88話 宝物
→→→→→兄ターン
男爵級悪魔は左肩に左手のような装飾のあるどことなく蛸っぽい鎧を身に着けた魔人の姿に変化した。頭には引き続き錆びた王冠。
エアステップで頭上にいるがまともにやって通じるのは無理だろう。今、装備最低限度だしなっ。
俺は収納ポーチから霊木の灰の小袋1つと聖水の瓶を2本投げ付け、それらが炸裂してから側面から切り込む形でドラゴンハントを打ち込みに掛かった!
ガキィッ。火花が散って左腕で受けられる。籠手にヒビを入れてやったが、浅いっ。
「献身的だねぇ。というかさ」
猛烈な胴回し蹴り!
俺は咄嗟にジャッジランスの柄で受けつつ、自分にホップリングを使って蹴られる方向に飛んだが、守備魔法を破ら衝撃で柄にヒビが入り、両腕と肩が痺れちまった。
「僕達の邪魔し過ぎだよね? 横入りだよね? なんだろう。チキュウで一生懸命、真面目に罪を重ねようと思ってたのに···許せそうにないなぁっ!!」
「ポルト! アティ!」
雨の水分を利用した水魔法で悪魔の突進を阻止しつつ、回復魔法を俺に掛けてくれるエルフの長っ。だが、麻酔魔法使ってないから激痛だ!
「痛てててっっ?! んでも、回復ぅっ! あざッス!!」
気を取り直してリングダッシュとエアステップで距離と角度の再調整を図るっ。
「ヒロシ! 妹は大丈夫だっ。扉は一旦忘れなっ! コイツは手強いよっっ」
「俺らが帰ってたらその後どうするつもりだったんスか?!」
「逃げるなり時間稼ぐだけならなんとかなるかと思ってね!」
結構ノープランっ。つーか、この悪魔、本性出すと格闘タイプでフィジカル強者だ! 逃げ切るのはキツいし、持久戦だとまだ大半伸びてるレプラコーン達に被害が出ちまいそうだな。
「積極的にいく!!」
エアステップとリンクダッシュの合わせ技でかなり不規則に近付くっ。距離があるからウィッチサインで減った魔力も補完!
霊木の灰はまだあるが聖水もうないんだよ···
「ポルト!」
「うるさいなっ」
水魔法を裏拳で打ち払い、翼を広げると突進する俺に逆に突進してくる悪魔っ。
ドラゴンハントの態勢は取れてないのと、半端な距離での一度喰らったユニコスティングも通り難そうだ。
俺はケチらず残りの霊木の灰3袋をぶつけて焼き付けて牽制し、位置関係の修正に掛かる。
「ポルト!」
エルフの長の水魔法に合わせユニコスティングを仕掛けるっ。
「カァッ!!」
口から衝撃波を撃ってくる悪魔! どうにか半身避けつつグリフォンバックラーに魔力を込めて受け流し、直撃を回避! ここで下がると詰められるっ。俺は左腕が痺れバックラーをいくらか割られたまま突っ込み、片手でユニコスティングを腹に打ち込むっ!
黒い血を吐かせてふっ飛ばしウォーロックサインで魔力も回収したがまた浅いっ、でもって今ので柄が折れた。
「アティ! ドガラ!」
またミシミシ言わして激痛で左腕回復、守備魔法も張り直しっ。いける! と思ったんだが、
「あー、地上に爵位を持つ魔が顕現するだけでどれだけ面倒か? わからないんだろなぁ」
ボヤきつつ腕を6本生やして増やす悪魔! 顔つきも凶暴になり牙を剥き出した。
「ロングフットとエルフ、レプラコーン少々の魂ではわりに合わないよ···」
爆発的に魔力を高める多腕化した悪魔!! こりゃマズいっっ。
雨に打たれながら、冷や汗をかいたその時!
(勇者の、火樹銀花、百花繚乱)
歪んだ森の木々を介してナンクゥーの思念が響き、全ての木々が眩く輝きだした!!
「なにっ??!!!」
力を奪われ、腕が3本崩れ落ちる多腕悪魔! 苦痛に仰け反るっ。逆に俺やエルフの長、ザセウ王達レプラコーンは力が溢れてきたっ!
「よくやったナンクゥー! 先陣は任せろっ。ゆくぞザセウ軍団!!」
「「「わーっ!!!」」」
ザセウ王に率いられたレプラコーン達が蜂の群れのように多腕悪魔に襲い掛かり、全身の鎧と王冠にヒビを入れ、元の左腕の籠手を完全に破壊した!
