89話 キッチンカー店主カズネ
→→→→→ずっとカズネさんターン
中学で意を決して放送部の大会に出た私は地域の選考で『悪くなかったよ?』ぐらいの評価を得て、それをバネに! 短大を出てから地方ラジオのアナウンサーに···にはならなくて、大学の時のバイトがすごく楽しくて合ってる気がしたダイニングバーにそのまま就職しちゃった。
専攻と全然関係ないから、「調理師か栄養士の学校とか行きなさいよ」て呆れられたけどね。実際短大、学費そこそこだったし···ごめんて。
私は短大近くの都会のダイニングバーでお洒落に働く新社会人生活を満喫···したかったんだけど! 入って3か月後にほとんど店に来ないオーナーが、「離婚して再婚するんだけどめちゃ金掛かるから、ここ整理するわ」とあっさり閉店宣言! 嘘ぉっ?!
なんだかんだで田舎に帰った私が近場のコンビニで地元の学生さん達とバイトする日々を数ヶ月送ってると、高校の先輩の紹介でタコスのキッチンカーの補助係のバイトをすることになった。
時給はコンビニと変わらない。それでも今日はスーパーの店前、明日はイベント会場、怖いお兄さんに絡まれない交番のある駅前とかにも出店出店と。
あちこち旅するみたいな生活は不思議と懐かしいような? 居心地の良さがあって気に入っていた。
なんだけど! またまたトラブルっ。キッチンカーのオーナー店長がのっぴきならない事情で東北の故郷に帰らなくちゃならなくなって、これまたなんだかんだで私が格安でキッチンカーを買い取って引き継ぐことになったんだよっ。
借金86万円! 手続きも大変だったけど、衛生管理とか最低限度必要な資格はもう持ってたから、引き継いで3週間後には私1人でキッチンカー転がしてたわ···遠出やイベント対応は1人じゃキツいから4箇所くらいのいつもの場所をローテする形で落ち着いた。
今年で22歳で自営業始めるとは思わなかったわぁ。
「いらっしゃいませっ。豚ガツと白身のマスタードカツお勧めですよ! コーラは只今110円セールっ」
ガツ原価安いの。フライ系は仕込みと油の始末大変だから廃棄多いとテンション落ちるの!
そんな思惑を抱きつつ、今日も元気よく営業を終えた。
念入りに掃除して、ゴミと廃水の契約してるとこに捨て、そこからまた契約してる酒屋さんの駐車場に車を停めにいって残り物お裾分けしたり飲料とか調味料買ったり、改めて車のメンテしたりしてから着替えて、サービスでタダで停めさせてもらってる親に譲ってもらった中古軽自動車に乗り換える。
「今日も大変だったよ〜。コーラ足りなかったし」
助手席に置いてシートベルトも付けてあげてる、何度も洗って縫い直してボロってる次元怪獣ノーモンくんに話し掛けつつ、新米キッチンカー戦士カズネさんは、酒屋の裏手の関係者用駐車場から裏通りの細道に車を出した。
酒屋で先代の奥さんと話し込んじゃったからちょっと遅くなっちゃったな。さっさとコーポ借りといてよかったよ。まぁ作業もあるけど、いい歳の両親とは生活時間違うもんね。
「はぁ〜、どっかに素敵彼氏落っこちてないかな〜っと」
運転用の眼鏡でキョロキョロしながら業務用スーパーの結構入り難いし停め難い敷居高めの駐車場に軽を停めた。
酒屋さんで補いきれない必要な物をパーっと買い、カートで駐車場まで行き、手早く積み込む。大きいクーラーボックスも積んでる。夏とか適当なことするとヤバいかんね。
「ふー積み込み完了!」
和牛のモツとスペイン豚と青唐辛子が安く買えたわ。駅前夜出店の時はお酒出せるから、高め設定にするモツタコスも売れそう。ぐふふ···
カートを置き場に置いて筋とか伸ばしつつ、運転席の方に回ろうとしたら、
「ん?」
停めたとこが駐車場の端の方で、裏手のマンションとかある通りのフェンス側の歩行者用の出入り口が近かった。
車止めの向こうを疲れてるからか一瞬ボヤけて見えた会社員風の綺麗なお姉さんが怯えたような顔付きで足早に通り過ぎてく。
どうしたんだろ? なんて思ってると、その後を暑苦しいコートを着て帽子を目深に被った男が続けて現れた。
いや、不審者ではあるんだけど、この感じ···自分でも驚くくらい身体中で危険を感じて! ちょっとビリビリ来たくらいっ。なにこれ??
