87話 行きて帰りぬ
→→→→→兄ターン
その『扉』の周囲は奇妙に安定したドーム型の空間になっていた。
扉は巨石を組み合わせた遺跡のような物だったが、一方で、『行きて帰りぬ』と日本語の派手なネオン看板と、薬局にあるようなキャラクター化されたノーモンのプラスチック人形も置かれており、ちぐはぐだった。
今ならなんとなくわかる。最初の『ロッカー』もだが概念の抽出物なんだろう。魔法が形を成してる。
そしてそれらは輪状の魔除けに護られていて、そこに掌の悪魔が猛烈な体当たりをして侵入しようとしていた。
魔除けの輪はもうヒビが入ってる。
「ありゃ持たないよっ!」
「カズネ!」
「よしきたっ、ラスタ!『ヴァル』! ジガ! エル! ルクレ! どれか効けーっ!!」
飛行絨毯から無属性、凍結、雷、炎、光の攻撃魔法を連打する我が妹。
雷と光はそこそこ通った感じだ。
「うるさいなぁ、なんにもしてないのに殺しに来るのやめてくれない? どっちが悪魔だよ」
体当たりをやめ、振り返りながら『錆びた王冠を被った蛸の魔物』の姿に変化する男爵級悪魔!
「絨毯降りるよっ、あんたの腕前じゃ的だ!」
「うッス」
「ジガ! ルクレ!」
カズネが雷と光で牽制している間に着地しようとしたら、電撃と閃光に触手数本をふっ飛ばされながら構わず残りの触手で絨毯に向けて強烈な突きを放ってくる悪魔!
「だぁっ!」
「嘘ぉっ?!」
俺達3人は絨毯を引き裂かれながら慌てて飛び降りた。ふっ飛んだ触手はすぐ再生してるが魔力は消費しているようだ。不死ってワケじゃないか。
「『ユクトン』!『オーレス』!」
エルフの長が結構レアな魔力強化魔法をカズネに、自分の連射クロスボウと俺のジャッジランスとホワイトプロミスに武器強化魔法を掛けた。
守備魔法は自警団が掛けてくれたのがまだ効いてる!
「妙な能力でハメられる前にとっとと行くよっ!」
「「了解!!」」
盾役、陽動役がいないから下手に飛べないが、カズネの強化された雷とエルフの長の強化矢の連打の援護で有利を取りながら、リングダッシュのスキルで不規則に詰めるっ。
と蛸の両目が妖しく輝くっ、修道士の指輪がこれに反応して力を弾いた。誘惑効果だったらしい。
距離を詰めた俺は普通の聖水投げて燃やして牽制し、リングダッシュで死角を取り、ユニコスティングを撃ち込んで胴体に風穴を開けた!
「うぅっ」
怯みつつ触手で捕獲に掛かられたからエアステップで飛び退く。そこへエルフの長の矢の連打と、
「んんっ、ジガ!!!」
カズネの溜め撃ちの特大の雷が悪魔を襲いっ、黒焦げにした。
だが苦し紛れに焦げた触手2本で扉に放ち、魔除けを砕き、もう一本でネオン看板を吹き飛ばし、石の門にヒビを入れた! コイツっ。
「来訪者、かな? ざんねーん」
「キャビネットだよ! 補修するっ」
焦げた両目に矢を撃ち込みつつ、エルフの長は扉に駆けた。同時に雨が降り出した。
悪魔は急速に実体を失い闇に変わりつつある。
俺はレプラコーンキャビネットを収納ポーチから取り出し、開けた。
「ザセウ王! コイツを抑えてくれっ」
「そんなこったろうと思ったぜぇ!」
ザセウ王が数百の手下達と共に飛び出してきて、連携して魔法陣を張り、不定形化した悪魔を縛り始めた。
「よしっ、今だタキガワ兄妹! ここは俺様達に任せろっ!」
「頼んだっ」
「ありがとう! おほっ?」
俺はカズネを抱え、長に続いて一気に扉へとリングダッシュで駆けた。
→→→→→妹ターン
たどり着いた。抱えられてるけどっ。
エルフの長は事前に専用に調整してたワンドを手に、必死で倒壊して閉じてしまいそうな石の門を修復していた。
「降ろして」
「おう」
降りつつ、
「長、直せますっ?」
「一度使う分にはねっ。同じチキュウ、来た時間に還せそうだ。場所は扉の整合性で少しズレるかもしれないが誤差程度だね。ただ!」
雨に打たれる長の表情は険しかった。
「扉の不安定化の影響でこの扉は長く持たない。それから『情報』は持ってゆけそうにない」
「「情報?」」
「こっちの世界の記憶や、ヨシダとかいう魔法道具師の作った箱でも情報に関する品はチキュウに整合性ある情報に差し替わってしまうだろうね」
「そッスか···」
「忘れちゃうんだ···」
「記憶を持って帰られるヤツらの方が珍しいさ。上手く同じ時代に帰れないヤツだっている。そもそも帰れない、帰らないヤツらもね。それに」
長は大きく息を吐いてから、続けた。
「例え忘れてしまっても、身体は心を覚えてる。こっちで知り合った連中は忘れないしね」
私とヒロ兄は顔を見合わせ頷き合った。
「「了解です」」
「わかったらとっとと着替えて持ってゆけない物は置いてきなっ」
私達は来た時の学生服と靴に着替えた。鞄はなくしちゃったけど、格好はつくでしょ?
私は細工箱と自分のフェアリーコインだけ手に取った。
ヒロ兄は学生服に槍とバックラー、短剣と装備用ベルトと収納ポーチアクセサリー3種をそのまま身に着け、ザセウ王達の方を見てる。
「ヒロ兄?」
「いや、ギリギリまで様子見る。これ、箱に入れて置いてくれ」
自分のフェアリーコインを渡してくるヒロ兄。
「わかったけど、ムート」
私は受け取って、念力魔法で日傘を地面に置いた収納ポーチか取り出して細工箱の上に翳して、そのまま2つのフェアリーコインを入れる為に念力で細工を解いて箱を開けた。
「あ」
中がはっきり見えちゃうよね。色々入れてくれてた。
吉田さんの『木の箸』。シトリーさんの『全員の似顔絵』。ザセウ王の『小さな魔法のマント』。モルテマ坊っちゃんの『竜の牙』。土器ゴーレムの『魔力の石』。ボルッカの『ミスリル製折り畳みナイフ』。ノッコの『ウドゥーンの人気店のお食事券5枚組み』。ナンクゥーの『10年枯れない精霊花の切り花』。ヨンクゥーさんの『地図』。エルフの長の『塩と榊の灰を混ぜた物』。
「ううっっ」
泣けて来ちゃいながら2つのフェアリーコインをしまい、箱を閉じた。
「よしっ、扉が通ったよ!」
石の扉の向こうに空間の穴がはっきりと空いた!!
だけど、
「「「うわ〜〜っっ??!!!」」」
ザセウ王達レプラコーン達が縛りの魔法陣を破られて全員ふっ飛ばされちゃった!
悪魔は闇の変化を再開して『人型』に変わろうとしだしたっ
「やばっ」
慌ててナイトスラッシャーを念力で私が拾うと、
「悪い」
「え?」
角度を付けたホップリングが私の足元で発動して、細工箱と鞭だけ持った私はエルフの長の横をすり抜けて石の門の中に放り出された。
「先に行っててくれ、田中にもよろしく」
ヒロ兄は笑って、エアステップで悪魔に飛び掛かってゆく。
「ヒロ兄のバカぁーーーっっ!!!」
私は叫んで、時空の渦に吸い込まれていった。