「邪魔なんだよっ、このチビどもがっっ」
「ディノ!!!」
溜め撃ちの爆破魔法で左腕と生やした腕2本と鎧をふっ飛ばし、冠を半ば砕くエルフの長。
レプラコーン達も素早く逃げる。
「くっっ」
怯んだ頭上に俺は飛んでいた。ホワイトプロミスとジャッジランスの穂先の二刀流でドラゴンハントに掛かる。
腕2本になった半裸の悪魔は両手に負の魔力球を作って迎撃の構えをみせたが、
「ハギン!」
「「「ハギン!!!」」」
エルフの長とレプラコーン達に拘束魔法を多重に掛けら動きを封じられた。
「ズルいそっ?!」
地球でただ快楽の為にゲスいことしようてしてたらしいコイツに同情はしない! 俺はフルパワーの二刀流ドラゴンハントを打ち込み、悪魔の身体も錆び王冠も、全て打ち砕いた。
悪魔が滅びたことを察したのか着地と同時に光の木々は鎮まり、バフが消えたことで俺もエルフの長もレプラコーン達も一気にバテてダウンした。
「一時的かよ〜···」
「待、ちな、エリクサー、持ってる···」
「まぁ一段落だ」
仰向けに寝転がって、制服泥だらけで雨を受け、振り向くと石の門は力失い崩れ去り、ノーモンの人形だけ妙に無傷で無表情で雨に打たれていた。
「カズネ、またな」
俺はそれだけ言って、思ったより消耗してたみたいで気を失っちまった。
→→→→→妹ターン
私はゲームセンターのトイレのドアを開けて廊下に出た。
ゲームセンターの遊戯音を近くに聴きながら一瞬呆けてしまった。
「···なんだっけ??」
凄い疲れてる。なんか生乾き? な気がする制服を着て、なぜか古びた細工箱と縄跳びを持っていた。鞄は持ってない。
「は?」
ちょっと意味がわからない。私、お兄ちゃんに···いやいや! 一人っ子だしっ。お兄ちゃん云々はアレだ。放送部の次の大会出るんだったらって顧問に渡された課題の原稿だ。名作文学ねっ。
そうそう、その読み込みと、テスト勉強と、彼氏と別れたユミの長電話に昨日付き合って、寝不足! からのゲーセンUFOキャッチャー荒らし!!
はいはい、そういうオーバーワークね。どうりで頭回らないと思ったわ。
「カズネ!」
廊下の向こうにカズネ。自分の鞄と私の鞄、それから他のぬいぐるみと一緒に、ウチらの間でだけ流行ってるさっき私がワンコインで颯爽とGETした『次元怪獣ノーモンくん』を持った我が友にして、失恋したばかりのユミがいた。
「遅いからどうしたのかと思ったよ」
「ウ〇チじゃないよっ」
「言ってないよ! というか鞄預けて縄跳びと箱持ってってるしっっ」
「いや、昨日電話で『小学生の時、後ろX二重跳びできた』て言ったけどなんか不安になってきたからトイレの前の廊下で練習しようと思って···」
「そんな真面目な話じゃないからっ。というか人来たら見た人、恐怖でしょ?」
「まぁね。箱もこれは大事だから置き引きとか怖いし」
「いや縄跳びもだけど電話の『宝物の箱』の話ちょっとしただけだし、なんなら私家行くからっ、持って来なくて大丈夫だよ!」
「ユミ、テンション上がるかと思って···」
「失恋したけどそこまで引き摺ってないから、逆に困っちゃうよ。まぁ泥棒は怖いしノーモンくんGETしたし、もう出よっか? フラペチーノ的なの奢るよ」
「アイスクリームとか、うどんは?」
「ガッツリ御飯食べようとしてない??」
とにかく退店した私達は大人しくフラペチーノ的な物を飲み、駅の近くを歩いていた。夕暮れ。
「あー、家まで電車からのバス、ダルいよ。魔法の絨毯とかで一気に帰りたい」
「急にメルヘン。···なんか、カズネ元気ないね。これ、やっばりカズネが持ってって」
ふわふわのノーモンくんを押し付けてくるユミ。
「いいの?」
「うん。今日は元気もらった。他のぬいぐるみも一杯!」
「待って、最後にもっかい見せる」
私は通りで一応周りを確認してからおもむろに後ろX二重跳びを披露した。ギョッとする街ゆく人達。
「アハハっ、ありがとう。じゃ、ね」
ユミはちょっと泣くくらい笑って立ち去っていった。
「···うむ」
私はそそくさと荷物を纏め、駅に向かった。
電車は帰宅ラッシュの隙間みたいなタイミングで、わりと空いてた。
「···」
私はなんとなく膝に乗せてた細工箱を開けようとして、めちゃくちゃ苦労してパズルを解いて開けてみた。
大人用の立派な木の箸。幼児の画力で描かれた、たぶん当時の仲良かった子達の似顔絵。人形用のマント。謎の動物の牙。綺麗な石ころ。ちょっと珍しいプラスチックの玩具の折り畳みナイフ。手書きのお食事券5枚組み。押し花の栞。たぶん空想で描いた魔法の世界の拙い地図。そして灰と塩みたいな物が詰められた小瓶。
不思議な形の鍵のような物が2つ。
どれも由来はもう覚えていない。箱自体の由来も。
ただ、似顔絵にたぶん私だとわかる顔があって、その隣にいる男の子に触れると涙が溢れてきた。
きっとその頃、私の大事な友達だったのだろう。他の子達も。
箱を閉じ、ここでも他の客が少し戸惑うくらい。私は箱を抱き締めて泣いた。
きっと疲れていたんだと思う。




