↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN  作者: もんちょび
PR
12/14

第十一話:願い

AI100%ですので注意されたし。



 誰もいなくなった廃墟の中で、アダムとイブ、そしてその子どもたちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。


 かつて自分たちを理不尽に裁き、恐怖で支配し、追い出したはずの世界。そのすべてが、誰の手にも触れられず、ただ干からびたミイラと色褪せたロープの山へと変わっていた。


 イブが、足元に転がっていた初代王の骸の傍らをふと見下ろす。


 そこには、初代王が自ら飲み込んで命を落とした、赤い実の殻が、骨の隙間に埋もれるように転がっていた。そしてそのすぐ隣で、蛇もまた同じ実の毒に身を委ねるようにして、ひっそりと冷たくなっている。


 「……ねえ、アダム」


 イブが低く、乾いた声で呟いた。


 アダムが振り返る。


 「私たち、あのとき何を怖がってたんだろうね」


 禁断の果実、秘密の場所、絶対的な掟、初代様の脅し、蛇の誘惑――。


 外の世界へ放り出され、泥にまみれ、自らの手で生きるための過酷なルールを作り直した今だからこそ、痛いほどよく分かる。


 あそこにあったのは「神聖な楽園」などではない。


 ただの、恐怖に怯えた臆病者たちの檻だった。


 王はふんぞりかえり、兵士は恐れから他人を縛り、大衆は恐れから互いを監視し合い、そして蛇は、その窮屈な茶番のすべてをただ冷ややかに見守りながら、最後に毒を呷ってすべてを投げ出した。


 誰もが何かに怯え、何かを守るために必死になり、そして誰一人として本当の意味で自由になれぬまま、ただ静かに滅びていったのだ。


 ふと、アダムはその冷たくなった蛇の死骸の傍らに目を留めた。


 息絶えた蛇のすぐそばの玉座たる岩肌に、あの愚鈍な猿たちには到底描けない、しかし執念深く石で引っ掻かれた「絵」と文字が残されていた。


 描いたのは一体誰か。言うまでもない。あの冷めた目で世界を見下ろし続けていた、この小さな蛇の遺作だ。


 それは不格好な線の連続だったが、見れば見るほど奇妙な意思を伝えていた。外へ押し出される若者たちの姿と、その先に広がる荒野、そしてそこから芽吹く新しい命の群れ。腐り行くエデンの果実達。蛇は、この腐り切った世界の衰退をずっと前から悟り、若者たちの「追放」という茶番を自ら演出し、古びた檻の外へ血の通った未来を逃がしたのだ。


 そして、その先にある確信を蛇は抱いていた。


 自分たちから離れた知能に目覚めた次世代たちが、やがてさらなる知能を発展させ、いつの日か、ただお互いを縛り合うだけの古い檻ではなく、本当の意味で調和し、高め合う「新しい形の秩序」を持った真の楽園を創り上げる――その生命の誕生を信じて。


 その願いと皮肉を、蛇は自分の死に場所に、刻んでいた。


 それを見た瞬間、アダムは息を呑んだ。

 それが文字だと認識したわけでも、絵として捉えたわけでも無い。心に響く何かがあったのだ。


 追放も、罰も、あの忌々しい蛇の誘惑さえも、この世界が次の世代へ託した、歪みきった慈悲と壮大なバトンタッチだったというのか。


 自分たちもまた、この先で同じように子どもたちを縛り、小さな「エデン」を再生産している事実が、重く胸を締め付ける。しかし、その鎖の重さの意味が、先ほどとは少しだけ違って感じられた。自分達も次の世代に蛇と同じ願いを、いつか自分たちの先で、本当の楽園を創り出す命へとつながっていくのだとすれば――。


 吹き抜ける風が、色褪せたロープを音もなく揺らす。


 それが、滅びゆく世界で残した、蛇のたった一つの「願い」だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。