第十話:帰郷
AI100%ですので注意されたし。
あれから数年の歳月が流れた。
外の世界へ追放されたアダムとイブは、過酷な荒野で泥にまみれ、生き延びるために必死だった。はじめのうちは「あんな管理社会からは抜け出したんだ、自由だ」と息巻いていたものの、野生の脅威や飢えに直面するうち、二人は思い知ることになる。ルールや秩序のない集団は、ただの不安と恐怖の温床でしかなかった。
生きるために子どもたちを統率し、揉め事を防ぎ、やがて群れが大きくなるにつれて、アダムたちは自分たちの手で新たな規律を作り、お互いを縛り合うしかなかったのだ――皮肉にも、かつて自分たちが飛び出したあのエデンと全く同じように。
そして現在。すっかり荒々しくも現実的になったアダムは、増えた子供たちを引き連れ、ふとあの懐かしくも忌々しい「エデン」の領域へと戻ってきた。
どうせまた、あの脳筋の兵士たちがくだらないルールを振りかざして立ちはだかるのだろう。アダムは苦笑しながら、かつて自分たちが追い出された領域へと足を踏み入れた。
だが、その向こうから迎えたのは、怒声でも監視の目でもなく、異様なまでの静寂だった。
「……父ちゃん、静かすぎるよ」
子どもたちが不安そうにアダムの衣服の裾を引っ張る。
足を踏み入れた広場には、無機質に張り巡らされたロープが誰にも手入れされず色褪せて垂れ下がっており、そのあちこちに、かつてルールを守り合っていた猿たちのなれの果てが啄まれ無残なになって転がっていた。
誰もいない。誰も動かない。
貢ぎ所のほうを覗けば、玉座の上で現王だろう乾いた骸がぽつんと横たわっていた。
そして――その玉座たる岩の裏には、毒々しい赤い実の残骸が転がり、そのすぐそばで、蛇もまたひっそりと息絶えていた。
脅す相手も、脅される相手も、もうどこにもいない。何もすることがなくなった蛇は、最期にあの忌々しい毒の実を自ら口にし、すべてを終わらせていたのだ。
「……なに、これ」
イブが息を呑み、足元に色褪せたロープの切れ端をそっと蹴飛ばした。カサカサと乾いた音が、だだっ広い廃墟に虚しく響く。あれほど厳格だった「規律」も「査定」も、すべては誰もいなくなった空間で、ただのゴミと化していた。
主を失った静まり返った廃墟の中で、ただ無惨に転がる二代の王と、その傍らでこと切れた蛇。
誰もいなくなった広場の隅で、かつて響いていたはずの小さなため息すら、もうどこにも残されてはいなかった。




