86話 手品と姉妹
→→→→→続けてボルッカターン
エルフの手練れの自警団は前衛型4人、弓兵5人、魔法使い&精霊使いが合わせて3人。
前衛にノッコみたいなガードタイプはいねぇ。弓兵は素早い。精霊使いは風の精霊シルフを使役。
前列はオイラと前衛の4人。盾役がいないからオイラが陽動する。
中列は弓兵。援護と直に後列に攻撃がゆかないように誘導してもらう。
後列は魔法使いと精霊使い。シルフが最大火力だな。魔法使いの1人は守備魔法を張り続け、もう1人は鳥だから『飛行阻止』でとにかく片方の翼を狙ってもらうことにした。
ほぼアイコンタクトと手振りで段取ったが全員手練れ! 通じてるよなっ? これでいくっ!
「クェーッッ!!」
デカい口での『かぶり付き突進』っ。雑な攻撃だがこれやられると隊列が乱れる。
オイラは手裏剣スキル『ブラックスター』を放った。着弾時に旋回状に鋼手裏剣5枚に込めた魔力が弾けるっ。巨体の連続攻撃を防ぎ、隙を作る。
前衛の4人がいい感じで追い打ちし、左の翼に爆破魔法が直撃! 守備魔法は一部張り直し、シルフは風の力を溜めてる。弓兵の援護でオイラは次の行動に移れた。
「その口、閉じてくんねーかっ!」
かぶり付きも吹雪も御免だぜっ。鎖鎌スキル『チェーンロック』で嘴を縛る! 当然振り回されそうになるが、身体を浮かされ時点で最後の混ぜ込み聖水・改をヤツの顔面に投げ付けてた。
ドンッ。鎖が千切れ、鳥悪魔の右目が潰れた。拘束はまだ効いてるっ。シルフの溜めはもう少し!
ここで雨が降ってきたが、オイラは飛ばされた先の木の幹を蹴って、突進っ!
激怒した悪魔は鉤爪で叩き潰しにきたが短剣スキル、ブルパリィで思い切り弾き、続けてクリスナイフ改が砕けちまいながらスピンエッジを放って鳥野郎の右手をズタズタに砕いてやった。
「クェーッッ!!!」
仰け反る悪魔は前衛のさらなる追い打ちに一旦飛んで距離を取ろうとしたが、もう一撃! 爆破魔法が左の翼を襲い根元から破壊っ。矢の追撃もあってヤツは派手に落下した。
そこへシルフの『圧縮した風の弾』が撃ち込まれ、鳥悪魔の頭部は消し飛んだ。
突端っ、悪魔の身体が闇のようになって揺らぎ、雨の水分を巻き込んでビシッ! と『複雑な構造の』氷の魔人にさらに変化した。顔は親指。
氷の身体だから魔力の核らしいのが胸部に透けて見える。
怯むエルフ達。まぁな···
「キヒヒヒヒッッ。天気が悪かったな? この環境で氷の力を持つこの私を」
「シルフ準備!」
それだけ後列に叫んでオイラは高速で突進した。素手で。
「?!」
いや、氷の矢やら地表からの氷の槍も撃たれたが、これくらいのヤツはこれまでもいたしなぁ。なにより、
「解体」
凍傷まみれで懐に飛び込んだオイラはスキル、超カラクリ解体でヤツの複雑な氷の身体をバラバラにして飛び退いた。
即座にシルフの風の剣が鳥だか親指だか氷だかの悪魔の剥き出しになった核を撃ち抜いた。
「く、そ···こんな、手品に···」
悪魔は消滅した。エルフ達の歓声っ。
「はぁ〜、寒っ。また全指バキバキだ。機械以外はやっぱダメかよ」
両手の指骨折してる。痛過ぎて笑うしかねーぜ。もう雨粒が痛い。
まぁいい。ヒロシ、カズネ。他の連中も上手くやったか?
→→→→→ナンクゥーターン
腕が金鋏になってる猿の姿に変化した薬指の女の悪魔の猛攻と、私とお姉ちゃんの背面がふっ飛ばされる勢いで森の障害物に激突してしまうのはブラウニーに金属化してもらって防げでます。
ブラウニーは長く持ちませんが、両目を見開いたお姉ちゃんがガッツリ相手を鑑定しているので『この形態の』この悪魔は問題ないでしょう。
しかし分体とはいえ男爵級の悪魔。もう一段、魂に近い姿で挑んでくるはずです。
「···」
可能ならばこの環境なら遠くからでも支援できそうなドリアードとラカは温存したいです。
天候は雨が降りそうです。空に水の魔力が溜まってきてる。またお姉ちゃんではないですが、単純な属性探知でこの悪魔が火の力を隠し持っていることはわかります。
ウンディーネを試してみましょう。
「···てとてと」
ボクは呟き、
「?」
悪魔が困惑する中、お姉ちゃんはこちらを見ずに了解してくれたようでした。
てとてと、はボクが幼い頃、『ボク語』で雨を差していた言葉です。
エルフの父は宿の切り盛りで忙しく、ロングフットの母は高齢出産でボクを産んで体調を崩し、半年足らずでなくなってしまったそうです。
赤ん坊の期間が長く、しばしば精霊の力が暴走するボクの世話はある時期まで鑑定眼を持つお姉ちゃんの役割でした。
ボクが赤ん坊のままロクに育たなかった期間は約10年。
その間に、さほど強力でもなかったお姉ちゃんの鑑定眼スキルは強力に成長しました。つまり、
ビキィッ!
