第三話:偶像の神
AI100%ですので注意されたし。
集まってきたのは、どうしようもない私怨と、日々のどうでもいい愚痴ばかりだった。
だが、王と蛇はその山のような低レベルな文句の束を眺めながら、うんうんと適当に頭を唸らせていた。
「おい、これ……よく見たら、そのままルールにできんじゃねえか?」
ふと、王が面倒臭そうに鼻をほじりながら言った。
「あ、それいいですね。たとえば『やまだくんに殴られて痛い』なら、仲間の猿を殴ったらダメってことにすればいいし、『変な木の実でお腹が痛い』なら、あの木の実を食うなってルールにすればいい。あいつらが勝手に言ってきた愚痴を、王様であるあなたがそのまま『規律』としてビシッと定めておしまいなさいよ」
「おおっ、それだな! よーし、これからはこのルールに従え!」
かくして、猿たちの低俗な愚痴の数々は、王の威厳(という名の気まぐれ)によって絶対的な「規律」へと仕立て上げられ、下々の猿どもへと冷ややかに通達された。
――仲間を殴るべからず。あやしい木の実を食うべからず。その他もろもろ。
ルールができてからは、猿どもは「王様が決めたありがたい規律だ」と勝手に納得し、相変わらず怯えながらも大人しくなった。貢ぎ物は再びちょろちょろと戻りはじめ、王は「いやあ、楽になったな!」と岩の上で上機嫌に肉をむしゃついていた。
だが、平和は長く続かない。というか、王が自爆した。
「ん……ぐっ、おえっ……?」
ある日のこと。王は「あやしい木の実を食うべからず」という、自分で決めた規律をすっかり忘れ、足元に落ちていた色鮮やかな毒々しい木の実を「うまそうだな」と何の疑いもなく口に放り込んだ。
そして次の瞬間、盛大に白目を剥き、痙攣しながらあっけなく絶命した。
ドン、と巨体が岩の上から転げ落ちる。
その瞬間、数歩離れた場所で寝ていた蛇は、目を見開き、文字通り飛び上がらんばかりに驚愕した。
「――はっ!? おい、嘘だろ!?王様!?息!息してない!? 死んだ!? まじで!?」
誰もいない空間に向けて、蛇はひとりで盛大にパニックを起こした。足でツンツンと死体を突いてみるが、王はだらりと力を抜いたまま、二度と動かない。
やがて、遠くの方から「王様、今日も肉持ってきましたよー」と、呑気な猿達の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「やべっ、やべっ、やばいって! ここで王様が拾い食いでポックリ逝ったなんて知られたら、あいつら絶対にナメてかかってまたサボり散らすぞ……!」
蛇は焦りに焦り、冷や汗を流しながら巨体を必死に岩の陰へと引きずり隠した。そして、やってきた猿達を慌てて冷たい目でにらみつけ、精一杯のハッタリをかます。
「こ、こら! 騒ぐんじゃない! ……王様は今、お休み中だ。静かにしてろ!」
「えっ、王様は今、寝てるんですか?」
「そうだ! 王様が自ら定めてくださったあの『規律』のおかげで、すっかり安心して爆睡しておられるんだ。だから、大きな声を出したり邪魔をしたりしたら絶対に許さんぞ。そこに貢ぎ物を置いて、さっさと立ち去れ!」
死体は岩の裏で冷たくなっているというのに、蛇のその必死の取り繕いと「王様はただ寝ているだけ」という場しのぎの嘘によって、偉大な王が定めたルールだけが独り歩きしていく奇妙な秩序が、こうして始まってしまったのだった。
――そして、ここからが本当の地獄だった。
岩の裏で眠る王様が生きているように見せかけ、自分に都合のいい秩序を保ち続けるため、蛇は一人でせっせと「王様の新しきお告げ」を捏造し始めることになる。
「ええと……王様のお告げだ。今日から、「朝起きたら、とりあえずこの岩に向かって、頭を地面に擦りつけてお礼を言え」、だってさ。……うん、そういうルールになったから」