いても立ってもいられなくなった私は警察に通報した。
「いやぁ、不審な人物が女性の後ろを歩いているだけでは···近くを巡回している者を向かわせてはみますが」
歯切れ悪っ! 私は「急いでもらって下さい!」と急かして通話を切り。その場を行ったり来たりしてから、結局車の中の荷物をガサゴソやりだした。
箒、防刃チョッキ代わりに前側に掛けたデイパックに軍手と殺虫スプレーとバーベキューの時使ったロングライター(やり過ぎ?)。あとはクッションに(ごめん)ノーモンくん。それから···
どうかとは思ってるんだけど、地元で自分でキッチンカーやるってなってからやっぱり不安で、後部席の足元の小さいクーラーボックスに細工箱を私はいつも入れてた。
逆にキッチンカーには積まないんだけどね。
地元に帰ってきた時、押し入れをこれを発掘してからなんか『これ忘れたらダメなヤツ』て思っちゃってて。
まぁただのビビりなんだろうけど、私は一瞬迷って、結局デイパックに細工箱も詰めた。
「よし! アメンボ赤いなあいうえおっ! 放送部魂!! GOっっ」
どうかしてると思いつつ、私は駐車場を出て小走りに怪しい男と女性を追った。
準備に手間取ったせいで、見失ってしまった。
「というか店の人も呼べばよかったかも??」
えー? 1回引き返す? なんて思ってると、
「うぁーーっっっ?!!!」
男の悲鳴!! 男?? 近くの自走式立体駐車場だっ。
「もう! 最悪だよっ」
私は駐車場に向かってダッシュした!
争う物音、声、悲鳴。
2階だ! 無理矢理忍び込んだところからエレベーターホール遠っ、んーっっ。私は車の昇り口をダッシュした。
いた! コートの男の方がは腕に怪我してるっ。逆に女の方が両手に肉切り包丁と肉切りハサミ!! 嗤う女。
「ええ?! 逆?? 撮影じゃないよねっ??」
物陰の私は動転しつつ、警察に電話!
「襲われてますって!! 男の方がっ」
「男が?? すぐ向かわせますっ。その場を離れて下さい!」
いやっ、そう言うけどさっ。
背中をわざと浅く斬り、斬った刃物の返り血を舐める女! コイツっっ。
そういえば2年くらい前から根暗な男性を狙った惨殺臓器持ち去り事件が7件くらい続いてような?? コレなの?!
私は通話を切って箒をデイパックのストラップに挟み、軍手を嵌め、右手にスプレー。左手にロングライターを構えた。良い子は絶対真似しちゃダメなヤツ!!
「···はぁはぁ」
呼吸は荒いけど、根拠不明の慣れてる感覚もあった。なんだこれ? と思いつつ、自分でも妙なくらい手早く物陰から物陰へ、被害者と加害者の方に近付いてく。
「ストーキングする程執着してきた男を、可愛いと思ってる。もっと可愛くしようと思っているわ」
はい、頭オカシイこと言っちゃってますねこの女は! 男性は痛みより恐怖でパニック状態だ。この女、パンプス履いて華奢なのに操り人形みたいに身軽で時々ヤケクソでくる男の反撃を軽々蹴り飛ばす謎の怪力持ち!
「片足になればもっと可愛くなると思ってるわ!」
刃物を構える女っ! ああもう武器選択間違えたかも? 私は物陰から飛び出し、わざと足音を立てて突進した!!
「あ?」
「ごめん、痕残るかもっ!!!」
スプレーのガスにライターの火を引火させる! 顔は避けたけど、ボッ!! 即席の火炎放射器に炙られ、振り返った女の半身は炎上した。
やり過ぎたぁー?! こんな燃えちゃうの?? 日本の法律こういう時やたら厳しかった気がする!
「ぎゃーっ?!!」
踊るように苦しむ女っ。私のキッチンカー閉店かも! と思いつつ、
「下に逃げて!」
一旦消した、スプレー火炎放射器を構えて威嚇しつつ、ストーカーではあるらしい男性に叫んだ。
「ひぃっっ」
男性は半狂乱で帽子を落としながら一階へと走り去っていった。よし。いや、あんまり良くない気もしてきたけどっ。
とにかく私もジリジリ下がった。すると、
「···使えない身体だ。半身炙られた程度で失神とは」
『白眼を剥いたまま』、急に冷静になってうるさそうにはたいて炎を消し、嗤ってくる女。声が違う。老婆みたいだ。
「それにお前、オカシイな」
「は? オカシイ人にオカシイって言われてもさ」
さらに後退る私。警察! 仕事遅いっ。
「弱体化しても身体を手に入れ『人払い』したはずだ。お前は力を鍛えていない。だが、気付いた。···お前、我々を知っているな?」
なに言ってんだ? この人??
「(奇妙な言葉)来訪者か? 帰還者か? 記憶はないようだな」
なぜか、言葉がわかった。
「記憶? 来訪者? なに言ってるの? 何語今の??」
私は焦燥感に駆られた。なに? なに??
白眼の男はさらに嗤った。
「(奇妙な言葉)情報の混線があるようだが、運がなかったな!」
女は獣のように素早く跳び掛かってきた。
スプレー火炎放射は肩を軽く焼いただけで蹴りで缶を弾かれた! 咄嗟に横に転がって飛び付きを避けた私はライターを捨て箒を抜いて一階への降り口へと走るっ。
やたら身のこなしいいぞ私?!
「シャアオッ」
奇声を上げて私を飛び越え、道を塞ぐ女!
「キャラ変わり過ぎでしょ?!」
フィジカルが違う。逃げ切るより時間稼ぐ方に私はシフトした。広い場所はダメだっ。私は駐車された車の列に走った!