ブラウニーにヒビが入り、最後に魔力をクッションにしつつ金属杭の前方と下方への打ち出しで牽制と減速をしてもらい、ウンディーネと交代してもらいます。
お姉ちゃんは収納リングから長刀『フォレストファング』を抜きました。
「ようやくやる気になったねっ? どう挟み殺してやろうか? それとも焼き」
嗤って口から炎をチラつかせた悪魔でしたが、既に交錯していたお姉ちゃんに細切れに斬り刻まれていました。
「ふぇ?」
「意識の死角を見切ったから、そちらからは認識できないよ」
「痛ぁあああーーーーっっっ??!!!」
悪魔はすぐに闇に変容し、逆巻いて輪状にボク達を囲みました。闇は暗い炎に変わります。
一瞬でボクの背後に移動するヨンクゥーお姉ちゃん。
「殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやるっっっ!!!!」
言葉だけで凄い呪詛ですが、ボクはラピスの指輪を身に着け、お姉ちゃんも呪い耐性品は装備しています。
ボクはウンディーネに護られているので、水の護りをお姉ちゃんにも付与します。
「魔族ってほんと厄介ね、ナンクゥーちゃん」
「うん」
ウンディーネに力を溜めながら、ボクが頷くとは分身して見える体捌きで四方八方を闇の炎の渦を斬り付け、これ以上炎の輪が狭まるのを防いでくれました。
「無意味だ! 見切っても無意味! どこを斬ってももはや我は死なないっ。この『回転運動』自体が我が身体よ!! 飛び越えてみるか? 潜ってみるか? キヒヒヒヒッッッ!!!」
「困ったわねぇ。この剣、里の宝なのに」
分身して戦いながら剣の損耗に困り顔のお姉ちゃん。
「精霊使いの水の力で突破する気か? それも無意味っ! 多少出力はあるようだが、その程度で我は」
雨が降りだしました。炎の輪の上と下から水と水蒸気をウンディーネに吸収します。ネルドーア深部に降る雨は魔力濃厚です。
「小癪なっ!」
悪魔は一気に輪を縮めてきましたが、お姉ちゃんの分身剣技も加速しました。剣にヒビが入ります。
「···そこね」
不意にヒビの入った剣を真後ろに投擲して炎の一点に突き刺すお姉ちゃん。
「ごっ?」
そこには薬指の顔がありました。気配からきっと、言った通り実体は輪の運動の中に溶け込んでいたのでしょう。
しかしお姉ちゃんに『存在の有り様を全て見切られそこにいると認識された』からには逃げられません。
ボクは最大に高めた『水の剣』を驚愕しているその顔に振り下ろしました。
「聖剣の、落花流水」
「···なん、だ? お前、ら???」
フォレストファングも砕けてしまいましたが、困惑した悪魔の顔も炎も、消滅してゆきました。
「つまり」
「私達姉妹は最強、ね」
「ということです。ハハハ」
雨の中、ブラウニーとウンディーネと一緒に浮き上がって完勝ムーヴをします。
「ナンクゥーちゃん」
「はいはい」
ボクはウンディーネとブラウニーをドリアードとラカに切り替え、まずはドリアードと呼応してネルドーア深部の森の様子の観測を始めました。
「皆は···ノッコ、ボルッカは打ち勝てたようです。ヒロシとカズネは···」
ボクはさらに深部に向かった2人の気配に意識を集中しました。
→→→→→瀧川ターン
瀧川兄妹とエルフの長は飛行絨毯で必死で掌の悪魔を追っていた。
「直接干渉していないが、3重障壁を張る基点として多少は護りを掛けてあるよっ。けど時間はなちからね!」
詰まり易い連射式クロスボウに銀の矢を装填し直しているエルフの長。
「そッスよねっ。つか、これ制御難しいなっっ」
飛行絨毯の扱いに四苦八苦するヒロシ。
「ああ、ヤーシュ村で皆ともっと話しとけばよかった! んん、え? もう着替えといた方がいいのかな? というかなんか雨降りそ···」
中学の制服を収納ポーチから取り出しつつ、ふと気付いた曇り空を見上げるカズネ。
程なく3人の飛行絨毯は空間の歪んだ深部エリアに突入した。
歯車と時針のような時空の精霊『ノーモン』達があちこちで浮遊している。
「うおっ? 進み難いっ」
「ナンクゥー連れくりゃよかったね。とにかく急ぐんだよ!」
「ムート! 私も念力で手伝うっ」
森の空間の穴のようになった、歪みの中心点へと飛行絨毯は滑り込んでいった。




