
後ろでイレモとカルディアも女の子座りして、
彼の帰りをのんびりと待つ。
セリスィの思っている以上に、
彼は仲間に信頼されているのだ。
カッチャ……
聞き覚えのある、目立たない音が漏れる。
「……見られちゃったかもね」
横目で研究室の扉を見つめながら、
カルディアは言葉を呟く。
いつもの癖、口に手をあてながら。
指の隙間から、
変態チックであるニヤけがチラつくのを、
誰も見ていなかった。
炎と、光と、風と花…そして、泉。
宙を取り戻すための、『太陽』を生むための要素。
この五つの夢幻の力で、太陽を目覚めさせれば、
宙は、争いが起こる前の姿を取り戻すだろう。
「希望と絶望、先にどちらに気づいているかしら」
メロンの未来は、分岐されている。
あることが、命運を分けてしまうだろう。
カルディアに、彼女の未来を決める権利はない。
メロン自身が決断し、叶えるものだから。
「あなた次第で、可能にも不可能にもなる」
誰にも分からない未来を考えながら、
それぞれが思うままに行動を起こす。
たとえ、真の目的を見い出せていなくても。
白い宙の下。
永遠の命は、結束を目の前にしている。
次回:ソラトワの誓い、完結。




