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Metamorphose-再誕  作者: 月の輝く夜に
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霞が関 (第二章)

外務省大臣官房人事課長の大久保敏弘は、一枚の履歴書を前にウンウン唸っていた。


国立大学法学部在学中。国家公務員総合職試験合格。英語堪能、ドイツ語も話せる。成績は申し分ない。


とある引退した有名政治家の養女。


・・・外務省にはあまり表には出ていないが首相経験者の二世やら政治家の縁故やらがそれなりにいるので問題ない。


もちろん女性であることは問題ない。今時LGBTでも官僚になれるし、中央官庁の中では割と元々女性の割合も高いのが外務省だ。


学歴の他に謎の職歴があるが、その職歴が問題なわけではない。あくまで(参考)の項に書かれているだけだが、科学技術に強い人間が外交官になることは寧ろ歓迎だ。


年齢は戸籍上24歳だが括弧書きでなぜか「46」とある。これはちょっと謎だが、それ自体が問題なのではない。


容姿端麗。外交官にとって人を引き込むことのできる容姿はプラスに働くことはあれどもマイナスには働かない。


問題は、彼女が3年前にとある記者会見で世間を騒がせた人間であり、有名すぎる人物であること、海外の諜報機関が注目していた人物でもあることだった。


九条絵里香。旧名神谷真。

写真と共に置かれた履歴書が大久保を悩ませていた。


*******

私はあれから3年間を生き延びた。いつ体の免疫反応が爆発するか、誰にも分からないが、今のところは問題はない。寧ろ誰よりも健康と言ってよいし、若返ったことで勉強にも無理が効いた。


九条のお義父様とお義母様は相変わらず元気だ。お義父様は時々なぜか「小遣い足りてるか」とか「ついこの間までパパと結婚するって言ってたよな..」とかとてもポンコツなことを言うようになったが、加齢によるものではなさそうなので割愛する。


最終的には政治の道へ行こうという気持ちがあるのは変わらない。


ではなぜ私が外務省に入省したかをひと言で言えば、真面目に政治をやるなら一度霞が関の世界を経験したほうがよいと、何人かの義父の友人からの勧めがあったからだ。人脈もできるし、官僚がどう動くのかを知っていることは政治家になってからも役に立つ。政治家の目線からどう実務を担う官僚を動かすかということと、官僚がどれだけ政治家を動かしているのか、その両面を知っておくことは確かに役に立つ。



昔ほど官僚が政治を動かしている時代ではないのは確かだが、まだ実務を担っているのは官僚だ。



その中で、外務省を選んだのは割と消去法的なところがある。財務省は一番政治と関連があるが、私が予算とにらめっこしている姿は自分で想像がつかなかった。農水省や総務省も同じだ。科学技術という意味では文科省だが、国全体を見るという意味ではちょっと物足りない。少し迷ったのが経済産業省と厚労省だが、海外経験もある自分の資質が一番生かせそうなのが外務省だった。


それに、昔吉田茂の伝記を読んだことがある。吉田茂は、「外交は男子一生の仕事」と言っていて、それが頭に残っていた。

...既に私は男子ではないが。


海外赴任もあるし、留学制度もある。


ついでに言えば九条家は、元々は公家の一族だ。元公家で外交官になっている人間は多い。外交官(特に高官)は海外の外交官との付き合いのため、在外公館等で一定の品格を求められる生活をしている。かなり貴族的な生活とも親和性があるからだろうか。横浜の山手に「外交官の家」という立派な洋館があるが、明治から大正の外交官と言えばそういう生活で、華族などが転身して外交官になったのがその経緯としてある。


まあ、そんなこんなで国家公務員総合職試験を受け、外務省に入省した。ちなみにいわゆる「キャリア」と言われる区分だ。


外交官と言えば、英語で華々しく相手の外交官と渡り合う。財務省や経産省のような、いわゆる「官僚」的な文化とは一線を画す。

そんなイメージがあった。


・・・甘かった。


入省して、最初の1年間は研修生として働かされる。綾瀬にある寮に入ることもあり得たが、九条家の子女であり、私固有の問題もあるので九条の家から出勤している。


「九条さん、コピーとって」「この決裁書亜東二(※東南アジア第二課)に回しといて」「このポンチパワーポイント修正しておいて」「問取り(今回議員に事前に質問があるかどうか聞きに行く)同行して」「明日朝の大臣勉強会何時からか」「局長の車回しておいて」


とにかく雑用が多い。1年生には人権がない。毎日9時に出社して、終電で帰れれればまだ良い方だった。おまけに、その後留学先は自分で見つけて出願しなければならない。まさに体力勝負の世界だった。


女性だからというところで多少手加減されているところは感じなくはないのだが、それ以前に人が足りなさすぎて立っているものは何でも使えというとんでもない職場だった。


今の世の中、「働き方改革」とかで、大企業の会社員は19時には家に帰っている。その是非や結局そのしわ寄せが中小企業に行っているという話はあるものの、こちらは週3日は始発で帰る方の9時~5時の仕事だ。特に、国会会期期間はひどい。色々な質問が飛んできて、関係部局にその質問があたると翌朝の大臣勉強会、その前の審議官クラスへのレクチャーなどで、それが終わってからシャワーを浴びて仮眠をとる生活だ。20代の身体でなければとても持たなかった。


ちなみに、結構不倫は多いらしい。私は上司のクソがつきそうに真面目な首席事務官や、ちゃらんぽらんだが抑えるところは抑える課長に守られているが、結構危ないと感じる瞬間はいくつかあった。


まあ、それでもそれなりに充実した毎日と言えるだろう。


結局藤崎とは付き合っている。


だが、私自身がどうしても踏み込めないし、藤崎もそれ以上踏み込んでこようとはしない。何ともじれったい関係でそのまま進んでいる。そして、この仕事をしていると365日フル稼働で、仕事か勉強以外の時間は全て寝ている、そういう生活になってしまう。ほぼテキストだけのやり取りだ。バーチャル恋人と変わらない。彼も彼で医学部の最終学年になり、かなり忙しい生活を送っている。彼は研究職と臨床で未だに迷っている。


...まあ私からは研究職はとてもお勧めできない。


そして1年の研修生期間が終わったら留学、そして在外公館での勤務だ。私はドイツ語なので、ほぼドイツのどこかの公館に行くことが決まっている。ちなみにフランス語は一番華やかなイメージがあるでしょう?・・・罠です。ほとんどがアフリカ行きになります。アフリカは旧フランスの植民地で溢れている。ドイツに植民地がなくて良かった。


まあドイツ人の国に、ドイツ人の容姿で日本の外交官として行くというのはなかなか不思議なシチュエーションだが、まあそれはそれでプラスに働くだろう、というのが上(人事課)の判断だ。


話を戻す。私と藤崎との関係、というより男性との関係については、一つ大きな問題がある。私自身の身体が不安定なところがあるのは既に述べた通りだが、子供を産めるのかという問題だ。


こればかりは「わからない」としか言いようがない。そもそも妊娠するかもわからないし、私の身体の細胞が悪さをして、妊娠していろいろホルモンバランスを崩すと何が起こるか分からないし、子供にどういうリスクが及ぶかも分からない。


彼はそういう事情もいろいろ受け入れてくれてはいるが、彼のために子供を産めないのは、選択肢が狭められてしまうという意味で申し訳なさを感じる。


色々中途半端さを感じ始めたとき、そんなときだった。

私は初めての海外出張を命じられた。閣僚の国際会議へのアテンドである。


行き先は・・・あの、ミュンヘンだった。



























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